虚人たち (中公文庫 つ 6-21)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122030596

感想・レビュー・書評

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  • 「虚人」とは「虚構の人物」の略のようなものだと解釈しました。主人公は自分が虚構の中の人物=小説の中のキャラクターだということを自覚しており、作者によって召喚されたものの自分の「設定」をまだ把握していない。いきあたりばったりで脚本のないドラマをアドリブで演じさせられている役者ような状況。

    妻と娘が同時に誘拐されるというドラマでもありえないような事件の渦中に置かれるけれど、彼はただの出演者にすぎないゆえそこに焦燥感や危機感はありません。だって妻も娘も、それぞれの役割を演じている初対面の女優さんであり、彼女らがどんな目に合わされようと実は彼にとって痛くも痒くもない。だから彼にあるのは、次にどうふるまうべきか、どういう行動をすべきか、という切迫感だけ。

    とても実験的な作品で、その実験精神には大いに称賛を送りたいし、着想としてはすごく面白い。途中で空白のページが10頁近くあったのもビックリしたし、さすが筒井康隆!って思うけど、ではこれ読んでいて楽しいかというと、単純に「読み物」としてはそれほど面白くない。

    哲学的で抽象的で概念的なセリフをしゃべり続ける登場人物たち、妻や娘がどんなに酷いめにあわされてもそれが虚構と知るがゆえに一切感情を動かさない主人公および当事者たる妻、娘自身、つまり誰にも読者は感情移入をすることができないわけで。まあ逆に、であるがゆえに、ふだん自分が楽しく読んでいる「小説」というものの構造が浮き彫りにされ、何を面白い、と感じているのかを考えさせられたりはしました。

    一種の不条理的な印象は安部公房にも通じるものがありましたが(作中でちらりと安部公房の「密会」のことを指してるのかなという部分もあったし)それならば安部公房のほうが圧倒的に読んでいて面白い。本作のほうが実験的だけど、実はこれ、すでに安部公房がバレないようにやっていたことだったのかもという気もちょっとしました。

  • 筒井氏の小説を読むと、自分が壊れて熱が出る

    小学生の頃から2度3度チャレンジしても全然読み切れなかった
    小説をようやく!!読み終えることが出来ましたよ。
    勢いが大事ですね。

    私の人生に多大なる影響を与えた筒井氏。
    久しぶりに読むことで、やはり自分が既成概念にとらわれ、
    知らず知らず枠にはまっているなと思い知らされます。

    小説なんて虚構の世界だという、がつんと頭を殴られるような文章。
    世界を自分の脳内に投影すると、まるで自分が魔法使いになって、
    星のついたステッキを振ってどんどん好きに世界を操っている
    感覚になります。

    そうなんです、小説なんだもの。自由なんです。
    冒険的な小説は最後、どうなるかとドキドキしながら読み進めていくと、
    エディプスの恋人と同様、登場人物が理解し、受け入れることで
    終幕していきました。

    他の小説だって、登場人物はみんなわかっていて、
    その上で、この小説とは違い、破たんを、内部の事情をこちらに
    見せないであげているのかもしれないですよ?
    という問いを投げかける作品。
    本音と建前の日本人ですからね。

    小学生だった私は、初めて筒井氏の小説「家族八景」を読み、
    自分が築いていた世界観がぶっ壊され、その衝撃で熱を出した。

    その翌日、学校を休んだ私が日がな一日見たのは
    阪神大震災のニュースだった。

    筒井氏以前/以後で精神的にも物理的にも大きく変わった私は、
    筒井氏の小説を読んだ今日もまた、熱を出している。

  • 驚きもありつつ、実際にこのような視点で書かれたものを読むには体力が必要だった

  • 『腹立半分日記』の解説で本作品が実験的手法の小説であることを知っていなければ、到底読了できなかったろう。一日に原稿数枚ということもあったという。主人公は、妻と娘が誘拐され、はじめは息子と、途中からは単独で妻・娘の行方を追う。時々、妻や娘と会話をする場面が描かれるところを読むと、やはり虚構の世界の住人=虚人なのだと思い知らされる。全体的に演劇か映画の台本のように、登場人物の動作や心の動きまでも書き込まれ、一つ一つの段落がとても長い。とても疲れた読後感。

  • 設定が面白そうだったので期待しすぎてしまった
    途中から何を言っているのかが分からないことを楽しむつもりで読み進めた

  • 面白い試みだとは思いましたけれども、やはりとっつきにくい…それに文章が句読点なしに続くので戸惑いました。どこで読み止めようかと…ヽ(・ω・)/ズコー

    解説にもある通り、確かに小説のお約束的なことをからかっているのかな? と思いましたけれども…そして、それを面白がれましたけれども、これほどの壮大な実験に付き合うのはやはり骨の折れる作業…ラストまで読めばそれなりの感動は得られましたけれども、同じくらい疲労も覚えたのでした。

    ヽ(・ω・)/ズコー

    娘や妻が酷い目に合っているのに悠然と見守るというか、観察しているだけの主人公に共感を覚えました! ←え?? 社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    まあ、なんつーか、いくら酷いことだと世間に言われようとも僕にとってその事象はそんなに大したことじゃないよ…みたいな、傍観者めいた気持ちは確かに常に僕にあるな…とこの小説を読んで思ったのでした。おしまい。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 筒井康隆の実験的な小説。
    通常、作中の主人公が一人称で語られる場合、主人公である彼は全てのことを知っているということはありえず、これは全知全能の語り手としての三人称小説と対照的である。しかし、この作品では、主人公が一人称の語り手をもって語られるのに関わらず、主人公は全知全能の視点を有する。
    また、物語では行為者の逐一の行為、心情は全て例外なく書かれるということはありえないのだが、著者は作中でこのことを実践する。
    実験的には面白い作品であると思うが、何よりもまずその実験のために読みづらさが凄い。読み終えるまでにかなりの労力が必要。

  • 今まで読んだことないような小説。そしてこれからもこんな小説に出会うことはないだろうなと思う。部長のセリフはひどかった笑

  • 再読。やっぱむずい。

  • 読んだ事実は覚えてるけど内容忘れたYo

著者プロフィール

小説家

「2017年 『現代作家アーカイヴ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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