生きる歓び (中公文庫 ほ 12-11)

著者 :
  • 中央公論新社
3.24
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122051515

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  • 前半の『生きる歓び』は、病気の子猫を拾ったことをきっかけに生きることについて考えた小説家の独り言のような話。『生命にとっては「生きる」ことはそのまま「歓び」であり「善」なのだ。』ということらしいけど、残念ながらいまいち私にはその感覚は分からない。けれど小説内で触れられている草間彌生のように、生まれ持った性質ゆえに生きるのが格段にしんどい人にもそういう考え方を持つ人がいることはとても興味深い。なぜそういう考え方に辿りつくのだろうか。自分の生との向き合い方が違うのだろうか。この疑問は実はこの小説を読む前から気にかかっていることなのだが、答えはまだ分かりそうにない。

    後半の『小実昌さんのこと』は一応小説であるらしいのだが、ほとんどエッセイのように感じられた。小実昌さんというのは保坂さんが親しくしていた小説家・田中小実昌のことだそうだ。保坂さんのものの見方、なかでも小説の見方が素直に伝わってきて面白かった。『小説とか芸術というのは、「ビョーキの産物」なのだ。』という説明はすごくしっくりきた。

  • 「生きる歓び」「小実昌さんのこと」の2編収録。
    「小実昌さんのこと」に橋本治に恋愛論の講演を依頼したエピソードが出ているけれど(後に本にもなってて読んだのに、あんまり覚えてない)、そういえば橋本治も『生きる歓び』という同名の小説(短編集)を出していたっけ。近々、ちょっと読み返したいかも(やはりあまり覚えていない)。誕生日のお祝いにもらったんだよな。

    P57 死ぬというのは「やっぱりなあ……」と思う。「やっぱり」のあとに何がつづくのが一番いいのかわからないけれど、つまりは生きている側から一方的に輪郭を与えられてしまう。

    P101 八八年のバブルの真っ最中にぼくは、ビジネスマン向けの講座で「組織の原理と<私>の根拠」というのを作った。人は組織の中でアイデンティティを見つけているけれど、いつか人は組織と離れなければならない。だから<私>の根拠というのを組織と離れたところで探す必要がある、というものだったがバブル景気の真っ最中では見向きもされなかった。でも人っていうのはそういうもので、いいときには内面的なものなんか見向きもしない。

    P156 蓮の葉の朝露の一滴が世界を映すように、一人が誠実に問いかけるプロセスがつまりは人間全体の営為のことで、それはもう形を必要としない。だから田中小実昌でなく誰でも誠実に問いかけるプロセスをこの世界に刻み付けることができる。ただそれを知る段階の一つとして、人は書かれた言葉つまり小説を必要とする。

  • 片目のニャンコの話はよかったが、次の話はついていけなかった。

  • 2011,11,13購入。以前読んだ。

  • まず、作品に出てくる左目が見えない拾われてきた猫のモデルなのであろう表紙でやられ、次にもったりとした時間の流れに懐かしさというか既視感のようなものが。
    この人の作品を読むと、読書とは、何か知識を得るものでも、さっさと読み終えることでもテーマを理解することでもなく、作品内に流れる時間にたゆたうことなのだなあ、と思います。
    そして、俯瞰では見えないもの。

  • 09/06/24読了。

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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