獅子 (中公文庫 い 8-4)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122022881

感想・レビュー・書評

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  • 主人公は92歳!ワクワクドキドキのエンターテイメント!

    主人公が92歳で、娯楽小説っていうだけで凄いですね。
    純ブンガクとかならともかく(笑) 



    92歳の主人公は、真田信之さん。
    今年(2016)のNHK大河ドラマで言うと、大泉洋さんです。 

    有名な真田幸村さんの実の兄。
    弟の幸村は、大阪の陣で徳川家康を追い詰めて、戦死。
    それが1615年で、まあだいたい48歳くらいで亡くなったそうです。

    その、お兄さん。

    と言ってもどうやら1歳上なだけのようですね。

    この信之さんは、お家を守るため、(かどうかわかりませんが)徳川傘下の大名として生き延びました。

    それどころか異常な長生きをしました。

    #

    信之さんも、若い頃は武田勝頼やら織田信長やら、という時代と状況の中で右往左往していたのですが。そういう有名人より長生きして。

    豊臣秀吉より長生きして、
    徳川家康より長生きして、

    家康の息子の秀忠より長生きして、

    なんと家康の孫の家光より長生きして。

    1658年に92歳くらいで死んでいます。92!。

    #

    しかも、恐ろしいのは生きていただけではなくて、元気だったんですね。
    信じられないのですが、90歳まで、色々事情があって、隠居せずに現役の藩主として政治を行っていたそうなんです。

    そして、倹約を旨として偉大な財政家、名君だったそうです。

    もう、家光の頃になると、戦国時代真っ只中の雰囲気を語れる大名はほぼいなくなってしまって、信之さんは将軍からも凄くリスペクトされたそうです。

    #

    池波正太郎さんの小説。
    池波さんと真田…。
    何と言っても文庫本で10冊を超える大長編、「真田太平記」(連載1974−1983)。

    戦国時代を生きた真田昌幸、その長男・信之。そして次男・幸村。
    この親子を軸にした大河小説。
    1985年にはNHKでドラマ化もされました。
    ちなみにその際の信之役は渡瀬恒彦さん。幸村役が草刈正雄さん。
    最終回のラストカットが、1985年当時の特殊メイクの限りを尽くして、90代らしき白髪茫々たる渡瀬さんが拝めます。
    (物語自体は、信之さんが50歳くらいのあたりで終わりますけれど)

    #

    この「獅子」は、真田信之さんが92歳のときの話なんです。
    実際にその頃に、真田家では跡目争いが起こって、藩内ががたがたしたそうです。史実として。

    それを背景にした、もちろんフィクションの娯楽小説。

    #

    92歳の楽隠居の真田信之さんですが、まだまだ誰よりも思慮深く経験豊かで、人脈も持っています。

    そこで、お家騒動に困った重臣たちが、泣きついてくる。

    一番の悩みは、お家騒動にかこつけて、幕府がいちゃもんをつけてくるだろう、ということ。そうなると、最悪、お家取り潰し。会社倒産、一家離散です。

    当時の幕府のトップは、老中・酒井忠清。真田の松代城下や家臣団にまで張り巡らせたスパイの網を使って、追い詰めてきます。
    これに、92歳の真田信之が、老体の知恵のみで敢然と対決する…。

    #

    なかなかワクワクさせられる小説でした。
    池波さんらしく、実に読みやすい。
    男女のアヤみたいなものも絡んできます。
    (信之さん本人ではありません。92歳ですから)

    薄めの文庫本一冊なので、するするっと気軽に読了。

    粘液質に完成度の高い緊密な攻防、という程でもないですが、
    気の利いた海外ミステリーを読んだような余韻。

    トリック、仕掛け合いだけではなくて、
    その周りの脇役たちの人生模様が丁寧に描かれていたり、
    何よりあまりにも波乱に飛んだ人生を歩んできてしまった主人公の、老境の想いが香り高い芳醇な洋酒のような。
    コクのある後味。

    #

    つまりは、2016年の大河ドラマ「真田丸」や、
    池波さんの大長編「真田太平記」の、
    後日譚に当たる小説なんです。

    なんですけど、実は、小説として書かれたのは先。

    小説「真田太平記」の連載開始は1974年。
    小説「獅子」は1973年には出版されています。初出がどこだったのか分かりませんが、とにかく先行しているんですね。

    真田信之さんは老境になっても矍鑠、同時代の頃に、「信濃の獅子」と呼ばれたそうです。
    恐らくタイトルはそこから来ています。

    池波さんは、「真田太平記」を書き始めるときに、その大長編で最後まで生き残る、真田信之の92歳までの姿が描けていたんですね。

    #

    ちなみに1。

    2016年の大河ドラマ「真田丸」の作者は三谷幸喜さん。
    三谷さんは1985年のドラマ「真田太平記」の大ファンだったそうです。「真田丸」でも「真田太平記」へのリスペクトやオマージュが散見されます。

    何より、信之を始め主要メンバーの性格は、池波ワールドそのまんまです。

    真田=家族愛と忍者、みたいな構造を、講談から現代的な娯楽に翻案した功績は、何と言っても池波さんですね。

    #

    ちなみに2

    池波さんは「獅子」より更に前に、江戸時代の真田家を舞台に傑作短編小説を幾つか書いています。「錯乱」(1960)など。

    「獅子」とほぼ同工異曲のものもあり、短編集「真田騒動」(新潮文庫)に収録されています。この一冊、完成度凄い。

    #

    ここしばらく、仕事で真田、真田、の時間だったので、
    「この本をどうせ人生でいつか読むのなら、今読むほうが楽しいんぢゃないかな」
    と思って。
    楽しく読了。

    • 淳水堂さん
      koba-book2011さんこんばんは(^O^)

      真田太平記は見たけど読んではいないのですが、
      後日談(書かれたのは先とのことです...
      koba-book2011さんこんばんは(^O^)

      真田太平記は見たけど読んではいないのですが、
      後日談(書かれたのは先とのことですが)も書かれてたんですね。
      大河ドラマで信繁主役の真田ものと発表された時は、兄が主役の方が面白いんじゃない?などと思ったものです。もちろん始まってからは面白く見ていますが。

      真田太平記終盤で稲姫を見送った渡さんが「わしが行くまで待っておれ」とかなんとかいうのを「あと半世紀近く先だけどね」などと思ったり、
      今やっている真田丸で大泉さんが「(矍鑠たる矢沢の大叔父上の事を)100歳まで生きられる人間がいるものか」というのに「あなた100歳近くまで生きるじゃないですか…」と思ったりしてます(笑)

      薄めの読みやすい本なら大河ドラマやってるうちに読んでみようかな、面白そうな本ありがとうございました!
      2016/11/08
    • koba-book2011さん
      淳水堂さん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね。真田信之は92まで生きた、というネタを知っていると、真田太平記も真田丸も...
      淳水堂さん、コメントありがとうございます!

      そうなんですよね。真田信之は92まで生きた、というネタを知っていると、真田太平記も真田丸もチョット楽しみが増えますよね!

      その「長生きした信之さん」の息吹を感じられる、という意味では、(短いですし)素敵な一冊です!
      2016/11/09
  • 「大名たるものは、いずれも名君でなくてはならず・・」と、言い切る信之兄上は、流石です。
    やはりこの方あっての真田家ですね。

  • 九十歳をこえてなお、「信濃の獅子」と謳われた真田信之。当主の突然の死に伴う後継者争いをめぐり、松代十万石の存亡を賭けて下馬将軍・老中酒井雅楽頭忠清に挑む老雄の、乾坤一擲の隠密攻防戦。(親本は1973年刊)

    久しぶりの再読。本書の刊行が1995年なので、初読は20年も前の事になる。今読んでも、色褪せない面白さがある。
    内容は地味である。あまり派手さはない。隠居である信之が、孫の家督相続をめぐって、老中酒井忠清と駆け引きをするというものである。信之は松代の隠居所を動くこともなく、血で血を洗うわけでもない。しかしながら最後まで読ませるのが、池波正太郎である。同じ事件を扱った「錯乱」もオススメ。

  • 真田一族と池波正太郎との縁は深い。「錯乱」で直木賞を手にしたのは昭和35年、その後「真田騒動」、「信濃大名」、「恩田木工」そして大作「真田太平記」へと繋がる。
    ストーリー・テラーである池波さんの真田作品は奥が深くイイですね。

  • 「真田太平記」の続編として読了。

    豊臣と徳川、父と弟、二人の孫と、2つの勢力に翻弄され続けた真田信之の運命を見ると色々と感じてしまう。

    小説自体は娯楽色が強くて、史実に沿っているかは疑問。

    それでも、魅力あふれる登場人物と起伏に富んだ物語に仕立て上げるのは流石の池波節。

  • 一昨年前に隠居したところからはじまり、死を迎えるまでの真田信之の物語。

    田植え時期に領内をまわることが愉楽で、田植歌を好むところは〃のぼうさま〃みたい。

    夢中になって、寝不足・・・。

    父と弟が血の気の多い人だったからこそ、冷静にまわりを見渡せる人格になったんだろう。
    自分が冷静な訳ではなくて、抑える術を持っている、というか。
    そして領民・家臣を大事にするから、慕われる。
    格好良い。

  • 真田の跡継ぎをめぐるお家騒動で、九十を超えた信行と幕府老中の酒井との、息詰まる水面下の攻防。文庫『真田騒動』に収録の別作『錯乱』をより詳しく書いた話。
    読んだ時の物語としての、驚かせる結末の書き方は『錯乱』が面白いけど、こちらは信之の行動や考えをじっくり書いていて、その言葉には重みがあります。そして信行の言葉行動ひとつに、領民や家来の最大級の敬愛と信頼が向けられ、その肩に乗っているのがわかります。
    謙遜するのではなく、大名が名君であるのは当たり前のことだと言える信之は凄い。

  • 書きかけ。

    戦国武将・真田信之の晩年を描いた、真田太平記の後日談とでも言うべき作品。
    なんというか、著者の信之への愛があふれすぎていて、ちょっぴり恥ずかしいような照れるような軽く引くような、そんな小説です。

  • 「錯乱」を更に詳しく書いた話。面白い。

  • 僕は池波作品で一番好きなものかも、、
    真田一刀斎信之晩年を舞台にしたスパイものです。
    年老いた信之が頭脳戦を幕府と繰り広げるないようなんですが、
    泣ける台詞が満載。
    「世に名君などおらぬ、云々」しぶい!
    ラスト、泣けます!
    このラスト人に説明するだけで泣いてしまう。

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著者プロフィール

大正十二(一九二三)年一月二十五日、東京市浅草区聖天町生まれ。昭和十(一九三五)年、下谷区西町小学校卒業、株式仲買店勤務。昭和十四年より三年ほど証券取引所にあった剣道場へ通い、初段を得る。旋盤機械工を経て昭和十九年、横須賀海兵団入団。敗戦の翌年、東京都職員として下谷区役所の衛生課に勤務。昭和二十三年、長谷川伸門下に入る。昭和二十五年、片岡豊子と結婚。昭和二十六年、戯曲「鈍牛」を発表し上演。新国劇の脚本と演出を担当する一方、小説も執筆。昭和三十年、転勤先の目黒税務事務所で都庁職員を辞し、作家業に専念。昭和三十五年、『錯乱』で直木三十五賞受賞。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の三大シリーズや『真田太平記』等、数々の小説で人気を博す一方、食や映画、旅に関する著作物も多く上梓した。受賞歴はほか吉川英治文学賞、大谷竹次郎賞、菊池寛賞等。平成二(一九九〇)年五月三日、入院していた東京都千代田区神田和泉町の三井記念病院で死去。小社では同じく単行本未収録のエッセイ集『一升桝の度量』(二〇一一)と初期戯曲集『銀座並木通り』(二〇一三)を刊行している。

「2022年 『人生の滋味 池波正太郎かく語りき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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