美しい夏の行方: イタリア、シチリアの旅 (中公文庫 つ 3-16)
- 中央公論新社 (1999年7月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (195ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122034587
感想・レビュー・書評
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辻邦生氏の深い幸福と興奮に満ちたイタリア旅行の記録。
真夏の光に照らされたイタリアは、若々しい活気が漂っていて、固定観念から脱して自由に愉快に生きる活力に溢れている。スタンダールの専門家である著者の描くイタリアが、あまりに『パルムの僧院』で出会ったイタリアと似ていて、牧歌的で幸福感が充満していた。
著者も触れているイタリアと日本・ドイツ・イギリスとの違いは、やっぱり大きく捉えると、年中食べ物に困らない亜熱帯地域と、良い季節に計画的に食べ物を蓄えないと冬を越せない温帯という、環境が培ったDNAの違いなのか。将来のことを心配しすぎずに、今を目一杯味わい尽くせる環境と特権。
ただシチリアは文化的に面白そうだなと無邪気に思っていたけど、文化の交差点であるいうことは血塗られた歴史を背負っているということでもあることを実感し、見方が浅かったと反省。
イタリアに詳しくないために、ところどころ説明くさい部分がついて行けないと感じるところもあったけど、総じて楽しい読書だった。須賀敦子さんの文章でも出会う地名(アッシジやシエナ)にも会って、須賀敦子さんの本がまた読みたくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この人も私と同じようにイタリアに魅せられた!と思うと、嬉しい。「イタリア、何という耳に快い響きだろう。・・・イタリアにいると、幸福のあまり、いてもたってもいられないような活力を感じるのだ。なぜイタリアにいると幸福になるのだろう。」
「たとえば汗ばんだ浅黒いローマの女たちだ、放埓で、大胆で自由で、それでいて敬虔な彼女たちは、薄いブラウスの下で、豊かな乳房を熟れた果実のように柔らかく揺らせている。暑熱に包まれたこの肉感は、南国の官能的なハイビスカスの花を想像させる。肉体は甘く、香り高く匂うのである。」そしてスペイン広場では「137段の石段を上ってまた下りるだけでも、何か歓喜に近い気持ちが溢れてくるはずだ。人は永遠にここにとどまりたいと思うだろう。それは今この時自分がいきているという限りない自覚を呼び醒ましてくれるからだ。・・・」など。これはシエナでもフィレンチェでも。このように全編が輝きに満ちた幸せを放っている。シチリアについても「ボストラ・マーレ(僕らの海・つまり地中海)」に囲まれた時空を超えた感覚の幸福感を余すところなく語ってくれている。 -
格調高い旅行記。
美しい景色が見える。
でも、私はもっと力で切り抜ける旅行記が好き。
多分、旅のスタイルの問題。 -
(2002.11.18読了)(2000.04.14購入)
(「BOOK」データベースより)
真夏の光と陶酔があふれる広場、通り、建物、カフェ…。ローマからアッシジ、サン・ジミニャーノ、シエナ、フィレンツェ、そしてシチリアへと、美と祝祭の国の町々を巡る、甘美なる旅の記憶。カラー写真27点収録。
☆辻邦生さんの本(既読)
「風の琴」辻邦生著、文春文庫、1992.05.10
「花のレクイエム」辻邦生著・山本容子絵、新潮社、1996.11.15
「生きて愛するために」辻邦生著、中公文庫、1999.10.18 -
バイブル
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イタリア紀行記
生きてる事自体が喜びだと感じられる…というのは、沖縄に行って思ったけど、南国である事が大きいと思う
あまりに暑いと生命の危機だが、やはり北国より植生豊かで風光明媚、生きやすいという事は重要
今は少しばっかり、これを感じる心が衰えているけど、イタリアが美しい国であるうちに行きたいな -
シチリアに旅行に行きたいのでその予習と、「背教者ユリアヌス」がおもしろかったので購入。
少し硬い感じの紀行文。写真がきれい。
2011/10/26読了 -
引用した「夕べの民衆のセレモニー」、これと同じものに、以前訪れたスペインのサンセバスチャンで遭遇した。夕刻、街の中から海岸に沿った道に、いつの間にかおおぜいの人々が繰り出し、散歩し、おしゃべりし、すでに閉まった店のウインドウを覗き、ただ座り、暮れなずむ時を過ごしている。何かの目的のための時間ではなく、その時をただ味わう歓び、なぜだか、これこそが人生の豊かさというものかもしれないと感じた時間。