1998年(底本1979、私家版1971年)刊。著者は元憲兵将校。
内容は実に当たり障りのない自叙伝である。
つまり、昭和10年~13年まで上海在勤。その後、東条政権下での憲兵課長と面白い経歴の持ち主だが、本書の内容は全くの肩透かしだ。
勿論、魔都上海に在していたのであるから、ヒューミッドと公開情報をベースにした諜報分析活動の在り様は興味深い。
また、幼年学校から士官学校へ進んでいく過程と、若手少尉らに対する戦訓として、第一次世界大戦という戦訓がありながら日露戦争のそれを金科玉条の如く分析しているあたりは、陸軍の体質を物語っているだろう。
同時に、汪精衛和平工作の内幕の件は他書では見受けられないことかもしれない。
が、著者の経験として重要なのは第二次上海事変(これは詳述)に引き続く南京攻略戦である。当時上海に在していたにも拘らず、その記述は数行で済まされ、精々、松井石根大将に対する個人的な擁護論のみが書かれるのみ。当然のごとく、南京攻略戦に関して他者から受けた報告や伝聞情報すら載せないのだ。
書かないのは書きたくない、書けないということか。すわなち、隠蔽情報は不利なものとの相場から見て、このような書き振りでは隠れた裏面への穿ちを生んでしまう。