いつもと同じ春 (中公文庫 つ 18-3)

著者 : 辻井喬

• 中央公論新社 (2009年10月24日発売)

感想・レビュー・書評

[tikuoさんの感想 · 2022年1月27日]

百貨店チェーンの社長の息子、西垣順造は亡くなった父浩造の跡を継いで社長に就任する。詩人として特に経営の才を自覚していなかったが、それなりに会社は回っていくが、妹の久美子の離婚、甥の問題、そしてフランスで起こした久美子のカジノ失敗の裁判などが襲いかかってくる。

企業小説というほど企業の話ではなく、西垣家の家族それぞれの問題であり葛藤や衝突を描いた人間ドラマである。

ストーリーは時系列順に進むわけではなく、私こと順造の回想の中で引き出されていくわけで、父浩造が行きていたり死んでいたり、問題の充郎が大きかったり小さかったりする。

自分以外、母、久美子、林田、充郎、君子と、攻撃的で主張の強い人達に押し出されるように絡み進んでいく人生で、読む方としても仕方がないなあという気分で流れていく。

全体に言い訳がましい順造のネチネチとした思考と、まわりの人間の状況も進んでいるのか進んでいないのかわかりにくいことで、わかるけど読みにくく、なかなか進まない小説だ。政治献金で問題視されて吊るし上げられたりもしない。

読みにくいと言いつつも、きちんとメインの家族の話は残っているのだから、それなりに良くできてはいるのだろう。ただ、これから読もうっていう人には、違うのにしとけば?と言ってしまうかな。

不勉強にて知らなかったのだが、西武グループの元会長、堤清二のペンネームが辻井喬なんだな。だとすると、百貨店の社長が大事件に巻き込まれたりはできないのか。

[gosplanさんの感想 · 2011年2月20日]

単行本で既読。

著者プロフィール

小説家、詩人。元セゾングループ代表。著者に『茜色の空』など。

「2010年 『大澤真幸THINKING「O」第4号』 で使われていた紹介文から引用しています。」