戦争の世界史(下) (中公文庫 マ 10-6)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122058989

作品紹介・あらすじ

今から何百年かたったのち、われわれの子孫は、本書がおもな主題とした一千年紀を、人類史上の異常な激動期として認識するだろう-軍事技術の発展はやがて制御しきれない破壊力を生み、人類は怯えながら軍備を競う。下巻は戦争の産業化から二つの世界大戦と冷戦、現代の難局と未来を予測する結論まで。

感想・レビュー・書評

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  • 後編では、いよいよ帝国主義の時代から現代にいたる戦争の変化が描かれる。ここにきて、戦争は、その質を劇的に変えた。もはや、戦争に勝つためには普段の技術革新が不可欠となり、普段の技術革新を成し遂げるためには、兵器開発を市場経済に任せておけなくなった。そうして、軍産複合体が成り立ち、戦争の技術はどんどん規模を大きくしていった。
    なぜ、戦争が今の形になったのか、それを順を追って理解することができる非常に良い本である。

  • 市場原理に対する反撃の歴史。軍事技術上、古代から「金のかかる」装備や戦術(戦車、騎兵、築城術)を持つ優勢な勢力に対して、「数を揃える」戦術(クロスボウ、小銃歩兵、国民皆兵制度)が対抗してきた。
    数を揃えるために国家の力を効率的に動員する制度を整えたドイツ、日本、ソ連。
    しかし、第一次・第二次の両大戦は国家「連合」同士の争いであり、勝利はまたしても「人間を揃えた」側ではなく、「資金を調達できた」側に帰した。

    勝ち残った「グローバル資本主義」は国家を解体し、民族を溶解し、中産階級を消去して、世界を「1%の勝ち組と99%の負け組」に再編しようとしている。「共産主義」というまやかしの対抗馬は夢想のまま消滅し、「国家」最後の牙城、日本は自壊しつつある。

    マクニールは「市場原理の優勢は一時的なもの」とみているが、国家ですら制御できなくなった市場原理を一体誰が統制できるのだろうか。

  • 2024/2/2読了
     フランス革命、産業革命の頃からの、軍需産業と国家の癒着関係が、今に至る天井知らずの軍拡競争を招いたと筆者は指摘する。ならば、単一の強力な国家権力が軍需産業を統制してしまえば良い、という結論になるのだが、それでも“戦争”そのものが無くなることはないだろうというのは、なかなか塩っぱい指摘だ。
     本書が書かれたのは、冷戦真っ只中の1980年代。あの頃のような全面核戦争の危機は、今はもう無いかもしれないが、ロシアのウクライナ侵攻や、ガザ地区の戦闘、中台や朝鮮半島のきな臭い情勢etc. 確かに未だ世界に戦争の種は尽きない。

  • 下巻では19世紀以降の戦争の産業化から、2つの世界大戦を経て、20世紀の軍備拡張までを描く。
    戦車、軍艦、潜水艦、戦闘機、ミサイル、核弾頭と急速に発達する兵器が、もはや古代の英雄的な武勇の入り込む余地をなくしていく。
    また武装集団間での戦争が、国民、産業を総動員した国家単位での戦争に代わっていく。
    その詳細をぎゅっと詰め込んだ一冊。

  • 世界史を「戦争」をメインテーマにふり返ることは「戦争という技芸」とそこに至る「技術開発の歴史」を考える事でもある。世界全史を通じてヨーロッパが非ヨーロッパ諸国に対して圧倒的な軍事優位を勝ち得ていたわけだが、とりわけイギリスとフランスの軍拡競争にフランス政治革命とイギリス産業革命がもたらした影響は大きく、本書でも多くのページを割いてとりあげられる。マクニールの本に多くみられる婉曲表現がこの本でも出てきて頭にすっと入ってこない箇所もあったが、「疫病と世界史」よりはテーマがテーマだけに面白いような気がする。あと訳者も良い。詳細→
    http://takeshi3017.chu.jp/file8/naiyou28504.html

  • 本書は、西洋史を戦争を中心軸に著述した歴史書で、単なる軍事史ではなく、社会、経済情勢を含んだ歴史書になる。この中で、日本の戦争に影響を与えた部分で、興味深い点をいくつかピックアップした。
    戦国末期に日本に現れた火縄銃(長篠の戦い1575年)は、1600年頃、オランダのマウリッツが軍事教練で使用する事で、軍事専門の傭兵でなくても、強力な軍事力を発揮する事を証明し、1800年代中頃まで、ヨーロッパでも主流の銃であった。
    銃身に条痕を刻んで、現在の先端が尖った弾を使用し、使用距離・命中精度が向上するライフル銃は、クリミア戦争(1853年~)(ペリーの黒船来航年)で威力を発揮し、米南北戦争(1861~65年)で大量に使用された。
    (戦後不要になった中古が日本に流れ込み、維新戦争(1868年)で使用された。薩長が優位に立てた理由もここにある模様。筆者注)
    この時期、銃製造技術に大幅革新があった。それ迄、職人が1丁ずつ作っていたが、米国で職人でなくても作れる様、部品単位で製造して組み立てる方式が確立。(自動車の前にその予兆があったのですね。)大量生産が可能になった。
    同時期、大砲も鉄の製造技術の向上でアームアストロング砲が出現していたが、まだ、命中精度・発射の安定性等で課題があった。(薩英戦争で英国艦隊が完勝できずに引き上げたのも、そのあたりにあった模様。筆者注)
    日本は、武器に関しては、遅れながらもかなり時代を追いかけていた事が、植民地にならなかった理由の一つという事でしょうか?

  • 上巻に引き続き19世紀以降の戦争の歴史について書かれたもの。産業革命以後、急速に発達した武器や産業技術に伴って、戦術や後方支援体制が変化し、欧州優位が確立していく。特に2つの世界大戦の記述が詳しく、研究が精緻に行われている。有意義な内容であった。
    「もちろん新兵器は戦争を変えたが、兵器よりは輸送の革新の方が重要であった。輸送の革新は、大昔からの難問である前線への補給と部隊の展開に、化石燃料で動く運搬手段を使ってみたことから始まった。蒸気船と鉄道を使えば、人間と武器と補給物資を前代未聞の規模で動かせることがわかった」p13
    「(英海軍の反対)海軍本部委員会委員一同は、我々の能力の及ぶ限り蒸気船の採用に反対することを、我々の義務と感じております」p19
    「鉄道で運ぶ100マイルの道のりは馬車で運ぶ10マイルより短く、1本の列車には馬車で1000台分の貨物を積めた。鉄道が敷かれてあったからこそ、10万人以上の軍隊を、何百マイルも後方から補給しながら何年も戦わせることができたのである」p53
    「(プロイセンのモルトケ)蓄積されてゆく戦争経験から学んだ教訓に、非常に迅速で、合理的で、徹底した対処がなされたので、この点では他のヨーロッパ諸国の軍隊は全く太刀打ちできなかった」p71
    「(1次大戦のルノー)生産コストの高い小企業でも経営がたちゆくように設定された価格水準のもとでは、大規模な生産者は潤沢な利益をあげることができた。その最大の実例が、戦時中に産業帝国を築いたルイ・ルノーである(砲弾、トラック、トラクター、戦車、航空機、銃砲部品の生産)」p209
    「大西洋の対岸のアメリカは、戦争がひきおこした需要の急増によって莫大な利益にあずかる立場にあった」p224
    「共通する変化の中で最も重要なのは、大量生産方式が導入されたことであった」p231
    「1915年を境に公衆衛生行政が崩壊したため、伝染病が従来通りの威力をふるって兵隊と民間人とを問わず大勢の命を奪った。だが、西部戦線においては、塹壕の劣悪な生活条件にもかかわらず、軍医たちと公衆衛生当局の役人たちが協力して、何とか危険な伝染病の流行を未然に防いでいた」p241
    「(貧富の差の解消)配給制度に加えて、課税とインフレによって私有財産の所有の意義が小さくなった。国家社会主義と呼ぶべき体制が、驚くべき短い期間にヨーロッパ社会を根底からつくりかえてしまったのである」p242
    「参謀将校と兵卒に二分されている状態が容認されるためには、いかなる犠牲を払ってもこの戦争は最後まで戦い抜かねばならないという強固な確信が共有されている必要があった。ひとたびその確信がゆらげば、戦争によってのし上がった新しい統治エリートは魔法が解けたように突如として世論の前に姿を変えた。いかなる犠牲を払っても勝利を目指すことが自明の善だと信じることを国民がやめたとたん、これまでの統治エリートの味方であった自由と正義が敵にまわった」p243
    「もしアメリカの欧州派遣軍が(1918年時点で200万人)物心両面で支援しなければ、疲れ果てた英仏両軍は、とてもドイツの春季攻勢を生き延びることはできなかったであろう」p251
    「第一次大戦中のアメリカのGDPは2倍になり、1920年の国勢調査では史上初めて都市居住者が人口の半分を超えた」p262
    「第二次世界大戦では超国籍的な組織形成が、それ以前のいかなる戦争よりも完成度の高い、そして格段に効果的な形で達成された。兵器生産が時とともに複雑になってきたので、一国家というものはもはや戦争らしい戦争を戦うには小さすぎる単位となったのである」p281

  • もっと章立てを細かく分けてくれると読みやすいのだが
    中身が面白いので許される

    7章は1840年から1884年まで
    宋代に始まる「世界の一体化」の完成時代
    近代に入って封建主義から帝国主義に主流が変わったのは
    西欧においてこれまでの産業化と国民兵化のいち早い達成が
    少数人口での侵略を可能にしたからであるが
    いってみれば一世代と少しくらいの先駆ではある
    帝国主義が果たしてどれくらい有効性を示すか
    当事者が意識していたかどうか
    意識しても現在から50年先を眺めると同じくしても仕方ないことか

    8章は1884年から1914年まで
    産業化された軍事および国家統制をビスマルクの世代までは形だけでも達成できたが
    急激な技術先鋭化で仕組みだけでなく仕様から効果を素人では判断できなくなった例が
    イギリス海軍を例に示される独特な構成
    この本の主題である軍事と産業の関係性が現在に続く状態のはじまり
    現在の国家あるいは文民が産業技術をどれだけ統制できているかは
    市場利益が導く先へ漂っているだけのようにも思えるが
    なぜか上手くいっているともいえる

    9章は年数を示すまでもない2度の世界大戦について
    大戦の捉え方として
    まず一般的な旧来の国家間における勢力均衡と
    これまで本書が6章などからも示してきた人口動態を挙げている
    特に人口動態は日本についても人口増加を含めて説明していて
    単に帝国主義の一周遅れというだけに加え得る一つの説といえる
    100年前の日本人は100年後といわずとも40年後の日本のありかたについて考え得ただろうか
    歴史の教訓に例を引くまでもなく
    日本人は戦争嫌いに変わったたわけではなく別物になったわけでもなく
    たんに周囲の状況に乗せられているだけでしかないかもしれない
    話を戻して本書の内容に戻ると
    3つ目の歴史上から2度の大戦を捉えての特徴は
    日本で言う国家総動員体制にあるとしている
    限界まで産業とそれを生業とする人々を戦争の勝利に振り絞りきることを
    2度に渡り30年掛けて単に一国がでなく世界の様々な国が成し遂げたことで
    産業は決定的に常態を失って変質した
    という説明は
    戦争は技術を著しく発達させるという一面をより広く捉えたものといえる

    10章は「戦後」冷戦下の核抑止力下で
    まがりなりに世界が破滅せずに現在につながっている様子を描いて結論に至る
    9章で見られた国家総動員は戦前の常態に復することはなかったが
    それでも核兵器により今のところ世界は滅びていない
    なぜか
    たまたまである
    理性に完全で永久の抑止を期待するのは過去の歴史から望み薄というほかなく
    世界の一体化が営利企業規模の限られた範囲以上に拡がる見込みもない
    国家あるいはお上への盲目的信仰というか忠誠というか所為にする姿勢は
    薄れても無くならないし
    宗教信仰からも個人的欲望からもまったく自由でない
    全体利益と個人信条のつり合いは歴史上無視できる範囲の仕方なさで折りたたまれていって
    なるべく長く続くことを祈る

  • フランス革命が銃と砲による戦いだとしたら、クリミア戦争は鉄道と蒸気船による戦いだった。
    それは単に補給の形を変えるにとどまらず、全国民を戦場へ運び、
    さらには遠方の田舎国家さえも軍需品の市場システムに組み込むことを可能とする。
    そう、直接銃火を交えることこそなかったため世界大戦とは言われなかったが、
    産業を通じて世界中を巻き込む戦争が駆動しはじめることとなった。

    この頃動いたのは、世界各国から戦場である西欧への補給物資だけではない。
    その費用から国営工場による生産は叶わず、技術力を持つ先進国家の民間企業のみが生産を可能とした鋼鉄製の大砲は、
    イギリス・フランスの工場からアメリカ・ロシア・プロイセンなどの近隣諸国は当然として、
    日本・中国・チリ・アルゼンチンなど、蒸気船により縮まった世界の果てまで輸出されることとなる。

    ますますかさむ戦費と鉄道による移動は膨大な計画と計算を必要とし、
    戦争を支配するのは戦場の英雄による活躍でも将軍による戦術でも皇帝による戦略でもなく、
    銃後の計画と計算による生産が勝敗を決する最大要因になる。
    そのような必要から生じた参謀制度は産業に深く関わり、
    単純な調達を超えて議会へのロビー活動や費用徴収のためのプロパガンダにまで手を伸ばす。
    そして、作り続け売り続けることによって大きくなった企業は生き残るために投資と研究開発を続け、
    資金の投下はさらなる技術革命を促す。

    無煙火薬、長砲身、後装方式。
    速射砲、油圧シリンダー、回転砲塔、駆逐艦、石油燃料、潜水艦。
    製鋼技術、化学工業、電動機械、無線通信、タービン機関、ディーゼル機関、光学器械、計算機。
    そして飛行機。

    技術と産業の長足の進歩は社会の変革を伴い、
    格差社会、労働者階級、社会主義活動の拡大、それになにより人口増加が社会不安を産む。
    人口増加をきっかけとする戦争への道のりは歴史上何度も繰り返されてきた事実であるが、
    そこに多くの人と物資の移動を可能とする技術、人々を従わせる仕組み、莫大な投資を回収する必要がある構造が伴い、
    軍事行動を政治状況の都合に合わせて匙加減を効かせて塩梅することは不可能になる。
    かくして産業が、即ちそれにたずさわる多数の国民が、明日の平穏な生活を求めて戦争を望むようになり、
    止められない大戦が始まることとなる。

    第一次世界大戦の4年間は、30年戦争や100年戦争に比べればずいぶん短いが、
    逆に言えばたったの4年間で国が、世界システムが激変するほどの数が動いた。
    ソンムの戦いでは一日で5万人、3ヶ月半で小国の全人口に匹敵する100万人以上が死んだ。
    イギリスの砲弾生産量は一年間で10倍になり、ロシアでも月産45万発を1年半で450万発に成し得た。
    そして第二次大戦では、その生産力が必要とする産業動員は国民全員のみならず、全世界を戦争経済に従事させることとなる。

    技術力の向上速度は加速を続け、速く作りすぎると陳腐化した在庫を大量に抱えるまでになる。
    時代遅れの兵器の数を揃えるか、数は少なくても最新の兵器があったほうが良いのか、前もって知る方法はなく、
    ただ全力を持って開発と生産に当たるしかない。
    そして国の軍事力=経済力はもはや自国だけで完結するものではなく、
    超国籍的な組織形成がなされ、戦争の単位は完全に国家を超える。
    科学的合理性と経営的合理性が軍事に応用されて非合理性を生み出し、
    人類を動員する能力が道徳を上回った先に待っていたのは、米ソでの強制移住、ドイツでの絶滅収容所、 そして核兵器であった。

    2つの大戦以降、先進国による戦争と戦争介入は、選挙による選挙のための民主的な戦争を形成している。
    もちろん、経済を主な原因とする小規模な戦争の形も変わらず存在する。
    幸いにも先進国同士の核戦争は勃発していないが、
    戦争が止められないならば、戦争の歴史を学ぶことに一体なんの意味があるのだろうか?

    防げなかった戦争は数えられるが、防げた戦争はそうではない。
    大戦以後、いったいどれだけの国際法や条約が戦争回避のために設けられたのか、
    そしてそれは正しく機能しているのだろうか。あれからいったい人類はどれだけ人を殺さなくなったのか。
    戦争を止めるためには、人類はまだまだ歴史を学ばなければならない。

  • 戦争史を通じ、世界史の外観をたどることが出来た。特に、それらを単なる事象としてでなく、産業史や人口変動、宗教、文化史等からめつつ纏めていたため、より包括的な理解につながった。

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著者プロフィール

1917年、カナダのバンクーバーに生まれる。1947年、コーネル大学で博士号を取得。現在、シカゴ大学名誉教授(歴史学)。著書『西欧の興隆――人間社会の歴史』(1963年、未邦訳)で、各文明の個別独立の発展ではなく文明間の相互の影響に力点を置いた世界通史を描き、その後の歴史研究に大きな影響を与えた。『西欧の興隆』を基に学生向けの教科書といて書いた『世界史』(1967年、原題:A World History 邦訳:中公文庫)は広く読まれ、日本でもベストセラーとなった。本書『世界史――人類の結びつきと相互作用の歴史』(2003年、原題:The Human Web: A bird's-eye View of World History)は、著者による最新版の世界通史で、世界史概説書として、いま世界で最もよく読まれている1冊である。

「2015年 『世界史 II』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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