物語が、始まる (中公文庫 か 57-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 105
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  • Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122034952

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに川上弘美さんを読んだ。
    解説はどなたかなと最初に見てしまったら、穂村さん。
    なんと、句歌会でご一緒だったなんてっっ(その場に居たかった)
    やっぱり違和感満載でありながらもひきこまれるように読み進めた。
    四つの物語収録。

    『物語が、始まる』の三郎の話が一番よかった。
    育児をしている時期と恋人といるような甘い時間と介護の状態になってしまう時期を観察している気分。ゆき子の心の呟きにハラハラしながら最期は一緒に涙する。
    月を眺めるときは今は失ってしまったものを思い出すことが多いなと思った。
    『トカゲ』は穂村さんが言う通りのエロティズムを感じる、ママ友たちの独特な距離感に見たくないものを見させられているような逃げ出したい気分。
    「だいじょうぶよ生きているものはなにもこわくないのみんないっしょなのよセミもカエルもあなたもわたしも」と大きな目をじっと見開きながら諫められたらすくんでしまうよ

    「川上さんの書く話はよくわからない、わからなくて、こわいのだ」という穂村さんの言葉にも物凄く納得しつつ仲の良さも感じ羨ましい。

    • 111108さん
      ベルガモットさん
      川上さんと穂村さん、こんな最強の本を教えて頂きありがとうございました‼︎読みたい‼︎
      ベルガモットさん
      川上さんと穂村さん、こんな最強の本を教えて頂きありがとうございました‼︎読みたい‼︎
      2021/11/12
    • ☆ベルガモット☆さん
      111108さん
      コメントありがとうございます!
      図書館で読む本を物色中に偶然手に取ったところ、あまりにも嬉しくて「おっ!」と声を出して...
      111108さん
      コメントありがとうございます!
      図書館で読む本を物色中に偶然手に取ったところ、あまりにも嬉しくて「おっ!」と声を出してしまったとです。
      ぜひ読後感教えてくださいませ。
      2021/11/13
  • 短編4作品収録
    いずれも川上弘美ワールドを強く感じる作品でした
    男の雛型、座敷トカゲ、おばあさん、お墓
    まさに異世界でした

  • 雛型との恋物語、幸運のトカゲ、婆の家の台所にある大きな穴、姉と共に先祖の墓を探しに行く過程。短編集。

    無駄なこと、つまらないことだと自分をなだめながらも次第にその行為に没頭していってしまうことが恐く感じた。
    でもその後で、他人から見れば理解不能な行為でも、本人が満足していれば、楽しんでいれば、それでいいのかなと思えてきた。
    ただ、望んでいないのに他人に引きずられて没頭し、しかもその行為に満足できない不快感を患うことはなんて気味が悪い、徹底的に無駄な行為なのだろうと思う。

  • 目次
    ・物語が、始まる
    ・トカゲ
    ・婆
    ・墓を探す

    どれもこれもそこはかとなく哀しいような恐ろしいような、ちょっとエロティックでもしかするとユーモラスな作品ばかり。
    だけど一番好きなのは、やっぱり表題作だなあ。

    男の雛型を拾い、同居していくうちに…っていう話なんだけど。
    男の雛型ってのがまずよくわからない。

    ”大きさ1メートルほど、顔や手や足や性器などの器官はすべて揃っている。声も出す。本が読め、簡単な文章が書け、サッカーのルールは知らないがボールを蹴ることはできる、というくらいの運動能力がある。子供の背丈だが、顔つきは子供ではない。かといって、大人でもない。どちらともつかぬ、雛型らしい顔つきとしか言いようのない、中途半端な顔つきである。”

    いや、やっぱりわからない。
    素材は何?

    主人公は彼を拾い、食事を与え、絵本の読み聞かせなどして育てるのだ。
    主人公には恋人がいて、そのうち結婚をなどと考えているが、彼女の作品の多くの恋人たちのように、彼らの恋愛は極めて温度が低めである。
    でも、彼は雛型に対して拒否感を隠さない。

    主人公と雛型の仲が親密になるにつれ、そして雛型の体形がすっかり大人のそれとなった時、ふたりの間に恋が芽生える。
    恋?
    雛型にそもそも感情があるの?
    行きつ戻りつする主人公の気持。
    恋人という切り札もあるけれど、どうも読み進むにつれ、これは哀しい物語なのではないかという予感が押し寄せる。

    もし私が拾うなら、男でも女でもいいので、1メートルより大きくならない雛型がよい。
    毎日絵本を読んで、お散歩に行って、公園で遊ぼう。
    どこに落ちているのかな。

  • 川上弘美さんの小説のなかなら「蛇を踏む」以来の奇妙な作品群。
    はっきり言うとすごく変。笑
    けど癖になるし、妙に惹かれてしまう。

    雛型と人間の恋「物語が、始まる」、幸運の座敷とかげと主婦たちの日々「とかげ」、迷い込んだ奇妙な猫屋敷「婆」、姉妹が父親の本家の墓を探しておかしな世界に迷い込む「墓を探す」。
    さらっと説明しただけでも奇妙さが溢れてしまう短編集。
    最初2つのお話は読み物としても面白く、「物語が、始まる」は切なさもあり、「とかげ」は妙にエロティック。
    だけど後半2つのお話は、ぼんやり読んでいると物語に置いてきぼりを食らう感じが。何がどうなってこうなっているのか…考えてもどうしようもない類なのだけど、集中して読まないと置いていかれる。

    「蛇を踏む」を読んだときもなんじゃこりゃ!と思ったけど、今回も似たような感想を持った。こういう発想って、一体どこから生まれるのだろう、という感嘆。
    心地好い気持ち悪さ、というのが私のなかではしっくり来る表現。
    同じ著者の作品を読んでいてもたまにこういう出逢いがあるから読書はおもしろい。

  • 雛形を拾うことで、物語が、始まる。
    生きながらえることとはまた違う、物語の始まり。

    ーーーーー

    ときどき、私と本城さんの会話は、こうなってしまう。たぶん、何か大切な一語一文を、私たちは抜かしてしまっているのだ。

    ところどころに大きな平たい穴が開いたようなものーー
    歩いていると、私だけが穴に沈み、話しかける本城さんの膝くらいの位置に頭があるようになる、しばらく私は本城さんの膝に向かってあれこれ話しかける、膝は笑ったりのほほんとしたりして、存外普通に会話をかわしてくれる。

  • 本書に収録されている4編(表題作、「トカゲ」、「婆」、「墓を探す」)を読んでの印象は、大人専用の童話、というものだった。子供向けに書かれた童話が大人にも効く、というのはたくさんあるけれども、大人だけが読むことを許された童話というのは珍しい。

    初めて読んだ川上弘美作品だが、わたしが勝手に抱いてきたイメージとだいぶ違って、けっこうブラック。もっとのほほんと、ほんわかした感じなのかと思っていたんだけど。でも、そのブラックさが逆に魅力となっていて、なんだかこの世界から抜け出せなくなってしまったような変な錯覚に陥り、冷や汗が出るのに癖になりそうなんである。

    まず、表題作は、男の「雛形」を公園で拾い、それを育てていくという話。三郎と名づけた「雛形」との生活。これはどう捉えたらよいのだろうかと悩みながら読んでいたら、いつのまにか読了していた。

    そして、同じマンションに住むマナベさんから、幸運の黄色い座敷トカゲを分けてもらうという「トカゲ」。門柱の陰から手招きされて、吸い寄せられるように入っていった婆の家で、するめを噛みながら恋人鯵夫の話をしてしまう「婆」、姉の元へ死んだ父が訪れ、先祖と同じ墓に入りたいと言うので、姉妹二人で先祖代々の墓を探しに行く「墓を探す」。

    どれも、コワイ。恐いんじゃなく、怖いんでもなく、コワイ。だから、なんとなく可笑しくて、ちょっと寂しい。ここが、大きな魅力なのだ。実際に自分の生活の中でも起こりそうな、でもありえない、でも身近な、ちょっとだけのぞいてみたいような、本当に不思議な感覚を残す。おもしろい疑似体験をさせてもらった。

    本書は、著者のデビュー作ではないけれど、デビューして最初に出た本。次はどんな話が待っているのか、すごく気になる。ほんと、わたしの中で、物語が、始まってしまった。(2006.3.24)

  • 公園の砂場で拾った「雛形」と私のコミュニケーションを描く物語。
    岩波国語辞書で「雛形」を調べると
    (1)実物をかたどって小さくしたもの。模型。
    (2)書類のきまった書き方などの見本。書式。
    と書かれている。
    川上さんの描く雛形は(1)に近いだろうか。成長する肉体と知能を持つ、かなり進化型の模型と考えてもらえばいいだろうか?人間の女性と雛形(男性)との交際を描いている。思いがけず始まり、幸せになれないと分かっている相手であっても関係し、終わりがくれば受け入れなければならない。そして過去は物語に変わる?

  • 川上弘美の世界観って秋が似合う気がする。
    表題の「物語が、始まる」がいちばんよかった。一応恋愛小説でもあると思うけど、表現が川上弘美節なのでおかしくてせつない。「雛型」は比喩かと思ったら当然本物の「雛型」だった。

    「三郎は、馬鹿なのかもしれない、そう思うと気が沈んだ。しかし、そういう私もだいたいにおいて馬鹿なのだから、馬鹿だということを問題にするべきではなく、馬鹿の程度がどのくらい違うかということを問題にしなければならないわけであるが、そんなことが分かっても、たぶん何もいいことはないのだった。」(物語が、始まる)

    2022-82

  • ちょっと不気味な短編集。神様の様な雰囲気の方が好きかな。しかしこういう話を書けるのは才能なんだろうな

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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