すばらしい新世界 (中公文庫 い 3-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (723ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122042704

感想・レビュー・書評

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  • 分厚いけれど、清涼感いっぱいの本。国際協力関係の授業で使うといいかも、と思えるほどNGO、ODA関連のことが出てくる。ネパールへ行きたくなる本。

  • 2000年9月に出版された本で、2000年といえば9.11もまだだし、東日本大震災も、福島の原発事故も当然起こっていない。今とはまったく違う世界である。
    その当時から、環境問題や原発の危険性についてこれだけのトーンで語っているのに、20年経った今はどうだろう。原発事故は起こってしまったし、環境問題もよくなっているとは思えない。この20年は一体なんだったのかと愕然としてしまう。
    ともあれ、全体的にとても美しい物語と語り口で、文庫で700ページにも及ぶ長編ながら、夢中で読み切ってしまった。
    特に中盤の娼婦の夢の描き方が最高だった。
    やたらと文章の上手い妻子や、なんでもあけっぴろげに語り合う夫婦関係にちょっと白けた部分もあったのでマイナス1。

  • ヒマラヤの奥地に風車を作る会社員とその家族。含蓄の多い話。ボランティアの在り方や、宗教のこと、バランスのいいところ、理想的なところに視点をあて、そこへ向かっていく感じ。物語としても面白く、長編だが退屈せずに読めた。凡庸で誠実な林太郎、いいなぁ。彼が理科の先生だったら理数も楽しんで学べたかもしれない。書かれた時点では911テロも311の地震による原発事故も起こっていないが、これらを経た今読むと、色々唸らされる。

  • ビジネスのためにネパールに行ったけれど、いざ行ってみると宗教やら生活スタイルにまではまってしまうというその過程が面白いです。冒険小説のようなわくわく感もある。次作『光の指で触れよ』に繋がる心の変化が描かれています。
    日本は不幸の理由を探して、それを退治することで幸福を実現しようとする。というのはなるほどな、と思いました。ナムリンでは素直にそこにあるものに感動し、幸福を感じているみたい。
    プロセスの違い、と言えるのかもしれないけれど後者の方が豊かな感じがするのは何故だろう。

  • 世界のある部分を切り取って、手のひらにのせて見せてくれる小説。
    (バルザックか!)
    読むのに時間がかかったけど、飽きることはなかった。
    現実に対する問題提起と小説というものがきちんと融合していて、すごく良かった。

  •  700Pに及ぶ長編小説というだけあって、本当に多くの事柄を含んだ小説。それでいて、読み辛いとかくどいとかいうことは一切ない。むしろ、1章1章に読ませる部分があって、うんうん唸ったり、クスリとほくそ笑んだり、グサっと心に刺さったりする。「やがてヒトに与えられた時は満ちて…」を読んだ時の衝撃も、それはそれで大きなものがあったのだが、この小説もまた違った意味で自分の中に大きく残る小説だった。

     この小説は本当に色んなメッセージを含んでいて、「これはこういう小説だ」と一言で表せるようなものではない。むしろ表そうとすること自体がナンセンスであるほどだ。でも、これほどある意味で欲張りに、詰め込みに詰め込んで書いた小説がこれほどサッパリと読める、心に入ってくるというのは本当にスゴイことだ。自分のような凡人が、これほどのメッセージを一つの物語に詰め込もうとしたら、冗長になりすぎてくどいと言われるに違いない。確かに職業としての小説家なのだから、それが出来て当然なのだと言われれば確かにそうなのかもしれない。しかし、ただ一つのテーマを書くにも冗長にならざるを得ないのだ、と開き直っているような小説家がこの世の中にはいないだろうか?

     池澤夏樹の文章の魅力はそこにある。小説の中に、「形容詞が多すぎる文章は疑った方がいい。そのような文章には、必ず裏に知られたくない真実がある」というようなことが書いてあった。これは全く疑う余地がないほど正しい。本当に文章が上手い人、或いは話が上手い人というのは、少ない言葉、簡潔な言葉で伝えたいことを伝える。ムダに話が長い人、文章が長い人(自分も含めて)は言いたいことは少ないのに、それを伝える文章、言葉が冗長なのだ。「完璧とは、何かを足せない状態になることではない。 何も削るものがなくなった状態のことだ」。つまり、そういうことだ。

     その池澤夏樹が、700Pに及ぶ長編小説を書いているのだ。そこに含まれるメッセージが多岐に及ぶのは当然だ。そして、それが決して冗長にならず、すっきりした言葉で読者の胸に迫ってくる。そんな小説が良い小説でないはずがない。今まで、池澤夏樹を知らない人に何か一冊薦めるのならば、取っ付きやすさなどをふまえて「南の島のティオ」あたりを薦めるのが妥当だと思っていた。しかし、これから「池澤夏樹がどんな作家か知りたい」と言われたら、迷うことなくこの作品を薦めるだろう。それほど、この作品は池澤夏樹という作家の成分を多く含んだ良作だ。

     続編である「光の指で触れよ」が今年発売されている。是非、そちらも読んでみたい。

  • 神を捨てて空っぽになった現代の日本人
    感謝のこころ

  • この作品は約20年前に読んだ本。

    内容はほとんど覚えていないが
    この本をきっかけに環境問題に対して
    考えるようになったことと
    爽やかな読み心地が心に残っている。

    それ以降、池澤さんの作品は
    ずっと好き。

  • 20年前の小説とのことで、その当時はエコ=貧乏臭い、コスト的に現実的でない、夢想家、といった空気だったんだなあ、と。理系の素養がある作者としては、何を青臭い、と言われるの覚悟で書いたんじゃなかろうか(登場人物の声を借りていろいろ言い訳めいた理論武装を展開してるし)。でも、いまや原発の安全性は地に落ちたし、地球温暖化もはっきりクロと分かって対応することが義務となりつつあり。風向きは変わるもんだ。
    小説としては、ネパール旅行記的な楽しさと、プロジェクトX的な面白さと、家族や少年の成長物語的な爽やかさと、と申し分ない感じ。きれいすぎる感はあるが。

  • 読了・・・!読み終わった時の、とても充実した気分。林太郎と一緒にチベットを旅したような、旅を終えたような、爽やかな気持。
    風車を立てる旅の道のりと、その道中で林太郎が考えること、
    アユミへのメール、色々な視点があり、飽きることがない。
    出てくる人物もどの人も、その人それぞれの考えがあり、人柄もあり、それがとても丁寧に描かれており、どんどん入り込んで読んでしまった。
    読むという体験がこんなに楽しい小説は久しぶり!

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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