天の川の太陽 下巻 改版 (中公文庫 く 7-20)

著者 :
  • 中央公論新社
3.80
  • (15)
  • (4)
  • (19)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 136
感想 : 15
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (650ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122025783

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 上巻に引き続き、大海人皇子は石橋を叩いて叩きまくりながら、対中央朝廷の準備をすすめる。そして、待ちに待った兄の天智天皇の死。大海人皇子は味方にした地方豪族たちを率い、三万の軍勢で近江宮を目指す。

    著者は限られた資料や当時の戦場の地形、人々の体力や走力などを分析し、壬申の乱の局地戦を詳細に描き出す。下巻のほとんどがこの戦乱描写なのだが、あまりに詳細すぎて読むのがつらかった。あまり知られていない将軍や舎人に比べて、額田王や大友皇子の登場が少なく、人間ドラマそっちのけの下巻は、小説というより歴史書に近い。

    と、そんな不満は置いといて、本作品を読んでわかった大海人皇子が圧勝した理由は2つ。一つは緊迫する海外情勢を知る大友皇子側が新羅や唐の侵入を警戒していたこと。仮想敵は海外であり、東国に下った大海人皇子を警戒する余裕がなかった。もう一つは、大海人皇子が天皇は自分であり、今回の戦いの目的を天皇への反逆者である大友皇子の征伐としたこと。だから、豪族たちは天皇へ忠誠を尽くすために大海人皇子に従った。

    そんな勝因に加え、才能、魅力に優れた人間性を備えた大海人皇子は勝つべくして勝った。

  • 兄、中大兄皇子(天智天皇)の皇太弟として次期天皇を期するも、天皇の子の大友皇子が新天皇に指名され、出家して吉野に隠遁する大海人皇子。
    敢えて忍従しつつも東国の反近江朝廷派の力を集積し、機が熟したところで反撃の狼煙を上げる。

    672年に起きた大海人皇子と大友皇子による「壬申の乱」をテーマにした壮大なドラマ。高校生の頃に年号と名前だけを丸暗記しただけのことを50年たった今、あらためて事の真相を知る素晴らしい時間だった。

    数年前、関ケ原と垂井町を歩き回ったときに、なぜここに壬申の乱の史跡があるのかと不思議に思ったがその理由がよく分かった。その時の土地勘があったので内容も楽しく読めた。

    ただ黒岩さん、丁寧に描きすぎて少々長すぎる。その分ゆっくり時間が過ぎるので人名や経過がとても分かりやすかったのはよかったけど。

  • 下巻では、大友皇子に天皇位を奪われ、出家して吉野に隠遁していた大海人皇子が綿密すぎるほどに計画し、挙兵するまでの様子を描く。宮滝に落ち延びてからも決して態度を変えず大海人に寄り添い続ける勝気な妻、鸕野讃良との絆の深さも印象深い。

    身分に隔たりのある舎人たちと心を通わせるなど、懐の大きな大海人に心を寄せるものは東国にも王族にも朝廷内にも多く、彼らは近江朝廷に愛想を尽かしてしばしば大海人を慕い、挙兵を促す。しかし大海人は舎人たちにさえギリギリまで本心をひた隠しに隠して、水面下で準備を推し進めていく。
    決戦の日に備え、部下たちに土地勘を養わせたり、より強力な武器を製造させたり、まだ皇太弟として権威を失っていなかた頃からの、用意周到さは驚嘆に値する。

    ただ、本のボリュームに対して「決して気づかれるな」という、同じ場面の繰り返しがあまりにも多くて少し飽きてくる。解説や自説の展開も多い。小説としてのテンポや流れは決して良いとは言えない。

    しかしそれぞれの人物の個性や心情の移り変わりは鮮やかに魅力的に描き出されていて、強い印象を残してくれた。

  • 大海人皇子の周到な準備に対処できず、近江朝はあえなく敗北した。その原因は、新羅や唐の動きに翻弄されてしまったことに加え、近江朝が東国を含む日本全土を掌握していなかったことにもあるのだろう。
    物語の進行がゆっくりで、全体的にスピード感に欠ける感じがする。

  • 飛鳥
    天武天皇

著者プロフィール

1924-2003年。大阪市生まれ。同志社大学法学部卒。在学中に学徒動員で満洲に出征、ソ満国境で敗戦を迎える。日本へ帰国後、様々な職業を転々としたあと、59年に「近代説話」の同人となる。60年に『背徳のメス』で直木賞を受賞、金や権力に捉われた人間を描く社会派作家として活躍する。また古代史への関心も深く、80年には歴史小説の『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞する。84年からは直木賞の選考委員も務めた。91年紫綬褒章受章、92年菊池寛賞受賞。他の著書に『飛田ホテル』(ちくま文庫)。

「2018年 『西成山王ホテル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

黒岩重吾の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
宮部みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×