マレー蘭印紀行 改版 (中公文庫 か 18-8)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122044487

感想・レビュー・書評

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  • 本書の来歴について、「解説」で紹介されている。下記に引用する。

    【引用】
    「マレー蘭印紀行」は昭和15年10月20日の奥付をもって上梓されたが、これは昭和3年から昭和7年にわたるほぼ4年間の異国放浪の途次におけるシンガポール、マレー半島、ジャワ、スマトラでの見聞をもとに、この旅の途中、また多くは帰国後じょじょに、出版のあてもなく書きつがれていったものである。
    【引用終わり】

    金子光晴の本を読むのは3冊目だ。
    「どくろ杯」と「ねむれ巴里」を、これまでに読んでいる。ブグログで調べてみると、読んだのは2007年と、かなり前のことだ。その時の感想によれば、相当に強い衝撃を受けていることが分かる。いずれも、放浪記、貧困滞在記として、強い印象を受けている。強い印象を受けたこと自体は、よく覚えている。
    この「マレー蘭印紀行」は、それとは、随分と異なる本だ。本書で、金子光晴は、自身の旅を、どちらかと言えば淡々と、また、訪れる熱帯各地を詩人らしい美しい言葉で描写している。上記の通り、本書が発行されたのは、昭和15年のことのようであるが、私が読んだ2冊は、実際の放浪から、随分と時間が経ってから、書かれている。
    金子光晴と言えば、紀行文の三部作が有名であるが、「どくろ杯」「ねむれ巴里」に加え、この「マレー蘭印紀行」が、三部作の3冊目であると私は誤解していた。
    誤解していた方が悪いのであるが、前の2冊と同じような放浪記を期待していたので、少し拍子抜けしてしまった。

  • アジアを題材にしたエッセイのトーンで読み始めたので、あまりに「純文学」的過ぎて途中でギブアップ。名著なんやろうけど、オレにはハードルが高すぎた。

  • 旅行記というより詩が綴られている印象だった。美しいもの汚いものすべてを引っ括めて、自然と人間が率直に謳われており、この手の紀行文は今日あまり見掛けないだけに、存在価値をいまだに放っている。ただ現在との乖離が大きい分、文章の流麗さに関心が惹かれなければ、退屈の可能性もあり。

  • 自伝三部作にえがかれた旅の途中で著者が立ち寄った、東南アジアの国々の土地と文化およびそこに暮らす人びとのようすをえがいた旅行記です。

    「跋」のなかで著者は、「旅行記の方法は、自然を中心とし、自然の描写のなかに人事を織込むようにした」と述べています。ゴム園や鉱山の現場についての取材も含んでいますが、紀行文というよりも、詩人である著者のまなざしを通して見られた土地の印象がつづられている作品といえるように思います。

    東南アジアおよび南洋の旅行記は、これまで多くの日本人作家によって書かれていますが、本書もそのうちのひとつにかぞえ入れられる作品です。自伝三部作では、さまざまな土地をおとずれながらも、どん底からのまなざしによってとらえられた普遍的な「人間」が中心的なテーマとして浮かびあがっているように感じましたが、本作では詩的な表現によって現地の自然と文化が描写されており、いわゆる「南洋幻想」の一端をかいま見ることができます。そのことについて、現在の観点からどのような評価をくだすにせよ、興味深く読むことのできる作品であると思います。

  • 作者45歳の時の作品。

    その8年前、欧州から帰国の際に立ち寄ったマレー半島の風物。
    次第に戦争の色合いが濃くなる中、海外植民地で働き暮らす日本人、中国人、土地の人々の模様。

    70歳代半ばで書かれた東南アジア・欧州3部作に較べると、暗く重たい。

  • どこを切り取っても詩のよう。いきものの命のあかるさと暗さ。
    自分の感情とか当時の状況(妻と浮気相手を引き離そうとしてお金全然ないのに旅に出るなどの。)より景色やそこに暮らす人たちの描写が多いなか、屋台で食べたお粥の中に烏賊の子を見つけて日本に置いてきた子供を思い出すシーンがあって、そこにしか出てこない事で強く印象に残った。
    マレーシア旅行の予習にと読んだもの。
    スコールやそれで木々が光る様子とか、80年以上経ってるけど変わらないと思う。はやく行きたいなぁ。

  •  シンガポールからマレーシアに旅することになり、その道中のお供にと購入。同時期に購入した「深夜特急」と交互に読んでいたが、これは戦前に書かれたものなのに、「深夜ー」と似たような放浪記であり、ついでに言うと「深夜ー」にもこの本の記述が出てきたりと、なんだか不思議なつながりを発見。古今東西、旅するということは、人間にとって何らかの魅力のある行為なのだなあと実感。
     この本ではマレー半島のプランテーション農園にまつわる話がけっこう出てくるが、実際旅してみると、その風景が、今も変わらず広がっていて、感慨深かった。旅の気分にちょっと深みが出る一冊。

  • 日本人、華僑、マレー人、インド人などがどろどろと生きた時代を生き生きと描写。

著者プロフィール

金子 光晴(かねこ・みつはる):詩人。1895年、愛知県生まれ。早稲田大学高等予科文科、東京美術学校(現・東京芸術大学)日本画科、慶應義塾大学文学部予科をすべて中退。1919年、初の詩集『赤土の家』を発表した後に渡欧。23年、『こがね蟲』で評価を受ける。28年、妻・森美千代とともにアジア・ヨーロッパへ。32年帰国。37年『鮫』、48年『落下傘』ほか多くの抵抗詩を書く。53年、『人間の悲劇』で読売文学賞受賞。主な作品として詩集『蛾』『女たちへのエレジー』『IL』、小説『風流尸解記』、随筆『どくろ杯』『ねむれ巴里』ほか多数。1975年没。

「2023年 『詩人/人間の悲劇 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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