中国行きのスロウ・ボ-ト (中公文庫 む 4-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122028401

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    全体的におだやかな空気が流れる短編たち。午後の最後の芝生、土の中の彼女の小さな犬が好み。

  • 恐らく40年ほど前の二十歳になる頃に初めて読んだ村上春樹作品。「ノルウェイの森」出版される1年ほど前だった。
    急に懐かしくなり、読みたくなって買い求めた。(本棚のどこかにあった気がするけど)
    表題の「中国行きのスロウ・ボート」は初めて読んだ時、衝撃を受けた。その後、そのまま村上春樹に引き込まれるキッカケを作った作品と言える。
    それでも、前半の話の方が印象が強くて、後半の展開は忘れていた。
    「貧乏な叔母さんの話」自分にとっては村上春樹らしい捉えどころのない話の一つ。一方で当時この作品を読んだ人たちのこの作品の評価は高かった気がする。
    今回読んでみても、印象は今ひとつ。僕は40年成長していないのか?
    「午後の最後の芝生」は読んでいて思い出した。
    こちらも暑くなってくるような、日焼けしてしまいそうな文章。
    「土の下の彼女の小さな犬」、これも読んでいて思いだした。この話から受ける感覚は、当時の所謂「村上春樹らしさ」を一番著していると思うし、これが村上春樹ファンの好きな話だったのでは?。(註:当時はまだ「ハルキスト」などという呼称はなかった)
    「午後の…」もそうだが、「土の下の…」の「の」の意識的な連続。これもまた村上春樹っぽい。

    「ニューヨーク炭鉱の悲劇」、「カンガルー通信」ともにタイトルは覚えていたが内容は忘れていた。
    「シドニーのグリーン・ストリート」はタイトルも含め全く記憶にない。
    今や僕は村上春樹作品は買っても読み通せなくなっていて、ここ10年以上新作長編が出ても読んでいないが、昔の作品の方が抵抗なく読めるのはなぜだろうか。

  • 村上春樹氏初めての短編集。
    ちょっとキザでハードボイルドな、
    一昔前の粗めの画質のフィルム映画みたいだ。

    現実と非現実が境目なく混じりあっている感じが、
    この独特の雰囲気を生み出している気がした。

    帰宅ラッシュの雑踏に紛れて名前をなくしてしまう
    都市生活者の薄暗闇に
    苦しいくらい共感させられたと思ったら、
    背中に貧乏な叔母さんが貼り付いてテレビに出る
    急展開に置いてけぼりにされてしまう。

    そしてそのどちらもが同じくらいの力の入れ具合で
    さりげなくまぜこぜにされているから、
    「うんうん…うん?はぇ……あー、はいはい。え?」
    みたいな気分になる(語彙力の喪失)。

    おそろしく丁寧な状況描写も特徴的かもしれない。
    夏の光と濃い影、
    立っているだけで汗が吹き出す空気の温度まで
    感じられるようだ。

    あと、性的な話ね。
    そこでその話、要るかい?と思うくらい
    執拗に登場するのに、
    主人公は徹底的に淡白な様子なのが、
    なんかおもしろい。

    ようするに、村上春樹作品“っぽさ”が
    たっぷり詰まった短編集なんじゃないかな。

    何を伝えたいのか、一言でテーマを言えないような
    作品ばかりなんだけど、
    個人的にはむしろそれが気に入った。
    日常に潜む憂鬱、些細な失敗、誤解、別れ、
    永遠に失われた選ばれなかった選択肢の行先。
    スポットライトをあてるほどてもない、
    ありふれたそれらは、リアルで残酷だ。

    彼女を逆回りの山手線に乗せてしまい、
    電話番号をひかえた紙マッチを捨ててしまうという
    些細で意味の無いグロテスクな間違いは、
    こんなに些細で悪意のない間違いなのに、
    彼女を失意のどん底に突き落として
    自己認識に根を張ってしまうかもしれないし、
    少なくともふたりの関係をぶった切って
    ひとつの選択肢を
    未来永劫消し去ってしまったわけだ。

    こういうのって日常の至る所に
    地雷みたいに埋まっていて、
    ちょっとした手違いでも爆発してしまうんだ。
    ぞっとする。

    そんな感じで、
    『中国行きのスロウ・ボート』に心をえぐられ、
    『午後の最後の芝生』の映像喚起力に
    はっとさせられたわけだけど、
    『シドニーのグリーン・ストリート』は
    ひたすら愉快で楽しかったので、
    『羊をめぐる冒険』は
    近いうちにぜひ読んでみようと思った。

  • 結構ゆるめな、村上春樹の初めての短編集。1983年に、中国とは。先見の明?いや、たまたま、かな。(笑)

  • 村上春樹は10代~20代前半くらいにわりとはりきって代表作を読んだつもりだったのだけど、たぶんこれはすっぽり抜け落ちていました。今更80年代の初短編集を手にとったのは、これも小川洋子&クラフトエヴィング商会『注文の多い注文書』で「貧乏な叔母さんの話」パスティーシュを読んで興味が沸いたから。

    ある日突然、背中に謎の叔母さんが貼りついてしまう「貧乏な叔母さんの話」はやっぱり面白かった。貧乏といっても貧乏神のように憑りついた相手を不幸にするわけじゃなく、彼女を見た人の記憶に残る最も不幸な女性の姿を取るだけだ。今もどこかの誰かの背中を叔母さんが転々としているかも、と想像すると楽しい。

    羊男と私立探偵の「シドニーのグリーン・ストリート」は、子供向け媒体で発表されたもののせいか、可愛らしくて好きだった。当たり前だがセックスだのワギナだのって単語も出てこないし。

    つまりそれ以外の、二言目にはセックスの話をするところが今も昔も変わらず村上春樹で、もちろん人生や恋愛を語る上でそれは欠かせない要素ではあるわけだけど、なんかもうちょっと直接的じゃない言い方できないかな、というかいい加減「もうええわ!」とツッコミのひとつも関西人のおばちゃんは入れたくなるわけで。

    文学作品だし真面目に受け取るほうがバカだけれども、お客のクレーム返信にセックス連呼、あなたと寝てみたいと書く(言う)クレーム処理係の独白「カンガルー通信」なんかもうただのセクハラですからね。2019年の今この作品を発表する作家がいたら炎上するんじゃなかろうか。

    なんて、くだらないことに目くじらたててごめんなさい。好きな部分もいっぱいあるのだけど、なんというか、パクチーと同じで好き嫌い分かれるよねっていうか、全体としてお料理は美味しいのだけどそこにパクチー(露骨なセックスの話題)を乗せないでくれたら、もっと美味しくいただけるのにという感じ。

    ※収録
    中国行きのスロウ・ボート/貧乏な叔母さんの話/ニューヨーク炭鉱の悲劇/カンガルー通信/午後の最後の芝生/土の中の彼女の小さな犬/シドニーのグリーン・ストリート

  • 記念すべき100冊目は村上春樹が初めて出版した短編集。1番好きな作家は誰かという質問に答えるならば、自分はやはり村上春樹であろう。彼の文体や言葉の1つ1つに途方もないセンスを感じるし、また読みたいと思わせる力がある作家だと思う。今作も味わい深い短編ばかりで面白かった。スラスラと読めるという点も相性がいいからこそであろう。
    話は変わるが、大学入学時に軽い気持ちで設定した、本100冊読む、という目標をこうやって3年半かけて達成できたことは、あまりハードルの高くない目標であったとはいえ、自分にとって大きな自信、掛け替えのない経験になったことは間違いない。基本的に計画倒れしてばかりだった自分もやればできるんだということを、この経験を通じて胸に刻み、これからの新しい一歩、更なる目標に向かっていくための推進力にできるならば、それはこの上ない喜びである。万歳自分。

  • 「中国行きのスローボート」
    僕が出会った中国人について考える。
    模擬試験の監督官、バイト先で知り合った女子大生、高校時代の知り合い(中国人相手に百科事典を売っている。)
    そして、港の石段に腰を下ろし、空白の水平線上にいつか姿を現すかもしれないスロウ・ボートを待とう。そして中国の光輝く屋根を想い、その緑なす草原を想おう。
    友よ、中国はあまりにも遠い。

    「貧乏な叔母さんの話」
    広場の公園で、一角獣の銅像を見上げながら、隣に座っていた彼女に、貧乏な叔母さんの話を書きたいと宣言する。その日から貧乏な叔母さんは僕の背中に棲みついた。僕には叔母さんの姿は見えないが、見る人によって叔母さんは姿を変える。そしてある秋の終わりの日、叔母さんは僕の背中を離れていった。
    —-あなただって誰かの結婚式で、貧乏な叔母さんの姿ぐらいは見かけたことがあるだろう。どんな本棚にも長いあいだ読み残された一冊の本があるように、どんな洋服ダンスにもほとんど袖をとおされたことのない一着のシャツがあるように、どんな結婚式にも一人の貧乏な叔母さんがいる。

    「ニューヨーク炭鉱の悲劇」
    「みんな、なるべく息をするんじゃない。残りの空気が少ないんだ。」生き埋めになった炭鉱夫の差し迫った状況が最後の一節にほんの少し書かれている。それまでの話は炭鉱夫とまったくつながらない。台風の日にビールを持って動物園に出かけていく男。その男から喪服を借りる僕。実際その年はなんと5回も喪服を借りた。28歳の歳である。その年の終わりにパーティがあり女の子に声をかけられる。‥そして、なんの脈絡もなく炭鉱のシーン。‥それが村上ワールド。
    ※ウォーレンベイティーがピアノ弾きをやった映画は「この愛に全てを」です。
    (2023.5.22再読)
    若き日の春樹先生は生と死、夢(非現実)と現実の違いについて大いに考えを巡らせている。(そしてその課題は今も彼の頭の中をぐるぐる駆け巡っている。)死は死でしかない。リモコンでTVを消すように突然ブラックアウトする。

    「カンガルー通信」
    商品を間違えて買ってしまい、交換を求めたところ断られたと苦情の手紙をよこした女性に対し、返事を手紙ではなく録音という形で送った。ほぼセクハラな内容。支離滅裂。動物園で4匹のカンガルーを眺めてるうちにあなたに手紙を出したくなりました?

    「午後の最後の芝生」
    学生時代、芝刈りのアルバイトをしていた。もう辞めようと決めて最後の仕事は、体の大きな50代ぐらいの女性の家の庭。彼女は朝からウイスキーを飲み、僕にもやたらとビールを勧めた。最後の仕事を終えた後、僕を娘の部屋へ連れて行き、どう思うか感想を聞いた。僕はビールとウォッカトニックを飲んで帰った。‥今の時代なら飲酒運転、完全アウトだよね。
    記憶というのは小説に似ている。あるいは小説というのは記憶に似ている。どれだけきちんとした形に整えようと努力してみても、文脈はあっちに行ったりこっちに行ったりして、最後には文脈ですらなくなってしまう。まるでぐったりした子猫を積みかさねたみたいだ。生あたたかくて、しかも不安定だ。目がさめて自分たちがキャンプ・ファイアのまきみたいに積みあけられていることを発見した時、子猫たちはどんな風に考えるだろう?あれ、なんか変だな、と思うくらいかもしれない。もしそうだとしたらーその程度だとしたらー僕は少しは救われるだろう。

    「土の中の彼女の小さな犬」
    梅雨時の人気のないリゾートホテルで、ひとりの女性に出会った。彼女と言葉を交わすうちに、彼女の死んだ愛犬と一緒に庭に埋めた預金通帳の話を聞いた。
    昔は活気に満ちていたであろう古い高級リゾートホテルに彼女のヒールの音が響く。内容はともかく、いちいち、と言ってもいいぐらいの細かい描写。ホテルの佇まい、彼女の服、仕草、雨の振り方、食堂の什器の説明、朝食に食べたもの、夕食に食べたものの説明、他の客の服装‥村上作品はだいたい描写が多いけど、特に感じた作品。

    「シドニーのグリーン・ストリート」
    シドニーにある、ひどくしけた通りに僕は私立探偵事務所を構える。面白い事件しか引き受けない。貯金はたんまりあるから別に暇でもいいのだ。そこへ羊男と名乗る人物がやってきた。着ぐるみの耳を羊博士に持っていかれたので探して取り返して欲しいと。
    この話によると、世界中に約三千人の羊男が住んでるらしい。

  • エッセイらしくもある短篇集。
    著者が実体験した出来事かな、と思うも、奇妙さが色濃く残る物語ばかり。現実と空想の境を攻めるのがうまい。絶妙。その不安定さが魅力なのだと思うけど、時にどっちつかずでモヤモヤすることも。ただ、村上春樹の小説を読んでいると、現実と空想の境は実は曖昧なのではないかと思えてくる。そんな少し不思議な物語ばかり。SFじゃないけれど。

  • 著者の短編は初めて読みました。独特の不思議な世界観。一度読んだだけでは消化しきれません。。『シドニーのグリーン・ストリート』がいちばんよかったです。

  • 表題作は以前に読んだ覚えがあるんですけれども、内容は全くと言っていいほど覚えてない…まあ、春樹氏の小説ってそんなものですよね。 ←え?? 社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    表題作も良かったし、その他の短編も良かったですねぇ…なんというか、音楽を聴いているような気分で読めるのが春樹氏の小説だと思うのです。情景だけが頭に浮かんで消えて行くような…意味とかは考えちゃ駄目なのです! 多分…社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    まあ、そんなわけでどこがどうとは言えないのですけれども、不思議な印象を残す短編集なのでありました。昨今の春樹氏の長編よりも自分は好きかなぁ…おしまい。

    ヽ(・ω・)/ズコー

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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