紅蓮の女王: 小説推古女帝 (中公文庫 く 7-18)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122023888

感想・レビュー・書評

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  • この本に登場する炊屋姫(カシキヤヒメ)(のちの推古天皇)は私が今まで読んだ他のどの本よりも、情緒豊かで情熱的で女性的に描かれていました。
    蘇我と物部の戦いについて炊屋姫的には、愛人を奪われた復讐のための戦、という理由付けをしているところなんかいかにも情熱的な女性らしい~

    そんな中で蘇我馬子は、彼女の女の情念を巧みに利用しながら自身の権力を増大させ、敵対勢力を追い詰めていきます。
    馬子のすごいところは、崇仏派の蘇我と廃仏派の物部の対立を、単に仏教と日本古来の神のどちらを信仰するか、という宗教戦争ではなく、
    ・実は政治権力を一手に集中させるために邪魔な対抗勢力を消し去るための理由であり、
    ・仏教を国の宗教とすることで、地祀の祭祀権を持つ天皇家の権威下落を狙ったものであり、
    ・アジア全体が仏教国になりつつあるときに、日本だけいつまでも神道を信仰していると諸外国に後進国だと侮られることを防ぐためのものであり、
    ・国として仏教を信仰することにより、仏教先進国である百済の地位を上げ、蘇我の地位、財力を増幅させる、(蘇我の祖先は百済系移民だという仮説に基づいています。仏教文化の輸入と同時に百済との貿易が盛んになれば蘇我の財力UP、また朝廷での地位もよりゆるぎないものになる)
    という複数の狙いがあるのです。

    馬子の手腕には舌を巻きました。すごすぎる!

  • 暗雲はらむ古代日本。大王家をめぐって権謀が渦まくなか、絶世の美貌の身を恋の激情にゆだねる炊屋姫。そして、強敵物部氏を滅亡に追いつめてゆく、冷徹な政治家蘇我馬子。二人の像を中心に、推古女帝即位にいたる激動の古代を彩る人間ドラマを鮮かに描いた、壮大な歴史小説。

  • 再読。
    時代小説から離れられず、でも手持ちがないので、古代小説へ。
    やっぱりおもしろかったけど、推古天皇即位までのお話だし、分量も少ないので、次を読みたくなる。

  • 後に女帝・推古天皇となる、炊屋姫が主人公。

    炊屋姫は敏達天皇の皇后でしたが、身体の弱い天皇は病に倒れ、ほどなく崩御してしまいます。
    政治や世継ぎの問題が降りかかり、蘇我氏と物部氏の確執とそれぞれの思惑に挟まれつつも、姫は自分の立場・誇りを守り、美しく毅然と立っているように見えました。
    …が一方では、夫の喪に服しながらも恋ならぬ恋に身を焦がし、いっそ自分が大王の后じゃなく普通の女性だったらと嘆き、小さな木の葉の様に揺れている。
    その恋の相手こそ、宮廷衛士の長・三輪君逆(みわのきみさかう)でした。
    彼は紀で「悉くに内外の事を委ねたまひき」とあり、敏達天皇にして用いられ、かなり信頼されていた人物だったみたいです。
    今流行りの、政・務・衛を備えた、スーパー執事(または秘書?)みたいな立場だったのかも知れませんね。

    しかも本書の逆、良い男なんだよこれが。
    凛々しくて逞しくて、無骨だけど真っ直ぐで、機転も効いてて仕事も出来る。
    そんな人が、もしもの時は命を捧げると言って警護してくれている。仕方ないわ、側にいたら惚れるよ、惚れないわけない´Д`*
    それに引換え、王族だと言うのに、穴穂部皇子の空気の読めなさ、浅はかさと言ったら。胸くそ悪くなったよ…。

    相思相愛とお互い気づきながら、触れ合う事はおろか、近寄ることもままならないって、ものすごい辛いなあ。
    炊屋姫が、もがりの宮から逆の居る場所を見つめ葛藤するシーン、かなり切なかったです。

    でもプラトニックな関係って、ある意味で肉体的な関係がある時以上にドキドキするんですよね。
    しかも、ものすごい格差恋愛です。主君と臣下の恋愛は禁断禁忌。
    公になれば、逆は死罪になるかも知れません。
    …でも。
    人事全開ですが、その過酷な状況がまた、私的には燃えました´Д`*

    禁忌だとわかりつつも、二人はどんどん惹かれあい、深みにはまります。
    そして、それを利用するかのように暗躍する蘇我馬子。
    馬子はすごい。マジ策士ですよ。

    訪れる運命の時。
    炊屋姫と逆の恋愛の果てに、私は号泣でした。
    逆、行ったら嫌じゃ!と、私も縋りつきたくなりました´ω`。
    辛すぎる…。
    そして事態は蘇我物部合戦へと発展していくのですが…。

    歴史物としてはもちろんですが、恋愛ものとしても、かなりいける一冊でした。
    なんだか「ボディーガード」って昔の映画の曲「I will always love you」が頭に流れてしまった…。

著者プロフィール

1924-2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞。他の著書に『飛田ホテル』(ちくま文庫)。

「2018年 『西成山王ホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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