中国行きのスロウ・ボ-ト (中公文庫 む 4-3)

著者 :
  • 中央公論新社
3.51
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感想 : 414
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122028401

作品紹介・あらすじ

青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。著者初の短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 初めて読んだ時から
    実に22年!

    村上春樹の記念すべき初の短編集であり、
    いまだに春樹さんの短編集の中では
    この作品が一番だと思っています(^^)
    (個人的な意見を言えば村上春樹は
    優れた短編小説家だと思う。彼の長編の多くは実験的に書いた様々な短編をつなぎ合わせたものだし)


    若き日の村上春樹だからこその
    ニヒリズムとキザ一歩手前のセリフ。

    熱くなり過ぎず、
    けれども揺らぎない芯を感じさせる
    クールで抑制された文体。

    どんな話の中にも
    キラリと光るセンス・オブ・ユーモア。

    ひょうひょうとして見えても
    みな喪失を抱え、
    自らの信念やルールに従って生きる
    ハードボイルドな登場人物たち。

    ああ~やっぱ好きなんよなぁ~、
    この頃の村上春樹♪

    今改めて読んでも
    初めてこの本に触れた時の喜びが蘇ってきたし、
    その当時の空気感や匂いまでも
    瞬時に思い出させてくれる。


    かつて出会った中国人たちに思いを馳せる
    『中国行きのスロウ・ボート』、

    背中に張り付いた叔母さんのエーテルは
    見る人によって姿を変え…
    『貧乏な叔母さんの話』、

    レコードを間違って買ってしまった客にカセットテープに声で返事を吹き込む
    デパートの商品管理係の男のイタい独り言(笑)を描いた
    『カンガルー通信』、

    炎天下での芝刈りバイトの思い出を瑞々しい感性で描いた
    個人的に大好きな一編
    『午後の最後の芝生』、

    シーズンオフのリゾートホテルを舞台に
    死んだ犬の匂いに悩まされる女と、
    彼女に去られた男の雨の2日間を
    詩情に溢れ映像喚起力の高い筆致で描いた傑作
    『土の中の彼女の小さな犬』、

    砂金王である父親の莫大な遺産を受け継いだ大金持ちの私立探偵と、
    ピザ屋を切り盛りする女の子「ちゃーりー」、
    そしてあの羊男が繰り広げるユーモラスな冒険活劇に
    誰もがニヤリとすること必至の
    『シドニーのグリーン・ストリート』、
    などなど粒揃いの短編がズラリ。


    彼の小説を読むと
    必ず主人公が食べていたスパゲティやドーナツが食べたくなるし、
    ビールをグビグビしたくなるし、料理を作りたくなったり、
    動物園に行きたくなってしまう。
    (初期作品の登場人物の殆どに名前がないこともそうだし、読者が物語の中に自然と入り込んでしまう同化現象を、春樹さんの作品は自然と呼び起こすんです)

    そして書かれた当時の時代背景もあるけど、
    タバコが効果的な小道具として描かれてるのも
    共感できる点かな(笑)
    (今でこそ、不当な悪者扱いを受けてるタバコだけど、昔からタバコとジャズとロックと酒は自由のシンボルで、多くの表現者の創作意欲を増してきたし、一つの文化として成り立ってきたハズ)


    自分がこの本を初めて読んだのは
    まだ恋も知らない16歳だった。

    詩人は21で死に、
    革命家とロックスターは24で死ぬ。

    ならば自分は
    一体いつまで生きるんだろう。

    ロックに目覚め、
    今も続けているバンドを組んだばかりの自分は
    電車の中で夕刊フジを読むような
    イージーな大人になるくらいなら
    ディフィカルトな子供のままでいたいと思っていた。

    ストーンズの音楽と手に入れたばかりのギターと
    少しのお酒と村上春樹の小説があれば、
    くそったれの人生も
    いくらかはマシになるって。


    ラジオから流れるFEN、ドアーズとCCR、夏の光にチラチラ揺れるウィスキーとショートホープ、昭和の牧歌的な時代、入れ替え制のない古き良き映画館、雨の日の動物園、誤解されて別れた恋人、傷つけた人たち、親友が亡くなったことを知らずにいたバカな自分。

    あれから22年経って
    結局イージーな大人にはなれなかったし、
    過ぎ去ったもの、失くしたものは
    もう戻らないけど、
    自分はまだ生きているし
    悲しいかな、あの頃と何も変わっちゃいない。

    ストーンズとギターと少しのお酒、
    そしてこの小説とあの子がいれば、
    まだ当分の間は生きていけそうだ(^^;)

    • vilureefさん
      こんにちは。

      ハルキストにはなれませんが、村上春樹大好きです。
      網羅とまではいきませんが、ほぼ読んでいると思っていました。
      が、何...
      こんにちは。

      ハルキストにはなれませんが、村上春樹大好きです。
      網羅とまではいきませんが、ほぼ読んでいると思っていました。
      が、何と言うことでしょう!
      この本は抜けていました。

      円軌道の外さんのレビューを読んだら、今すぐにでも読みたくなりました。
      さっそく文庫買いに行こうかな。

      私は春樹の本を読むと、“サンドウィッチ”が食べたくなります。
      “サンドイッチ”ではなく、“サンドウィッチ”。
      この表現にこだわりがあるのかなと思っていたら、最近の作品ではなぜが“サンドイッチ”。
      これには意味があるのか無性に気になります・・・(^_^;)

      .
      2014/01/15
    • 円軌道の外さん


      vilureefさん、遅くなりましたが
      コメントありがとうございます!

      仕事の多忙が祟ったのか
      只今、人生初のインフルエン...


      vilureefさん、遅くなりましたが
      コメントありがとうございます!

      仕事の多忙が祟ったのか
      只今、人生初のインフルエンザにかかり
      自宅療養中です(泣)

      寒かったり暑かったり
      変な天気が続いてますが、お変わりないですか?


      あははは(笑)
      自分もハルキストにはなれないし、
      作品は好きだけど、
      あそこまでただの小説家を神格化するのはどうかと思ってます(笑)

      ノーベル賞なんて春樹さん本人は
      これっぽっちも望んでないと思うんやけどなぁ(笑)(´`:)


      と、脱線しましたが(汗)、
      この短篇集はオススメですよ(^^)

      これも初期の『カンガルー日和』と共に
      大好きな短篇集で
      何度も買い直してます(笑)


      今の春樹さんもいいけど、
      初期の作風やそこに流れる匂いが好きなんです。

      最近、小川洋子さんとクラフト・エヴィング商會が取り上げて
      再評価された、
      『 貧乏な叔母さんの話』や、

      郷愁溢れる『 午後の最後の芝生』や
      詩情溢れる『 土の中の彼女の小さな犬』は
      本当に傑作だと思うし、

      まるで童話や児童小説のように
      無邪気でシュールで
      ロマンチックな冒険活劇の
      『 シドニーのグリーン・ストリート』は
      初期だからこその
      遊び心とキュートな作風に
      メロメロになるハズです(笑)(*^^*)


      また、読まれたら
      レビュー楽しみにしてますね(^o^)


      あっ、そういえば
      自分もサンドイッチの表記、
      感じてました(笑)

      僕が、『ああ~自分は今、村上春樹を読んでるんや』って、
      一瞬にして思わせてくれる表記は
      やはり『サンドウィッチ』の方です(笑)

      ミュージシャンの佐野元春が、
      ラジオをレイディオと呼ぶのと同じで(笑)、
      まるで外国文学を読んでいるかのような春樹さんの文体は
      僕が初めて読んだ20年前には
      本当に斬新で
      『これこそが自分たちの世代の文学なんや』って  
      もう吸い寄せられるように
      ハマっていったのを覚えています(笑)(^^;)

      2014/03/01
  • 村上春樹最初の短編集。面白かった。増版していないのか、手に入れづらかった。世の中の理屈が解らない。

  • 恐らく40年ほど前の二十歳になる頃に初めて読んだ村上春樹作品。「ノルウェイの森」出版される1年ほど前だった。
    急に懐かしくなり、読みたくなって買い求めた。(本棚のどこかにあった気がするけど)
    表題の「中国行きのスロウ・ボート」は初めて読んだ時、衝撃を受けた。その後、そのまま村上春樹に引き込まれるキッカケを作った作品と言える。
    それでも、前半の話の方が印象が強くて、後半の展開は忘れていた。
    「貧乏な叔母さんの話」自分にとっては村上春樹らしい捉えどころのない話の一つ。一方で当時この作品を読んだ人たちのこの作品の評価は高かった気がする。
    今回読んでみても、印象は今ひとつ。僕は40年成長していないのか?
    「午後の最後の芝生」は読んでいて思い出した。
    こちらも暑くなってくるような、日焼けしてしまいそうな文章。
    「土の下の彼女の小さな犬」、これも読んでいて思いだした。この話から受ける感覚は、当時の所謂「村上春樹らしさ」を一番著していると思うし、これが村上春樹ファンの好きな話だったのでは?。(註:当時はまだ「ハルキスト」などという呼称はなかった)
    「午後の…」もそうだが、「土の下の…」の「の」の意識的な連続。これもまた村上春樹っぽい。

    「ニューヨーク炭鉱の悲劇」、「カンガルー通信」ともにタイトルは覚えていたが内容は忘れていた。
    「シドニーのグリーン・ストリート」はタイトルも含め全く記憶にない。
    今や僕は村上春樹作品は買っても読み通せなくなっていて、ここ10年以上新作長編が出ても読んでいないが、昔の作品の方が抵抗なく読めるのはなぜだろうか。

  • 初期の短編集ですが、ストーリー性は希薄で、どこか客観的に世界を見てる主人公の視点が心地よいですね。

    「午後の最後の芝生」もそうですが、一見涼しげな展開ながら、血に染まるような痛みが見え隠れします。

    今回読み返して、電車に乗る方向を逆に教えてしまったエピソードが刺さりました。

  • 何か感じなきゃ!という謎の強迫観念に追われるので村上春樹作品をあんまり読んでこなかったのだが、安西水丸さんの素敵な装丁をどうしても手元に収めたく、父の書棚から拝借。短編集で、気軽に楽しめた。読んだ上で、わたしはなにより、やはりこの装丁について語りたい…!なぜ皿に盛られた洋梨なのか?でもジッと見ていると、湖にそっと浮かぶボートに見えてくる。そして洋梨は人が寄りかかっている()ようにも。裏表紙のタバコとマッチ棒は、心なしか男女にも見えてこないか…そう見ると、短編に描かれる不穏な空気が立体的に立ち上がってくる。
    やっぱり安西水丸さんって凄いんだな。意味不明に見えて、実はその作品にピッタリフィットするデザインなのだ。

  • 我が家のちっぽけな庭の芝を刈るとき、毎度「午後の最後の芝生」を思い出してしまう。

    短い文章の中でゆったりと時間が流れる様や、随所に現れる夏の情景が気に入っている。偶然出会った大人から(若者である自分に)何かを託される経験というのは、今思い返してみると自分にも幾度か当てはまるようなことがあった気がするが、主人公のように上手く応えられたかは分からない。
    そして、この話を読むとウォッカ・トニックが飲みたくなる。

  • 村上春樹氏初めての短編集。
    ちょっとキザでハードボイルドな、
    一昔前の粗めの画質のフィルム映画みたいだ。

    現実と非現実が境目なく混じりあっている感じが、
    この独特の雰囲気を生み出している気がした。

    帰宅ラッシュの雑踏に紛れて名前をなくしてしまう
    都市生活者の薄暗闇に
    苦しいくらい共感させられたと思ったら、
    背中に貧乏な叔母さんが貼り付いてテレビに出る
    急展開に置いてけぼりにされてしまう。

    そしてそのどちらもが同じくらいの力の入れ具合で
    さりげなくまぜこぜにされているから、
    「うんうん…うん?はぇ……あー、はいはい。え?」
    みたいな気分になる(語彙力の喪失)。

    おそろしく丁寧な状況描写も特徴的かもしれない。
    夏の光と濃い影、
    立っているだけで汗が吹き出す空気の温度まで
    感じられるようだ。

    あと、性的な話ね。
    そこでその話、要るかい?と思うくらい
    執拗に登場するのに、
    主人公は徹底的に淡白な様子なのが、
    なんかおもしろい。

    ようするに、村上春樹作品“っぽさ”が
    たっぷり詰まった短編集なんじゃないかな。

    何を伝えたいのか、一言でテーマを言えないような
    作品ばかりなんだけど、
    個人的にはむしろそれが気に入った。
    日常に潜む憂鬱、些細な失敗、誤解、別れ、
    永遠に失われた選ばれなかった選択肢の行先。
    スポットライトをあてるほどてもない、
    ありふれたそれらは、リアルで残酷だ。

    彼女を逆回りの山手線に乗せてしまい、
    電話番号をひかえた紙マッチを捨ててしまうという
    些細で意味の無いグロテスクな間違いは、
    こんなに些細で悪意のない間違いなのに、
    彼女を失意のどん底に突き落として
    自己認識に根を張ってしまうかもしれないし、
    少なくともふたりの関係をぶった切って
    ひとつの選択肢を
    未来永劫消し去ってしまったわけだ。

    こういうのって日常の至る所に
    地雷みたいに埋まっていて、
    ちょっとした手違いでも爆発してしまうんだ。
    ぞっとする。

    そんな感じで、
    『中国行きのスロウ・ボート』に心をえぐられ、
    『午後の最後の芝生』の映像喚起力に
    はっとさせられたわけだけど、
    『シドニーのグリーン・ストリート』は
    ひたすら愉快で楽しかったので、
    『羊をめぐる冒険』は
    近いうちにぜひ読んでみようと思った。

  •  村上春樹の最初の短編集。初めて読んでから数十年(?)たった。村上春樹はなんだか偉くなったけれど、ぼくはただの老人になった。若いころのピュアな感じが懐かしい再読だった。
     初めて読んだ頃の友達と100日100冊カバーという「面白がり」を始めたら、友達が感想を書いていて、懐かしかった。ブログに掲載したので読んでほしい。
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202006170000/
     でも、ふと思うのですが、やっぱり「中国」行なんですよね。村上春樹って若い時から、中国なのですよね。それって、父親と関係あったりするんでしょうかね。

  • 何年振りかに再読。
    短編集で7編が収録されている。収録されている中では「午後の最後の芝生」が一番好きだ。「ああ、こうだった」と思いながら読む。描写からありありと情景が浮かぶのはやはり作者の力量だと思う。
    「シドニーのグリーン・ストリート」には羊男も出てきて楽しい。コミカルな短編。
    私が持っている文庫本は1997年4月の改版のもの。
    最近の短編集に比べて作者の脂が乗り切ってる感じがする。「女のいない男たち」と読み比べた。
    また何年かしたら再読したい。

  • 村上春樹にとって、初めての短編集。
    やっぱりこの人の文章は好きだ。心に残るワンフレーズを発見したり、妙に懐かしい空気にとり憑かれたりする。
    「中国行のスロウボート」は、興味深く読めておもしろかった。
    「午後の最後の芝生」と「土の中の彼女の小さな犬」は、どちらもしっとりと温かみのある素敵なお話。
    最後の「シドニーのグリーン・ストリート」は、絵本を読んでいるようで楽しかった。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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