- Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122020368
感想・レビュー・書評
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世界を理解するためにはどのような態度をとるべきかのヒントになる。自らに都合のよい部分を切り取ってつくりあげた物語や神話に(宗教もそうかも)、居心地の良さを求めるか、あるは己の好奇心を原動力とする自然科学的探究の行動を実践するのか。後者を選ぶときにはプリニウスや野ウサギの運命のような過酷さを受け入れる覚悟が必要だということ。その覚悟をきめ、行動することを選ぶ火山地質研究者・頼子の逞しさ。
頼子の意識が、ハツの手記、壮伍の手紙、戸井田教授、神崎、門田との交流を通して研ぎ澄まされていくのが、この小説の醍醐味だろう。浅間山が舞台となる印象的な終幕。読後の余韻が深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
池澤夏樹3作目。
火山という自然現象を軸に、過去と未来を行き来し、科学の力とそれを超える超自然現象と交感し、物語と神話について考察しながら作品が進んでいく。
どうしたらここまで人間総体を遠くから眺めるような視点を持つことができるに至ったのか分からないのだけれど、本当にすごい作家だなと思った。
科学的な素養を持ちながら超自然的(精霊とか)な視点を取り入れて、鳥瞰図的な世界を描写する能力。そして、それでいて、あくまでストーリードリブンであり続ける。そしてなによりも説教臭くない。ジブリがそれに近いものがあると思うのだけれど、ジブリって高度な技術とストーリーテリングは上手いけれど、いつも説教を聞かされているみたいな気になって鼻白んでしまうのだけれど、彼の作品にはそれが無い。 -
うさぎは、分かっているのに不思議と罠に
つかまってしまう。
文中に出てくるこの一つのエピソードが、
まさに、説明の付かない人間の「衝動」を
うまく表していると感じます。
身の危険を以っても鎮められない自身の
内なる衝動に身を任せる主人公の姿は、
読者にも同じような高揚感を抱かせます。
きっと読者の経験に呼応する何かがあるのだと思う。
クライマックス、最高峰に登りつめるような、
数学の「極限値」とも言うべき数行で
沸騰です。 -
言葉にしたらすべて嘘になってしまう。くっきりと輪郭を持ってしまうと除外されていくものがある。嘘にしたくない。なにも除外したくない。全部知りたい
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「自然」に関する、池澤夏樹らしい作品。
「自然」と、人の語る「神話」が対になって登場し、言葉を超えたものの存在を訴えかける。
小説は、まさに言葉によって作られた物語だ。それが神話を否定するのは、自己矛盾だ。
だけど、さらさらとした筆致は空気に触れると溶けて、言葉の印象を残さない。場面は淡々と切り替わり、何が始まり何が終わるのかを理解する前に手から零れ落ちる。
そして結局、訴えかけられた内容だけが心に残る。作者の試みは成功した、少なくとも私に対しては。 -
長い手紙。長いだけで直接的なメッセージがない、そんな手紙が読まれるシーンはなんだか村上春樹の「ねじまき鳥」が思い出されました。(いきなり関係ない作者出してすみません)
この作品では前述した手紙をはじめ江戸時代の女性の物語や「シェヘラザード」用のエピソードなど物語の中で物語が突然、そして何度も語られます。なんだこれ、ごっちゃごちゃの短編集みたいだな、と思いながら読んでいたのですが、主人公が意識を変化させていく中でそれらの物語の効果が理解できて、わぁすごいと感動しました。
なるほど池澤さんのテーマは一貫していたんですね。言葉からなる物語や神話からでしか物事を見ようとしないことへの反発とその「言葉」を超えた先にある物事の本質の追求。これです。それがわかったらすべてが納得でした。
作品の構成の意図もわかったし、テーマは意義深いものだし、自分の考え方と近いものを綺麗な文章で表現してくれたし、読中も読後もずっとすっきりしっぱなしの作品でした。
そして題名。真昼のプリニウス。この作品にこれ以上の相応しい名前はないですね。 -
言葉や物語の枠に閉じ込められるまえの、そのままを見るため火山の噴火口に赴く。罠にかかるウサギの目の前には新しい世界が見えていたのかもしれない。
『知らないのは君だけだよ、門田君。』