歴史を精神分析する (中公文庫)

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著者 : 岸田秀
  • 中央公論新社 (2007年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (199ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122048751

歴史を精神分析する (中公文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 官僚組織は本来国民のためのものであるにもかかわらず、自己目的化し、仲間内の面子と利益を守るための自閉的共同体となっている。p31

    日本国家の起源として、大陸および半島との現実的国際関係を否認して天孫降臨の神話、天から降りてきた神々が他国とは一切の関係をとらずおのれの力だけで独自に国造りをしたという嘘をでっちあげたところを出発点にしているのだから、歴史的必然性として日本で形成されるあらゆる共同体は自閉的共同体となる。

    他方でアメリカは文明の名においてアメリカ先住民を大虐殺するという欺瞞を出発点にしてはじまった国家であり、ときどき文明の名において野蛮な他民族(日本、ベトナム、イラクなど)を虐殺することを繰り返すわけでここにも日本と同じような反復脅迫がみられる。

     著者は小学六年生のときに敗戦をむかえており、当初教えられた日本の歴史といえば天照大神の孫が天上から降りてきて(天孫降臨)さらにその曾孫である神武天皇が九州から大和に攻め上り(神武東征)初代の天皇に即位し、西暦紀元前660年にはじまりそれ以来万世一系の天皇が代々国を治めてきたという皇国史観に基づくものであった。

     日本は幕府体制のような、地方の下位共同体が、ある程度日本政府から独立して権力を保持しているような状態が一番無理のないところであるが、唐帝国の脅威による古代天皇制の成立(唐の皇帝のコピー)、十三世紀後半の蒙古襲来、十四世紀前半の元帝国の脅威を背景にしての天皇支配の復活(建武の中興)、ヨーロッパの帝国主義勢力(スペイン)を脅威として生まれた日本ではめずらしい独裁者タイプのリーダーであるとこの信長、そして明治政府が欧米諸国の脅威に対するためにかつぎだした近代天皇制(キリスト教の唯一神のコピー)など外的脅威にさらされた場合に天皇やそれに準ずる権威をたてる。

  • ――全ての日本人に読ませたい、一冊。本著を読んで感じた感想が正にそれである。唯幻論なるものを著者は提唱しており、その実態についての説明が本著ではなされていないので、『ものぐさ精神分析』なるものをいつか読まねばとは思うものの、日本人とは何なのか?といった問題の本質を衝いている名著であると感じる。初めは官僚批判から始まるものの、次第に問題をダイナミックにしていき、根源的起源へと道筋を辿る。その過程で、アメリカやフランスなどにも触れる。著者自身はフロイトの精神分析を基礎として置いているようであり、反復強迫(虐待を受けた子供が、虐待を浴びせる恋人を選択すること)や精神病的(ボーダーライン的)性質(内的自己と外的自己との分裂)などの概念を用いている。

    □官僚と自閉的共同体
    著者は敗戦の理由を、軍人のせいではなくて軍部官僚のせいだと述べている。つまり、現在的に言えば、生え抜きの刑事とキャリアとの確執、いわゆる踊る大捜査線的な構図であり、生え抜きの軍人ではなくて軍部官僚が、現場を知らずに教科書どおりの兵法を用いることで退廃を喫した。更に、官僚=共同体なので、責任の所在が追及されずそれゆえに失敗が繰り返される。更に、その自閉的共同体に圧倒的に権力が集中し、監視機関が存在しないためにやりたい放題へとなっていく。敗戦によって、軍人は間違っていたと悪人にされ、他方、官僚は聖人化され、それが薬害エイズ問題などを引き起こしたと著者は論理を敷衍させている。根源的な問題は、一つが、「自閉的共同体的な性質」であり、もう一つが、「国民の過度な理想」であると著者は主張する。ここから、官僚からさらに政治にまで問題は飛躍する。つまり、日本人はどこにいても自閉的な共同体を作り上げてしまうし、そして、国民はその共同体を監視するでもなくそこに理想像を求めてしまう、あるいは、任せきりになってしまう。

    □アメリカ先住民虐殺と、フランス革命
    まず、アメリカという国は横暴で知れているが、彼らは自らの非を認めない。それは原爆投下も同様である。そこにあるのは、彼らが先住民を虐殺してアメリカという国を建国したという欺瞞にあるのではないか?彼らは先住民を虐殺したということを認めたくはない、それゆえに彼らは侵略や虐殺を常に認めず、自らは民主化を推し進めてやっているのだと概念を押しつける。
    また、フランス革命とは実は大した成果が得られていないというのが実情なのかもしれない。その結果としてすぐにナポレオンによって独裁されている。フランスはその後も共和制と王政とをややこしいくらいに繰り返し、ドゴールの第五共和制は傍から見れば独裁でしかない。しかし、彼らはやたらと共和制を持ち上げる。だが、この裏にあるのはフランス革命を肯定したいという彼らの願望なのではないいか?

    □日本が持つ欺瞞
    日本は植民地になったことはない、日米戦争に負けるまでは敗戦を経験していない。しかし、日米和親条約によって日本は植民地化したのではないか?また、白村江で既に日本は敗戦しているではないか?また、日本が出来上がった当初、そもそも、日本と百済なんて同じような共同体の一つだったのではないか?むしろ、百済の属国が日本であってもおかしくはない。確かに、文化水準で言えば百済のほうが上であったのに、日本が支配しているだなんてそれはおかしな話である。ここには軍事>文化という西洋史観が多分に含まれているのかもしれない。さて、著者は日本人は内的自己と外的自己が分裂していると主張している。つまり、唐やアメリカを模倣するのは、外的自己の働きであり、しかし内的自己は日本が独立して一人でやっていきたい、あるいは自閉したいと考えていると言うのである。結果として、根底にあるのは唐やアメリカに対する劣等感や憎悪であり、そこに反復強迫や攻撃者との同一のメカニズムが加わり、ちきれて爆発してしまったのが大東亜戦争であり日米戦争であると著者は断言している。また、豊臣秀吉、吉田松陰、西郷隆盛といずれも日本人に人気のある人物は朝鮮を支配しようとしており、そのあたりにも、無意識的に日本が抱える自己欺瞞があるのではないか?とも。

    □個人的な考察
    考古学を学んだ身からすると、現代日本人ってやつは、縄文人と弥生人(朝鮮人、渡来人)の混血であると言われている。簡単に言えば、沖縄の人と、朝鮮半島の人との混血児は、まぁ、日本人みたいな外見になるよね、ということである。とするならば、確かに、「朝鮮人蔑視」なんて考え方自体がおかしいし、「日本には日本人がいて」という古来から自然と存在している史観もやはりおかしいと言わざるをえず、著者をこの点では擁護できると思う。また、朝鮮侵略を試みている人物が偉人とされてしまうあたりも、かなりまずいと感じる。つまり、潜在的に朝鮮蔑視やあるいは朝鮮は日本のもの、朝鮮に対する日本の優位性などが日本人の頭に、少なくとも統計的に観る分には刷り込まれてしまっているのだろうから。また、官僚に対する反発も高まってきてはいるものの、著者の主張していることを理解して官僚を批判しているひとは恐らくはほとんどいないであろう。個人的には民衆の過度の批判は、官僚に対しても政治に対してもそうだが、「過度な信頼」からきていると思われる。そして、ろくに考えてもいないくせに日本人は「過度に信頼」してしまう。これが恐らく日本人が慢性的に抱える問題的な性質であろうが、しかし、これこそが日本人の行儀のよさやらを形成しているとも言えるのですごく難しいところではある。また、現在日本人は、日本人であるという意識が希薄になりながらも、日本人的な性質は依然として持ち続けているように思われるのだが、そのあたりこの著者はどう考えるのかうかがってみたいところではある。だが、これも、意識の希薄=外的自己、日本人的な性質=内的自己と区切れば、やはり著者の言うような分析の枠に収められるのかもしれない。著者はかなり過激なことを言っているようにも思われるし、所々で気持ちいいくらいに迷いなく断定しているのでかなり偏った考え方をしているようにも思われるのだが、実はかなり公平かつ客観的に分析を加えている。そういう意味において、思想が極端に右の人にも、左の人にも、あるいはその中道の人にも、読んでもらいたい一冊であると思う。

  • ある時代の常識が、時を経て異様な姿となって現れてくることは決して珍しくない。むしろ多いくらいだ。岸田秀はこれを「共同幻想」としてバッサバッサと斬り捨てている。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100626/p5

  • 歴史を精神分析するって、面白い発想です。「自閉的共同体」は、官僚の行動原理の理解に役立つ整理だと思う。それにしても、極論だとは思うが、官僚行動が、300万人の日本人、1000万人の外国人を太平洋戦争で死に追いやってしまったわけで、恐ろしい話である。
    天皇は最初からお飾りであったとの分析は、結構強烈だ。日本人は滅亡した百済人の残党でもあるのかな。

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