楠木正成〈上〉 (中公文庫 き 17-6)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122042179

感想・レビュー・書評

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  • 各地の悪党を糾合してゆく楠木正成。北方時代劇の定番といえば定番だが、流通網を掌握することで利益を上げる広域的な陸運という新しい商売を開拓してゆく部分などは、やはり読んでいて楽しい。
    また、各地の悪党との語らいも、ネットワークの構築というだけでない独特の味がある。
    反面、時代が動いてゆくことの根拠というか時代背景のようなものがよく見えない。なぜ悪党がこのままでは生き残れないと思ったのか、なぜ天皇親政を目指す必要があるのか。民の暮らしぶりが苦しくなっているとか、そういったところを丁寧に書き込んでもらうと、もっと物語に入り込めると思う。
    芸能の世界との交流も興味深く、北方センセが芸能の社会的機能について突っ込んで考えているのがよくわかる。

  • なんだろう?決して悪くはないんだけど、いまいち北方の真骨頂が見られていない気がするのは。人物の造形かな?なんかこう、「夢中になって読み進める」ってところがない。

    まあ、下巻に期待。

  • 権威と権力が乱立し、混乱期にある国にあり、「悪党」として、大きく戦う道をあえて選んだ武士。 自らの秋(とき)を待ち、拠って立つところから動き初める…。 のちの北方作品、三国志・水滸伝シリーズに通づる雰囲気も感じながら、まだ粗さが多く残る。 下巻で盛り上がりは来るのか。

  • 悪党のおはなし。建武の新政のキーパーソンも商人肌だったという見方がおもしろい。
    やっぱり本当に悪いのは天皇の延臣なんだよな。

     上巻は本番前。下巻はバトル物の予感。絶対下巻からのほうが盛り上がる。



     新田義貞からのつながりで楠木正成につながったんだけど、この物語ではいろいろとイメージと違う。
     まず、正成は後醍醐天皇とほとんどつながっていない。足利尊氏や新田義貞とも全然つながっていない。つながりを持つ護良親王が暴れん坊でなく、なんかインテリイケメンで納得いかない。

     楠木正成は後醍醐天皇とつながって幕府転覆を図った人物だと思っていたんだけど、この物語では腐った幕府を倒したい一悪党でしかなく、朝廷も腐ってると思っている。いや、だからこそ、護良親王を起てて政治機構のリセットをしたかったという考えなんだろう。たしかに、建武の新政の後に護良親王は天皇や足利家と対立関係になった。これは、護良親王が追いやられた理由を深読みしての人間関係弾だろう。そういうことだったのかな。

     高氏や義貞とつながりが薄いのも、武士の幕府をもう一度作りたいわけじゃないという解釈からだってことだな。

     じゃあどんな世の中を求めたかというと、朝廷や幕府や寺社などの権力機構に不当な虐げを受けない「自由な世の中」ってことだろう。
     当時の商売はいたるところで税金を払わなければいけなかった。行商をするにも各地の関所で関税を払わねばならない。そもそもあらゆる種類の専売権が権力者に握られていて、自由な商売なんてできない。つまり、権力者ばかり儲かって、庶民はどんなに頑張っても裕福になれない社会だった。
     正成は悪党の家系だった。だから庶民の声がわかった。腐りきった世の中をリセットしたいと思ったんだろう。それゆえの商人設定。

     この小説を読むと、正成が目指していたのは織田信長の楽市とかそういうところだったんだろうなと思う。自由な商売によって経済を発展させ、それによって民がみな豊かに暮らせる世の中。
     北方謙三の解釈はこういうものだったんだろう。

    __
     楠木正成は戦時下の皇国史観で「忠臣の鑑」とされていて、そのイメージが強かったからこの小説はちょっと異論なんだろうか。
     でも、史実が素直じゃないのは当然で、案外この見方はリアルなのかもしれない。
     悪党というのは幕府(時の権力機構)に逆らってるものという意味だが、その実は本当に世の中のことを憂いている人物なんだな。正義は人の数だけあるというが、正成の正義は至極真っ当だったんだろう。正成もまた時代に早過ぎた人物。もとい歴史の礎になった人物である。

    最近読んでる司馬遼太郎の「国盗り物語」の斉藤道三につながってる感じがするんだよなー。

  •  父に北方太平記をどさっと借りて、まず読むことにしたのがこれでした。入り口としてはとてもよかったですね、わかりやすくておもしろくて。
     北方謙三の正成像は、現実主義で、機を見るに敏、利に聡い男。でも同時に見果てぬ夢を抱いていて、自分の現実性を夢のために使う。ある種の矛盾のある人物像なんだけれど、読後に残る印象は、筋の通った一本気な男、というもの。
     苦しい苦しい千早の籠城戦がやはり一番の山場ですね。耐えつづけることのすさまじさもあるけれど、それ以上に、このときは正成を中心とした心のつながりがもっとも強かった。赤松円心とも、大塔宮とも、このときは確かに繋がっていたのだと思える。夢が一番近づいた瞬間。それを横から突き崩した足利尊氏が、魅力的で、どこか正成とも通じ合う部分を持つ男という風に描かれているのが皮肉というかなんというか。
     読了当時は、「湊川」と言われてもピンとこなかったわたしですが、正成が湊川で迎える最後まで描いていないのがまたいい、と他のいろいろを読んだ今なら思えます。

  •  2006年1月2日購入

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  • 全2巻。

    北方太平記。
    で。
    楠木正成。
    期待しすぎたとこがあります。
    一番の山場を意識的に避けてる。
    でも読みたかった。

  • 商人としての視点から、悪党として武士の世の破壊を目指した楠木正成像。

著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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