中国史の名君と宰相 (中公文庫)

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著者 : 宮崎市定
制作 : 礪波 護 
  • 中央公論新社 (2011年11月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122055704

中国史の名君と宰相 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

  • 2011年刊行。東洋史の大家が、中国各王朝の特筆すべき宰相・臣下・助言者(ただし、孔子までも対象とするのでかなり広範囲)を軸としてその隠れた実像・歴史的意味を明らかにする。元の論文にはかなり古いものも含む。特に、南宋末の賈似道、五代における晋陽の李氏(軍閥資本家)は、大王朝の記述ではなく、戦乱期の一般にあまり描かれることが少ない時代のことなので、当該時代相を知るには有益であった。まぁ、記録が残存していないことや判らないことを何の衒いもなく素直に開陳できる著者には感服。機会があれば、再読したい。

  • 「張溥とその時代ーー明末における一郷紳の生涯」(1974年)が入っていたので買っておいた。以前、全集で読んだ気がするが、たぶん身を入れて読まなかったから、ほとんど初めて読む感じだった。張溥(ちょう・ふ)は崇禎年間、つまり、明の滅亡がせまる時代、「復社」という文人のサークルをつくった蘇州の郷紳である。「はるかに朝柄をとる」と言われ、中央の人事にも容喙するほど影響力があった。「郷紳」というのは、要するに地方地主で読書人である。地主として郷里で横暴もするが、同時に地方官にも圧力を加え、弱きを助けることもずいぶんした。明末の結社といえば万暦・天啓のころに宦官と対立した「東林党」が有名だ。こうした宦官と官僚のというのは、どっちもどっちなのである。官僚は分別があって優秀な反面、プライドが高く議論百出でなかなか事が運ばない。宦官は皇帝の家内奴隷であるがゆえに動きが機敏で良し悪しもわきまえず大胆に行動した。ついでにしっかり自分の懐を肥やす。いまでこそ「政党」の結成を高らかに記者発表などするが、中国の旧体制では「党」というのは悪人につけるレッテルだった。臣下が徒党を組んで、皇帝を強いるなんてのは許されないことで、「党人」というのは「アカ」とか「国家転覆罪」と同じ扱いである。「東林党」は顧憲成という人が、「東林書院」(宋の楊時が無錫に建てた学校)を復興し、学問のついでに政治的言論をやったサロンである。いわば、一種の「世論」だったが、やったことは皇帝をめぐる陰謀の弾劾とか、宰相の弾劾とかで、要するに庶民に関係ないことを議論し、社会改善には役に立たないものだった。それで、自派の派閥の利益を追求し、なんといっても口うるさいから、皇帝の威を借りる宦官に攻撃される。しかし、「東林党」は高官がメンバーであっただけに横の連帯もよわく、組織の体をなしていなかった。一方、宦官は秘密警察を掌握して地方にまで手下がおり、組織としては断然機能的だった。官僚のお友達サークルなんて敵じゃないのである。「東林党」の弾圧では投獄され死ぬ者もでた。だが、「東林党」のあとにでた「復社」はちがった。「復社」は古学復興をめざす、科挙浪人たちの文社で、表向きは学問のサロン、試験にうかる文章の書き方を勉強していた。なんだが冴えない予備校生の集団だと思うかもしれないが、そんなにおとなしい人々ではない。張溥は文章がうまく、各地にあった「幾社」、「応社」などの文社を糾合、数千人規模の「大会」をやって文章をあつめ、文集を出版してデモンストレーション、試験官に無言の圧力をかけた。また、復社のリーダーたちは個人的に高官と密談・贈賄し、めぼしい「社員」の文集を試験官に渡して、及第工作も行った。さらに各地に「社長」をおき、民間の「報房」(郵便局)をつかったり、禁制の「私駅」を作ったりし、独自の情報網をもった。商人・俳優・無頼の徒とも連携し、実働部隊ももっていた。こうした情報網は高官の足をひっぱるのに使われ、地方官の頃にやった不正を暴いて中央のシンパに弾劾させたり、抜擢人事があると身元を調査して欠点をあばきたてたりした。現在のネット右翼やブロガーに近い。実働部隊には敵対派閥の地方官をボイコットさせたりした。高官たちも攻撃されたらたまらないし、復社出身の有能な若手を敵にまわすとまずいから、おもねって協力した者も多かった。子孫を科挙に受からせたい家からも献金があり、批判されたら自派の官僚を大学士にして、もみ消すこともできた。張溥は、宮崎氏によれば、年齢をごまかしていたらしいが、なんとか進士になり庶吉士(国家ブレーンの候補)になる。しかし、生意気な言動がめだち、さっそく大学士(宰相)の温体仁と対立、さっさと帰郷し民間から朝廷をコントロールした。嫡出子ではなかったらしく、幼いころ自分をないがしろにした使用人を権力掌握後に抹殺させて... 続きを読む

  • 東洋史の泰斗宮崎市定氏の、皇帝、宰相、資本家、儒家など、人物に焦点を当てたエッセイや論文がまとめられている。人物事典の記述であったり、本格的な論文であったり、毛色の違うものが集められているので、全体として散漫な印象も受けるが、どれも軽妙洒脱な名文ばかりである。本書は、もちろん内容も興味深いが、硬軟様々なタイプの文章が集められているので、宮崎氏の名文を味わうという点でも楽しめる。以下、いくつか興味をひいた項目を書き連ねてみる。
    「清の雍正帝」は、人物事典の抜粋であるが、名著『雍正帝』のエッセンスが凝縮されている。「南宋末の宰相賈似道」は、宮崎氏の卒業論文をもとにした論文であり、その水準の高さに驚く。「宋江は二人いたか」は、史料批判をしながら問いに対する答えを探っていくという歴史学論文の手本のような論文。「藍鼎元(鹿洲公案 発端)」は、史料の現代語訳かと思われるが、小説のようで仕立てで面白い。「孔子」は、孔子自身についてよりも、孔子が後世にどう評価されてきたかを中心に書かれているが、「政治家」としての孔子、「教育者」としての孔子という二つの見方の相克がわかって興味深かった。

  • 秦から清まで(少しだけ汪兆銘にも触れられているが)、タイトルにある皇帝と宰相にとどまらず資本家や地方官、文人も含んだ人物伝。それぞれ別の機会に発表された論文のまとめであり、皇帝から一般にはマイナーな人物まで含むので一冊としてのまとまりは感じにくいが、興味のあるところだけつまみ食いしてもいい。興味深かった点は以下のとおり。

    ・雍正帝の治世は16年とその前後に比べて短いが、筆者は単著も出しており、好んでいるようだ。この時代は、満州族本来の「素朴な戦士」と中国化した「文明人」両者の気質を併せ持ち、また雍正帝自身は地方官に公式報告書とは別に個人として上級官庁を経由せずに皇帝宛文書を提出させ、また皇帝自身もコメントを入れて返すことで地方の実態把握に努めたこと。
    ・五代の宰相馮道は六世十二君に仕え、次の宋代では不忠だと批判されたが、自身は「国に忠」だと言い実際に人民によく尽くしていたとのこと。国民党軍が退却した後に日本軍と中国人民の間を取り持った汪兆銘も同様ではないか。

  • 漢文の書き下し文にも似た文体、その調べに流し読みを許さぬ格調がある。
    少し長編の「南宋末の宰相賈似道」と「張溥とその時代」がさすがに興味深く読ませる。
    最後の「石濤小伝」、揚州八怪の源流ともなったという石濤という画僧に関心が惹かれた。
    以前に読んだ「アジア史論」を再読してみたくなった‥。

  • 2011/11/28:取り上げられている人の順番や文章の書き方にばらつき(例として引用の書き下し文が脚注になっていたり、本文に多用されていたりなど)があり、また私が不勉強なこともありますが知らない人も多く、非常に読み進みにくかったです。

  •  事典の原稿だったため全集に採録されなかった,孔子,始皇帝,漢の武帝,煬帝,雍正帝,李斯の伝記(各10頁弱)をはじめ,戦前の卒論でやった南宋末の宰相賈似道,水滸伝に登場する宋江などが取り上げられてる。
     始皇帝死後の,李斯と趙高の陰謀成功ってのは事実なのかな?死を隠して長子扶蘇と政敵蒙恬を自殺させ,遺詔を捏造して弟の胡亥を建てる。
     まあ事実かどうかはともかく,永いことこれが事実と信じられて参考にされてきたことの方が重要なんだよね。伝説や虚構も含めて中国の歴史。
     雍正帝の在位は十四年。それぞれ六十年を超える康煕と乾隆に挟まれて目立たないが,重要な時代。行政改革で軍機処をつくり,寝る間も惜しんで働いた。お家騒動を防ぐ「太子密建の法」も雍正帝が始めた。いやあ,名君だな。
     多くの朝廷に仕えた五代の風見鶏宰相,馮道。汪兆銘との共通点を指摘して結構評価している。汪兆銘は,南京国民政府設立で革命家としての経歴を台無しにしたとされるが,与えられた状況の中で最善を尽くしたはず。
     著者の生きた時代が文章に反映してるなと思った。収録されている文章の多くは改革開放前のもの。孔子についても,批林批孔と絡めて,毀誉褒貶が時代に応じて激変することが指摘される。意外と平凡な人物だったのが,次第に神格化されたり,一転貶められたり。歴史とはかようなものなのだ,たぶん。

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中国史の名君と宰相 (中公文庫)の作品紹介

古代の始皇帝・李斯から近世の雍正帝、近代の汪兆銘まで、中国史を語るのに欠かせない名君・宰相・文人等の生涯を、博学を生かした達意の文章で紹介しつつ、各時代の特質を浮き彫りにした人物伝。

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