生きている兵隊 (中公文庫 い 13-4)

著者 :
  • 中央公論新社
3.90
  • (21)
  • (35)
  • (23)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 383
感想 : 39
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122034570

作品紹介・あらすじ

虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み

  • 戦争が良いとか悪いとかメッセージを含むものではなく、南京侵攻のありのままをそれぞれの日本兵の心情と会話に焦点を当てる小説の形で映し取っている。このような出来事は氷山の一角で、背後には同様の掠奪、理由なき殺害、女性への性被害が大量に行われていたように思う。一方で彼らにも近藤、平尾という名前があり日本で医学生、記者という職を持ち飯を食べ会話をする個があり生きている。これが日本人により書かれ戦時中に発行され発禁となる、その記録を残していきたい。


    p63 それは本能的に平和を愛する人間がその平和を失っているこの戦場にあることの侘しさの中で、ただひとつ抱いていた平和な夢が崩れて行く場合であった。西沢部隊長は国境を越えて行くほどの力と大いさとをもった宗教の存在を希望していたのであった。

    p133 彼等は斃れた戦友と並んでその死体を守りながら眠った。一枚の外套をぬいで二人でかけて寝るのだ。この場合、生もなく死もなかった。死んだ戦友も同じであり、自分と死体との間に何の差別もなかった。

  • 南京侵攻する日本兵のルポタージュ小説。前線の日本兵の行動や心のゆらぎを見事に描写した渾身の作品。これを読むと昭和初期の日本軍に従軍した兵士の気持ちが痛いほどにわかる気になってくる。
    貴重な一冊だ。

  • 2019.01―読了

  • 第二次世界大戦中の兵士の状況、残酷性が忠実で酷いが、これに戦争が悪いものだという感想を考えて持つかなという風に考えていた。兵士の残酷な気持ちに共感する自分の嬉しさと悲しさがある。

  • 3.86/305
    内容(「BOOK」データベースより)
    『虐殺があったと言われる南京攻略戦を描いたルポルタージュ文学の傑作。四分の一ほど伏字削除されて、昭和十三年『中央公論』に発表されたが、即日発売禁止となる。戦後刊行された完全復元版と一字一句対照し、傍線をつけて伏字部分を明示した伏字復元版。』

    『生きている兵隊』
    著者:石川達三
    出版社 ‏: ‎中央公論新社
    文庫 ‏: ‎214ページ

    外国語訳:
    English『Soldiers Alive』
    Chinese『活著的兵士』

  • 戦争を描いた創作というものは数あるが、ここまで迫真して一兵士の在り様をまざまざと描いた作品はそうそう無いのではなかろうか。

    兵士とは決してヒーローなどでは無く、元々が知識人であっても仏僧であっても尋常でない環境下ではとても’正常’ではいられず、「笠原伍長にとって一人の敵兵を殺すことは一匹の鮒を殺すと同じ」「殺戮は全く彼の感情を動かすことなしに行われ」 (どちらもp67)るのである。
    しかも、あまつさえ「彼の感情を無惨にゆすぶるものは戦友に対するほとんど本能的な愛情」(p67)により戦闘は遂行されていた。

    天皇制イデオロギーや軍国精神に突き動かされた崇高な精神などどこにもなく、自分達が次にどこに何をしに行くのかすら知りもしなかったのであった。

    これは即発禁でしょうね…。

    占領地の人々に対する無意味かつ発作的な狼藉・暴力の描写は読むに堪えない。


    16刷
    2021.5.5

  • 第一回芥川賞受賞作家【石川達三】が、中央公論特派員として日本軍の南京攻略直後の中国戦線を取材して書き上げた本作は、反軍的内容をもつ時局柄不穏当な作品として発禁処分になりました。筆者自身は禁固4ヵ月、執行猶予3年の判決を言い渡されています。そんな言論弾圧の時代にあって、人間性を見失った前線の兵士による殺戮、掠奪、強姦など非人間的行為をありのままに描き、戦争に必然的に伴う罪悪行為というタブ-に触れたことで、反骨作家の執念を強く感じさせる作品です。

  • 兵隊たちが笑う場面がどこもあまりにおぞましく感じられる状況ばかりで、人はここまで残酷になれるのかと慄然とする。もちろん完全なノンフィクションではないだろうが、あまりに生々しい…。

    伏字にされた理由を探りながら読むと、当時の日本の空気感や表現の不自由さを痛いほど感じる。

  • 南京大虐殺があったとかなかったとか、歴史修正主義者はないと言い張りたいだろうけど、この本を読む限り「南京で軍人による軍紀違反、戦争犯罪が相次いだ」ことは否定できないと思われる。

    もっとも、これは日本に限っただけでなくドイツによるユダヤ人迫害(これは国家による犯罪だから一緒くたにできんが)、米軍による日本本土無差別空襲、韓国によるベトナム戦争でのラダイハン、など例はたくさんあり、これだけをもって日本の有責性を追求するのは無理がある。

    むしろ戦争というものが、普通の市民を理性・人間性をぶっ壊して残虐行為を簡単にさせてしまう人種へと変えてしまう。そして、こうした非人道的行為を防止することは古今東西極めて難しいということだ。

  • 発表当日に発禁。かつて伏字にされていたところには傍線が。戦場で、人はここまでむごたらしくなれるのか。”人間”を丁寧に描きます。

全39件中 1 - 10件を表示

石川達三の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヘミングウェイ
ウィリアム・ゴー...
フランツ・カフカ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×