夜の公園 (中公文庫 か 57-5)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122051379

感想・レビュー・書評

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  • リリ35歳。世間で言う、恵まれた結婚をしている。が、最近夫の幸夫のことがあまり好きではないと気づく。例えば、夫のふとした仕草。髭を剃るその掌の動き、とか。たてる音。はっきりとした咳払い、とか、そういう感じ。
    リリは思う。そういうところが嫌いなのではない。幸夫を好きと信じてた頃はそれさえ愛していた、と。
    なんなんだこの感情は?幸夫にではなく自分に向かっている感情って。
    そんなころ、夜の公園をひとり歩くリリは、マウンテンバイクを飛ばしている9歳年下の暁と出会う。

    夫幸夫は、リリの親友春名の猛烈な押しで関係を持つようになる。ありえないな、春名という女性。親友の夫に会った瞬間に。「リリは春名のその目に気づいた」とある。
    しかも、春名は他にも複数の男性と関係を持つ。火中に身を投じるタイプなのでしょうか。

    沢山心にはまるところがあったが、あえて一番は、幸夫が一番なのはリリだというところ。
    リリ、君が私は好きなんだどうしてわかってくれないんだ。(心と体の求めるものは違う。)
    幸夫が泣くところがある。
    手を伸ばせば届きそうなところに幸せはあるのに、どうして、伝わらない。

    リリはなぜ親友春名にぶつからない?幸夫に問い詰めない?読んでいてもどかしくてしかたなかった。あるいは春名は幸夫がリリの夫じゃなかったら、魅力を感じた?誘惑した?

    不安、悲しみ、怒りや嫉妬そして喜び、それぞれの感情が入り混じっていた。
    これは、夫幸夫、恋人暁を通して、リリと春名の、理屈でなく切っても切れない友情が描いてあると思う。
    なぜなら、最後には、

    春名、リリは心の中で呼びかける。
    春名、あなたは今、さみしい?
    あなたにあえないことだけが少しだけ私、さみしい。

    最後に呼んでいるのは春名。

    最終的にリリは、「今わたしここにいる」と、ほろほろと流れる時間の中。
    子供を産むため、空をまっすぐに見上げ、リリは大きく強く、両の目を見開いた。

    リリと春名が同じ感情を抱え持っている。
    わたし、どうすればいいんだろう
    わたし、どこにいるんだろう
    わたし、どこに行くんだろう
    わたし、ここにいるんだろう
    という言葉。

    (私的に)あまり波がなく、それがここちよく、とても心に触れて綺麗なストーリーだと思いました。

  • こういう乾いた恋愛ものはとても好き。語弊があるかも知れないけれど、江國香織さんの世界観とも共通するものがあるように感じた。
    川上弘美さんの小説は私の場合、はまるものと世界が独特すぎてついていけないものに分かれる。この小説は完全に前者。

    主人公は35歳のリリ。主婦で、夫の幸夫がローンで買ったマンションに暮らし、申し分ない生活をしている。だけど毎日が、なんとなく退屈だ。
    幸夫は、リリの親友の春名と恋人関係にあり、リリもまた、マンション前の公園で知り合った9歳年下の暁と恋人関係にある。
    こんなにせまい人間関係のなかで、さらにあるひとつのつながりがある。

    リリはどことなく謎めいていて、感情をあまりおもてに出さない。幸夫のことを愛してはいないけれど、不満はないし、感謝はしている。春名との関係にも気づいているけれど、どちらにも何も言わない。
    暁と過ごすのはとても心地よい。でもどちらかというと、深みにはまっているのは暁のほう。
    春名はリリに対して申し訳なさを感じるものの、幸夫のことを愛してやまない。
    幸夫は春名との身体の相性を愛おしく感じているけれど、おそらく心底で愛しているのはリリだ。

    こんな世界観が、乾いた雰囲気で繰り広げられている。そんなにドラマティックではなく、淡々と日々は過ぎていくけれど、最初とは違う状況にそれぞれが変化して物語の終わりを迎える。そこからまた、変化の予感を感じさせつつ。

    欲求が薄い人間(この小説の場合は主人公のリリ)はある意味とても厄介な存在だと思った。何かを選択するとき、欲がないから、先のことも深く考えず選んで進んでしまう危うさがある。
    そういう風には生きられない人が大半だから、このリリという女性に嫉妬や羨望を感じてしまうのかもしれない。
    主人公が魅力的な小説はとても良い、と、常々感じている。

  •  章ごとに、リリ、幸夫、春名、暁と視点が移っていき、お互いが緩く関わり合いながらそれぞれの生活や将来を変化させていく話。
     全体を通して大きく視点が二周しており、一周目では四人全員の浮気現場がバレる同じ事件についてのそれぞれの視点だったが、二周目ではリリが離婚を決めたことを発端に章が進むごとに時間も進んでいっており、とても面白かった。物語の登場人物は、皆どこか自分の居場所に悩んでおり、どうしてここにいるかも分からないけど、それでも何かしらを求めて生きていく。薄暗く少しでも遠くにいる相手の顔などほとんど見えないが、近くを通り過ぎたり一緒に歩く時にはちょっとは、はっきりして見え、それでも離れれば分からなくなる最初に描写された「夜の公園」の散歩が、そのままこの小説のテーマなのかなと思った。
     文章に関しては章の登場人物ごとにイメージを変えており、春名は軽く幸夫はどろっとしているという風な印象を受けた。だからこそ川上弘美らしさを文章全体から感じることは少なかった。また、描写が素晴らしく、特にリリの妊娠が発覚した時やその後の決意の描写が好きだった。ただ、純文学なのでつっこむ方が野暮なのかもしれないが、最初の暁のナンパに乗るリリのシーンで、お互いの考えや心情などが全く分からず、動機が薄いように感じた。

  • 川上弘美さん。私が人生で一番尊敬している先生が好きな作家さん。そろそろ読んでみようと思って手にとった。
    四人の男女の、恋愛を中心にしたお話。
    前半から、すごくたんたんと出来事と感情がつづられていていた印象。ぜんぜん説明が少なくて、わからないところはまっすぐわからない、という感じ。
    ただ、ときおりすごく強い力でわたしの経験と感情をひっぱられる予感がした。しかし、そもそもしっかりと心を動かすには、私の人生経験が合わないんだろうなという印象。
    すごく理解できる人はすごく泣いてしまいそうと思った。
    まだわたしには早かったかも。

  • 人が人を好きになる不条理さやら切なさやら、息苦しいくらい読んで取れた。

    結局は誰も幸せになってない感じも、私独りよがりの感想なのかも。

    捉え方は複雑だけど、僕は胸に染みた、傑作だと思います。

  • たいくつ・・・

  • 関係する4人の視点から描きつつ少しずつ時系列が進んでいく。
    私としては、友人の夫に出会った時に恋をするのは考えられないなと思うけど、お話として感情の流れを感じながら面白く読んだ。

  • やっぱり川上弘美さん♡
    可愛いくて、おしとやかで、深い。
    心の動きが、私が普段使わない優美な言葉で描かれている。

  • 不倫関係のつながり
    ① 妻
    ② 夫
    ③ 妻の親友(独身)/ 夫の不倫相手
    ④ 妻の不倫相手 / ⑤の弟
    ④ 夫の友人(独身)/ ③の男友達
    ⑤ ③の男友達(独身)/ ④の兄
    ⑥ ③の男友達(独身)

    最終的に皆自分たちの居場所を見つけ出し始めて、これらのつながりは解消されていくところで物語は終了。
    登場人物の気持ちのうつろいや感情の揺れ動きを、作者はゆったりとした文体で丁寧に描写しているところが良かったです。

    物語はスリリングな展開はなく、波が打ち寄せてはかえるといった情景が浮かんでくるような、穏やかで平和な流れで構成されていました。

    文章の細やかな描写に惹かれ二度読みましたが、一度読んだだけでは登場人物たちの相関を理解できなかったのも事実です。

  • 久々に川上弘美さんの小説を読み、その表現力の高さに驚き、感動する。

    主人公はたまたま知り合った若い男と不倫をし、主人公の親友は、主人公の夫、主人公の不倫相手の兄、それからよくわからないけどもう1人の男性と少なくとも関係を持っている。

    泥沼でしかないのに、川上さんの手に掛かればもはやファンタジー。美しく清いとさえ感じる。

  • 不浄な妄想は、小説の世界くらい。実現はしないのだが、想像力を楽しむ権利は、侵されない。だから、登場人物に全く気持ちを重ねられない一面がありながら、だけど、そんな世界観を楽しむ自分がいる。味わっている、自分に気付かされる。こうした世界を不潔、と言ってしまう価値観の狭隘なことよ。ステキな、物語だった。

  • ゴーヤチャンプルーを作った翌日にたまたま手にとって読んでしまった。ゴーヤ炒めをスパムで作るとか通ではないか。
    しまった、ゴーヤ料理するたびこの物語を思い出してしまうよ。

    それぞれの配役、ドラマにするとしたら誰かな。
    春名は黒木メイサ、リリは比嘉愛未?う~ん、どうでしょう。

  • いとけない人、という表現がでてくる。知らないことば。ぐぐってみたら、汚れをしらない、あどけなさ、幼いはただ、歳が少ないに対して、純真さを持っている場合につかいますってでてきた。知らない言葉がまだまだあるものだ。いとけない

    とても好きな小説だった。みんながぐるぐるしてて、どうしていいかわからなくなってて、なのに冷静で。きっと現実ってこんなかんじ。いま、信じられないほど大好きな人との関係だっていつかは冷めてしまうかもしれない。とすると、やっぱり結婚てなんなんだろう。人は一人ひとり自由なのに、縛るなんて無意味すぎる。こどものためなのかな?うーん

    白骨温泉で読む

  • さらっとしたお話。

    どろどろした感情を抱えてるひともいるんだけど、それぞれが客観的でまるで自分の感情なのかそうでないのか、自分なのか他の誰かなのか分からなくなっている。

    でもふと自分のどうしようもない感情であることに気づく。

    冷たいけど冷たくない。

    感情が研ぎ澄まされすぎて逆に鈍感になってしまう。


    あのひとを好きじゃなくなった瞬間ってどんなだったのかもう思い出せないな。

    好きになった瞬間も然り。

  • 「夜」って雰囲気が,そこら中に漂っていました。

    いくら親しいと思っていても,そんな幻想はいつか呆気なく崩れていくもの。
    人との関係なんて,全ては自分の持つ幻。

    確かに存在するのは,感情を抜いた事実だけ。

  • なんというか、痺れる作品。
    感動で痺れた、ではなく、いや、凄く良かったので批判的な意味合いでもなく、じんじんとする感じ。
    「感じた」。

    4人の視点、4人の物語。1筋の時間軸。
    視点が違うと当然だけど、見方も変わって。でも話の筋は一緒で。
    いいや、高尚チックな感想でなく、
    こんなふうな人生体感したら、なんというか、いいな。
    色々物議を醸し出すだろうが、いいな。
    いい女たちの話だ。

  • 平たくいってしまえば普通の恋愛小説で不倫もの、だったんですが。う-ん、普通に面白く読めたけど、なんていうか、川上さんじゃなくてもこういう話書く人っているよね、というのが正直な感想です。作者名を伏せて読んだら、これが川上さんの作品だと気づかないんじゃないだろうかとふと思って。それは勿論私の文章に対する理解力が足りないのかもしれませんが、たとえばマンガだと、知っている作家さんなら大概一目見て「◯◯さんの絵だ」ってわかりますよね。でも小説って、活字って、文章だけ読んで作者名を当てることって、結構難しいんじゃないかと思うのです。よっぽど町田康みたいな文体の人なら別ですけど(笑)。そういう風に考えた時に、私が思う川上さんの文体とか作風、好きだと思う部分、個性とかが、この作品にはあんまりなかったのかなと思いました。

  • 川上作品にしては、すきじゃない。
    なかなか進まなかったし、結構どうしようもない話。

  • 2009.8

  • 親しい友だちの夫と不倫をするという
    すごく嫌な物語のはずなのに、禍々しい気持ちにならずにわりと爽やかに読めた、不思議。

    それぞれ4人の視点で読み進めていく

    みんな結局好きや嫌いの線引きが曖昧な気がする
    この人のここが好きだったと思うのに
    いや、この人のどこが好きだったのか
    お互い不倫しまくりなのに
    修羅場なんぞなく、それはそれで寂しさを感じる

    結局最後は親友同士だけがお互いを忘れずにいる
    この友情とはなんぞや

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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