余白の愛 (中公文庫)

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著者 : 小川洋子
  • 中央公論新社 (2004年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122043794

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余白の愛 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

  • 耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。
    その特別な指にどうしても惹かれ、目を離すことができない。
    記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する、幻想的でロマンチックな物語。

    静かな、とても静かな物語で、
    本の終盤に差し掛かる頃には、もっとこの静けさに浸っていたいと、読み終わるのが残念に思った程。

    言葉選びが優しくて丁寧で、中でもYの話す言葉のやわらかさと、ヒロの優しい仕草に癒されました。
    現実と夢のような世界を行きつ戻りつし、最後の方は何がなんだかすこし混乱してきたりもしましたが、優しく幻想的な世界はやはり魅力的です。

    ところで、本書でジャスミン(おそらくナイトジャスミン)が夜8時くらいから咲き始め、甘い香りを放つという話を初めて知りました。
    なんてロマンチックで素敵な植物なんでしょうね。

    それにしても、とくに相手をトキめかそうとしているわけじゃないのに、読み返すときゅんとしてしまうYの台詞がまたにくい。
    静かな愛もいいですね。

  • 耳を病んだ「わたし」が速記者「Y」と過ごした幻想的なひと時。

    現実と記憶の世界をふわふわ漂う不思議なお話です。
    速記するYの指の描写の美しいこと…。
    指と耳を作品のモチーフするというところがさすがというか、素敵です。

    耳鳴りや不安定なわたしにつられてこちらも心もとない気分になってくる中、現実世界にとどめてくれるような存在である甥のヒロが出てくるとほっとします。

    ふらふらふわふわしていて不安がずっと付きまとっていた主人公ですが、優しいYとYの指に包まれて最後には現実の世界で前を向いて進めていけそうで安心しました。

    それにしてもYの書いた速記文書が見たいです…!

  • とある出来事がきっかけで突発性難聴を患った主人公が、この病気の経験者の座談会に参加したときに出逢った速記者のY。主人公は彼の特別な指に惹かれ、独特な耳鳴りとともに怠惰に過ごしながらも、Yとの関係を密なものにしていく。

    終始小川洋子さんの不思議な世界観。日本なのか外国なのかも分からない、主人公の名前さえ最後まで出てこない、幻想的で童話のなかにいるようなふわふわしていて透明感に包まれた世界が読んでいて心地よかった。
    なんとなく気分が上がらないときはこういう時間がゆるやかな物語が合う。

    人間にはいろいろな器官があるけれど、耳というのはとりわけ不思議な器官だ。顔の横にくっついているから普段は何も思わないけれど、耳だけをじっと見てみると、とても精巧で入り組んだ独特なかたちをしている。
    視覚、嗅覚、触覚…と様々ある感覚のなかでも、聴覚はとりわけ“逃れられない”感覚だと思う。音によるトラブルで殺人事件に発展することもあるくらいなのだから。
    バイオリンの音色のような耳鳴りに苛まれた主人公の過去の記憶。Yはそれを呼び覚まし、そして…。

    夢かうつつか。この言葉がぴったりの物語。
    最後に事実がつながっているのが明かされるあたりは、ミステリ的でもあった。

  • 耳,まぶた,薬指…。身体感覚の違和感が不思議な世界への入り口となっている小川洋子の作品群だけど,私が好きなのは物語中に流れている静謐な時間の感じだ。
    こつこつと響く足音,時を刻む時計。読み終えた後に,本筋のストーリーよりもBGM的要素が妙に心に蘇ってくる。
    この穏やかな静謐さは幻想的な世界の表現と思っていたけれど,自分にとってなにか大切なものを失くすと,あたりは本当にしんとするのだ。静かな世界は幻想ではない。最近,そのことに気づいた。

  • この人は、やはり、ふしぎ。
    描写がすごくうまい。
    さらりと頭の中に情景を思い浮かべることができる。
    しかも、なんていうかその情景はすごく普通じゃない
    でもそれをさらりと思い起こさせる書き方ができるのがすごい。

    それにあやかり、☆4つ

  • 静かで、なのにすごく自身に向き合う困難な物語だった。最後は解決したようになるのだが。。。耳で聞こえることの根源的な意味と記憶の関係を問い直している。Yの速記術がことのほか、魅力的で、その消え去り方がなんとも残念だったが、バイオリンの音や香水、建物、博物館、紙を保存しておく特別な場所ななどいとおしくなる場面がいくつもあった。

  • 情感の強い文体にちょっとくたびれるかも知れませんが、読み進むごとに主人公の感性に呑みこまれていく気持ちよさを味わえると思います。女性らしい、優しさとは違う容赦のない繊細さと、小川さんらしいフェチの追及が気持ちよかったです。

  • やわらかい耳鳴りが、かすかに聞こえてきそうな雰囲気。
    プールの底に仰向けに沈んで、自分の鼓動を意識しながら、水面を見上げているような感じ(?)
    『猫を抱いて象と泳ぐ』や『博士の愛した数式』よりは完成度が低い気がするけど、らしさがでてていい感じ^^
    甥っ子のヒロは、記憶の世界と現実をを行き来してる感じ。13才(だっけ?)の特権かな・・・
    なかなか不思議な気分にしてもらえました。

  • この作品は1991年(「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞の年)のものなので、あるいは最初の長編小説か。後の作品の濃密度に比べると、その世界は全体にやや希薄な感は否めない。そもそも、主人公であり、語り手でもある「わたし」の存在感自体が希薄である。もちろん、そこにこそこの小説の存立基盤があるのだが。対象となるYにいたっては、さらに実体感に乏しく、ほとんど手だけの存在である。物語中で確かな存在感を示すのはヒロただ一人であり、してみると彼こそが現実との接点なのだろう。自己と世界との隔絶に対する不安は強く伝わってくる。

  • 音は聞こえる。
    しかし、聞こえる音は、壊れている。
    だから、突然の大きな音に驚き、恐れのあまり、身を小さくして、その場にうずくまってしまう。

    目の前を舞う言葉をただ紙に書き付けることと、あらかじめ書き付けられた言葉を読み上げること。
    両者は、順序が逆さまになっているというだけではなく、まったく、等価なものではない。

    それは、話された言葉は、自分にとっての記憶を作り、書かれた言葉は、それがたとえ真実であっても自らの記憶たり得ない、ということを意味しているのだろうか。

    耳と耳鳴りは、言葉と記憶の間にある一つの回路として、そこにあった。

    「そうだよ。君は自分の記憶の中に紛れ込んでしまったのさ。本当なら記憶はいつでも、君の後ろ側に積み重なっていくものなんだ。ところがちょっとしたすきに、耳を抜け道にして、記憶が君を追い越してしまった。もしかしたら反対に、君があとずさりしたのかもしれない。どっちなのか、それは僕にも分からないけど、でも、心配はいらない。いずれにしても、君自身と記憶の関係が、少しばかりねじれているだけだからね」(P.229)

  • 耳鳴りと速記をする指、しずく型のあざ、十三歳の少年、ヴァイオリン、ベートーヴェンの補聴器、ジャスミンの香り

    きっとまた登場人物の正体が暴かれることなどないのだろうと思い、そのつもりで読んでいたので、終盤の展開はかなり意外だったというか、なにも考えずに読んでたなあというか。

    読み終えた後、『余白の愛』というタイトルにしばし呆然となります。
    速記の紙の余白が無くなるまでの、主人公の耳とYの指の静かな交歓、あるいは主人公の閉じられた記憶こそが余白なのかな、等々。いずれにせよ素敵な余韻をもたらしてくれます。

    ただ主人公を受け止めるだけのYの、心の内が窺えたあの手紙がとても印象的でした。Yの指ではなく、彼の存在そのものについて考えると、また悲しくなってきてしまう。

    最後の速記はどんなふうだったんでしょうね。

  • 難聴を抱えた「わたし」の耳と、速記者であるYの指の恋愛物語という感じ。「わたし」の耳とYの指との交流によって、段々いい方向に進んでいくのが良かった。タイトルにあるように「余白」を上手く使い切って独特の余韻が生まれている。デュラスの小説に似てた(特に序盤)。

  • 小川洋子氏、初読みの小説です。
    耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Yと
    その指の話。

    途中で中弛みもあったが、文体が柔らかく
    安心して読めた。

    主人公の幻想は、
    主人公にとって、耳鳴りがする頃は現実だった。

    最後は耳が完治した事で、
    現実が幻想に戻り、記憶として閉じていった。

    人は、外の世界から自分を守るため、
    何処かに大切な世界を作るを作るのだと思う。

    その世界が彼女にとっては耳で、
    開ける鍵はYの指だった。

    果たして、鍵が見つかった彼女は幸せの方向へ向かう事になったのだろうか。

    「道はどこかでつながっているものだよ。」

    「みみずくの涙」

    「あなたと一緒に過ごす時間も、
    いつかは閉じてゆくのでしょうか。」

    「戻りたくても、戻れないのよ。」

  • 雪の中をYとヒロと一緒に博物館に行くところが好き。耳は治ったのに、記憶の中の迷路から抜けだせたのになぜか哀しい。寒い季節に読むのがぴったりな静かで少し不思議な小説でした。

  • 読み始め…06.4.1
    読み終わり…06.4.2

    「博士の愛した数式」で出会って以来見つけたら読まずにはいられない小川洋子さんの小説・・。「余白の愛」も期待を裏切りませんでした。

    ある日偶然、なにげに出会った気になる男性Y。お互いの恋愛感情を心の奥底にかすかに秘めていながらも、じれったいくらいにその感情を露にしてしまうことはない主人公とY。

    小川洋子さんの小説はこちらが思わずじれったくなってしまうほど恋愛感情的な部分には起伏がなく、始終淡々と流れるように綴られています。なのになぜか不思議と酔いしれていまいます・・。

  • ひたすら主人公のフェチ的な視点で物語が進んでいくのでイマイチ入り込めなくて途中で飽きてしまった 疲れてる時とか感傷的な時に読むのが良さそう

  • この怪しいながらも、美しい詩的な雰囲気。だから小川洋子さん、読みたくなるのよね。現実的な感想しかもてないけど、結局だんなさんが出て行ったことで、傷ついたんだよね。もろく今にも壊れそうな(壊れかけてる)ハートの主人公。

  • 主人公の心の中で、
    いつのまにか傷ついてしまった耳をいたわりながら、
    自身が癒されていくお話でした。

    耳鳴りを嫌がらず、受け入れる。
    そこから何かが始まっていく。
    自分を深く知る助けになる
    体からの合図なのだなあと思いました。

    病の原因を無理に探しても仕方がないし、
    ただただ受けとめる、それしかないのだろうなあ。

  • とてもとても繊細なお話し。
    現実と幻想のつなぎ目がこの上なく曖昧で、その曖昧さは柔らかいカーテンのような。どこまでも真っ白で途中からほんの少しづつ色づいていく。そんな印象。

    口頭で放たれる言葉というものの不確かさを感じさせられる。放たれた言葉は中に浮かび、消えてしまう。

    おそらく主人公は耳を病む事で、いやそれ以前から自分自身の不確かさ、あやふやさ、離人感のようなものを感じ取っているなかで、耳を病んでしまう。徐々に自分自身がその不確かさを感じていることを自覚していく。Yとの関係ー放たれた言葉を速記、書き留めていく中で、それをつなぎ止めようと、確かめようとしていったのではないか。そこから徐々に再生していく。それは自身の記憶の中からの再生だった。

    そんなことはおそらくどうでもよく、やはり小川洋子独特の世界感、繊細すぎて消えてしまいそうな言葉の世界をストレートに堪能できる1冊。

    2004年 中公文庫 カバーイラスト:ハシモトミカ

  • 甘く残酷な記憶もゆっくりと癒してもらえるものがある。
    耳は自分の聞きたいものだけを選んでそれ以外を排除していく。その聞きたくなかったものは耳の後ろの失われた場所へ蓄積されているのかもしれない。
    だけど記憶はいくら良い様に改ざんしたとしても決して変わることはない。それは誰よりも自分自身が痛感している。
    記憶を追い越してしまったとしてもそれは過去であくまでも振り返るものである。
    それがいくら辛いものだったとしてもゆっくりとYと触れ合うように記憶と触れ合うことで傷も癒されていく。

  • 途中からどこが現実で、どこが過去の幻想なのか、わからなくなった。でもその世界に惹きこまれます。速記する手を通して繋がっていく思い、そして再生・・・あ~面白かった。

  • 正直、うーん。
    飽きてしまい、途中で挫折。文章がわざとらしいというか、がんばりすぎているような印象を受けてしまう。ミーナの行進、人質の朗読会、海、は、きれいでさらりと洗練された文章にひきこまれ、小川洋子ファンになったつもりでいたのに、、
    おかしいなと思って調べたら 
    本作は初期の作品なんですね。(シュガータイムも同じくおもしろくなかった)

    今後は比較的、新しい作品を読みたいと思う。

  •  小川洋子の本は好きなのだが、いつも少し過剰さや違和感を感じながら読み終える。
     現実と幻想が折り重なる作風は好きなはずなのに、言葉がすんなりと入ってこない。一言一言は素敵だなと思うのに、読み進めるうちに息苦しくなり、読むのを中断したくなる。
     神経がみっちりと毛細血管のように張り巡らされ、わずかな風にもふるふると震えるような繊細さに、終いには疲れ切ってしまう。陶酔しきれない。自分が小川洋子でなくて良かったと、よく分からない安堵をして本を閉じる。
     二回読みたいとは思わないことが多い。

     耳の病気になった主人公と、魅力的な指を持つ速記者の微妙な関係を描く。指フェチの人はより深く共感できるかもしれない作品。

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