- Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122046979
感想・レビュー・書評
-
自分語りになってしまうかなと思うが、この本を読んで私は祖父母の住む島を思った。私は全く違う場所で育ったのだが、生まれてから祖父母の住むその南の島を毎年訪れている。訪れるたびに海を見に行き、その美しさと、全てを受け入れ流してくれる寛大さに感謝している。それでもそこにずっと住んできた祖父母や親戚は、昔はもっと海が綺麗だった。珊瑚もたくさんあったと決まって言うのだ。わたしは失われてしまったその美しさを想像することしかできない。いつか自分も見れたらとも思うが、それはまだ自分が生きていられないほどずっとずっと先になるだろうとも思う。
私は今年で23歳になる。23年間欠かさず訪れてきたその島で、昔は山羊がいて、覗くと中におじさんが必ずいた後ろの家は、今や山羊はいなくなり、中には誰の姿もなく、壊れた玄関や家具がのぞき、たまに野良猫が姿を見せるだけになった。年に一度しか会わない親戚も、その時の長さが会っただけでもわかるようになってきた。中にはもう会えない人たちもいる。
時間は不可逆で、決していい時ばかりに留まることはできないのだと、この小説を読んでより強く思った。だから私も愛を持って祖父母のいる島の地面を踏み締めようと思う。いつかそこに花が咲くように。そしてできるだけ祖父母との思い出をつくって、抱えきれない花束を持っていってもらえるようにしよう。そう思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
はじめて、よしもとばなな著の作品を読みました。
はじめちゃんがすごく大人びている考えや思いを持っていることに驚き、環境がそうさせたのだと思いますが、小さいながらも芯がある女性だなという感じがします。
読んでいる最中はものすごくかき氷が食べたくなって早く夏が来てくれないかと待ち遠しくなりました。
どこか寂しくも心があったかくなりました。 -
群ようこさんの、かもめ食堂を思わせる物語ですが、やはりその中によしもとばななさんのエッセンスが散りばめられていて、味わい深かったです。版画も美しくて、画集のようでした。
-
ーーそれは私たちの出会いの夏、一度しかなくもう二度と戻ることはない夏。いつでも横にははじめちゃんが静かに重く悲しく、そして透けるようにしていっしょにいたっけーー
故郷にもどって大好きなかき氷屋を開いた私と、大好きなおばあちゃんを亡くしたばかりのはじめちゃんの、まぶしくて、切ないひと夏の交流。
初っ端からばななさんの言葉にやられっぱなし。
西伊豆の海の情景と、潮の香、泣きたくなるような夕焼けの空と海・・・そんなものたちが頭の中に浮かび、たまらなくなる。
大切な人に毎日会えることの奇跡。肉体をもってここに存在していることのあまりの短さ。
生きることと、人との出会いに感謝をしながら、自分にできることを静かに考える読後。
暑くて、まぶしくて、ちょっと物悲しい、夏にピッタリの本でした。 -
よしもとばななさんの作品をちゃんと読んだのは初めて。
ふとタイトルと表紙に惹かれて手に。
起伏があってクライマックスがあって、、という作風では決してないのだけど、人間の「生きる」が本当に自然な流れの文章に詰め込まれていた。
どの登場人物もすごく人間らしくて、繋がり方がどことなくリアルで血が通っている感じ。
主人公の母の人物像が素晴らしかったな。個人的に。 -
西伊豆の小さな町が舞台。挿画となっている版画がとてもいい味を出しています。正直、私は物語そのものよりも版画のほうが好きでした。
映画にもなったんですね。ネットで動画を見たら私のイメージとは違っていた。本からのイメージではもっともっと田舎を想像していました。かき氷屋さんもイメージよりずっと綺麗。かき氷も美味しそうでした。 -
とても感覚的で綺麗な世界観の話です。
ふわふわ、もこもことした暖かい話でした。
風景や情景で、主人公たちの内面を描写するのがうまいです。
話の展開や筋のあまりないえらく感覚的なはなしだけれども、とても楽しく読めました。 -
よしもとばななと睦稔のコラボ企画。所々に睦稔の美しい版画が挿入され、小説の雰囲気を彩る。寂れて、変わっていくわたしの街。その背景には金の動きがあった。そして愛するおばあちゃんの死後、遺産相続のことで醜さを露わにする親族たち。その現実に心を痛めたはじめちゃん。金によって大切なものを奪われたわたしとはじめちゃんの出会い。そのふたりの心の通い合いの物語。大切なものの喪失は、ばななのいつものテーマである。これは作中の表現だが、生まれたシャボン玉を見つめて、それがポッと消えるまでのたまゆらの美しい時間。そんな時を過ごしたような読後感のある作品だった。
-
彼女の小説の真ん中にいる人たちは「ずいぶん純粋だこと」と皮肉られてしまうかもしれないが、別に無垢でおめでたい人たちなのではない。むしろきっぱりとしている。ある種の欲の深さや卑屈さやずる賢さをはっきりと憎み嫌っている。この作品の人たちもそうだ。自分の領分をわきまえない傲慢さに、静かで冷たい眼差しを向けている。ただ、状況の展開で語るのではなく、台詞で言いたいことを言っちゃってる感じ(後半はとくに台詞の分量が多い)。そのせいで小説じゃなくてエッセイ読んでるみたいな気分になった。それって小説としてどうなのだろう?というのが正直な感想。
-
綺麗で素敵だった。よしもとばななさんの小説は、何年も前に読んだキッチン以降読んだことがなかったことを思い出して タイトルに惹かれたことも相まって直感で手に取った。
抱いた印象としては、文章が端的でわかりやすいのでスッと心に入ってくる。言葉選びが上手で何度も引き込まれた。自然や海の生き物の描写を通して人間が忘れてしまっているものに気づかせようとしているのかなあ、と感じた。
地元をこよなく愛する主人公も良い