戦時演芸慰問団「わらわし隊」の記録: 芸人たちが見た日中戦争 (中公文庫 は 56-3)
- 中央公論新社 (2010年7月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (395ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122053458
作品紹介・あらすじ
日中戦争中に戦地に派遣された慰問団「わらわし隊」。埋もれていた資料や元兵士の証言を元にその実態を浮き彫りにしつつ、慰問団が見た「南京」や「慰安婦」等、今も論争が続く一連の問題にも一石をじた力作ルポルタージュ。
感想・レビュー・書評
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戦前の吉本、ミスワカナや花菱アチャコなんていう芸人を知っているだろうか?私は全く知らなかったし、戦時中にわらわし隊という慰問団があった事も初めて知った。だからこそ、本を読んでまた、思考に広がりを得られたような気がしている。
戦争を笑いという、新たな視点で切り抜いた一冊である。確かに、戦い、殺し合う軍人も人間なのだ。
一点だけ。作中、南京で作者が謝罪を迫られるシーンがあり、それに対し、現代の自分は責任を負わずと書いている。それはその通りなのだが、日本人であるからには、歴々と積み上げた日本人たる誇りを持つなら、責任も持たなければならない。企業が不正を働いた過去があり、自分はその後に入社した社員だから、過去の不始末は知らないとは言えない。迷惑をかけた客に対し、自分はその時には居なかったが、会社は申し訳なかったというべきだ。悪い事をしたか否か、戦争だから両成敗という見方もある。しかし、そういう時代だから仕方ないとか、本著に出てくるようなお前の国も虐殺しているだろう、という反論は間違っている。真実を見つめ、態度を決めなければならない。自虐史観は間違っているが、正当化に偏重し過ぎるのも、困り物である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
渡り来てうき世の橋を眺むればさても危うく過ぎしものかな
秋田 実
日中戦争下の1938年、中国大陸に駐留する兵士のため、朝日新聞社は演芸慰問団を組織した。吉本興業が全面協力し、国民もまた、寄付というかたちで派遣資金の一部を支えた。
その慰問団の名は、「わらわし隊」。当時の航空隊「荒鷲【あらわし】隊」をもじったネーミングという。名付け親は、吉本興業の社員や、掲出歌の作者、漫才作者の秋田実らと言われている。
第1回の派遣先は、中国大陸北部と中部。隊長には、「兵隊落語」で人気を博した柳家金語楼が選ばれた。ほか、花菱アチャコ、横山エンタツ、夫婦漫才の玉松一郎、ミスワカナら、トップスターが海を渡った。
38年1月下旬、中部班は南京に滞在。多くの中国人民が残虐な事件にあったと伝えられている時期である。だが、早坂隆の著書によると、南京駐留部隊の半数以上が「わらわし隊」の舞台に見入っていたと記されている。謎は残されたままだ。
さて、秋田実が台本を手掛けたミスワカナは、戦時下の「泣かせる漫才」でいっそう人々の心をとらえていた。当時のレコードを聴くと、声質がまず魅力的だ。さらに、各地の方言や外国語を巧みに織り込んだしゃべりも見事。つい、聞き入ってしまう。
そんな彼女だが、帰国後は覚せい剤「ヒロポン」(当時は合法)を使うようになり、その影響もあったのか、戦後まもなく、享年36という若さで急死。「うき世の橋」に足がすくんだ1人だったのかもしれない。
(2013年8月11日掲載) -
単行本で既読。