あるようなないような (中公文庫 か 57-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 1109
感想 : 83
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041059

作品紹介・あらすじ

うつろいゆく季節の匂いがよびさます懐かしい情景、日々の暮らしで感じたよしなしごとあれこれ-。うつつと幻のあわいの世界をゆるやかに紡ぎ出す、不思議の作家の不思議の日常。じんわりとおかしみ漂う第一エッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルのようにふわりとしてそれでいて濃い、印象的なエッセイでした。まるで、そこにあるかのように目の前に情景がうかびました。
    例えば、地下鉄の広尾の駅を上がったところに見える「逃げ森」のお話とか。本当に目の前に緑の木々が広がり、都会の空気を感じることができました。
    そして、11月になると散歩に行きたくなるお話。井の頭公園での場面。小学生の鼓笛隊のお話。鉄腕アトムを演奏する楽器の音が聞こえてきそう。あったな自分もそういう、目にしたけど語らないこと。なんてことない日常なのだけど。その風景は見る人によって、希望に満ちてはつらつしたものにも、もの悲しくも、ざわざわにも映る。どのようにもとれるありのままの描写に心はまりました。

    いきなり「ぶはっ!」と笑えることろも沢山あった。
    これはきっと笑わせようとされているのでなく、笑えてしまうのだ。

    「魚の顔」「不明」「小説を書きはじめたころ」、このあたり、とても興味深く読めました。
    「活字のよろこび」では著者の本、活字への強い思いが伝わってきました。

    いちばんは「元気ない回路」に入りこんだときについて書かれている、読書日録。
    この回路には、自分きらい、人きらい、もの考えない、もの考えすぎやらの路があって、入り込むとなかなか出られない。私も思い当たる。
    そういう時、人と会う、お酒などのむ、なんていう方法もあるがそれがままならないとき、「本を読む」。
    私も(私も、というか私はというか)、現実逃避したいとき(というか、頭の一部分で自分だけの楽しみや世界を持ちたいとき)本を読むということをする(前はそう読まなかったし現実逃避と思う所もそうなかったが)。
    読んで癒すって、これはさみしいことか。と思ったりもした。
    が、著者は、「そんなことはないと思う。(中略)好きな本を読んで、それからきのうあったことや、変なことや、おとといあった困ったことを思い出すと、それがたいしたことではなく思える」と言っておられ。とにかく「読む」ことを語っておられ嬉しくなった。
    愛読書も沢山載っていて参考になった。
    随分前の本ですが、これでかなり頭の中、川上さん漬けになった。(再読)

  • 川上弘美さんのエッセイはぼんやりと読むのにとても良いです。
    こちらも面白かったです。
    選ぶ言葉が素敵…「元気出ない回路」「十一月散歩」「偽ギリシャ」、偽の誕生日というのも面白かったです。
    「元気出ない回路」に迷い込んでしまったとき、わたしも本を読むかなぁと思いました。
    十一月なので十一月散歩にわたしも出掛けたいです。
    読書案内も良かった。川上さんの好きな本の本も持っているので読みます。

  • 川上弘美という人は、毎日なにかにちょっぴり困って、うつむいている。かと思うと、ふと顔をあげて、いたずらを思いついた童女のようににっこり笑って駆けだしている。ただし行き先不明・・・というイメージ。
    いつもどっちつかずでとらえどころがなくてわからない。つまりこのタイトルどおり「あるようなないような」な人です。って知り合いでもないのに言い切るのもどうかと思いますが。少なくとも、彼女のエッセイはそんな風情を醸し出していて、それがたまらなく魅力的。

    なんにもやる気がでないときは、川上弘美ワールドに浸るとなんだか癒される。

    さらに、このエッセイ集のいいところは、「読書目録」とか「読書ノート」とか、彼女の好きな文学についてのエッセイも含まれており、本ガイドとしても良いところです。

  • 春の足音が後ろから聞こえ怖くなって振り向く文章から始まり、エッセイも小説と同じ、川上弘美独特の空気が流れていると感じ嬉しくなる。

    「境目」を読んで、このエッセイが高校の現代文の教科書に載っていたことを思いだした。
    外国で「ヒロミはチャイニーズだから」と言われ境目を認識する、という部分だけずっと記憶に残っていて、チャイニーズと呼ばれたヒロミは川上弘美だったのか、と思った。

    2022-13

  • 読了。

  • 川上弘美さんの小説やエッセイはなぜか冬に読みたくなります。なんでだろうなぁ。そして、文体も他の作家さんと違って見えるんですが、これは私の勘違いですよね…。なんというか、文章も文字もどっしりしてて静かな感じ。だから冬のイメージなのかなぁ。不思議です…。そして、まったりゆっくりした文体なのに、ときどきザクッと核心のついた一文にやられてしまう。そんなところがいい意味で病みつきです。くすっと笑えるところも所々に散らばっています。あっという間に読めちゃう。

  • 川上弘美のエッセイが好きだ。
    小説以上にふわふわしていて、
    ぼーっとしていて、
    それなのに日常的な景色や行為に宿る、
    人間の様々な感覚に鋭敏で、
    この人の目を通すと世界がこんなふうに見えるのかと、
    少し怖くなる。
    癖になる。

    読後に、
    あぁ、川上弘美のエッセイは、
    まるで詩のようだから好きなのだな、とわかった。

  • 書評があって、これで知って買った『<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4061316974\" target=\"_blank\">私的生活</a>』は秀逸だった。川上さん有り難う!他の気になる本。<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4061960830\" target=\"_blank\">田紳有楽;空気頭</a>、<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4167296047\" target=\"_blank\">怪しい来客簿</a>、パプリカ

  • このエッセーを読んだおかげで、高浜虚子や武田百合子の作品に出合えた。川上さんによる「読書案内」は私にとってどストライク。はずれがない。

  • 好みのエッセイを書く作家を、また見つけた。
    エッセイと物語が半々みたいで不思議なものがある。大学生のころ図書館で本を読んでいたエピソードが好き。
    理学部出身は、意外だった。

  • いつの話かな? と思えば95年の文章だった。
    どうりでパソコン通信とかが出てくるはずだ。
    あぁ、そんな時代もあったね
    と懐かしく思い出す。
    通信の世界は変化が激しいな。

  • 何度も読みたいエッセイ本ってあまりないですが、これは貴重な一冊。
    この人の、歩きながら真剣にぼーっとしている感じがたまらなく愛らしい。
    「真剣なぼーっ」の中には実は空想・思考がフルカラーでたゆたっているんだけれど、普通はそういうたゆたう思考はそのまま流れていってしまう。浅い眠りの夢みたいに。
    それをこともなげに言葉にして世界に呼び出してきちゃう強さがまた・・・嗚呼愛らしい。

    「立春」という言葉を聴いて、「さまざまな小さい生き物でみっしり埋め尽くされた一枚の絵のようなものにちがいない」と確信する、このみずみずしさ。
    春生まれだったら、なんかうれしいな。

  • ほんわかしてゆるい。でも、確実に川上さんの物事に対する見方が表れていて、それがとても好き。
    物腰柔らかに見えるけれど、譲れないことがあって、大切にしたいことがちゃんとある。素敵だと思った。

  • 2017.4.1市立図書館
    94〜99年頃にあちこちの媒体に書かれた文章をまとめた第一エッセイ集。
    川上弘美の文章はなんとなくとまらなくなる。波長が合うというか…ちょっとぼんやりとしたところとか、思考回路が近い気がする。ら抜きと母娘の葛藤をつづった「なまなかなもの」なんかおもしろかった。「ゆるやかに効く薬」のような読書周りのエッセイはやはり興味深い。いい年して児童文学を読んでいたことに共感を抱く。まじないとして読む漫画のチョイスに頷く。「しみこみやすい人」にでてくる、どんなに飽和状態でもしみこんでくる人物とは誰だったのか気になる。息子さんたちにその後「淫靡な」本をあたえたのかどうか後日談も気になる。結びの表題作9篇も現実と虚構のあわいを行き来しているような感じでよかった。
    借り物を移動の隙間でちょこちょこ読んだけど、返すのがちょっと惜しい。

  • 川上弘美は自分の中のどろどろとかもやもやが、そんなものか、という気になるからいい。

  • 「あるようなないような」生活や読書日記などが収められているエッセイ。「あるようなないような」っていう言葉が絶妙だなあ。暇でも「あるようなないような」だし忙しすぎても「生活」が「あるようなないような」って感じたりするし。パソコン通信からインターネットに移行し始めた時期のエッセイ。川上さんは結構パソコン好きというか通信好きなのね。
    にせの誕生日のエピソードがすごく好きだった。
    「蟹にもじゃこを食べさせてあげてくださいね」って言われたらきゅんとするだろうなー。

  • 川上さんて、すっごく現代の作家さんかと思ってた。蛇にピアスとか、あの世代の。
    だから、これ読んで、違うんだって驚いた。
    作家になるまでとか、文章についての話とかが面白かったな。白骨温泉でふやけながら読む。

  • 単行本で読んだことがあるようなないような気がいたしておりますけれども、再読してみてやはり良質なエッセイだな…と感じ入った次第であります…。

    ヽ(・ω・)/ズコー

    読書のエッセイとかが特によかったですね! いや、他人の読んだ本とか気になるタチですので…川上さんが普段どんな本を読んでいるのか把握できた点は良かったです。

    ヽ(・ω・)/ズコー

    後は最後らへんの、まさに「あるようなないような」話は個人的に僕の感性と合致しているようで共感できました! 今後、また読み返してみたい本でもありますね…おしまい。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 筆者の最初のエッセイ集。1995年~99年にかけて、様々な活字媒体に書かれたもの。10数年前ということになるが、インターネット環境などは隔世の観がある。「ネットカフェ」は「エロクトロニックカフェ」と呼ばれていたなど。エッセイなのだが、掌編小説の趣を持ったものもあり(「秋の空中」など)、川上ワールドが楽しめる。また、この人の文章は、こうしたエッセイでも独特なものがある。例えば「風邪をひいた」というところを「感冒を得たのであった」と書くのだ。まるで風格のあるオヤジみたいだが、彼女の文章はかくまで論理的なのだ。

  •  ちょっと前の話なのに 懐かしい(今はなき)パソコン通信 ポケベル なんていう単語がでてきた。そんなことで感慨深い。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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