富士日記 上巻 改版 (中公文庫 た 15-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122028418

作品紹介・あらすじ

夫武田泰淳と過ごした富士山麓での十三年間の一瞬一瞬の生を、澄明な眼と無垢の心で克明にとらえ天衣無縫の文体でうつし出す、思索的文学者と天性の芸術者とのめずらしい組み合せのユニークな日記。昭和52年度田村俊子賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • きっと一生のうちに、何度でも読み返す本。
    これを読むと、自分の大切な人を、もっと大切にしたくなる。
    愛想も何もないただの日記、日常のメモなのに、どうしてこんなに惹かれるのか。
    誰かに見せるつもりで書いたわけではないからこその魅力だろうか。
    ただ生活しているという、その一点が胸に迫る。
    あまり数のない武田百合子の作品の中でも、原点となるこちらの作品が、やはり一番だと思うのは私だけだろうか。
    彼女独特の自由な感性が、存分に発揮されている。
    磨かれていない石の美しさ。

    上巻は夫・泰淳、娘・花による記述も度々ある。同じ日をそれぞれの視点で書いているところが面白い。

  • 下巻にまとめてレビュー

  • 富士山麓の山荘で過ごした日々の記録(日記)。上巻は1964年7月から1966年9月を収録。同時代を実際に知らないこともあるせいか、初めはなかなかピンとこなかった。ところが徐々に、当時の生活や人々の一端を垣間見たり、著者の文章から鮮明に場面を思い浮かべることに面白さを覚えるようになった。日々の食事の献立の記録も楽しい。四季折々の自然の美しさや厳しさ、まるで自分がその場に身を置いたような空気感を感じられる本だった。

  • 夫である武田泰淳氏と過ごした富士山麓での十三年間―その日々を書き連ねた日記。
    大切のひとのそばで一日一日を丁寧に、衣食住を全うする。特別なことがなかった日も、言葉におこすと小さな出来事が特別に感じる。味わいのある感性豊かな文体からそのやわらかでおおらかな人柄に触れ、読んでいる先から武田百合子さんという等身大の女性が好きになります。
    心地良い空間にご一緒させてもらった気分。

  • 他の人が書いた、これほど長い日記を一気に読み終えると、その生活が自分の中に流れ込んできてるような不思議な感覚を今感じている。それは現実的で飾りのない文章のおかげなのだと思う。自分の親も眠る「富士霊園」が出てきたりと近辺の今昔も楽しめた。

  • 上中下巻の上の途中。どこから読んでも気分が良い。内田百閒の随筆読後と同じ感じがする。無人島に持って行く本1冊だけ選べと言われたら、内田百閒の随筆と富士日記で迷うだろうな。

  • 上巻は昭和三十九年七月から昭和四十一年九月まで。

    初めのうちは「本当に普通に日記なんだな...」って感じだけど、
    読んでいくうちに不思議とどんどん惹きつけられていく。
    四季の移ろいや三食のごはん、生活に必要なお金。
    そんな生活と背中合わせにひっそりと、しかし確実に「死」がある雰囲気。

    山梨という土地に憧れているので、なおさら興味深かった。
    時折、夫である泰淳氏に子どものように叱られてしまう
    おてんばな百合子さんにすっかり夢中。

  • 人の日記を読むのは楽しい。今は一億総ブログ時代で、全く知らない人の日記を読むことはそうめずらしくないけれど。
    武田百合子の日記は、人の目を意識していない、メモ書きのような日記。それでも、彼女の目を通して、彼女の身の回りの情景が鮮やかに描写され、いつの間にか追体験している。私は、同じ日を過ごしても、こんなに淡々と日記を書けない。

    どっしりとした女性。
    時々、説明のつかない勘のよさを絶妙に表現され、否応もなく心を掴まれる。中巻、下巻もゆるゆると、日々過ごすように読むことにしよう。

  • 武田百合子さんってなんて魅力的なのだろう!
    百合子さんにかかると、日記がただの日記でなくなってしまう。
    日常が面白く、風景描写は卓越した巧さ。
    百合子さんのかなり気の強いところと動物や人に対する温かい
    優しさにホロっとくる。

  •  小川さんに続いて堀江さんも薦めている、とあっては読まずにいられない符合の一致。日記やブログを読むのは好きではなかったが、なるほどこれが日記文学なるものらしい、面白くて上巻を一気読みし、いまの寒さを山荘で年越ししている気分に読み替えてしまう。
     車の運転もして列車便を出しに行くのも彼女なら、家の不備を指摘し管理会社を怒鳴りつけ、はた迷惑な人を罵倒する強さももっているのに、夫に対しては直接言い返すのでもなく悔しさを日記に書くことでやり込める。その自分の感情に対する観察眼が素敵。ましてや他人(車が溝にはまってしまったカップルやたまたま見かけた水泳客のような一過性の人々から、スタンドのおじさん、外川さんといった常連まで)の言動からその個々人を描写する力は圧巻。目の前でこんなにもたくさんの人間劇を見られる観察眼をもっていたら、楽しいだろうなと思う。

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著者プロフィール

武田百合子
一九二五(大正一四)年、神奈川県横浜市生まれ。旧制高女卒業。五一年、作家の武田泰淳と結婚。取材旅行の運転や口述筆記など、夫の仕事を助けた。七七年、夫の没後に発表した『富士日記』により、田村俊子賞を、七九年、『犬が星見た――ロシア旅行』で、読売文学賞を受賞。他の作品に、『ことばの食卓』『遊覧日記』『日日雑記』『あの頃――単行本未収録エッセイ集』がある。九三(平成五)年死去。

「2023年 『日日雑記 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

武田百合子の作品

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