良いおっぱい悪いおっぱい 完全版 (中公文庫 い 110-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053557

作品紹介・あらすじ

一世を風靡した名エッセイ『良いおっぱい悪いおっぱい』に、三人の子を産み育て、二十五年の人生経験を積んでパワーアップした伊藤比呂美が大幅加筆。若さあふれる文章はほぼそのままに、各編ごとのコラムで未来からの補完を試みます。

感想・レビュー・書評

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  • 妊娠してから、文筆家の妊娠・出産にまつわるエッセイや体験談の本を何冊か読んだが、この本が飛び抜けて秀逸で素晴らしいと思った。

    自分がした体験を、ただつらつらと説明するのではなく、自分のことばで解釈を交えて表現する。ことばを生み出すってこういうことか!と納得しきりで、爽快で天晴の連続だった。
    若い、生きた生々しいことばで気取らずそのまま勢いよく飛び出してきたことばたちを、25年の時を経て、その後二回の妊娠出産産後を経験した著者が改めて振り返るパートも素晴らしい。
    「胎児はウンコである」という秀逸な表現は、ただ奇を衒っているのではなく実感と本気がにじみ出るが、それをさらに25年後の伊藤さんが追記する。

    誰もがSNSなどで自分のことを発信できる今、いろいろな人の分娩体験を擬似体験することはいくらでも可能になったが、文筆家が文筆家たる由縁はここにあり。こういう、自分にしかできない体験の記録を表現していきたいと心から思って感動した。この方の本をもっと読みたい。

    ―――――――――――――――――
    分娩とは、数年にいっぺんくらいのとびっきりのオーガズムに数年にいっぺんくらいのとびっきりの排便を足して二乗か三乗したようなものである、と。オーガズムよりも、排便よりも、もっとずっと強くて、積極的で、痛くて、そして究極の「非日常」です。(92)

    よく妊娠は病気じゃないんだから、と言われますが、今は妊婦はほとんど病気なのです。―――しかし、病気、この甘美な体験を楽しむべきです。癌やなにかとはちがって、確実に治る病気です。しかも一人一人の経緯がたいてい同じような経緯であり、つまり誰もがだんだん腹が膨れて、だれもが太ってきて、そのうちに十何時間かの激痛があって、腹の中身が出てしまえば、激痛はけろりと収まり、腹のふくれも一応なくなります。それでこの病気はおしまい。後に後遺症としての乳房の腫れが残りますが、さいわいそれを吸ってらくにしてくれるイキモノが自分のものになります。そして病人だから家事一切夫の助けが大っぴらに必要だし、他人も親切に扱ってくれるし、まるで幼児だったころの蝶よ花よがふたたび自分の手に戻ってきたみたいです。(199)

  • おぉ、これが、ここから育児エッセイが始まった!と言われる(#^.^#)「良いおっぱい 悪いおっぱい」なんですね。今、25年後の比呂美さんの加筆を入れての復刻です。.


    このオリジナル版、当時、巷で話題になっているのはもちろん知っていたし、自分の気が楽になるための育児書は読み漁っていた記憶もあるのだけど、

    (当時の愛読書は松田道雄「私は二歳」、懐かしいなぁ、お世話になった!! あとは「スポック博士の育児書」かな。これはいいとこ取りでその都度、ヘルプになりそうなところだけ読んでたような)

    たぶん、比呂美さんのエネルギーになぎ倒されちゃうじゃないかな、みたいな気がして手に取れなかった気がします。
    なにしろ、あのころは毎日がジェットコースター。二人の娘を無事に大きくするために、もういっぱいいっぱいだった・・・。なんであんなに余裕がなかったんだろう、と今になってみれば思えるけど、でも、あれはあれで私の精一杯だったんだよね。

    で、「良いおっぱい 悪いおっぱい」なのだけど、そっか、こういう展開のエッセイだったのね、と、うんうん、これはかなり世の新米ママの救いになっていたと思うよ!と納得。

    図解入りの(#^.^#)産後の体や、授乳やおむつ替えなどのハウツーものから、あたふたする母親の心持ちなど、一冊で二度美味しいみたいな構成に加えて、日々の「がさつ、ぐうたら、ずぼら」を提唱するというありがたさ。(#^.^#)
    我が子をもちろん可愛がってはいるのだけど、母性を無条件に備わったもととはみなさず、育児を面白がったり、時にイラつく自分をも見せてくれたり。

    そして、あのころ、何がなんでも母乳、みたいな風潮があった中、そして、比呂美さんも豊富におっぱいが出る体質でありながら、

    母乳の悪い点 として

    「母親のおっぱいファシズム」を挙げておられるところが、なんていうか男前(#^.^#)で気持ちいい。
    自分がおっぱいをやる育児を実践するだけではなく、あれこれの事情でおっぱい育児ができない人を育児失格者のようにみなすことがある・・・??という話には、これってあらゆることに通じる話だよね、と。

    そして、加筆されているのは、そんなご自分を25年後の比呂美さんが見て、なんて言葉が足りなかったんだろう、とか、思いやりがなかった、とかの思い。

    育児期間中の母親は、ご自分でも言われているようにかなり高揚してしまうものですから、それはいわゆる“若気のいたり”ということなんだけど、その加筆がある、ということで安心して手にとれた私のような遅れてきた読者もいたわけです。

    うん、面白かった。(#^.^#)
    渦中の私には案外楽しめなかったエッセイかもしれないなぁ、と感じつつ、(なんでだろ、あらゆる刺激物がダメ、という時代だったのかも)娘たちが就職や進学で家を離れた今、あはは・・とこの
    エッセイを読める幸せ(汗)が嬉しいです。

    • たまもひさん
      松田道雄「私は二歳」!! うーん、懐かしい!
      私はこれと、かの名著「育児の百科」を、ちょうど同じ頃出産した友人とともに「バイブル」と呼んで、...
      松田道雄「私は二歳」!! うーん、懐かしい!
      私はこれと、かの名著「育児の百科」を、ちょうど同じ頃出産した友人とともに「バイブル」と呼んで、本当に頼りにしていました。
      今も本棚の特等席に置いてあるこの本を見るたびに、もう無我夢中で悪戦苦闘していた頃を思い出します。
      「遅れてきた読者」、なかなか良い響きですねえ。
      2013/08/27
    • じゅんさん
      たまもひ様
      おぉ、たまもひさんも「私は二歳」仲間でしたか。
      (#^.^#) うんうん、私にもまさにバイブルでした。何もわからない新米ママには...
      たまもひ様
      おぉ、たまもひさんも「私は二歳」仲間でしたか。
      (#^.^#) うんうん、私にもまさにバイブルでした。何もわからない新米ママには余白のある落ち着いた語り口が嬉しかったんですね。
      育児書を読み物として読める年になったんだなぁ、それも悪くないなぁ、なんて思ってます。
      2013/08/27
  • イラストがとってもかわいい。伊藤さんの感性は、9割方私と違うが、ときどきどきっとするほど刺さるような感覚もある。

    ・痛いのは産婦ひとりです→身もふたもないけど、事実だなぁ。
    ・中期はまさに、母乳哺育の黄金期。新興宗教の教祖様的高揚。→言い得て妙。

  • 広く育児の共感をよぶ内容かと思いきや、かの子語の考察など、存分にヒロミワールドだった。これは並大抵の母では書けない内容だと思った。

  • 出産後間もなくに一気に読了。
    あぁ、今おっぱいファシズムだな、私。と実感しながら読む。現在進行形で子育て中なので、共感する部分が多く、巻末の産みます育てますはまさにそんな感じ。

  • 独特な感性と言葉遣いで、これまで読んだ妊娠・出産エッセイよりも人間を産み育てるということを生々しく感じました。お産のシーンは何故だかやっぱり涙が出てしまいました。恐怖や不安とはまた違って、産むという行為に対する畏怖、謎の高揚感が胸いっぱいに迫り上がってきて自然に涙が出てしまう。自分の時もそうなんだろうか。いずれにせよ、私もエッセイまでいかずとも振り返り用の日記は書けるくらい、アカンボという生き物を楽しみたい!合言葉!「がさつ、ぐうたら、ずぼら」これをきちっと押さえる。最終目標は「コドモを生かしておくこと」

  • あまり好きでない。
    内容が少し下品。
    さらには時代的にも古い。
    昔は一世を風靡したらしい…

  • あっけらかん。

  • 妊娠中に手に取ったときは、
    なんだか積読しちゃったんですが、
    生後5ヶ月の今一気に読了。

    エッセイってやっぱり共感できるかどうかが、
    面白いと感じるかどうかのポイントなんだと改めて実感。
    出産前後で、女性は明らかに違う生き物に進化すると思う。

    *授乳中期の新興宗教の教祖的高揚感
    *育児のやり方は時代によって猫の目の様にくるくる変わる
    *大事なのは「がさつ、ぐうたら、ずぼら」

    変に理想をいうわけでもなく、
    私はこうでしたよーっていうのを包み隠さず書き、
    そしてすでに子供は立派に成人済みという安心感。

    妊娠中に買って、産後読むと救われるよっていう、
    そういう本としてお勧めしたいです。

  • 妊娠本その2。赤裸々なヒロミ先生節に、またまた一気読み。ヒロミ先生じゃなければちょっとハンドル切ってしまいそうな表現も、御構いなしに突っ走ってくれることが、「母性愛」という突き抜けたものの正体を垣間見せてくれる感じでした。あーこっから「カノコ殺し」が生まれるんだー、って妙に納得した。そしてこのとんでもない世界に片足突っ込んでる自分が恐ろしくもあり、誇らしくもあり。ぜひ改訂前のも読みたい。

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著者プロフィール

伊藤比呂美
1955年、東京都生まれ。詩人。78年に現代詩手帖賞を受賞してデビュー。80年代の女性詩人ブームをリードし、『良いおっぱい 悪いおっぱい』にはじまる一連のシリーズで「育児エッセイ」という分野を開拓。「女の生」に寄り添い、独自の文学に昇華する創作姿勢が共感を呼び、人生相談の回答者としても長年の支持を得る。米国・カリフォルニアと熊本を往復しながら活動を続け、介護や老い、死を見つめた『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(萩原朔太郎賞、紫式部文学賞受賞)『犬心』『閉経記』『父の生きる』、お経の現代語訳に取り組んだ『読み解き「般若心経」』『たどたどしく声に出して読む歎異抄』を刊行。2018年より熊本に拠点を移す。その他の著書に『切腹考』『たそがれてゆく子さん』『道行きや』などがある。

「2022年 『伊藤ふきげん製作所』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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