ねむれ巴里 (中公文庫 か 18-9)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122045415

感想・レビュー・書評

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  • 「どくろ杯」が面白すぎて三部作の二番目「ねむれ巴里」を読んだ
    金子光晴って大家のイメージしかなかったけどこんな途方も無い海外生活してたなんて。惨めで淫蕩な巴里の生活だけど
    さすが詩人で惹き込まれる文章がちりばめられている
    日本や西欧の根っこを考えさせられる
    すばらしい作品だった


  • 自伝三部作の第二弾。

    妻の三千代を一足先にフランスへ旅立たせた著者は、彼女を追って船に乗り、そこで中国人の留学生たちとおなじ部屋ですごすことになります。中国の人びとの日本に対する印象は、すこしずつ悪化していた時代でしたが、著者は「同文同種」ならぬ「同糞同臭」を実感します。

    パリへわたり、三千代とともに暮らすことになった著者は、上海にいたころと変わるところのない貧乏生活を送ります。二人のまわりには、やはりおなじような境遇にある日本人たちが寄り集まり、金の工面にパリの街をはいずりまわるように毎日をすごします。なかでも、画家の出島春光という男が、著者の身辺にたびたびすがたを見せるようになります。著者は、出島と、彼を第二の藤田嗣治にしようともくろむ伯爵夫人のモニチとの関係を、距離を置いてながめつつも、みずからも出島たちとおなじように金策に頭を悩ませます。また、妻の三千代とほかの男との関係に対して、どこか諦めにも似た心境になりながらも、彼女と別れるための行動を起こすこともなく、その日暮らしをつづけます。

    文明都市であるパリを、どん底から見つめる著者のまなざしが、日本でも、上海でも、あるいはパリでも、変わることのない人間の普遍的な悲哀をとらえているように感じました。

  • ★2.5、おまけなし。文章がくどくて正直、当方には合いませんでした。
    しかしこういうの読んでると、現在よりも世界に飛び出している日本の人間は多かったのかな、と少し思ったりもしなくもなく。
    世界に伍していくことが社会の活力の全てなのか?立場によって意見は異なるんでしょうが、少なくともその方面の積極性が希薄になってきていることは確かでしょうし、その意味で生きていくための図太さとは何か?を問いかけてはいる気がします。

  • 若い学生と駆け落ちした妻森三千代の気持ちを相手から引き離すべく、幼い子供を長崎の実家にあずけ、パリを目指す作者と妻。

    「どくろ杯」では、関東大震災後の二人の出会いから上海、東南アジアでの道行と、妻が先にパリに向かうまでが描かれる。

    本書はその続編。
    作者もようやくパリにたどり着き、ふたりの暮らしが再びはじまる。
    時代は1930年。
    第二次世界大戦前の花の都パリである。

    無一文の金子光晴は、絵描き、使い走りからゆすりたかりまで、あらゆることをやって生活の糧を得ながら、ここで約1年を暮らし、ベルギーに移ったのち、翌1931年にヨーロッパを離れることになる。

    妻と関係がそのような複雑なものであったから、この間の作者の思いは、絶望とか嫉妬とか、断腸の思いとか、筆舌に尽くしがたいとか、そういう言葉では形容しきれない、余人にはうかがい知れないものであっただろう。

    詩人として輝かしいスタートをきったものの、生活の上でも精神の上でも人間の最底辺を徘徊するこの期間は、詩も言葉も失われていた期間であったという。

    40年という長い年月を経たからこそ、この地獄のような時間が、作者の中で客観となり、こうやって形になりえたにちがいない。この中で描かれるフランスや東南アジアで客死した多くの芸術家志望、ボヘンミアン、食い詰めものたちを思えば、そしてその後の世界大戦がもたらす惨禍を思えば、一種独特のこの傑作が世に現われたことは奇跡にちかい。

    それを思うと、やはり芸術家というのは選ばれた存在で、その苦難の道は、モーツァルトの歌劇「魔笛」で主人公が試練の炎を通り抜けなければならないように、傑作を世に生み出すための運命のようにもおもえてくる。

  • 日本の詩人・金子光晴の、パリに滞在していた頃の自伝的エッセイ。

    語られる出来事はどれも凄まじく、外地で貧窮することの酷さ、寒々しさを痛切に感じさせました。

    パリでの仕事もほとんどその日暮らしのものばかり。
    日本人学生の論文を代筆したり、新興宗教団体に絵を描いて買い取ってもらったり・・・。貧困に喘いでいる日本人の芸術家を救うのだと、詐欺まがいの方法で日本大使館からお金をせしめてもいます。
    もちろん、出会うのは日本人ばかりではありません。
    金子の妻を口説こうとするフランス紳士や、絵を高額で貴族連に売りつけようとする似非貴婦人などなど・・・。
    詩人が出会うパリは"芸術の都"などではなく、"虚栄と絶望の都"といったほうが妥当かもしれません。

    このような極貧生活に耐えた著者の精神はもちろん強靭だと思いますが、筆致は繊細、これほどの特異な体験を共感できるように描きだす文章はさすがです。

  • 高橋源一郎の小説を書くために参考本である。いままで、これほどパリについて詳細に書かれた紀行文はないと思われる。YouTubeでも観光名所や有名なレストランばかりである。ほんとはこうしたガイドブックが必要だったのかもしれない。連れ合いといっしょにパリで生活するということがいかに大変か、についてよく書かれている。
     学生が卒業旅行でパリに行く前に、この本を読んでパリのことを知るべきであろう。

  • 三部作では大学時代に「どくろ盃」だけ読んでいた。こちらはパリ出張のお供にKindleで。海外に沈没している日本人、昭和初期も今も変わらない様子が面白く読めた。自分も若い時に欧州を見ていたら、その後の人生どうなっていたか。思い馳せた。

  • 難しい。詩人だからか文章が分かりづらく、前半で断念。また借りることがあれば続きを読む。

  • 巴里よりもむしろ旅程。

  • 私には難しかったです。

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著者プロフィール

金子 光晴(かねこ・みつはる):詩人。1895年、愛知県生まれ。早稲田大学高等予科文科、東京美術学校(現・東京芸術大学)日本画科、慶應義塾大学文学部予科をすべて中退。1919年、初の詩集『赤土の家』を発表した後に渡欧。23年、『こがね蟲』で評価を受ける。28年、妻・森美千代とともにアジア・ヨーロッパへ。32年帰国。37年『鮫』、48年『落下傘』ほか多くの抵抗詩を書く。53年、『人間の悲劇』で読売文学賞受賞。主な作品として詩集『蛾』『女たちへのエレジー』『IL』、小説『風流尸解記』、随筆『どくろ杯』『ねむれ巴里』ほか多数。1975年没。

「2023年 『詩人/人間の悲劇 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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