チャイコフスキ-・コンク-ル: ピアニストが聴く現代 (中公文庫 な 27-1)
- 中央公論新社 (1991年11月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122018587
作品紹介・あらすじ
初夏のモスクワで4年に1度、1ヵ月間にわたって催されるチャイコフスキー・コンクール。この世界で最も権威ある国際音楽コンクールの審査員として、これまで触れられることのなかった舞台裏を描くとともに、国際化時代のクラシック音楽の現状と未来を鮮やかに洞察する長篇エッセイ。1989年度大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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音色や会場の雰囲気、そして著者の愛嬌のある人柄が伝わり、ピアニストが本業とは思えない見事な文章。中村紘子氏の夫が芥川賞作家だったこともあり、文学的にも教養がある方だと想像した。
日本では「ピアノの習い事=女子」のイメージがあるが、世界的に見ると男性主体であった事など、ジェンダー視点の考察が興味深かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
図書館本
中村紘子さんのエッセイ。
西洋音楽への憧れが日本の音楽のベースにあったのだなあ。
モスクワ音楽院を頂点とするソヴィエトの音楽教育システムは、たとえていうならば、我が国の相撲部屋のようである。
いつの時代にもその折々のスターである横綱が出るようになっていて、引退すれば部屋を設立して親方となり、全国から優れた横綱を育成する 本文より。
芸術を大切にする歴史あるロシアなら、その芸術を生み出す人もまた大切にする意識も根付いているはずで、ならば生命の大切さも言わずもがなと理解しており当然。
生命を重んじ、音楽を、芸術を、スポーツを通して感動を伝える国であってほしい。
なんて関係のないことを考えた。 -
かなり古い本だけれども、中村紘子さんが、かつて、チャイコフスキーコンクールの審査に携わったときのエピソードや、コンクールの歴史、クラシック音楽の歴史が詳しく知ることができた。
この時代から現在までの歴史も知りたいなぁと思いました。
興味深かったところは、ハイフィンガー奏法のこと。
私自身、普通の町のピアノの先生であって、偉大なコンクールとは無縁だけれど、長い年月をピアノと向き合ってきて全く教わらなかった奏法だなぁと。指を鍛えるための地味な練習を色々と試すことができるという、自由な時代に習えて、幸せだったんだと思うことにします。 -
2021年に読んでも面白い。読めば、1991年発行の本書が、30年を経ても廃刊にならず、現役で発行し続けられている理由がわかる。
内容もさることながら、文章もうまい。本当に面白い本の条件は、何を書くか(素材)と、どの様に書くか(表現力)の双方が優れたものであるが、本書はこの条件を満たしている。
内容は、チャイコフスキー・コンクールの内幕もの。ただ、コンクールを時系列に沿って淡々と描くのではなく、著者の感じたことを織り交ぜながら、読み物として面白くなるように組み立て直されている。
舞台の裏側を垣間見るような楽しさ、思わず笑ってしまう様なユーモアあふれる描写、音楽業界の問題を投げかける鋭い視点など、変化に富み飽きさせない。
全くクラシック音楽に触れたことがないような人では、ひょっとしたら、固有名詞がわからず面白さは半減してしまうかもしれない。しかし、クラシック音楽好きなら読んで損はない。音楽家が書いた本の中では、トップクラスに入る面白さだろう。
黒い表紙の新潮文庫版は、今は廃刊になっているようだが、そちらには、本書(中公文庫)の解説で吉田秀和氏が言及している「ピアニストが聴くペレストロイカ」が追加で収録されている。どちらか一冊選ぶなら吉田秀和氏の解説が素晴らしい本書(中公文庫)の方がお勧めだが、好事家は新潮文庫版もチェックしてみてはいかがだろうか。 -
著者はかつて日本を代表する女流ピアニストとして活躍されていた方で、各種の国際コンクールで審査員を勤めておられた方でもある。表題は現在も定期的に開かれている国際コンクールのこと。架空のピアノコンクールを描いた某小説が、あまりにも酷い内容で面白くなかったので、口直しに「実録」である本書を読んでみた。審査員目線だからこそ書ける面白いエピソード満載で、とても楽しく読めた。まさに事実は小説より奇なりである。
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この本に登場するピアニストの演奏を YouTube で確認しながら読むと最高に楽しいことに気づいた。
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1988年に書かれたエッセイ、いまごろになって読んでもおもしろい。
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安部総理の外務大臣時代の話が出てきます。時の流れを感じます。
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巻末の講評で書かれているが、著者は一流の音楽家ではあるけれど、書き手としても非常に優れていると思う。
コンクールの情景が、少しユーモアを織り混ぜながら描かれており、引き込まれるように読んだ。
コンクールの採点など、チャイコフスキーコンクールだけでなく、ショパンコンクール等も幅広く描いている。
コンクールは、芸術的と言うよりは、将来性のある若手音楽家の発掘にあり、優勝したからといってこの先売れると決まったわけではない。あくまでも、きちんと、音楽を勉強できているかと言うことであり、芸術的とか、魅力といったものは、あまり採点基準に乗らないようだ。
ピアノコンクールを受ける方が読むと、とても参考になる本だ。ただ、こんな採点をされているの、と悲しくなるかもしれないが。。。