みちのくの人形たち (中公文庫)

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著者 : 深沢七郎
  • 中央公論新社 (2012年5月23日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122056442

みちのくの人形たち (中公文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 不思議な文体に、うねうねと続くトンネルを這っていくような気持ちがした。
    ほの暗い、それでいて湿り気のある、長くて細いトンネル。そこを進んでいくのは、まるで胎内めぐりをしているかのようだ。

    収録されている短編はどれも土着的な色合いが濃く、直接的にはそれらに関係のなさそうな短編でも、不思議と土の匂いがする。
    私は特に、「秘戯」にもっとも打たれた。どぎつくて、生々しくて、それでいて悲しい、とても好みの短編だったと思う。

    しかし、どうしてこう、土俗的な話というのは恐ろしいものが多いんでしょうねぇ。

  • 深沢七郎の名作『楢山節考』を読んだのはたぶん高校生の頃で、よく覚えていない。その後見た映画版のほうが印象に残っているくらいだ。
     しかし深沢七郎はどうやら「奇妙な作家」ということで他にも面白い小説をたくさん書いているらしいことは知っていた。
     ようやく43歳を目前にして読んだこの短編集、実に面白い。
     表題作の冒頭から、とにかく特異な文体にめまいを覚える。文法的にもなんか妙なところがあるし、「・・・なのだ」という文末が変なタイミングで執拗に出てくる。一体、こんなふうにしゃべる日本人がいるのか? これは異邦人の言語、ねじこまれ変容した日本語である。
     そんな独特な語り口に乗せられながら、『楢山節考』同様に、奇怪な虚構の民俗誌をえがきだすのが「みちのくの人形たち」。それは世俗的、民衆的で、残酷かつ、人間社会なるものの形態の根源を窺わせるような、異質なフォークロア世界を現前させる。実に見事だ。
     つづく「秘戯」「アラビア狂想曲」「をんな曼荼羅」も特異な文体でぐんぐんと異様な世界に入っていく。印象深い作品群だ。
     著者のえがきだす土俗的世界は虚構なのだが、不思議なリアリティーを獲得している。一切「論じる」ことも「歌う」こともせず、余計な情緒性も排し、異様な文体でうねうねと穴の底へと突き進んでゆく。深沢七郎は異貌の語り部とでも呼べる存在である。
     しかし「『破れ草紙』に拠るレポート」では文体が一変、とても「普通」のものになる。この本に収められた短編は全部昭和54年から55年の作品で、作風の変化とかいうことではない。では、「みちのく」「秘戯」等に見られたあの変な文体は、完全に意識的なものだということだ。
     芸術作品という観点から言うと、深沢七郎のこれら短編はかなり逸脱しており、そういう基準からははみ出してしまうモンスター的な実存である。おもしろい。また深沢七郎を読んでみよう。

  • 『洋子さんの本棚』で紹介されていて興味が沸いたので早速。深沢七郎って読んだことなかったっけ、何書いた人だっけと思ったら『楢山節考』の人だった。映画化された頃に家族の誰かが買ってきた原作が家にあって読んだような記憶が微かにあるのだけど、なにせ当時は「こわがり」の子供だったので、ちゃんと最後まで読んだのかどうか自信がない。(※当時、姥捨ては一種の怪談だと思ってました)まあそれはさておき。

    表題作は、東北のある田舎の出身の人から、百人一首にもある「みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに」の歌に出てくる「もぢずり」の花(ネジバナの別名らしい)を見せたいと誘われてそこへ出かけた老作家が、思いがけず目にした奇妙な風習の話。「旦那さま」と呼ばれるその家では、産婆であった先祖代々、出産の際に部屋を仕切る「屏風」を貸し出しており、それを逆さに立てた場合は生まれた赤ん坊を死産とする(つまり殺してしまい、なかったことにする)という暗黙の了解がある。堕胎に手を貸した罪を悔いて自らの両腕を切断した産婆の仏像、それがやがて「こけし」の姿と重なる、というおどろおどろしいオチ。「こけし」の語源が「子消し」だというのは実は民俗学的には根拠のない都市伝説だそうですが、貧しい東北の村で子供を間引いたことは多々あっただろうから、こんな風習ももしかして本当にあったかもしれないと思わされてしまう。

    「秘戯」も同系統の話で、かつて住んだことのある博多に息子らを連れて出かけた主人公が、当時の仲間と再会、彼らには「人形」にまつわるある秘密が・・・というもの。「みちのく~」同様、本当にこういう秘密の風習(博多人形の裏側にこっそり春画の細工をしておくような)があるのかも、と信じそうになってしまうところが秀逸。きっと作者の創作だと思うのだけど。

    「アラビア狂想曲」は、国籍不明の変なあだ名の村人たちが大勢出てきて、一見日本の昔話風の雰囲気なのだけど、終盤「しゃれこうべの丘」が出てきたあたりから「おや?」と思っていたら、磔にされた死刑囚が蘇って・・・ってつまりその話は。そういえばゴルゴタって確か髑髏=しゃれこうべの意味だったっけ。

    全体的に民俗学的な要素がちりばめられていて(でも創作なのだろうけど)面白かった。

    ※収録作品
    みちのくの人形たち/秘戯/アラビア狂想曲/をんな曼陀羅/『破れ草紙』に拠るレポート/和人のユーカラ/いろひめの水

  • 養老孟司の身体の文学史で紹介されていて、面白そうだったので読んでみました。
    楢山節考が『姥捨山』の話ならば、みちのくの人形たちは『間引き』のお話。この本を読んで感じたのは、人工中絶は善か悪か、という論争より、生きることそのものが罪深いことだということです。
    生きることにやましさを感じたい人におススメの一品。
    日本文学には民主主義とか西洋のモノマネだけでなく、こういう価値観を大切にしていってほしいと思いました。

    性的な男の遊びを扱いながら、優しさが漂う『秘戯』には
    作者の芸術の理想を感じることができました。
    世間が憚るようなことを包み隠さず表現するということで、
    深沢七郎の小説も『秘戯』に他ならないでしょう。

    ほか、
    『アラビア狂想曲』も、コミカルなタッチで重苦しい現実を描いていておもしろかったです。

  • 何気なく手にとり読み始めたらとまらない。

    ―――

    もうすぐ読了。今までの短編、すべて不思議な読後感。ひとつ気づいたのは、読み終わったあとで、作品は分析されるのを拒む、というか、そもそも分析しようとするとこう、身をよじって逃げてしまう。けれども、ものすごい濃密な「体験」をしたという後味だけは残っていて、それが何だったか思い出せず、当惑してしまう。すばらしい、と断言できるのだけれど、いざ誰かに向かって断言しようとすると、とたんに自信がなくなる。

    ―――
    読了。最後まで面白すぎて、さらに5、6冊著作を購入。荒川洋治の解説もよかった。

  • 延々と関係のない描写でとにかく引っ張るよね。そこが好き。

  • 【みちのくの人形たち(表題)】
    東北の山村の人たちの丁寧な物腰がすごく怖かった。巻末の解説では、このていねいな人々の描写をものすごくポジティブにとらえているので、僕の読み方がおかしいのか。
    ラスト、人形の意味に気づくシーンは怖さよりも思い浮かぶ情景の迫力に圧倒された。そのくらい、すごい描写。

    【アラビア狂奏曲】
    戯曲のような雰囲気がおもしろい。
    キリストの処刑から復活をまったく関係のないところで伝聞している(しかも登場人物はとくに関心をはらっていない)のがユニーク。

    その他の話も意外と読みやすく、不思議な魅力。

  • オルタナ・ファクトが支配する社会の話をしていてすすめられた本。
    短編集。
    深沢七郎氏という名前ははじめて見たが、楢山節考の原作者。
    文章にかなりクセがあって、私にはちょっと読みづらく。
    独特な空気を醸し出す筆力に対する評価が高いのはわかる。

    標題作品は、ウソかマコトか?東北の山奥の村での出産にまつわるしきたりが題材。
    産婆が尊敬されつつもケガレた存在とされ、他から離されている様子は、上橋菜穂子氏の "鼓笛の彼方" での存在と同じく。
    命をあやつるのは、神でも医師でもなく。
    ある種の 言い訳・untouchableなものをこさえて、罪の意識・罪そのものから逃れようとする思考停止社会の雛型のようでもあるね。

  • 日本の土着的な思想とキリスト教的な考え方がないまぜになっているよね。現代の民間説話といった雰囲気。『楢山節考』も読んでみたくなった

  • 味わい深い作品。
    他の作品もゆっくり味わいたい。

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みちのくの人形たち (中公文庫)の作品紹介

お産が近づくと屏風を借りにくる村人たち、両腕のない仏さまと人形-奇習と宿業の中に生の暗闇を描いて世評高い表題作をはじめ名作七篇を収録する。谷崎潤一郎賞受賞作。

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