もうひとつの季節 (中公文庫 ほ 12-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122040014

感想・レビュー・書評

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  • 前作「季節の記憶」の続編。
    大きく変わる部分は無く、変わらない日常の中で変わらず思考しつづける話。
    主人公の息子のクイちゃんと猫の行動が本当に魅力的で、その描写だけでも読む価値があると思うけど、鎌倉でいい大人が好き勝手に生活している雰囲気がとても心地いい。
    前作を読んで気に入った人なら読んで損は無し。

  • たまたま『〈私〉という演算』を読んだから余計にこう感じるのかもしれないけれど、保坂はここに来て彼のエッセイで愚直に追及していた「死」を問う問題を小説でも果敢に問うているように映る。いや、逆だろうか。この作品が端緒となって保坂は「死」を問う必然を見出したのか? どちらにせよこれらの仕事のあと『生きる歓び』や『カンバセイション・ピース』といった、「生死」のみならず「世界」をそのノイズ(雑音)まで含めてていねいに含み入れ、カオスで豊饒な「世界」をそのまま表象する試みが始まったのかなと素人考えで批評家ぶってしまう

  • 「季節の記憶」よりも良かった。なぜか

  • 2020/5/11購入
    2020/9/7読了

  • 出来事を並列に表記することで
    著者は一面的ではないこの世界を
    できるだけ掬い取ろうとしているように見える。登場人物の会話にも同じようなことを感じる。

    なんでもないようなことで満たされた、
    幸せな時間がゆっくりと確実に流れていく、
    現実的でいて夢のような時空間。
    意識が解きほぐされていつの間にか
    曖昧な次元に連れてこられるような
    そんな稀有のお話です。

    読後は何とも言えない心地よさになりました。

  • 大人の童話のようでありながら、哲学的内容が随所に現れてきます。でも、なんといっても魅力的なのは、主人公とその息子クイちゃん、便利屋の松井さんとその妹、それと猫の茶々丸。この四人と一匹の関係のほんわりとした温かさが羨ましい。このような関係の永続性をつい願ってしまうのですが、悲しいかなそれは叶えられないものです。だから、その刻その刻の束の間の関係が愛しく、振り返ると切なくなるのです。

  • 作中に出てくる野菜スープみたいに、読むとほっこりしてしまう。

    冒頭から、クイちゃんはでんぐり返りに励んでいて、あいかわらずかわいらしい。朝食からクイちゃんは質問を飛ばしまくっている。
    「ねえ。パパ。あの写真はパパが赤ちゃんだったパパ、なんだよねえ」・・・
    「ねえ、パパ。猫はどうしたの?」
    「猫かあ。猫はもう死んじゃったな」
    「え! 死んじゃったの。ヒョエーッ!」
    「じゃあ、赤ちゃんも死んじゃったんだ」
    「赤ちゃんはパパになったんだよ」

    五歳のクイちゃんは、パパにも赤ちゃんの時代があることをだいたいは理解しているけれども、実際に赤ちゃん時代のパパの写真をみても、ちょっとそれがパパだとはうまいこと理解できないみたいで。この微妙な感覚を、クイちゃんを通して表す保坂和志という人が、私はますます好きになってしまう。

    大人達がちょっと真面目な話をしているところで、猫の茶々丸が炬燵に飛び込み、クイちゃんも茶々丸を追いかけて駆け回ったりして、会話が中断されたりするのも、小説を読んでいるはずの自分もその場の空気を共有しているような感じがして、終始心地いい。

    茶々丸を元の飼い主と思しき人のもとへ連れて行くかどうするかのくだりでは、僕と松井さん美紗ちゃんとおんなじ気持ちになってドキドキドキドキした。

    これから先、『さらにもうひとつの季節』みたいな続編が出ればいいのになと思う。

  • おもしろかった。哲学的なところは難しかったけど少し考えさせられた。

  • 『季節の記憶』の続編。解説はドナルド・キーンさん。
    「時間」について考えることが多い。終盤で猫の茶々丸が「迷い猫」として探されているという展開になった時は、今までにない、ちょっと大きなできごととして、読んでいる私の目の前にも立ちはだかってきて、同じ目線で一喜一憂した。居心地のよい関係の一部が喪失するかに思えたけれど、そんなことはなくてちょっと安心した。

  • 「季節の記憶」の1ヶ月後くらいのお話。
    登場人物たちの哲学的な会話は相変わらずで、分かるような分からないような会話が続く。楽しい。新たに猫の茶々丸が加わり、夕食時の描写がにぎやか。鎌倉に住みたくなる。

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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