偶然の家族 (中公文庫)

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著者 : 落合恵子
  • 中央公論社 (1994年3月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122020788

偶然の家族 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

  • <偶然の団欒、家族の選択>
    深夜放送のDJとして大変な人気のあった落合恵子はその後作家に転じた。執筆活動と同時に、彼女の活動を特徴づけたのが、東京青山の子供の本の専門店であるクレヨンハウスだ。年に数回は自然と足が向いてしまう場所だ。時折は、書店の周辺の植物などを手入れする彼女の姿も見かける。クレヨンハウスは、彼女の人生への想いが自然と外に表出されていて、その凛とした部分や、優しさが渾然としている。小説について、彼女のDJに感じたほどの熱狂を持ちつづけてきたわけではない。ただ彼女が10年ほど前に書いたこの小説だけは何となく捨てがたく、繰り返し繰り返し読んできた。そこに彼女の祈りが満ちていて、その美しさが、時々のぼくの気持ちを癒してくれたからだ。

    制度としての性別、婚姻、家族などが生み出す歪みの中から逃げ出してきた人たちが肩を寄せ合うシェルターのようなアパートが舞台である。アパートの所有者である初老の詩人夏彦(58歳)とその同性愛の恋人の家具デザイナー平祐〔66歳〕。このアパートには、詩人の家族とさまざまな縁のあった人々が移り住んでいる。中年のグラフィックデザイナー哲郎(50歳)、女性向けの書店を作りたい恵理子(31歳)、両親の不和から逃れてきた学生宗太、嫁いだ家から子供滋(6歳)をつれて出てきた恭子(38歳)。血縁のない人々が、それぞれに自分の選択として組み立てなおした新しい家族関係が静かに、したたかに、そして美しく営まれている。それぞれに血縁、婚姻などの観念が、人と人の優しさを紡ぐためではなく、相手を切りつける刃だった環境の中で傷ついた人々だ。

    《ぼくが選ぶことのできない家庭の味なんて、うんざりですよ。おじいちゃんとおばあちゃんのお気に入りをやり、おふくろを悲しませないように気を遣うのは、もうまっぴらなんです。/愛情も過剰だとだめなんですよ。祖父母も母も、過剰な愛でぼくを窒息させただけです。ぼくもみんなの愛情に応えすぎました。》

    偶然を契機として、それぞれの決断として選び取られた大家族は、滋という6歳の少年の日常を中心に回っている。再婚したのちも、子供が出来なかったため、臆面もなく子供を引き取ろうとする滋の父親たちの影の存在。満たされることが予め否定されていた母性の対象として滋を自分の子のように深く愛する平祐、恭子へのかすかな思慕を持ちつつ、滋を弟のように慈しむ宗太。父親参観日に、皆で参加し、学校に小さな波紋を巻き起こすエピソードは強靭な明るさに満ちている。自らも、血縁、婚姻という制度と小さな頃から向き合わざるを得なかった作者の祈りのような奇蹟の物語は次のような言葉と共鳴している。

    《子供を養育する普遍的な単位としての、家族という観念は続いていくだろう。しかしその核となるのは、必ずしも性愛関係にある男女の対である必要はなく、男性同士、女性同士の対でもよく、性愛関係でなしに、友愛関係にある人びとの対や集団でもよいことに変わっていく。なぜならば、そうした人びとと、いわゆる夫婦とのあいだに、本質的な違いは何もないからだ。大切なのは、社会の新たなメンバーとして幼い子供を迎え入れ、養育していく、意思と能力と責任をそれらの人々がそなえているかどうかである。子供にとって、望まれたときに家族に迎えられるのが幸せなのであり、それ以上の生まれ方、それ以上の環境があるわけではない。》(橋爪大三郎 「性愛論」(岩波書店 1995年)


    さまざまな文化が無根拠に前提とされている中で、多くの悲惨が生まれているのだから、今一度その根拠を問いかけるあり方が、新しく人と人の間の関係を組み直していくためには必要なのだろう。

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