猫に時間の流れる (中公文庫 ほ 12-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122041790

感想・レビュー・書評

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  • 「猫に時間の流れる」と「キャットナップ」を収録。
    保坂さんが、人間ではなく猫中心に描いたという、「猫に時間の」の方が、今回は読んでて心地よかったのは、猫好きでもなんでもない私にとっては不思議だった。作中に出てくるクロシロという猫の存在が大きかったんだと思う。ただ、かわいい、とか、愛らしい、とかいう猫よりも、ちょっと癖があって、悲哀があって、汚らしい匂いが届いてくるような猫っていうのは、ひっかかってくるもんなんだなあ。

    p41 美里さんのつきあっていた男とちがって弘美はぼくと美里さんのことをいっさいカンぐらなかったが、それから何ヵ月もしないうちにぼくは彼女にフラれた。理由は美里さんでも猫でもない。フラれることにはっきりした理由が必要なのかどうかもよくわからないが、ぼくはとにかく女の子と長くつき合おうとしない何かがあるのかもしれないと思う。ぼくは弘美というその子と会えなくなったのがしばらく残念でフラれる直接のきっかけになった事件さえ起こっていなければまだしばらくはつづいていたはずだ、もしかしたらずっと何年もつづいたかもしれない、もう弘美を好きになったようには誰かを好きになれないかもしれない、なんて思っていたが案外短期間で新しく好きな女の子ができた。そして美里さんにも新しい恋人ができたのだけれどこれがまた妻子持ちだった。

  • 著者とノラ猫との体験談、かと思いきや小説だった
    ものすごくゆっくり読みました。3週間くらい。


    「恋愛の話や人が生きたり死んだりする話と同じだけ猫の話があってもかまわないんじゃないだろうか?」

  • 猫に時間の流れるとキャットナップの2作。
    猫に時間の流れるは猫を中心にした話、キャットナップも猫はたくさん出てくるが、人間もよくでてくる。
    全体的に登場人物が気楽というかゆるいというかそんな感じで個人的にとても好き。

  • あたしは猫を飼っていて、だけどそんなに猫が大好き、というわけではない。人には猫を可愛がっているとかいわれなくはないけれど、いわゆる世間の猫好きとは自分は違うように思っていて、ただそう言うよりはもう無条件に好き好き大好き、と言った方が生きやすい。だからあまり人には言ったことがなかった。

    自分の飼い猫の世話をするのと、その辺にいる猫をなんでもかんでも可愛がるのとは、少なくともあたしにとっては天と地ほどに違っているのだ。

    だから猫好きの書いた本は読んだことないし、読む気もしなかった。この本だって多分、決して手にしなかったろう。もしあたしの本ソムリエがこういわなかったら。

    「この本、あなたは読んだ方がいい気がする」

    面白かったよ、でも、猫好きだったよね、でもない。放り投げるようにあたしに無造作に与えられたその言葉が気になって、つい手にしてしまったのだ。

    ソムリエがあたしの猫への思想をわかっていたとは思わない。ところがこの本はことごとく、あたしの想像を超えた猫本だった。


    「猫をちゃんとかわいがっている飼い主だったら多少の差はあっても猫の経験することを整然としたものにしようとしているはずで、複雑にしようとしない。叱りつけるような態度でほめたりしないし、楽しい時間は楽しい時間、静かな時間は静かな時間という風に区別する。」

    そうなんだ。あたしが猫と暮らすようになって思ったことそれは、言葉が通じないこの小さいものたちには、常に一貫した態度で臨まないと何も理解されないこと、伝えるには態度、それも極めて明快でクリアでないと学んでくれないイコール苦労が自分に返ってくる、と言うことだった。

    あたしはもともと、ものすごく自分ルールを持っている人で、相手も同じに理解するのだと思い込んでいたから人付き合いは下手くそだ。でもあたしが少しでも相手を斟酌できるようになったのは、猫のおかげとしかいいようがない。

    あたし以上に周りを気にせず、ダメと言われたことをか理解するけれどあえてそれをするひねくれもの。気紛れであたしのことなんかこれっぽっちも気にしない、あたしの同居人。

    あたしは奴らにとってはご飯の運び屋に過ぎなくて、でもあたしはそれでも仕方ないと思ってる。海を眺めるみたいに猫の仕草を楽しみ、たまに撫でる、その対価としてそのくらい、問題ない。

    この本はそんなあたしに、ぴったりだ。何も押し付けずに何もあたしに求めない。猫を好きになれともいわない。

    猫には哲学も、あるんだな。

    そんな本。

  • 友人からの誕生日プレゼント。

    表題作の「猫に時間の流れる」、慣れるまでにものすごく時間がかかった。思考が流れるままというか、回りくどい書き方にしばらく慣れず、慣れた頃に終わって「あれ!?」ってなった。終わり方も中途半端というかふわっとしてた。

    次の「キャットナップ」の方が、自分的にはすっと入れた。けどやっぱり終わり方はふわっと。

  • 特に何か大きな、劇的なことが起こるわけじゃない。
    でも、それでいて何かフワッと心に空気感みたいなものが残ると思う。それはなんだか心地いい。

    たら~っと文が切れずに眺めに続くので、ちょっとテンポ悪く感じられたりするかもしれないけれど、私は嫌いじゃないです。
    会話の感じは、むしろ妙に納得してしまったり、クスリと笑える箇所もあって好き。

    猫好きの友人へプレゼントしました。
    でも自分の手元にも欲しい一冊。

    あとがきがなんだかよかった。

  • 古いマンションに住むぼくの両隣の美里さんと西井はそれぞれ猫を飼っている。この3人は普通に毎日通う勤め先を持たないので、夕方には屋上に上がって話をする間柄。この界隈をテリトリーにする野良猫のクロシロ、近所の特に猫の噂話をするタイル屋のおばさんーゆっくりと日常の時間の流れる、ぼくとクロシロの物語、『猫に時間の流れる』、千駄ヶ谷のアパートに住むぼくのバブル時代の人間と猫の思い出の『キャットナップ』の2篇収録。ああ、この作者は本当に猫を愛しているのだな、と、わかる、ささくれ立った神経への鎮静剤のような小説だった。

  • 読んでて、センター試験の国語の現代文で出てきそうな文章やな―と思った
    嫌いじゃないです◎

    内容は題名の通り!

  • 東京下町の野良猫とそれを取り巻く色々な人々の人間模様。野良猫の理想と現実をリアリティーたっぷりに描く…のは良いのだが、私はこの作家の文章がどーもダメ。しかし…の後にあーだこーだ口語体で続いて結論が見えなくなる…ような、歯切れの悪い文章は苦手です。

  • 中公版ということは、新しいほうだったんですね。知らなかった。

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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