潤一郎訳 源氏物語〈巻4〉 (中公文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (575ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018419

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  • 『源氏物語』を角田光代訳、谷崎潤一郎訳、アーサー・ウェイリー訳で同時進行しています。いままでは一番わかり易い角田光代訳から読んでいたのですが、宇治十帖は谷崎潤一郎訳から読んでみました。谷崎潤一郎訳は、原著と同じように登場人物名を固有名詞ではなくて「左の大殿/后の宮」のような役職名などで書かれています。そこで私は谷崎潤一郎訳から読んでどこまで理解できるかなと思いまして。
    すると、役職名でも「兵部卿宮は匂宮だな」というのは案外わかります!しかしその場の主語が分かりません(^_^;) 「”困った”のは、匂宮なの?姫君なの?」ということなど文章を行つ戻りつしながら読んでいっています。

    谷崎潤一郎訳の四巻は『柏木』から『総角』まで。
    『柏木』から『夕霧』までは世代替わりというか光君(以下、ウチの大将)と到仕大臣(以下、中ちゃん。初登場時に頭中将だったので)の長男である夕霧と柏木の話が増えている。
    ウチの大将と中ちゃんは、義理の兄弟で、遊び友達で、ライバル(必ずウチの大将が勝つんだが)でもあり、お互いへの評価は案外厳しい。
    夕霧くんと柏木くんは、政治的ライバルではなく、幼馴染で後に義兄弟になって、生涯気が合う友人のようですね。
    しかし父親たちよりはスケールは小さい感じも。特に恋愛面では、柏木くんはウチの大将の妻になった女三宮ちゃんに、夕霧くんはそんな柏木くんが亡くなった後に遺された落葉の宮さんに、振り向いてもらおうとウロチョロジタバタするんだが、物慣れて怖いもんなしの父親たちに比べると青臭いというかちょっと小っ恥ずかしいと言うか(^_^;)

    ウチの大将が亡くなったのは『雲隠』の巻。

    次の『匂宮』では8年経っている。さらに次世代への代替わりもしている。
    話の中心は、帝(朱雀帝の皇子)と明石女御の間の三宮皇子の「匂宮」と、柏木と三宮ちゃんの若君の「薫」(名目上の父はウチの大将)になりそう。
    どうやら薫くんの出生については本当のことが、つまり「光君ではなくて柏木が父親なんじゃないの」ということが公然の秘密状態のようだ。薫くん本人もその噂を知って思春期お悩み中、現在20歳。
    匂宮くんは、紫ちゃんに育てられて夕霧くんを遊び相手に使って、幼い頃からなかなか賢しさを見せていた。薫くんとは同じウチの大将の六条の御殿で育った幼馴染。

    この六条の御殿も様変わり。夕霧くんが「お父ちゃんが造ったお屋敷だからせめて整えていたい」といって、六条とその周辺に女性たちを住まわせて維持している。
    初の北の方雲居ちゃん、二人目の北の方落ち葉の宮を六条院の夏の館に迎えて、一晩ごとにきっちり15日ずつで通っている。
    もともと夏の館に住んでいた花散里さんは二条院に隠居暮らし。
    明石の御方は、明石中宮の宮たち(孫に当たる)の後見として六条にいる。
    明石中宮はほとんど六条には戻らない。
    三の宮ちゃんは三条の御殿。

    この女性たちを夕霧くんは満遍なく面倒見ている。この時40代半ばかな。右大臣兼左大将(大将は近衛府の長官)で、帝の皇子たちを娘たちのお婿さんに迎えている。遣り手とか豪快な印象はまったくないんだが、政治的にも人脈も如才なく生真面目にやったら地位が付いてきた感じかな。恋愛以外では頼りになる人だからね。(恋愛は「柏木の妻だけは辞めろ」「あんたと光お父ちゃんとは違うんだよ」などと総ツッコミされたんだが)

    この巻で薫くん24歳くらいなんだが、かなりモテるし婿にと望まれているし本人も真剣に言い寄る姫君もいるんだが結局誰とも結婚に至らない。
    ウチの大将が主人公だった頃は「いくらこの時代だからって女性に手を出しすぎ!!」と思っていたんだが、薫くんの恋愛の進まなさ具合には「あなたの名目上の父(光源氏)があなたの年齢の時には、妻も子供も扶養家族もいて面倒見てたよ!」と、不甲斐なさを感じてしまう…。

    「雲隠れ」までの内容は角田光代訳で。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4309728758

    『匂宮』
    自分の出生に秘密があるのではないかと薄々感づいている薫くんと、ライバル匂宮くんの生い立ち。
    薫くんは繊細で見栄えが良く、なんといっても身体からは妙なる馨りを漂わせている。朝廷では愛されっ子で本人は望まずとも周りがどんどん昇格させてゆく。現実的な生活感の見えない人だったのだろうな。
    匂宮くんは、今上帝と明石皇后の若君なので自由はあまりないけれど、恋や芸術を楽しむ今どき若者なのだろう。親戚で幼馴染の薫くんとは親友にしてライバル。薫くんの持つ天性の体臭に対抗するためにお香の研究に余念がない。

    『紅梅』
    紅梅には、最初の妻の間に二人の姫の大君(おおいぎみ)と中君(なかのきみ)がいる。今の妻の真木柱ちゃんとの間には太夫くんという息子ができている。
    匂宮くんが大君に興味を示し…。

    『竹河』
    鬚黒未亡人である玉鬘ちゃんの女丈夫物語。髯黒には、最初の北の方との間に真木柱ちゃんと若君二人、玉鬘ちゃんとの間には三人の若君と二人の姫君がいる。
    鬚黒が資産を残したので生活には余裕がある。だが宮中での人脈はなくなり、若君たちの昇格や、姫たちの縁談には苦労する。そこで女主の玉鬘ちゃんの腕の見せ所なんですよ!
    すっぱすっぱと取り仕切る玉鬘ちゃんかっこいい!
    でもやっぱり現在生きて宮中にいる男がいないのでなかなかうまくいかない。
    大君を冷泉上皇の元に送ったら寵愛されるし子どもも授かるのだが、それがために長らく冷泉帝のもとにいた秋好中宮や弘稀殿女御との争いが勃発してしまう。
    この世は思い悩んでばかりだわ…という玉鬘ちゃんの嘆き。
    そしてウチの大将のような人がいないとうまく調停できないんだろうなあ、やっぱりあの人は偉大だった、のかな。

    さて、相変わらず恋愛が入り組んで入るが、ウチの大将や髯黒のような実力行使は見られなくなっている。
    夕霧くんの息子の蔵人は、大君にずっと恋していてウロウロしていたが、想いも通じずウジウジしているだけ。
    薫くんもあっちの大君とこっちの大君とそっちの大君に文を送るがそれ以上は踏み込まない。
    (「大君」が三人出てきますが別人です!)

    『橋姫』
    故桐壺上の皇子に八宮という今では年取った人がいた。朝廷での力は全くなくなり、二人の姫の大君と中君と共に宇治で暮らしていた。(大君は長女、中君は次女というくらいの意味なので、紅梅くんの姫たちと同じ呼び名です。)
    薫くんは八宮の知識に興味を持ち宇治の屋敷に通い、二人の姫の後ろ盾になることを約束する。更に「田舎にいい女がいたよ★」ということを遣りたがってた匂宮くんにも声を掛ける。

    『椎本(しいがもと)』
    匂宮くんも宇治参りのついでに(お参りは口実なんだが)八宮の屋敷を尋ねる。薫くんは姉の大君(以下姉君)、匂宮くんは妹の中君(以下妹君)に文を渡す。
    そして薫くんはこの屋敷に仕える弁君から自分の本当の父親が柏木くんだと知らされるのだった。

    『総角(あげまき)』
    お恥ずかしながら「総角」と書いて「あげまき」と読むと知りませんでした。
    薫くんは姉君に本気になり押せ押せするんだが、姉大君ちゃんは「私は父の残したこの屋敷を守って死ぬまで静かに暮らします。妹の幸せだけが気になります」と拒む。だが召使いたちも「そうは言うけどこの屋敷を維持するだけのお金がないんですけど!!(-_-メ゙)」と結婚を勧める。うん、庶民の私にはこれはわかるんだよなあ。「理想と塵霞食って生きてけねーよ!」

    薫くんは、匂くんと妹君ちゃんを結婚させる。しかし皇籍にある匂くんはなかなか妹君ちゃんに会いに行けない。思い悩む姉君ちゃんは、心労から衰弱したのか、ついに亡くなってしまう。

    ええーー、ウチの大将や夕霧くんがあっちこっちに手を広げていた頃は「やり過ぎ…」と思ってたけど、薫くんは見かけはいいのに非常に不甲斐ない!ウチの大将も夕霧くんも、手を出した女性はしっかりモノにして(例外もあるが)、女性たちも子供たちもちゃんと面倒見てるぞ!
    薫くんは正式な婿入りは断り、好きになった女性は死なせちゃう、匂宮くんは手を出した女性に口先だけ。
    やっぱりウチの大将や中ちゃんは精力的で大物だったんだなあ。

  • 宇治十帖に突入。薫が可哀想過ぎてせつない。自分では何も出来ないのに矜恃ばかり高い宮家の姫様方のイライラするエピソード多し。

  • 柏木が死に、紫の上が死に、光源氏も死に、宇治の大姫君も死ぬ巻4。
    なんか人が亡くなってばっかりだな。

    柏木の死は自業自得とはいえ、紫の上の亡くなり方は切ないなあと。
    そのあとの光源氏もなんだか物悲しい感じで・・・。

    そのあとは、柏木の未亡人の落葉の宮に手を出すあたりから俗っぽい感じのする夕霧とか、光源氏っぽい動きだけど時代のせいか評判が悪そうな匂宮、若い頃の夕霧っぽい薫なんかが出てきて。
    薫はなんだかこう、いいやつなんだけど、歯がゆい。

    この巻4は全体的に暗い、重々しい印象。
    でも話の展開に、読むペースはどんどん上がっている。

  • 潤一郎訳 源氏物語〈巻4
    (和書)2010年07月25日 20:11
    1991 中央公論社 紫式部, 谷崎 潤一郎


    読み慣れてきた。

    和歌の解釈が相変わらず面白い。

    源氏って超個人的なものなんだと思った。

    源氏名って言うものね。

  • 第2部最後、源氏の晩年と第3部冒頭、宇治十帖の最初の方までが入ってます。この物語の陰の主役だと思ってるムラサキ姉さんが亡くなり、失意のヒカルさんは情けない感じ。さらにどうしようもないカオル君の物語も始まって、陰鬱なこの小説の本領発揮な感じがします。

  • 紫の上を失う源氏はもちろん、最愛の人と死別して哀しむ人々の姿が丁寧に描写されているのが印象的な第4巻。

    いつか別れるとはわかっていたのにその瞬間の哀しみに気が狂わんばかりに涙をこぼす登場人物それぞれに感情移入してしまいました。
    故人との出来事を思い出して自分はあの時なんであんなことしてしまったんだろうと後悔する姿に我が身をつまされる思いがしたり…。

  • 谷崎潤一郎さんが原文を忠実に訳されたと言われる古典でございます。
    この巻には「柏木」から「総角」までが収録されていました。

    つまり、光源氏くんが若き頃の自分の過ち(父帝の奥さんとの間にお子ちゃまを作っちゃった!)の応報を受け、最愛の妻である紫の上にも先立たれ、出家して亡くなる「雲隠」までのお話と、その後の源氏一族のお話である「匂宮」、頭の中将さんちの「紅梅」、玉鬘さんちの「竹河」とはさんで、有名な宇治十帖の「橋姫」が始まる感じです。

    ま、読めば読むほど大和和紀さんの『あさきゆめみし』は良くできてるなぁ…と心から思う らじだったのでした。
    谷崎源氏は「楽しむ」ってよりも「教養」シリーズだよね…。

  • 柏木~総角.光源氏の死と宇治十帖(の一部).最初の頃と比べて全体的に重苦しい印象.だけどそれがいい.

  • 柏木から総角まで。二部と三部が入れ替わり、ダイナミックな巻でした。夕霧と雲居雁の夫婦喧嘩がかわいい。しかしここでも原文でも「一条の宮」と呼ばれている落葉宮様、何故「一条の宮」が定着しなかったんでしょうね。一条の宮というと御息所(落葉宮の母)と紛らわしいからでしょうか。御法では紫の上が死んでしまいやはりショックでした…。匂宮三帖も味わいあっていいです。紅梅好きです。竹河はほかの作家の訳でも苦手でしたけどやっぱりちょっと苦手かなあ…玉鬘にそんなに思い入れがないというか。
    待ってましたの宇治十帖、宇治の深さと侘しさ寂しさ、趣のある雰囲気などはさすが美しい訳ですね。薫は頼まれてもいない世話を焼いてそれを盾に大君に迫ってる感じが陰湿ですね。彼…いいやつとは思えないんですが。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    谷崎潤一郎という現代の代表的な作家のひとりが翻訳したというので、それは国文学者の専門的な仕事とは異って、一般の読者の注意を喚起し、そして、『源氏物語』は突然に、現代文学になった。それまでは、恐らく我国の古典小説で、現代文学同様に迎えられていたのは、西鶴と秋成だけだったのではなかろうか。しかし、ひとたび、『谷崎源氏』が世に行われるに及んで、空蝉や夕顔や浮舟やは、アンナ・カレニナやボヴァリー夫人らと同じように、私たちの身近のものとなったのだった。

    谷崎源氏の決定版。第4巻。(レビュー前)

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著者プロフィール

平安時代の作家、歌人。一条天皇の中宮、彰子に仕えながら、1007~1008年頃に『源氏物語』を完成されたとされる。他の作品として『紫式部日記』『紫式部集』などが残っている。

「2018年 『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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