北風に起つ: 継体戦争と蘇我稲目 (中公文庫 く 7-14)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (637ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122018518

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの黒岩重吾氏の小説、読みごたえは十分です。そしてどれほどたくさんの資料を読み込まれ勉強されて書かれたのかもずっしりと伝わってきます。なにしろ6世紀、謎の・・・と接頭語が付く年代ではないものの、文献資料はあまりに少なく発掘資料も雄弁には遠く及ばずの古代の物語。現在も継体天皇の出自については諸説紛々、不在説まである中ですが、本の中では確かに継体天皇も蘇我の稲目も実在しその時代を生きています。
    最大の謎とされる都の所在地問題と即位の経緯、なぜほかの豪族が取って代われなかったかという現在の感覚からすると理解しがたい氏族感情、生活の方法、地理、連と臣の違い、渡来氏族と大陸の情勢などなど、断片的な知識が物語の中で整理され統合されて、確かにあったこと(かもしれない)として立ち上がってきます。この物語は黒岩重吾氏の古代史解釈のひとつの答えなのです。その答えは今読んでも見事というほかありません。人物設定も面白く、少し持ち上げすぎ?と感じる部分もありますし、異論反論違和感を含めて、古代史ファン必読、と感じました。シリーズ、もう一度読み直してみよう!

  • 北風に起つ
    黒岩重吾
    中公文庫
    ISBN4-12-201851-X
    1991年11月10日発行

  • 謎の大王とされる継体天皇が即位するまでの物語。
    日本書紀では別の天皇の時代に起こったとされる事件が無理やり挿入されていて違和感を持ったけど、圧倒的な筆力でぐいぐいおしてくる。
    その押しの強さに、「もしかしてそうだったのかも」と思ってしまう自分がいる。
    良くも悪くも筆者の情熱を感じられる作品。
    あと、女性があまりにも男性に都合よく描かれていて、いろんな意味で「男が書いた男の物語」だと思った。

  • 男大迹王(継体天皇)が大和で正式に即位するまでの紆余曲折の物語。蘇我稲目が渡来系の新興氏族である蘇我氏の隆盛の基礎を築いた時代。継体天皇は、近畿の豪族からは蕃夷と蔑まれながらも力を蓄え、大王の血筋が途絶えた空白を埋めるように大王として迎えられた。
    古代の物語は、地理的なスケールが小さいのが逆に面白いなあ。

  • 412201851x 637p 2006・10・25 8刷

  • 継体天皇こと、男大迹王(おおどのおおきみ)は、武烈天皇崩御の後、後継者たる皇太子が倭国にいなかったため、当時の権力者である大伴金村に推されて、越の国(福井県)より倭国へ入ろうするのですが、これには倭国の地元豪族の反発が大きく、なかなかすんなりとはいかないのです。
    まぁ、その当時倭国の中枢的な意味合いのある奈良に北国から、薄い血縁だけを理由にやってくる男大迹王を、古代から大君を倭国で出してきたという意識の強い地元豪族が受け入れるのは難しいだろうなぁと。
    これは彼らにとって侵略に近い感覚であったろうと推測できます。
    なので、蘇我や物部、平群の一族などが抵抗したのも納得。
    蘇我一族は元々新興豪族なので、この期に乗じて一気に勢力を広げようと画策します。この頃の蘇我氏は軍事力では大伴や物部に太刀打ちできないのですが、百済との繋がりが強く、その貿易力と最新文化、蘇我稲目の策士としての才能により、物部尾輿や男大迹王と渡り合うところが面白い。越からの強力な軍事力を後ろ盾に奈良へ向かう男大迹王、押し戻そうとする倭国豪族の鬩ぎ合いの中で、男大迹王は武力で制圧することの難しさ、制圧した後の執政のやり難さを痛感し、また倭国の豪族、特に蘇我氏は男大迹王の器の大きさを思い知ることになります。
    折りしも九州では、筑紫君磐井の勢力が高まり朝鮮半島からの海路を押さえてしまうなど、倭国に迫る脅威があり、男大迹王側も倭豪族たちも争っている場合ではなくなり、それが男大迹王の倭国入りを後押しする事となります。

    色々と読みどころがあって、倭国での旧名家の滅亡・衰退、大伴氏や物部氏のような大連である二大豪族が磐井平定に九州に向かっている間に新興渡来系の蘇我氏が着々と権力を掌握していく過程が良く分かります。男大迹王と蘇我稲目の駆け引きも面白い。
    稲目は後に自分の娘を男大迹王(継体天皇)の子の欽明天皇の后にするなど天皇家に深く関わっていきます。
    稲目は蘇我氏繁栄の基礎を作った人であると言えます、そしてその繁栄は馬子に引き継がれ、蝦夷、入鹿が討たれるまで続くのですね。
    この小説では稲目と物部尾輿の協力関係が描かれていますが、その後の国家祭祀(仏教派と廃仏派)の争いの影もちらりと垣間見えます。

    小説なので、想像で書かれた部分も多々ありますが、稲目と石川姫の悲恋なども大河ドラマの一場面のようです。(ここは創作だそうです)

    でも当時の女性は物品扱いなのね・・・そんな中でもしたたかに生きていたのかしらん・・。

  • 応神仁徳王朝が途絶した後、空白の王位に就くのは誰か!?
    越前・近江の北方勢力を背景に大和への進出をねらう男大迹王(継体天皇)と、次の時代に優勢な地位を得ようと画策する蘇我稲目。6世紀初めの倭を舞台に、大王位をめぐり知略を尽くして繰り広げられる豪族達の戦いの物語。

  • 蘇我入鹿の高曽祖父、つまりひいひい爺さんの蘇我稲目と、疑惑の天皇・継体が主人公。

    継体天皇と言えば、やっぱ万世一系議論ですね。
    日本って特殊だなーって思うのは、いわゆるヤマト政権から今日まで「倭」→「日本」と1回しか国名が変わってないし、王様もずーーっと125代、今の天皇家なんですよね。(あくまで日本書紀によればですが。古事記あたりは欠史ありまくりですごく怪しい)
    中国やお隣の朝鮮半島は、バンバン国名も王様も変わっちゃってるのに。

    しかし戦後、天皇家に関する規制が解けた時から天皇家の万世一系が疑問視されるようになりました。
    その最大の疑惑の天皇こそ、この小説の主人公である継体天皇なのです。

    5世紀の日本。
    時の大王(天皇)・武烈が跡継ぎを決めずに、病死してしまいます。
    後を継ぐべき太子がいないとなれば、このままでは倭の大王家が絶えてしまう、どうするよ…ってなった時に、大和から遠く離れた越(近江とも言われています)から招かれ擁立されたのが、継体天皇です。

    でもこの継体さん、100年ぐらい前の大王・応神の4世代後、なおかつ母系の子孫でした。
    血薄すぎない?とみんなザワザワしたはず。
    いくら大王・応神の血を引いているとは言え、遠い土地で4世代を経過したなら、ほぼ他人だろうと。
    あまつさえ大和の人たちからしたら蛮夷と罵られていた土地の人。
    当然のように「待った!」の声が上がります。
    そんな大王擁立問題に加わり、当時の朝鮮半島南部の利権問題も重なり、倭国は騒然となって行きます。(磐井の乱ですね)

    いわば本小説は、歴史小説の中でも「戦国もの」だと思います。
    智略合戦にワクワク出来る人には特におすすめですよ。

  • 全1巻。
    ぶあつい。

    日本史上の二大「え?男なの?」
    蘇我馬子。
    の、父ちゃん、稲目の話。

    まあ。
    知りません。

    なじみがないのは当然なんだけど、
    なんか最後まであんまり理解できなかった。
    人間関係。
    ぼんやり。

    主人公は相変わらず男前だし、
    わくわくするんだけど、
    いまいち印象に残ってない。
    なぜか。

    聖徳太子の馬子の方が強烈で、
    それに比べると少し薄い。

    でもなんか最近読んでる黒岩作品は
    小説として読みやすい。
    あの急さはなんだったんだろう。

  • 520年ごろ。継体大王と蘇我稲目の攻防を描いた作品。
    登場人物としては,物部尾輿や大伴金村等がいるが,稲目と比較するとやはり見劣りする。
    そんななか,継体大王は稲目に太刀打ち出来るほどの知略を備えた王であった。
    継体は越の出身であり,これを蛮族視し,物部をはじめ大和の豪族は大王としてみとめず,継体の大和入りを阻んだ。
    稲目も当初はその一員だったが,筑紫磐井氏が大和から百済への交易船を襲ったり,大王不在の大和に対し強硬姿勢をとりだしており,大和地方の争いは,筑紫磐井を喜ばすだけだと感じ,稲目は継体の大和入りを承諾する。ただ単に承諾するのではなく,継体の次の大王に自分の娘を嫁がせるよう仕組むなど,10年先を見越していたのである。稲目の娘である堅塩媛は後の欽明大王の妃となり,用明,推古を生み,稲目の子の馬子の時代に蘇我氏は隆盛を極めるのである。
    また,一時は物部尾輿と手を組んだ稲目だが,後々は,物部氏を倒すべく百済から仏教を輸入し,倭の神の祭祀権を持つ物部氏と真っ向から争い,馬子の時代に物部守屋を倒すのである。
    その辺まで考えていた稲目やはり尋常でない先見性を持っていたといえる。

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著者プロフィール

1924-2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞。他の著書に『飛田ホテル』(ちくま文庫)。

「2018年 『西成山王ホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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