雍正帝: 中国の独裁君主 (中公文庫 み 22-11)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122026025

感想・レビュー・書評

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  • 雍正帝は、八代吉宗の頃、中国宋明以来の独裁政治を完成させた名君です。もちろん頭も良かったのでしょうが、高い倫理観と真面目な性格で自らを刻苦勉励させながら理想の統治を目指しています。中国四百余州の管理者は行政の状況を報告し、皇帝は朱筆を入れて指導します。全国を直接指導監督するということは、文字どおり身を刻む負担であり、13年の統治期間の精神的肉体的負担を考えると痛ましさを感じます。次の乾隆帝は名君とされますが、雍正帝あっての乾隆帝だということがわかります。

  • 康熙帝と乾隆帝の間でちょっと地味なイメージの雍正帝。しかし、雍正帝の堅実な仕事が清王朝を支えたといえる。
    そんな雍正帝について書かれた一冊。

  • 康熙帝と乾隆帝に挟まれてやや目立たない雍正帝について取り上げた本書。出版の古い2冊をまとめたもので、現代の歴史文庫・新書に比べれば語り口は軽快である。
    精力溢れる雍正帝は独裁君主として官僚機構の統治に腐心し、その解決策の1つとして地方官吏から直接の意見上申を重視した。報告に対する皇帝の返信も含めて、その一部が出版までされており、雍正帝の辛辣だが政務に励む様子を現代に伝えている。

  • 『甄嬛傳』をみてすっかりはまり、雍正帝とはどんな人だったのかが気になって買ってしまった。きっとマニアックで難解なのだろうなと思って読み始めたが、予想外に大変読みやすかった。
    本書は、1950年に出版された同題の岩波新書と、1957年の論文「雍正硃批論旨解題 - その史料的価値 -」を一冊にしたもので、両文章とも元は岩波書店『宮崎市定全集』巻14に収録されていたらしいが、同題の岩波新書はすでに絶版。
    雍正帝についていくつかの角度から観察しているが、全体を通して「摺子」が頻繁に現れ、本書の主眼がこの「摺子」にあることがわかる。
    著者は雍正帝について研究しているうちに『雍正硃批論旨』なる出版物の存在を知り、読み始めたところ面白くてとまらなくなり、同好者を募って研究会を催し、ついには正式な組織となった。
    そこまで筆者の心を鷲掴みにした『雍正硃批論旨』とはどうゆう内容だったのか、というのが豊富な例文を引きながら紹介されているのが本書。惜しむらくは、実物の写真がないこと!これは講談社の怠慢。

    しかし、語り口調があまりに軽快な上に、可也細かい経緯や背景まで書かれているので、正直どこまでが歴史でどこからが空想なのかわからないところがあった (特にスーヌのくだり)。しかも本編には一切参照文献が挙げられていない。
    そう思って巻末の解説を読んでいると、なるほど、あのスーヌの章は、フランス滞在中に買った『イエズス会書簡集』を参照したらしい。あの頃の世界情勢が著者を中国から遠ざけたようにみえて、実際は廻り道してさらにマニアックな知識を得ていたというあたり、歴史学者のまさに鑑。
    第一章はどうやら清實錄の康熙朝實錄からいくつか引用しているらしい。

  • 康熙帝、乾隆帝に比べ在位期間が短くあまり目立たない独裁君主雍正帝。地方の官僚たち一人ひとりと文書のやり取りを行い、ダメ出しを加筆して送り返すというのは思わず笑ってしまった。ただ絶対君主の皇帝とはいえ、徒党を組む官僚たちとの関係には常に悩まされていたようだ。

  • 主に雍正帝の統治の在り方について書かれている。
    彼の治世は独裁政治として理想的なものだったと同時に、
    彼自身の努力と人並みはずれた才能がなにより必要だった
    ということがよくわかった。
    雍正帝を通して独裁政治の限界も浮き彫りになる内容だった。

    内容もさることながら、読み手を飽きさせない、軽さはないがリズミカルに感じる文章が心地よかったです。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    清の雍正帝という人物を解説している。
    私は寡聞にして知らなかったのだが、彼が行った「太子密建」という後継者指名の方式は聞いたことがあった。
    初めて聞いたときは画期的な方法だと思ったよ。
    雍正帝という人物がどのような人だったのか、どのようなことを行ったのかがしっかりと分かる内容だった。
    雍正帝が考えた地方から肯定に密奏される奏摺に対し、硃批を書き加えて返信するという仕組みは皇帝がすみずみにまで目を配ることができる感じた一方で仕事量が皇帝一人でこなせるのだろうかと感じた。
    実際、乾隆帝の時代には形骸化していようだ。

    それと硃批諭旨が書籍となり、現代まで残っていることが雍正帝の時代を深く知るための良い資料となっていることも印象に残ったな。

  • 広大な中国を一人の人間が統治できるのか、挑戦をした人の本です。やっぱり無理かな?と思ってしまいます。

  • 宮崎市定氏による「雍正帝」の本。

    清朝に詳しくないのだが(中国史全般にいえるが)、それでも筆者の詳しい記述により、興味を持って読めた。
    もちろん、難解な部分もあったが、それは、自分の勉強不足のせいだろう。

    予備知識があれば、もっと素晴らしい本になっているはず。

    世界史的に言えば、康熙帝と乾隆帝に挟まれているので、地味な存在なのだが、この雍正帝の功績によって、清朝の統治が完成したといってもいい。

    生活に苦しむ民衆に善政を施す、これこそが絶対君主の天命であるという強い意志と、行動力、権力をもつのが雍正帝だった。

    前書きより。
    「そして彼ほはこれらの名君と優に比肩し得る治績を挙げた。おそらく数千年の伝統を有する中国の独裁政治の最後の完成者であり、その実行者であったといって過言ではない。」(10ページ)


    他のレビューにもあるが、雍正帝による「雍正硃批諭旨」。その解題も必読。

  • 1996年刊(底本「雍正帝」中公新書版1950年。論文「雍正硃批諭旨解題 その史料的価値」は1957年初出)。著者は京都大学名誉教授。
     
     著者は言う、清朝崩壊を百年遅らせたのが雍正帝だと。それは独裁君主ながら、利権と私利を貪る輩(官僚)を憎み、超人的な執務量を高い意欲と至誠でこなした模範的専制君主の政策、その結果として得られた国庫の富裕と余裕、旧態依然の明朝期の政治システムを解体したことに依拠したものと見るのだ。
     確かに、康熙・雍正・乾隆は清朝の最盛期だが、雍正帝はその中でも短命政権との評価に止まっていた。
     なるほど、雍正帝は治世13年に過ぎず、長期政権に挟まれた短命政権に過ぎなかったのは事実だ。が、そこで彼の成し遂げた改革の実が、清朝を発展させた事実を明快な文体で追い、先の世評を覆していくのが本書である。

     さて本書の内容と直接の関係はないが、最近アニメーション版「DEATH NOTE」を全話見る機会があって、そこで語られる神の如き存在の激務が、まさに雍正帝がこなした激務にだぶるなぁと思いながら読み進んだ本書。
     ここで生まれる読後感は、
     ①合格者が少なすぎて難しすぎる科挙が、かえって利権を貪ろうとする存在に堕してしまう点。
     ②金持ち=資本家の子弟でなければ科挙合格が覚束ない官僚は、資本家の味方でしかないという事実。
     ③広すぎる中国の国土における統一を維持しようとして独裁制を生んでしまう反面、その広さが独裁制の非現実性を招来してしまうという皮肉。
     その中の徒花というべき雍正帝は、独裁制としては短命政権であったがために徒花足り得たという皮肉。
     ④賢明な独裁君主が時に誕生したことが、大衆の独裁君主への無言の信頼のバトンを繋ぐという悪癖を生み、治者と被治者の自同制という民主主義の根幹概念を隠してしまった。
     すなわち、雍正帝の独裁制こそが、彼の善意が生み出した悪政、史的意味での悪政の最たるもの。
     等というなかなか含蓄ある指摘に溢れている。

     そして後半は「雍正硃批諭旨解題」という地方官から雍正帝に直接送付された伺書・報告書に、雍正帝が直接に添削・批判・回答を朱書した史料を解説する。
     戦前における中国史研究の意味が戦後に急変し、その戦後の中国史研究に従事する中で見出した「雍正硃批諭旨解題」の価値を語る。
     ここで見えてくるのは、時間的な余裕がないと文献講読は難しい事実である。輪読形式なら猶更だ。ここでは文科系の研究だが、理科系なら失敗を含む実験のための時間だろう。
     かような研究者の余力を如何に付与できるかが、日本の研究の質を維持向上させる力、ひいては日本の底力と言えるのではないのか。そんな感慨も生む名著である。

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著者プロフィール

1901-95年。長野県生まれ。京都帝国大学文学部史学科卒業。京都大学名誉教授。文学博士(京都大学)。文化功労者。専門は,東洋史学。主な著書に『東洋に於ける素朴主義の民族と文明主義の社会』(1940年)、『アジア史概説』全2巻(1947-48年)、『雍正帝』(1950年)、『九品官人法の研究』(1956年、日本学士院賞)、『科挙』(1963年)、『水滸伝』(1972年)、『論語の新研究』(1974年)、『中国史』全2巻(1983年)ほか多数。『宮崎市定全集』全24巻+別巻1(1991-94年)がある。

「2021年 『素朴と文明の歴史学 精選・東洋史論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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