潤一郎訳 源氏物語 (巻2) (中公文庫 (た30-20))

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  • / ISBN・EAN: 9784122018266

感想・レビュー・書評

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  • ブクログ皆様、今年もよろしくお願いします

    谷崎潤一郎版『源氏物語』二巻は『須磨』から『胡蝶』まで

    角田光代版感想
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/430972874X

    谷崎潤一郎訳は、「丁寧過ぎる意訳にはせず平安朝の女性が造った写実小説ということを大切にする/読んでいくうちに自然と会得しそうなこと、字引きをひけば分かることは注意を入れていない/一字一句の詮索にとらわれずに安易な気持ちで読んでもらいたい」という訳し方です。

    『源氏物語』では個人名がなく「君(だいたい光君のこと)」「女君」「大殿(左大臣方面、葵の上のこと)」「かのお方(だいたい藤壺)」「可愛らしいお方(だいたい紫ちゃん)」「入道(明石の父上)」「入道の宮(出家後の藤壺)」などで書かれ、谷崎潤一郎版でもそのようになっていますが、この書き方にも段々慣れてきて「あのお方→藤壺さんだな」「ここに出てくる中将は”頭中将”ではないな」「大臣だろうが大殿だろうが、ちゃんと光君だって分かるぞ!」となってきました(笑)。
    当時の人達はどうやって個人を見分けていたのかと思っていたのですが、王朝文学好きの高校時代の友だちに「敬語で分かる」と教えてもらいました。なるほど、現代語訳にあたって「源氏物語の敬語は複雑なので、簡略化せざるを得なかった」ということが書かれているがそういうことか。確かに主語がなくても「大殿籠る/あらせられる」と書かれれば主語は帝しかいない。そんな感じに、大臣クラスへの敬語、妃クラスへの敬語、受領の妻への敬語などで分かっていたのかな。

    話としては、「須磨」から「明石」の前半では光君は女性のところに通わないので、男女の事以外の描写が目に留まりました。須磨に降るときの寂しさ、須磨の景色や屋敷の質素で上品な様子、荒れた海の猛々しさ、花の美しさ…。…まあ明石さんのところに通い始めたらやっぱり光君の行動は女性中心になっちゃうんですけどね。そして須磨にいたときは憂いの気持ちが感じられたのに、京に戻ってからは栄華を極めていくので「ちょっと可愛げないなーー」という気も(^_^;)

    谷崎潤一郎版では、文体のせいか登場人物や物語展開に集中しすぎず読んでいきます。すると『初音』の年明のご挨拶の様子など、上級貴族のしきたりが分かったり、並べられる品々の綺羅びやかさが感じられます。


    【人物】 
    <光君血縁>
    ・光君:色好みの主人公。政治的に不利になり須磨に下り、また京に戻ってきた。逢引中に突然死した夕霧さんと頭中将の間の娘、玉鬘ちゃんを引き取った。光君ももう30代後半。父親代わりといいながら下心前面でちょっと見苦しい。
    ・朱雀帝→朱雀院:両親は桐壺帝と弘徽殿女御。光君の異母兄。光君を須磨から呼び戻し、譲位する。『源氏物語』において、光君に色々なものを取られているような気がする。
    ・冷泉帝:光君と藤壺女御の秘めた若君。出生の秘密を知ってしまい、父を臣下にする心苦しさから譲位も考える。
    ・夕霧:葵の上の産んだ若君。元服時に光君は「金持ちボンボンがいきなり身分だけもらって世間を知らんのはよくない」と、低い身分からスタートさせた。身分が低いことを恥ずかしがりながらも、真面目に大学寮で学ぶ。雲居雁と恋心を育みながら、惟光の娘である五節の舞姫にも惹かれるのはさすがに光君のご子息!?
     なお、惟光は娘に恋文よこしてきた夕霧くんを「さすが光君のご子息、可愛らしい風雅な心得をお持ちだ」とにっこにこ。この時代の恋愛ってそうなのか。

    <藤壺さん周辺>
    ・藤壺后:光君にとっては、母親であり、理想の女性。桐壺院の死後、出家する。息子の冷泉帝に入内した斎宮女御(六条御息所の姫)の後ろ盾になる。『薄雲』で死去。
     宮中にいたころの藤壺さんは光君からの求愛を罪悪感を持ち拒みきれずにいたが、出家してからはわりとのびのびしていたような気がします。『絵合』の主催のようなことしたり。やはり「帝の母」は強いというか、色恋を断ち切ったらスッキリしたのかな。

    <左大臣(ひだりのおとど)家>
    ・左大臣:頭中将と葵の上の父。半ば引退していたが、光君のたっての願いで太政大臣になった。光君の面倒見の良さ、恩を忘れないところが現れる。
    ・頭の中将:葵の上と母親を同じくする兄。正妻は右大臣家の四の君。
     光君が須磨に下った時も、光君に会いに行く友情を持つ。
     光君が復権してからは、政治のライバルでもある。
     けっこう子沢山。
     位がかなり変わりますが、現代語訳では便宜上「頭中将」で統一します。
     頭の中将→三位中将→宰相中将→権中納言→大納言→右大将→内大臣
    ・葵の上:左大臣と正妻との姫。頭中将の妹。光君の正室だがなかなか心が通わなかった。出産直後に物の怪に取り殺される。
    ・弘微殿女御:頭中将の姫で冷泉院の女御。宮廷女御たちの名前は与えられた部屋の名前なので「弘徽殿女御」が二人出てきます。(でも「弘徽殿女御」っていったら、朱雀帝の母のほうが思い浮かぶよね) 
    ・姫君(雲居雁):頭中将の姫君。母親の身分はあまり高くなく、いまは別の殿方の妻となっている。夕霧くんとカリちゃん(雲居雁)は一緒に育ち、お互いに幼い恋心を持ち合っている。しかし頭中将に引き離される。

    <右大臣(みぎのおとど)家>
    ・右大臣、正室:朱雀帝の時代は権力の中枢にいたが、冷泉帝時代になり勢いが衰える。
     頭中将の正妻は右大臣家の姫。夫婦仲はあまり仲良くないようだけど子供は数人いるみたい。
     頭中将は人脈がバランスいいな。
    ・弘徽殿太后:右大臣の姫。朱雀帝の母。桐壺更衣も気に入らないし、光君も気に入らないし。
    ・朧月夜(尚侍‐カン‐の君):右大臣家の姫で弘微殿大后の妹。光君との逢瀬を責められたが、光君が須磨に下ったので名誉回復した。朱雀院は朧月夜を大切にしているが、子供がいないので譲位後は不確かな身の上になってしまうことを案じている。

    <貴族や従者>
    ・惟光、良清朝臣、右近将監(うこんのぞう):須磨行に同行した部下たち。

    <六条御息所周辺>御息所とは、帝や東宮の子を産んだ女性です。
    ・六条御息所:前夫は桐壺院の弟(先の東宮)。光君との関係に思い悩む。六条御息所の葛藤描写はさすが女性作家だなあと思う。病に倒れて光君への遺言は「娘を頼みます。しかし手は出さないでください」。…これって信頼されてるの、されてないの!?
    ・斎宮/斎宮中宮/梅壺中宮/秋好中宮:ええい!呼び名多すぎ!
     六条御息所と、桐壺院の弟の間の姫。伊勢神宮の斎宮に就いていた。小柄で愛らしい容貌らしい。
     光君と藤壺を後ろ盾として朱雀帝に入内して「妃」となる。
     朱雀院と光君に気に入られていて、二人からかなり思わせぶりな文やら言葉やらが届く。光君が「手荒なことをしたい衝動」を抑えた唯一の相手だ!(いままで何てことしてきたのさ)

    <空蝉周辺>
    ・空蝉:衛門督(えもんのかみ)の娘で入内も期待されていたが、伊予介の後妻になった。忍んできた光君と一夜を共にするが、その後は避け続ける。そのため思い通りにならない恋ほど燃える光君の忘れられない女性になる。夫の死後出家する。
     『初音』で光君は出家後の彼女の面倒を見ていたことが判明!ちょっと見直した!
    ・伊予介(常陸守):空蝉の年上の夫。この結婚は空蝉には不本意のようだが、空蝉のことは大切に扱っているように思うんだけどなあ。遺言でも子供がいない空蝉が困窮しないように気にしていたし。(反故にされたけど)
    ・小君→衛門佐(えもんのすけ):空蝉の弟。光君に面倒を見てもらっていたが、光君が須磨に下ったときは日和って離れていった。(光君ちょっと不満らしい 笑)
    ・右近将監(うこんのぞう):伊予介と前妻との息子。光君の須磨行きに従う。
    ・紀伊守(河内守):『帚木』で光君を迎えた伊予介と前妻との息子。紀伊守から河内守というのが、どのくらいの昇進なのかわからない…。父の死後、義理の母にあたる空蝉に言い寄ろうして、空蝉は逃げるように出家する。

    <紫の上周辺>
    ・兵部卿宮→式部卿宮:桐壺院の弟で、紫の上の父親。娘(紫の上の異母妹)を冷泉帝に入内させる。光君とはあんまり仲良くない。
     
    ・紫の上:光君の理想の妻。正妻ではないが、光君が須磨下りに際し荘園領地の権利を託したことから事実上の正妻と示した。光君が須磨から帰ってきてからは、子供がいない紫の上が明石の姫君の親代わりになる。
    ・王女御:兵部卿宮(式部卿宮)の姫で紫の上の異母妹。冷泉帝に入内した。
     なお、皇室出身の女御を「王女御(おうのにょうご)」というんだそうです。続きすぎるのも良くないみたい。

    <明石の上周辺>
    ・明石の入道:名前は『若紫』の巻で出る。須磨の国司。娘を光君の妻にさせる。偏屈、プライドが高すぎ、古めかしく大袈裟な入道としてちょっとコミカルな感じ。
    ・明石の君(明石の御方):入道の姫。背が高く気品があり琴の技術が大変優れている。控え目だが気品がある。現代感覚ではかなり良い女ですよね。
     光君の姫を産む。光君から「一緒に暮らしましょう」と言われるが「私のような身分の者が行ったら差し障りに〜」と遠慮の塊。明石の姫だけ光君と紫の上に渡し、自分は父の入道が昔住んでいた大堰川の屋敷に母の尼君とともに住んでいる。
    ・明石の姫君:明石の君の産んだ娘。光君が屋敷に呼び寄せ、紫の上に養育を頼む。将来東宮(朱雀院と、承香殿女御の間の皇子)に入内させたがっている。

    <女性たち>
    ・朝顔の君:式部卿宮の姫。光君とは適度な距離を保ちつつ関係を続けている。身内からは「光君の正妻になっちゃいなよ!」と言われるが、踏み切れない。
    ・花散里:心もとない生活をしていたが、光君の屋敷に引き取られた。
     紫の上に劣らない調度を整えてもらい、昼間に立ち寄ってもらい、夜のお相手はしなくていい、って、理想的じゃないか!!現状で一番良い立場だよね!?
    ・末摘花(常陸宮の姫君):光君が須磨に下った後はかなり困窮した。都に戻った光君はすっかり彼女の事を忘れていたが、再会してからは生活の面倒を見た。人生上がったり下がったり。恥ずかしがり屋、琴もそんなにうまくない、趣味もない、長くて赤い鼻を持つ変わり者。生活が落ち着いてよかった。
    ・五節の君(ごせち):五節の舞は深窓の貴族の令嬢が顔を見せる数少ない機会。この時に光君と気持ちを通わせあったらしい。須磨の近くを船で通りかかり光君に文を出す。光君とは身分違いとわかっているし、しかし他の男性との結婚は諦めている。今で言う「私は独立しているから愛人でも良いわ」という”話の分かる女”の感じかなあ。
    ・源典侍(げんのないしのすけ):年配で好色。まだご存命だった!
    ・五節の舞姫(惟光の娘):美人さんで夕霧くんが恋文を送る。

  • 主語のない文章にだいぶ慣れて来て、物語そのものを楽しめるようになってきた。

  • 潤一郎訳源氏物語 (巻2)
    (和書)2010年07月13日 15:42
    中央公論新社 紫式部, 谷崎 潤一郎


    読み慣れてきたらとても心地よく感じるようになりました。

    読み易くてとても良いです。

    全部読んでみたいです。

    新々訳だからここまで読み易いのだろう。

  • 源氏物語、第2巻。

    光源氏が都を追われるところで始まり、戻ってきてからは栄華を極めるという第2巻。

    古典の重々しいイメージがなくなるくらい、わかりやすいサクセスストーリーだった。

    さらには、玉鬘が出てくるところのなんともいえないスリル。
    谷崎潤一郎の訳し方によるのかもしれないけど、このそわそわした感じをまさか1000年も前に書かれたもので味わうとは思わなかった。

    その玉鬘に親の顔してたのに、やっぱり手を出そうとしちゃって終わる第2巻。
    非常におもしろい巻で、最後は「光源氏はとんでもねえやつ」と思わせてくれたのも、オチっぽくてよかった。

  • 原文の雰囲気をとっても残していて美しく、その分、読みにくい谷崎源氏の2巻目。地味な巻が多いのですが、そういう中に味わい深いシーンがあるのです。紫さんと秋好さんの春秋論争とか。フジツボさんの亡霊とかね。やっぱり源氏物語、好きだなー。

  • 第二巻は、恋愛的要素がないわけではありませんが、それ以上に、壮年となった源氏を筆頭に、自分の死後も生きていかなければならない子や孫の人生に思いを馳せ、今自分がどうしておくことが彼らの人生にとって最良の選択であるのか悩みに悩み、時に泣きながらも決断を下す親や祖父母たちの姿が印象に残りました。

    息子の将来を熟慮して当時の慣例に反した決断を下す源氏に納得するのはもちろん、それ以上に、3歳の幼い娘の将来を思って、本来なら敵である源氏の正妻・紫の上に手渡すことを決めた側室の明石の君やその両親の心理描写の経過と別れの間際の姿には大号泣してしまいました。哀しみに沈みながらも自分を納得させようとする明石の君と、自分の哀しみをこらえて娘を諭す明石の君の母の掛け合いは本当に見事です。

    収録巻としては、源氏の生来の悪癖と宮中の権力争いによって事実上左遷の憂き目をみる「須磨」から栄華を極める「胡蝶」までが収められています。
    この巻では、冷泉帝(源氏の隠し子)や夕霧といった息子世代の成長や恋なども描かれており、「源氏物語」が主人公の源氏だけでなく、多くの登場人物の時の流れや成長を描写していることが、物語を壮大なものにしています。

  • 谷崎潤一郎の旧居に尋ねた縁で、長い間しおりをはさんでいたままのものを読み始めると、これが面白くてとまらなくて一気に最後まで読んじゃいました。
    こうして小説書きになってみて、改めて源氏を読むと、さらにすごさが分かりました。
    キャラクター造詣のうまさ、一つ一つのシチュエーション、読み手の女性が喜ぶ着物やら管弦の遊びやら和歌に添える紙や香りや花の美しさ、忘れた頃に昔の人が描かれる構成の巧みさなど、とてもとても日本の物語の始まりとも思えないほどです。
    すごいなあ、こんな物語書きたいなあ。女の子の憧れだよ。

  • 谷崎さんが生涯で3回訳した源氏物語の最後、いわゆる新々訳の第二巻。
    内容は「須磨」から「胡蝶」まで。

    和歌について細かい解説が付いているので、古今集などをもっと勉強したくなる1冊。
    原文同様主語がないので、中級者向き。

  • こういう古典も読んだ方がいいかと読み始めて数年.やっと二巻まできた.まぁ読みづらい.もうちょっと現代語っぽくして欲しいな.主語がない文が続くと誰が何をしたのか追うのが大変...

  • やっと須磨からですー。一巻の後半を読んでて、文章から立ちのぼる香りに異世界(?)へトリップしてました。中学生の頃昼休みや放課後、図書室へ通って谷崎の全集を読むのが楽しみだったのですが、そのときもトリップしていたなあ。源氏物語でまさかの懐かしい体験、ふたたびです。
    ※読み終えました。おもしろかったー!六条院も8月に完成したんですね。雲居雁と夕霧の恋がせつない「乙女」が好き。あと朝顔の斎院の潔癖さが美しいです。角川ソフィア文庫の原文+訳文を参照しつつ読了。

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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