潤一郎訳 源氏物語 (巻3) (中公文庫)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018341

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  • 三巻
    「螢」から「若菜」まで
    先に角田光代版を読んでいたので粗筋はわかって文章や、粗筋以外の部分を楽しむことにしている。
    内容は角田光代版に書いたので、読んで思ったことを。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309728758#comment
    以下、光源氏は「ウチの大将」、頭中将は「中ちゃん」と書きます。

    ❐ウチの大将と中ちゃんの関係
    『若菜』の時点では、ウチの大将は「年齢を重ねた今でも、若いままの源氏の君」中ちゃんは「麗しく、堂々と太り、今が盛りの威厳のある重鎮」です。
     ●ウチの大将から中ちゃん評
     「いかにも鷹揚で度量が大きいように見せかけてるけどさ、本当は男らしくもないし、真っ直ぐでもないし、付き合いにくいところもあるんだよね」
     ●中ちゃんがいうウチの大将と夕霧くん
     「光君は優雅で魅力的で、会うとこの世の辛さを忘れるような方で微笑まずにはいられなくなってしまう。政務はちょっと苦手っぽいけど、それも含めて魅力的だ。
     息子の夕霧くんは、歳を重ねるごとに落ち着き堂々として気品と風格がある。学生も優れて気持ちも男らしくしっかり者で世間の評判も高い」

     中ちゃんは出番も多いし光君ともかなり近い人物なのだが、今ひとつ人物像が見えてこない。ウチの大将よりも位は低いけれど政務は得意だそうで、実務は中ちゃんが司っている。人脈もバランス良さそう。
     性格も、変装してウチの大将の後をつけたり、須磨にウチの大将を訪ねたり、派手好き色好みだが、開けっぴろげで男気もあると思っていたんだが、グチグチしたところも見られる。なんといっても、ウチの大将を抜くことはできないという物語上の大きな壁が見える。
     読者としては「好きというわけではないが、出てくると面白いのでもっと出てきて色々やって欲しい」とは思う。

    ❐宮中女御たち
     ウチの大将は、入内を遠慮する左大臣家に「宮仕えというのは、大勢の女性たちが優越を競ってこそでしょう。素晴らしい姫たちが御殿に閉じこもっていたらつまらないではないか」という。
     宮中っていじめがあったり、張り合ったり、後ろ盾同士の争いがあったりして大変だなあ、と思っていたんだけど、本人たちはそれも含めて「上流階級の華☆」と思っているのか、私のような小心者にはついていけない。

    ❐宮中恋愛
     自分の妻である三の宮さんと柏木くんが関係を持って妊娠したことについては「そりゃー宮中において帝のお后と過ちを犯す例もあったけど(あなたが本人だろう!)、その場合は同じ帝に宮仕えする同士で親しくなるんだからそんなこともあるよ。相手が帝だと行ったって、おとなしく宮仕えするだけじゃつまらないからね。そのままでお互いに宮仕えを続けるんだから、周りに見つからずに済んでしまうんだよ。お互い思いを尽くして自然と心が通い合うそんな関係だったら許されるんだよ。
     それに比べて、三の宮はぼくに妻として大事にされながらも過ちを犯すんだから、また話が違うよ。しかもこんなに簡単にバレちゃってさ、ぼくがそんな迂闊な柏木のことを『あいつならしょうがない』って許せるわけ無いじゃん」
    などと考えている。
     理解はできないが、この時代の価値観、許される関係と、笑いものになる関係というものが分かってはきた。

    ❐男性陣の言う女性について
     幼いうちから理想の女性に育てたい(紫ちゃん)が、幼すぎてもつまらない(三宮ちゃん)
     いつまでも他人行儀だと気が休まらない(葵さん、六条さん)が、馴染み過ぎても面白みがなくなってくる(クモイちゃん)
     相手にされなさすぎるのもつらいが(藤壺さん、空蝉さん、玉鬘ちゃん、など)、恋の悩みもなくあっさり結婚許されても張り合いがない(真木柱ちゃん)
     …ええい、どうしろっていうんだ!!!!ヽ(`Д´#)ノ  

    ❐琴(きん)は特別
    ウチの大将曰く。
    何事であっても稽古してみると、才芸というのは行き止まりがないようなもので、もうこれでいいと自分に満足ができるまで習得することは難しい。そんななかでも「琴(きん)」は本当に学び取った昔の人の場合には、天地を動かし、鬼神の心を柔べ、もろもろの楽器がみな琴の音に従って、深い悲しみも喜びに変わり、卑しく貧しい身も高貴になって財宝を得て、世に認められることがいくつもあった。成就は困難だったが、空の月や星を動かし、霜や雪を降らし、雲や雷を騒がすことだってあった。そういう霊妙なものなので、近頃は災いがあるとか言われちゃってるけどね。

    しかし音楽芸術というのは「天地を変える」力があると受け止められ、そして人の心をそれほどまでに動かす力は確かにありますよね。


    ❐玉鬘ちゃんのこと
     昔、鬚黒大将が玉鬘ちゃんに実力行使した場面を読んだときは「レ◯プでしょ。義父に言い寄られ、好きでもない相手にレ◯プされ、しかも侍女が共犯だなんて、人生何も信じられなくなるよ」と思ったんですよ。しかしウチの大将が玉鬘ちゃんに言い寄ってたときには「女って、言い寄ってきた男が全然知らない相手だとしても身を許すのが男女の仲の常ってもんでしょ。嫌われる覚えはないよ」ってなことを(相当意訳)言っている。そんなものか、納得はしないがしきたりは分かった。
     そしてウチの大将が感心したことに「玉鬘は、鬚黒との最初のことは自分の意志ではないと世間に知らしめ、双方の家を通して正式な結婚の形式をさせた。本当に賢い女性だ」という。この時代、かなり意思の強く、しかも人から好かれる女性ということですね。
     鬚黒大将と玉鬘ちゃんの間には若君も授かって多分幸せなんだろう。しかし私としては、出ていった鬚黒の北の方の錯乱ぶりが大変心に痛い。

    ❐鬚黒大将の最初の北の方のこと
     髭黒大将と、最初の北の方の間には姫(真木柱)と、二人の若君がいるので鬚黒大将は北の方を正妻として尊重していたことは分かる。しかし鬚黒大将は年上の北の方を「ばあさん」などと呼んで別れたがっている。もともと深層のご令嬢だった北の方は神経を病んでしまった。玉鬘ちゃんを妻にして屋敷に迎える時も「あなたのことは北の方としてちゃんと面倒見てるし付き合いも長いんだから尊重してるでしょ。いちいち騒がないでくださいよ」という態度なので、ついに北の方は変になっちゃって鬚黒大将に炭を浴びせてしまう。髭黒さんは「こっちが下手に出てるのにそんな態度取られちゃ嫌になるよ!」と玉鬘ちゃんを迎える準備を進める。
     『帚木』の「雨夜の品定め」で「いちいち嫉妬する女ってウザいよね」という話をしているんだが、嫉妬しておかしくなっちゃった女性のなかでも一番やっちまった女性の姿なんだが心中察して余りある。
     私としては屋敷に迎え入れられた玉鬘ちゃんがちゃんとご挨拶して、二人はそれなりに平穏にやっていくといいな、と思っていたんだが、結局離縁となった。
     なんかもう、現在でもある話でもあるんだが、この時代の女性は寄る辺もなく心が痛むばかり。
     その後、鬚黒大将は北の方と完全に縁を切り、子供たちは玉鬘ちゃんに懐き、玉鬘ちゃんの間には何人も子供も生まれて幸せ…なんだろうし、この時代にはよくあったことなんだろうけれど、北の方の心の不幸の上でないと自分が幸せになれないとは、玉鬘もよくよく幸薄い人だと、私には感じられるんだ。

    ❐六条さんの生霊、亡霊
     髭黒の元北の方とはまた違った形で妄執を出している六条さん。生霊となって夕顔さんと葵さんを取り殺し、亡霊となって紫ちゃんを苦しめる。(この後、出産後の三宮ちゃんにも取り憑く。)
     宗教的に考えると死後も苦しんでいるんだろう。
     しかし現在の読者としては「そのパワーむしろ天晴!」と思ってしまったんだ。『源氏物語』の女性って、困るか泣くか恥ずかしがるかで、マイナス感情を他人にぶつけるときは「桐壺更衣の通路に汚物を撒きました」「他の女のところに行こうとする旦那に灰をぶっかけました」「ぷくっと膨れました」「他の女性からの手紙を取り上げました」というくらいだ(後半二つは可愛い扱い)。それが生霊飛ばして取り殺すというこの力。
     日本の古典において、男性の霊は祟神になり怖れられながらも祀られ、日本中に影響を与える。(崇徳上皇、平将門、菅原道真など)しかし女性の霊はろくろっ首とかリングの貞子とか怖いんだけどあくまでも個人の幽霊だ。六条さんの妄執はウチの大将にだけ向けられたので亡霊だったけど、気象とかと組み合わされたら女性にして祀られる祟神になれたんじゃないかなあ、と思えました。

  • 光源氏の絶頂期を迎える巻3。

    それが、最後には紫の上が六条御息所に呪われ、女三宮が柏木に寝取られるという。

    すごい展開だった。

    光源氏も30代・40代くらいで、歳をとるとやっぱり苦労をするよなと。
    中学、高校の授業でちょっとかいつまんだくらいじゃ、この雰囲気やらおもしろさやらはわからないなと思う。

    唐突だが、ちょいちょい出てくる光源氏の息子の夕霧。
    やんちゃな親父にたいして、いいやつだなあと。
    なんかこう、清涼剤という感じだ。

  • <須磨の秋>
    ”源氏物語=京都”と捉える方も多いはず。京の都を離れた光源氏が何を感じ、思いを馳せていたのか……
    華やかな都での生活とは対照的な暮らしがありありと描かれています。
    主人公にとって大きな転機となった巻です。一度手に取ってみて下さい。

  • 「若菜」の巻は圧巻ですな。登場人物の心の中の移り変わりの描写が素晴らしい。

  • 潤一郎訳源氏物語 (巻3)
    (和書)2010年07月22日 22:00
    1991 中央公論新社 紫式部, 谷崎 潤一郎


    和歌の注釈がなかなか面白いです。こういう解釈ができるというものいいです。

    引き続き読み易いのでとてもいいです。

    やはり男女関係と時間関係の軸が織りなされていて、そこにある間の取り方が面白いと思いました。

  • 谷崎さんの訳は、原作の持つ語りの美しさみたいなのを、そのまま表現できていて、大好きです。その分、読みにくいという話でもあるので、初心者にはあまりお勧めできませんが。この巻は第1部の終わりと第2部の始まりがあり、ヒカルさんの絶頂期と、一転して華やかな人生が陰り始める部分であり、読み応えがあります。

  • 登場人物それぞれの心理描写がきめ細かく描かれ絡み合っていることで、群像劇として抜群の面白さがある第3巻。

    前半は数奇な運命と立場に翻弄される夕顔の娘・玉鬘の悩ましさが、後半は源氏が朱雀院の娘である女三の宮を娶ることになったために、平静を装いながらもその弱い立場と孤独を改めて痛感する紫の上の悲哀と病が印象に残りました。

    そして、源氏を裏切って女三の宮を孕ませるに至る柏木の存在感が、実は女三の宮へ懸想する以前の玉鬘を巡る関係から脈々と続いている伏線の見事さに今回再読して初めて気がつきました。

  • 原文に忠実な谷崎さんの源氏物語。
    つまり、主語がなく1文が長い。
    多少古典の知識がないと厳しいと思います。

    この巻は「螢」から「若菜下」まででした。
    源氏物語に詳しくなりたい人向けの本で、古典慣れしていない人がこの本を読むと源氏嫌いになるかもよ(苦笑)

    しかし、玉蔓十帖での源氏くんは超~ムカつくおじさんだなぁ!
    「世間の女は俺に惚れて当然!」って態度が、世間知らずこの上ないって感じだよ、まったく!!

    正直言って、読み物としては潤一郎訳は面白くないです。
    古典のお勉強には良いと思う。
    あと少し頑張ろうっと!

  • 螢~若菜.1,2巻はさして面白味を感じなかったが,この頃になると源氏が自分の年齢に近くなったせいかようやっと楽しくなってきた.柏木にちょっと同情.

  • やっとこ巻三です。まさかここまで来られるとは思いませんでした。名場面の誉れ高い「螢」からスタートします。主語の省略など大分慣れて来たので、何とか読み進められそうです。しかし玉鬘へのセクハラは頂けませんなあ、源氏。個人的に好きな「常夏」も入っていて読むのが楽しみです。頭中将のパパぶりが好き。若菜の帖は長いので、今から覚悟しておきます。※追記※六条院の夏の描写が美しいですね。今暑いのでタイムリーです。しかし水をかけたご飯とか食べたくない…。

    読み終わりましたー。若菜、身構えるほど難解ではなかったような…。文章の美しさにクラクラとなります。しかし私は柏木けっこう好きなんですよね。宮さまには嫌われ抜かれていて不憫でした…。

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

紫式部の作品

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