仕事のなかの曖昧な不安: 揺れる若年の現在 (中公文庫 け 2-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122045057

作品紹介・あらすじ

仕事格差に直面する20‐30代の真実とは?フリーターや若年失業が増えた背後には、中高年の雇用既得権を優先する構造問題があった。「働く」ことにつきまとう曖昧な不安に対し、いま一人ひとりに出来ることとは…。揺れる時代と冷静にファイトするためのリアルなヒントあふれる一冊。サントリー学芸賞、日経・経済図書文化賞ダブル受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 若年層が労働に対して抱いている「曖昧な不安」を、各種のデータを手がかりにすることで浮き彫りにしようと試みています。

    単行本刊行時は、フリーターやニートになる若者たちの勤労意欲の低下が批判されていました。山田昌弘の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)も、著者の山田にとっては不幸なことですが、「パラサイト・シングル」という言葉だけが独り歩きするかたちで、こうした論調を強める結果となってしまいました。

    その後山田は、若者を取り巻く状況の変化を受けて、『パラサイト・シングルの時代』の議論をあらため、若年層が直面している問題をていねいにすくい上げる仕事に着手しました。そして本書も、「勤労意欲のない若者への批判」に対する反省の機運が高まるきっかけとなった著作です。

    とくに目を引くのは、「ウィーク・タイズ」(弱い紐帯)についての議論です。本書の著者は、幸福な転職や独立をもたらすのは資格や語学力といった専門技能ではなく、会社の外に広く信頼できる友人をもつことが重要だと主張し、そうした幅広いつながりをそなえた「コネクション社会」の方向へと歩むことが、若者たちを支えることにつながると論じています。

  • 若者の就業を阻んでいるのは中高年の雇用既得権
    を優先する構造にある、という主張を展開した一冊。
    データも存分に使ってあって、かなりの力作。

    スタンスとしては、これから働こうという若年層を応援
    するもの。だから、若年層にもっと読まれていいはず。

    でも、たぶんこの本はその肝心の若年層にはリーチ
    していないんじゃないかという気がする。この題名、
    体裁、章立て。
    せっかく若年層を応援するスタンスを取っているの
    だから、もうひと工夫してリーチする努力をすべき
    じゃなかったか。

    「十七歳に話をする」という終章で、実際に十七歳と
    顔を合わせて話をした時のことが書いてあるが、ここ
    でも著者は緊張してうまく話せなかったとある。
    とっつきやすさを出すために冗談半分のつもりで書いた
    のかもしれないが、う〜ん、これは笑えない。
    この力作の価値を若年層に届けられていない。

    サントリー学芸賞と日経・経済図書文化賞を受賞したと
    あるが、この本は(これらの賞の選考者である)
    中高年の支持を受けることではなく、若年層に支持されて
    初めて意味があると思う。

  • 読んでおいて損はない

  • なんか、最近の世の中もやもやしてるなぁ。
    そんな気持ちとタイトルがリンクして購入。

    どこか社会がおかしいというのを明言できず、
    それを個人のレベルでも言語化できない、
    まさに曖昧なこの状況の中で、
    諸々の統計etc実際のデータを基に言及していくのは、天晴。

    分かっているようで、分かっていなかったことが、
    きっと読み進むうちに一つずつベールをはがされていくはず。

    読みやすいので、社会について興味がある人はもちろん、
    普段、こういう話題に触れない方にこそ勧めたい一冊。

  • 大学進学における課題図書

  • (「BOOK」データベースより)
    仕事格差に直面する20‐30代の真実とは?フリーターや若年失業が増えた背後には、中高年の雇用既得権を優先する構造問題があった。「働く」ことにつきまとう曖昧な不安に対し、いま一人ひとりに出来ることとは…。揺れる時代と冷静にファイトするためのリアルなヒントあふれる一冊。サントリー学芸賞、日経・経済図書文化賞ダブル受賞作品。

  • 筆者は一度でもいいので民間企業に就職して、人事をやったらいいと思う。

  • ニート・フリーター等の若年労働問題の第一人者がその筆に託した渾身の力作です。
    主観的判断や若者の心理状態からのアプローチを排し、徹底した統計データに基づく分析が貫徹している珠玉の本です。
    その分析から、『今の就業構造は、団塊世代を養うために若年層の雇用が確保できない』と断言し、心に問題がある若者が増えたとか、根性の無い人が増えた等のワイドショー的な解説を否定し、そもそも企業からの就職試験自体の門が極めて狭くなっている、また試験自体をさせない(採用無し)『若年リストラ』の解決を訴えています。
    日本の就職システム、新規学卒者一括採用に警鐘すると共に労働時間の二極化の是正を真摯に議論しなくてはならない…。労働時間の二極化については、統計データからは、『トータルで見れば労働時間は減少しているが、年間250日以上就業している有業者のうち、ふだん1週間就業時間が60時間の割合』は劣悪な状態に陥っているという凄惨な結果が導かれ、著者はこれを仕事格差と称して問題を提起しています。
    転職にも言及、より良い転職先を手に入れた人は職場以外の友人・知人の存在から有益な助言を得ている結果を踏まえ、人的ネットワーク(特にあまり深く関わりがない『弱い丑帯(Weak Ties)』)の構築を奨励しています。
    これはネットワーク科学モデルからも指示を得ています。
    章を列挙すると、
    第1章 雇用不安の背景で
    第2章 「パラサイト・シングル」の言い分
    第3章 フリーターをめぐる錯誤
    第4章 世代間対立を避けるために
    第5章 所得格差、そして仕事格差
    第6章 成果主義と働きがい
    第7章 幸福な転職の条件
    第8章 自分で自分のボスになる
    第9章 17歳に話をする
    上記の9章に分け、『雇用』を基軸にしてその直接・間接問題を分析しています。
    興味のある人はどうぞ!

    僕の評価はSです!

  •  尖閣諸島問題や北方領土問題における日本の態度を見て「今の日本は本当ダメ」とか言っているご老体がいるけれど、「お前たちが何にも考えずに働いてきたから、こんな日本になったんだろ」と密かにいらだっている私。
     専業主婦と育ち盛りの子供を養っている中高年リーマンのリストラ、この設定はとても悲しいから人の目をひくけれど、2005年時点では大卒中高年の失業者数は約5万人で失業者全体のたった1.6%に過ぎない。
    「自分たちのことよりその他大勢の方の心配しろよ!!」と言いたくなる数字だ。しかし、いつの時代も歯車を回しているのは働き盛りの中高年で、人を採るのも切るのもホワイトカラー中高年。
     経済が停滞して労働力が過剰になった昨今。こんなふうに労働市場が不均衡になったときには、「賃金調整」と「雇用調整」という神の見えざる手が動くというのが経済学の基本なんだけど、労働組合が頑張るから賃金は下がりづらい。だから雇用を抑制することになるんだけど、中高年は自分の首を締めるようなことはしない。さらに日本では世間体を気にしたりリストラするには凄い労力が必要だから、今いる人を解雇するんじゃなくて、将来の社員を切ることになる。そっちの方が手軽で経済的。この保身的行動には他に似ているものがあって、将来の生活が不安だからといって子供を産む事を控える夫婦ととても似ている。新規採用の抑制とは社会人の中絶だ。
     このように、中高年の既得権によって若年層の雇用が平然と奪われているけれど、一方で定年を伸ばして老人の雇用機会を増やそうという議論があるらしい。なぜ、若年層の需要は抑制されているのに、老人の需要は増えているのだろうか?老人のほうがワガママを言わないからだろうか?この雇用環境の歪みは、中高年が動かしている歯車では矯正しようがない。法律で人工中絶を禁止するように、採用抑制を禁止するしかないのだろうか。
     撃つべきは吉野家や松屋で息子同然のアルバイトに指示されて「ハイッ!」と必死に働いている中高年ではなく、定年までのことしか頭にない、大企業に紛れ込んでる中高年リーマンなのだ。

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著者プロフィール

1964年生まれ。88年、東京大学経済学部卒業。ハーバード大、オックスフォード大各客員研究員、学習院大学教授等を経て現職。博士(経済学)。
主著
 『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、2001年、日経・経済図書文
 化賞、サントリー学芸賞)
 『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社、2004年、エコノミスト
 賞、労働関係図書優秀賞)
 『孤立無業』(日本経済新聞出版社、2013年)
 『危機と雇用』(岩波書店、2015年、沖永賞)
 『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会、
 2017年、編著)
 ほか多数。

「2022年 『仕事から見た「2020 年」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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