大学という病: 東大紛擾と教授群像 (中公文庫 た 74-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122048874

作品紹介・あらすじ

昭和三年、三・一五事件で東京帝国大生の検挙者が続出、学内では左傾教授の処分が行われた。左傾認定を受けた大森義太郎は自ら辞任するが、それは十年にわたる派閥抗争の序章に過ぎなかった-。経済学部を壊滅状態に追いやった「大森事件」とその余波を豊富なエピソードとデータを駆使して描き、大学のあり方を問う警世の書。

感想・レビュー・書評

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  • まず、本書を通じて平賀粛学の内容をよく理解することができた。
    主要登場人物の顔写真がはじめに掲載されている。どの顔も知的で精力的な顔であり、非常に魅力的である。

    大学とジャーナリズム界の関係について、ブルヂューなどの理論を当てはめて考えているので、社会科学のモデル理論をいくつか知ることができる。

    大学は企業のように明確な組織目標があるわけではない。大学教授は独立した一人事業者のようなものであるため、大学という組織ではここの人間関係に基づく人事、派閥抗争が活発化する。

    63
    土方は欧米の学者の糟粕を舐めるような日本の学問を憂いていた。
    他人の諸説の解釈と詮議ばかりしているところに学問の発展などない、というのが持論。
    意欲は壮とすべきものである。しかし空回りすると、高田保馬が唯物史観に対抗してぶち上げた第三史観に似た大雑把で薄手の対抗概念や対抗史観にしかすぎなくなる。
    単なる造語症ではないか
    定義したり分類しただけでは、経済の変動がわからないのと同じく要求と提供の分類学からは経済変動の仕組み見えてこない。
    土方の理論構築の大雑把と薄っぺらさが透けて見えた

    77
    1893明治26年職務俸(講座給)開始
    東京帝大教授への職務俸
    木場定永文部次官
    「大学の予算はたとえ削減を免れるともこれを増額これが増額を望みうべき場合にあらざるは、冗員を淘汰するの他事務官の俸給と事務費とを減して、教員費と教務費を増加」

    100年以上前から、そもそも大学予算は厳しく、まず事務経費を削減するべきという大学予算の基本的な構造は変わっていない。

    95 大学人の知的名声の補填、倍加、転覆
    大正デモクラシー運動以降、一般誌雑誌が発刊されるようになり、大学人は講壇ジャーナリスト隣、学問的威信と名声の他にジャーナリズム界からの名声を得ることが可能になった。
    大学界とジャーナリズム界への知識場の分化と同時に相互還流行われば、知識人のあり方や知的名声の発生の源泉は重層的になる。

    285
    平賀粛学の喧嘩両成敗の常識論に回収されたのは、大学神話の失墜の証明
    大学が社会にとって不可欠で重要な機能を果たす制度であるという信頼性
    こうした信頼性に基づいて大学の自治、学問の自由が当然のものとみなされる。
    大学の自治や学問の自由はあくまで不可欠で重要な制度への信頼によって支えられている。大学の自治への信頼の揺らぎが大きくなれば、学問の自由への懐疑と疑念が生まれる。自治や自由という美名のもとに社会的課題から逃避しているとか惰性と放縦、特権を貪っているという批判が生じてしまう
    286
    帝大を中心とした大学批判自体は明治時代からあった。
    大学教授の世界に競争がないことから生じる怠慢を批判し、学生の自発的学習を誘発する演習を制度化するなど枚挙に暇がない。
    これらは、大学の不行き届きの実情を慨嘆し、改善を望むものである
    昭和初期の大学の特徴は大学そのものの存在に対する不信や懐疑が出始めたということにある

  • 980円購入2010-10-22

  • 少し古臭い専門的な調査という感じがした。学術的かもしれないが、一般の読者向きとは言えない。

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(佐藤優選)98
    歴史についての知識で、未来への指針を探る
    東京帝国大学経済学部の内部紛争を大森義太夫助教授を軸に描くことで、制度化された知がはらんでいる問題点を見事にえぐり出している。

  •  一言で言えば、筒井康隆『文学部唯野教授』の実話バージョンといったところ。何より本書で紹介される戦前の帝大教授の生態に抱腹絶倒。こうした暴露話のディテールだけでも十分に楽しめる。
     たとえば自分の著書をひたすら読んで聞かせる教授もいれば、受講生にノートをとらせるが、その内容が「プリントになって売り出されている前年の講義と全く同一」という教授もいる。ノートの手を休めさせるために話す教授の雑談や冗談も、まるで同じ。試しに教授が冗談を言った個所をメモしてみたところ、何とそのタイミングまで寸分の狂いもなかった…。

     なお、「武闘派」のイメージが強い河合栄治郎にホモの気があったらしいということも本書で初めて知った。

     ただもちろん、本書は単なる暴露本ではなく、れっきとした歴史社会学の本。草創期の東大経済学部における泥沼の派閥抗争(この抗争は結局文部省をバックにした「平賀粛学」で喧嘩両成敗に終わったが、かえって行政による大学自治の侵犯として物議をかもし、その悪名を歴史に残す結果となった)を社会学の理論を駆使しながら考察したもの。とはいえ、かなーり柔らかくして説明されているので、「ガクジュツ的」な取っつきにくさはほとんどないはずだ。

     ただ本書を読んで思ったのは、昔の帝大教授と言えどいったん派閥抗争の渦中に入れば、自分の思想信条なんかより目先の勢力争いの方を優先するんだなと。河合を追い落とすための合従連衡で、マルクス派の陣営とファシズム寄りの陣営が結託するんだから、傍から見れば「良心はどこに?」としか言いようがない。
     まあ政治なんていうものは、どの次元でも古今東西そんなものなんだろうが。

  • 10/01/10、ブックオフで購入。

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著者プロフィール

1942年、東京都生まれ。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得満期退学。京都大学大学院教育学研究科教授などを経て、現在、関西大学東京センター長。関西大学名誉教授・京都大学名誉教授。教育社会学・歴史社会学専攻。著書に『日本のメリトクラシー』(東京大学出版会、第39回日経経済図書文化賞)、『革新幻想の戦後史』(第13回読売・吉野作造賞)『清水幾太郎の覇権と忘却』(ともに、中公文庫)、『社会学の名著30』(ちくま新書)、『教養主義の没落』『丸山眞男の時代』(ともに、中公新書)、『大衆の幻像』(中公公論新社)、『立志・苦学・出世』(講談社学術文庫)など。

「2018年 『教養派知識人の運命 阿部次郎とその時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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