疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122049550

作品紹介・あらすじ

かつてヨーロッパを死の恐怖にさらしたペストやコレラの大流行など、歴史の裏に潜んでいた「疫病」に焦点をあて、独自の史観で現代までの歴史を見直す名著。紀元一二〇〇年以降の疫病と世界史。「中国における疫病」を付す。詳細な註、索引付き。

感想・レビュー・書評

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  • 疫病の発生過程の説明にまず驚かされた。初期の人間は、生態系の中に組み込まれており、自然な疫病による人口統制がなされていた。しかし、狩猟や農耕を始めることによって生態系を壊し、ミクロな病原菌の生態系をも壊すことによって細菌の繁殖力を増強することによって都市病等の病気にかかるようになっていった。このように自業自得的な過程があったということに非常に驚いた。

    そして、このように周期的に訪れる疫病からの死の恐怖が、キリスト教を発展させていった。というのが面白かった。キリスト教では死は幸福であり、ほかの宗教では不幸であるというはっきりとした違いを再確認させられた。

    また、このような疫病が数々の戦争の原因となったり、勝敗を決する要因となったりしていることに驚かされた。さらに、戦争の原因となっているにもかかわらず、その戦争の衛生部隊によって衛生観念が広まっていったという逆説的なことにも驚かされた。

    最後に筆者が述べていた、「過去に何があったかだけでなく、未来には何があるのかを考えようとするときには常に、感染症の果たす役割を無視することは決してできない。創意と知識と組織がいかに進歩しようとも、規制する形の生物の侵入に対して人類がきわめて脆弱な存在であるという事実は覆い隠せるものではない。人類の出現以前から存在した感染症は人類と同じだけ生き続けるに違いない。」という文章は、この先も真実であり続けるだろうと思った。技術が発展するにつれて菌の繁殖力が強まっているという背景にはこのようなものがあるのだろうと考えさせられ、技術の発展も一概に良いことといえないのではないかと思った。

  •  歴史を動かす究極的な力(要因)は何なのか。神の摂理? 超越的な人間の能力? 技術力の発展に伴う経済構造の変化? 単なる偶然と運がすべて? それとも複合的原因による多重的決定? いやいや、それを前にしては免疫を持たぬ人間など全く無力な、未知の(あるいは既に抑止できたと思われていた)感染症・疫病!の力を忘れてはならない。中世の黒死病(ペスト)がなかったら、我々は現在、我々の知る世界とは全く違った世界を眼にしていたであろう。ホーキングが敢えて「絶対に人類は未知との遭遇をしてはならない」という理由もそこにある。我々の運命は、愚か者の手中などではなく、知られざるウィルスに握られているのかもしれない。同時に「同じ意味で」ジョン・W・キャンベルの『影が行く』も必読書である。
    (選定年度:2016~)

  • こんなすごい本が、この金額で読めるってすごい。

    不条理な、救いのない大量の死が神さえも駆逐する。
    高校生のころ、歴史を勉強していたときに、急に強くなったり滅びたりする権力の原因が全然分からなかったけれど、確かに疫病という視点はなかなかなかった。

    とてもいい本であったが、日本語訳がときどき???なところがあって、読むのに根気がいる。

  • マラリア、ペスト、天然痘、結核、コレラ、梅毒。古来「神の怒り」と怖れられてきた疫病は、個人と共同体の運命を翻弄し、時に歴史を大きく塗り替えてきた。遊牧帝国の繁栄とペスト、インディオを絶滅寸前に追いやった旧大陸の感染症。ハンセン病に割かれた頁は多くはないが、重度の皮膚病がすべてこの名で呼ばれ一様に隔離されていた時代や、近代戦の開始に伴う疫病学の発達など、本書は社会の変容と疫病の関係を多元的に描き出している。

  • (上巻より続く)

    本筋は、
    人類は病原体によるミクロ寄生と、他の肉食動物、つまり同じ人類、のちには征服者、支配者によるマクロ寄生のはざまで、つかの間の無事を保っている存在だ、
    ということですかね?

    確かに、人類誕生以来の疫病との戦いを読んでいると、
    食物連鎖のヒエラルキーの頂点にいるのは、
    人間ではなく病原体、という気がしてくる。

    余談ながら一番の衝撃は、
    インドのカースト制が、
    異なった免疫をもつ民族を支配下に入れた際に
    相互に安全な距離を保つために、
    接触をタブーとしたことに起因するという解説。
    もはや都市伝説?

  • 上巻より読み応えあり。
    インカやアステカが滅亡してしまったのはヨーロッパ人の軍事力が高かったからと思っていたけど、ほとんどが未経験の疫病によるところと知って、そのスケールの大きさになんとも言えない気持ちになる。
    現在も北センチネル島をはじめ未開の部族といわれる人々との交流が制限されていることに納得がいった。ちょっと会っただけで一族全滅の可能性があるなんて恐ろしいし、なんとなくいろんな病気になったり予防接種をしてきたお陰で健康でいられることにしみじみとありがたみを感じる。
    あまり語られてこなかったけど、疫病は歴史を大きく変えるのだなと実感。コロナもその流れの一部なんだなぁ。

  •  生態系システムにおける人類と疫病のバランス、という視点で世界史を読み解く本作品。下巻では、モンゴル帝国が世界を席巻した紀元1200年頃から医療の発達が生態系に大きな影響を及ぼしている現代までを扱っている。

     学校で習った世界史と同様に、疫病の世界史においても過去から現在に向けて何かしら大きな不可逆な流れのようなものが感じられる。モンゴル帝国の勃興によってユーラシア大陸の東西が縮まり、大航海時代に新大陸が発見され、科学技術の発達によって輸送性能が格段に進歩したことで、地球は狭くなった。現代では、どこか世界の片隅で発生した疫病でさえ、あっという間に世界中に拡散していく。生態系はより複雑化して、影響しあう因子は無限大となり人智を超える。

     一時、人類の勝利を予感させた「医療技術と病気の競争」も、本書に書いてある通り「生態学的問題の常として、決着がつくことなどあり得ない」と認めざるをえない。それはここ数年の新型コロナの騒動を見れば明らかだろう。人類によって生態系のバランスが崩れれば、必ず生態系システムの側から干渉を受ける。そのことを改めて思い起こさせる一冊だった。

    おまけ:
    これもまた学校で歴史を学んだ時に同じように感じたことではあるが、本書でも「この疫病によって数十万人が死亡した」といった記述が終始繰り返されるので感覚が麻痺してしまいそうになる。死亡した無数の、無名の人間ひとりひとりが各々の人生を生き、そして病気に苦しみながら死んでいったことに思い至る時、その数の膨大さに頭がクラクラしてしまう。そして我々もまた世界史のほんの一部分であることを再認識して不思議な気持ちになる。

  • 【琉球大学附属図書館OPACリンク】
    https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BA84320482

  • 下巻は時代の下降とともに人口変化などのデータが増えてきて、より説得力が増す。と同時に、歴史上の出来事における疫病の与えた影響の大きさが感じられる。1500年代の新大陸に起きた出来事は圧巻の筆致。あっけなく侵略されてしまったのは、そういうことも要因だったのかと。
    今の時代に生きるありがたみを強く覚えた。

  • 何かしらの偶然でこの本を知り、読めた。本の価値とは決してボリュームではないことを確信できる。
    今までは「銃鉄病原菌」が最高と思ってきたが、マクニールの素晴らしさで目から鱗。
    中高で学んだ「歴史を塗り替える」とは戦争で打ち勝つこと、民族は前に進んで行ったという論理。

    だが、この本を読むと 救いのない大量の死は神の存在すらも排除。過去の事実のみならず、未来を予知しようとするとき、感染症の役割を除外しできない。如何なる社会的手法のレベルに関係なく、感染ウィルスの侵入に対し 人類は全く 脆弱な存在であるという事実は眼前たる事実。地球上に、たんぱく質物体が登場した後 人類に先駆けて活動を始めたウィルス。感染症は人類と共存し続けることは当然の理。かつてホーキングが「絶対に人類は未知との遭遇をしてはならない」と述べたことはむべなるかな。

    マラリア、ペスト、天然痘、結核、コレラ、梅毒。古来より疫病は、社会共同体の発生とともに常にあり、紀元前よりいくつものターニングポイントを記して来た。遊牧帝国の繁栄とペスト、中南米、新大陸を破滅させてきた侵略者の感染症。近代史の頁はハンセン症と共に開幕。
    コロナと酷似するスペイン風邪の記述が興味深い。
    モヘンジョダロ遺跡の分析から始まるインド。筆者のカースト制度の分析がことのほか面白く~
    「異なった免疫をもつ民族を支配下に入れた際に相互に安全な距離を保つために、接触をタブーとしたことに起因する」には唸らされた。
    今後も 人類が「寄生する形の生物の侵入に対し 極めて脆弱な存在である」点は変わらないと確信できた。

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