人質の朗読会 (中公文庫)

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著者 : 小川洋子
  • 中央公論新社 (2014年2月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122059122

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人質の朗読会 (中公文庫)の感想・レビュー・書評

  • 小川洋子さんの本を読むのは【博士の愛した数式】以来。
    ということは、もう10年以上も前になりますね。
    装丁の不思議な動物になんとなく惹かれ、手にしたのがこの本でした。
    【人質の朗読会】のタイトルも何とも不思議で…

    とても不思議な物語でした。

    地球の裏側にあるとある国の山岳地帯で、海外旅行のツアー参加者7人と添乗員の計8人が反政府ゲリラの襲撃を受け、誘拐された。
    100日以上が過ぎた頃、事件は人質全員死亡という最悪の結果を迎えてしまう。
    どんなに大きな事件でも時間の経過とともに、人々の記憶は薄れていく。
    2年後、人質たちが朗読会というものを開いていたことが明らかになる。
    救出のため仕掛けられた盗聴器から聞こえるその声が録音されていたのだ。
    その声は、毎日、1人ずつ、ラジオで放送された。
    極限状態の中、人質たちが語った物語は、ものすごくドラマティックな出来事ではなく、普段の日常を切り取った一コマのような出来事だった。

    「杖」はとても不思議な話。
    私の頭に浮かんだ言葉は、情けは人のためならず。
    自覚していたけれど、私って凡人中の凡人だわ…と、思い知らされる。

    「やまびこビスケット」
    人生の分岐点。好きこそ物の上手なれ、そんな言葉が浮かんだ。

    「B談話室」
    自分自身でも気づかなかった才能。
    人生の分岐点となる出来事は起こるべくして起こるのかも…
    各話の終わりにこの話を披露した人の職業、年齢、性別が記載されているのだが、この話ほど、その職業がぴったりだ!と思ったものはなかった。

    「冬眠中のヤマネ」 ・「コンソメスープ名人」・「槍投げの青年」
    どれも不思議な話。

    「死んだおばあさん」
    『あなた、僕の死んだおばあさんにそっくりなんです』
    20歳の女の子が突然言われた言葉。
    同様のことが続き… 

    「花束」はツアーガイドの話。

    最後の「ハキリアリ」は事件が起こった国の特殊部隊通信班所属の若い政府軍兵士の話。
    盗聴器から流れる声を聞いていた彼。
    人質たちが語る言葉は極限状態にあるとは思えないようなものだった。
    それは『祈りにも似た行為』

    こんな極限状態の中で、自分自身が語るとしたらどんなことを語るだろう…
    頭にはどんなことが浮かんでくるのだろう…

    解説は俳優の佐藤隆太さん。
    彼はこの作品がWOWOWでドラマ化された時に出演されていたのだとか。
    ドラマが観てみたい、というよりも、実際に朗読されたものを聞いてみたい。

  • もし私がこの小説の登場人物の一人で、彼らがしたように、何でもいいから一つ思い出を書いて、朗読しあうことになったとしたら。
    私は自分の人生の記憶から、何を選び、どのように書き起こし、朗読するのだろう。

    そう考えて、自分の過去に想いを巡らせてしまった作品です。

    地球の裏側の異国をツアー旅行中に、反政府ゲリラに拉致監禁された八人の日本人。
    彼らは退屈を紛らわすため、自分の思い出を一つ書いて、朗読しあうことに。
    救出作戦は失敗に終わり、彼らは全員死亡。
    その二年後、彼らが生前語った八つの物語と、ある一人の若者の物語の、計九つの物語が、「人質の朗読会」と題して、ラジオ番組として公開され…。

    小川さんの、静かで、どことなく、黒々とした光沢を持つぬばたまを連想させるような独特の文体のもと、八人の人質たちは、まるで、祈りのように、静かに過去の一点の記憶を語っていきます。

    八人は、年齢も属性も、それまでの環境も全く異なっており、当然、朗読される日常の記憶の一コマの物語には何の繋がりもないのですが、なぜだか、むせ返るような孤独と死の匂いだけが、ひどく共通している印象を受けました。
    彼らの「祈り」に耳を傾けていた、もう一人の物語にも。

    そして、朗読された物語と繋がるようで繋がらない、各々の物語の最後にたった一行で記される、彼らの死亡時の年齢や肩書き、ツアー参加動機などは、そのような些細な日常の一コマを何十年とかけて積み重ねてきた人生があっけなく崩れ去ってしまったことを読み手に痛感させます。

    孤独と死からは、誰も絶対に逃れられないということを、なんだか肌に染み付くように感じた気になった、小川ワールド全開の作品でした。

  • 遠く隔絶された場所から届く、人質たちの朗読会。
    人質たちの語る自分を形成していった過去は、劇的な内容ではないのに心にしみるものばかりでした。

    「冬眠中のヤマネ」の最後の爽快感がよかったです。少年と老人との密やかな交流に少し泣けてしまいました。

    「槍投げの青年」の槍投げの描写が厳かで美しかったです。自分の心を支えてくれるようなものに不意に出会えた奇跡…。

    盗聴役の特殊部隊の青年の語る「ハキリアリ」もよかった。日本人研究者が「天に供える捧げ者を運ぶ勇者」と表現したハキリアリに思いを馳せ、その時感じた感動を、背負った供物を、静かに、祈るように運ぶように語る人質たちに重ねる。少年時代に出会った日本人研究者たちの真摯さ、人質たちに対する青年の真摯さに心を打たれました。

    「杖」と「花束」も好きです。

    他人から見れば何のこともないことばかりを切り取った人質たちの過去。祈りのような語り、慎み深い拍手。舞台が拉致現場というだけで、物語中に漂う静けさがかなり切ないものに感じられます…

  • 個人的には久々の小川洋子作品。
    独特の神聖で静謐な閉塞感のような世界観が好きだけれども、それに耐えられる自分自身の心の余裕がないと、なんとなく遠のいてしまっていた。

    「今自分たちに必要なのはじっと考えることと、耳を澄ませる事だ。しかも考えるのは、いつになったら解放されるかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうであろうと損なわれない過去だ。」

    決して損なわれない記憶の断片。
    それは、他の誰かは通り過ぎてしまうような物語。でもその後の生き方を大きく左右するようなものだったり、あるいはいつのまにかできたほくろのように身体の一部になっている。一つのストーリーの最後にそれぞれの今の立ち位置が記されているのが過去と今へつなぐ架け橋のようになっていて人物増がよりリアルに感じられる。

    物語に耳を澄まし続けてきた著者だから書けるのか

    一人一人の物語は切実で神聖さを帯びている。
    それは誰ものでもなくその人のものだから。
    その祈りにも似た物語は、誠実な聴き手があって初めて色を持って生きてくる。聴き手は、時間や場所を超えて受け取る事ができる。

    「彼らの朗読は、閉ざされた廃屋での、その場限りの単なる時間つぶしなどではない。彼らの想像を超えた遠いどこかにいる、言葉さえ通じない誰かのもとに声を運ぶ祈りにも似た行為であった。その祈りを確かに受け取った証として、私は私の物語を語ろうと思う。」

    一人一人決して損なわれることのない物語を持っている。
    それを誠実に受け取ることのできる人間でありたいなと思う。

  • とても不思議な構成の本です。

    とある国への旅行者たちが、とある反政府派に捕まり、人質となる。
    かれらは冒頭部分で無残にも亡くなるのだけれど、人質になっている間に、それぞれの物語を朗読していた…というもの。

    その物語も、壮大さとはかけ離れている。
    彼らの人生の中のほんのひとときの出会い。
    通り過ぎて、いつしか忘れてしまってもおかしくないようなもの。
    たとえば一度だけ出会ったやり投げの青年、死んだおばあさんの話をするひと、隣にすむ娘さん…。

    小川さんがピックアップして描き出す瞬間というのはいつでもどこかにありそうなものだけど、必ずどこか非日常的な雰囲気がある。
    今回の物語では、それを普通の人たちがすれ違い、語りたいと思ったひとときの出会いの中に込めているように思います。

    この短編では語り手たちはなくなっていて、なぜそのような朗読会が開かれたのか、なぜその話を選んで語ったのかはわからないようにできている。

    語ることってとても不思議で、なぜその話をしたくなったんだろう?なんて話を自分でもしてしまう事があります。語るということの不思議についても思いをはせる作品でした。

    明日にはもう別れてしまい、二度と会えなくなる人との出会いの中で、普通の人たちは日常から非日常に入り込み、そこでさまざまやことを感じるのかもしれません。

  • 小川さんの作品は、いつだって、森の奥の深い湖のようにかぎりない深さと静けさをたたえてる。
    そう、どんな人の一生にも、この物語のような記憶があるのかも知れない。

    特別であって、特別でない記憶。
    何かを成し遂げたとか、祝福されたとか、逆に、ひどく苦しんだとか、そういうのではなく、どこにでもある一日のようでいて、自分が自分として生きることと、ふっとつながってるような記憶。

    とても聖なるものと向かい合ったような気持ちになりました。

  • 濃密とは言えないささやかな心のふれあいを通して、明日へと繋がる大事な一歩を踏み出したエピソードを語る人質たち。淡々と語られるなかにも、確かな力強さを感じました。

    死を意識しながら行なわれる朗読会であったからこそ生まれた神々しさなのだろうかと思いました。不思議な世界観のある1冊でした。

  • 反政府ゲリラに拉致された人質が,拘束された中で語り合った8つの話をまとめたものだ.緊迫した状況下で,様々な年代の人が語り合うことは想像できないが,どの話もオチがあって面白かった.隣の娘さんがスープを作る「コンソメスープ名人」が少し不気味だが,詳細なレシピの記述が楽しめた.「B談話室」は幻のような女性に勧められて,危機言語で語り合うグループに突然参加することになった男が出てくるが,何故かほっとする感じだ.

  • 全てのお話が心の中に染み入るようでした。特に第一夜の「杖」と第五夜の「コンソメスープの名人」がよかった。

  • とても静かな物語。
    を寄せ集めたような短編集。

    「人質の朗読会」という共通の背景があるからこそ、
    関連の無いバラバラの物語も、
    共通した優しさやあたたかさを感じるんだろう。
    と思えた。

  • introduction───
    そのニュースは地球の裏側にある、一度聞いただけではとても発音できそうにない込み入った名前の村からもたらされた。
    現地時間午後四時半頃、W旅行社が企画したツアーの参加者七人、及び添乗員と現地人運転手、計九人の乗ったマイクロバスが遺跡観光を終えて首都へ向かう帰路、反政府ゲリラの襲撃を受け、運転手を除く八人がバスごと拉致された。
    ─────────

    この人の言葉の選び方、文章の組み立て方はいつも本当に繊細で、他の誰にも真似のできない静謐さに満ちていて、安定した精神状態でなければとても読むことができないと思う。

    絶望ではなく、今日を生きるための物語。
    いつになったら解放されるのかという未来じゃない。自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去だ。

    先の見えない状況下で紡がれるからなのか、どの物語にも常に死の影が潜んでいる。

  • 小川洋子さんの書く小説には、静謐がある。
    それはどこか、湖底に沈んだ街を思わせる。
    今はいない誰かの思い出の品から猥雑な生活を連想させる物まで、細々としたものが往時のままに残された場所は、しかし青く澄んだ水の底に眠る過去のものにすぎない。
    十年近く前に読んだ「沈黙博物館」「薬指の標本」、もうあらすじすらも思い出せない。だがあの作品たちの何が響いてきたのかを思い出した。
    誰かに、何かに、ひっそりと、ひんやりと、大切に守られている沈黙の気配だ。

  • 某国でテロ組織の人質となった日本人旅行者が8名の、監禁されている間朗読することになった彼らともう一人の過去の物語。

    佐藤隆太も言っているが、自分も果たして人に伝えるような、残せるような話はあるだろうか?というのが最初の感想だ。

    人質となった時点でもうもう先がないことは決まっていたのだろうか、自らの生きた証として過去の物語を残すことが始まった朗読会。

    不思議な話、心にしみる話など様々だが、どれも共通していることはそれぞれのその人の存在が現れている。

    だからこそ思うのだただのエピソードというだけでなく私と言う者について語ることができる話が今まであったろうかと。

    もう一度過去を思い返してみたい、自分にも証となる話がきっとあったのではないかと信じて。

  • 2014年の61冊目です。
    九つの物語が収められている短編集です。設定は、日本からの旅行会社のツアー参加者が、地球の反対側にある国の山岳地帯で反政府ゲリラの人質になってしまう。捉えられた八人の人質と救出作戦に携わった政府軍兵士の物語です。長い人質生活の中で、彼らは自分の人生における”忘れられない”過去を一つずつ物語にして語ることにしたのです。話の内容は”小川洋子”ワールド全開です。日常生活の中に流れている整然とした時間の刻みに、ちょっとだけ引っ掛かりを残してしなった”自分にとっての忘れられない過去”が誰の人生にもある。それを一つ一つの物語の中で表現しています。
    アルファベットの形をしたビスケット工場で働く女性と大家さんとの交流を描いた「やまびこビスケット」。危機言語を救う友の会のような奇妙な会合が開かれる公民館の「B談話室」。出来損ないのぬいぐるみを路上に拡げ売っている老人と少年の交流を描いた「冬眠中のヤマネ」など、人の心に残り、その周りにある記憶が解け落ちても、確実に生き続ける”その出来事”が人の心の品性を定めていく気がしました。

  • ただひたすら、美しい言葉で紡がれてる物語。
    WOWOWのドラマも素敵だった。

  • 人質たちが、自分の中にしまわれている過去を、そっと取り出して、言葉の舟にのせる。こうして人質の朗読会は開かれた。9人それぞれの過去が綴られる短編集。

    日常から外れた、少し不思議なお話。
    すべての物語の中に、死が横たわっている。みんな、いつかは死ぬのだ。その時を前にしたら、私は何を思い、何を語るのだろうか。

    心が重く沈みこみ、それでいて温かみを感じる作品。なんだか、苦しい。

    ☆あらすじ☆
    遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎 み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行 為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯 人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに 甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための 物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならで はの小説世界。

  • 短編集は、どうしてもひとつやふたつ贔屓にしてしまう話があって、正直それを無意識に探してしまうのだけど、この短編は全てが贔屓できてしまうほど、愛らしい。

    ああ、小川洋子を読んでいるという実感と幸せ。

  • やっぱりこの人の作品は素晴らしい。静寂のなかに漂う狂気と美しさ、優しさ。この人の作品に触れ合うたび、まだ生きてみようと思う。

  • 2014.4.19 読了。死を迎えた人質たちの過去。何も考えずに読めば、短編集として読める。人質たちの物語であることを意識した瞬間、様相が一変する。遺書を読んでいるような気持ちになった。不確定な未来ではなく、既に確定した揺るぎない過去を語る彼ら。もし彼らがこれからのことを語っていたなら、人々あるいは読者は一時的にあわれみの眼差しを向けるだけで彼らをいつしか忘れてしまっていただろう。過去を書き記すことは自分の存在した確かな証を残すこと。ラジオを通して、彼らの存在は生き続ける。彼らの話はきっと誰かの記憶に残り、変わらない過去となるだろうから。ハキリアリの行進のように彼らの存在が連綿と伝わることを祈る。

  • 手のひらで握りこめるくらいの白い石がおいてある。よく見ると、ふんわりと透き通った、乳白色のガラスである。表面はすべすべとして、どこかいびつで、ひんやりとしているけれど、ほのかな温度が感じられる。硬質なのに印象はやわらかく、しかし薄い膜のようなものにとざされて、決して直接は触れられない。どこかエロチックで、魅力的な死のにおいがする。

    小川洋子氏の作品に触れると、いつもそんなガラスの石が思い浮かぶ。

    遠い外国の地で人質にされた日本人たち。明日をも知れぬ彼らは、自分たちの人生において印象深い出来事を書きつづり、順番に朗読しあうようになった。聞いているのは、自分たちと、犯人グループと、ひそかに盗聴していた捜査員のみ。

    彼らは、先行きのまったく見えない自分たちの未来をいったいどうとらえていたのだろう。絶望なのか、わずかにでも希望を抱いていたのか、それともそんなことはもう超えてしまっていたのだろうか。紡がれる彼らの物語は、無意識か、直接ではなくても、どれもが生や死に触れられている。

    今このときを生きるために、過去を語る。誰かに語りたい物語のひとつを誰もが持っているとするなら、自分は何を語るだろう。

    そんな極限状態になくとも、ふと、なんでもないむかしの光景を思い出すことがある。強い印象をもたない些細なできごとが、今の自分をかたちづくっているのだと実感する瞬間でもある。

    小さな毎日を積み重ねて生きている、という意味をなんとなくいとしく思う、そんなきっかけになる、ちいさな宝物みたいな1冊。

  • 土屋さんの作品が表紙なので、気になっていました。
    文庫になったので、即購入。
    ジャケ買いしたわけですが、内容は素晴らしかったです。
    有名な作家さんなので、今まで読んでいないのか!?
    という感じでしたが、本当に勿体無いことをしていたと
    思うほど。
    1冊でひとつのお話ですが、短編集として読んでも
    楽しめると思います。

  • やはりこの作家の本は、静かで悲しく、温かで美しい日本語を使い、心に沁みる。

  • 遠い異国の地で反政府ゲリラによって拉致された人々。彼らは思い出を書いて朗読し合う。自分の中にしまわれている過去に耳を澄ませ語るのだった。
    ひとつひとつの物語は実に小川洋子らしいものです。大家の老婆と食べるビスケット、様々な会合が行われる談話室、一心不乱に作られるコンソメスープ、葬儀会館の課長から貰った花束。ごくありふれたことを描いているようでありながら大きな虚構に包まれているような妙な感覚。それが「人質の朗読会」という舞台設定を与えられることにより、ただ単に短編を集めたものとは異なるイメージが広がります。
    もしかすると最後に何か仕掛けがあるのではとも思いましたが、そういうこともなく最後は朗読の聞き手の思い出によって締める。それがまた素敵な彩りを加えてくれます。

  • 遠く離れた彼の地に閉ざされた人々の言葉に耳を澄ませる…

    3.11の震災後に書かれたのかと思ったけれど、刊行されたのはその直前。しかし、今この本を読んで感じることは「人々の物語に耳を澄ませる」ことの必要性。そこにいる(そこにいた)人々のそれぞれの物語の存在を感じ、耳を澄ませることこそ、私たちが忘れてはいけない…。

    そして、その人たち自身にとって「物語る」ことが、いかに生きる力を生み出すかという「物語ることの必要性」も見事に表現しています。

    さらに、その語られる物語に登場する人物は日々をともに過ごす存在ではなく、人生のほんの一瞬偶然もたらされた出会いの相手。それを「意味ある偶然(シンクロニシティ)」として自分の中に取り込み自分だけの物語を生み出すことが、生きる上で必要な場面があるのだということを教えてくれる。

    「物語る」ことが人生にとってどれほど大きな意味を持つのかということを三つの視点で感じることができる作品です。

  • 遠い異国の地でテロに巻き込まれ人質にされた観光客+ツアーガイドの8人の日本人が、それぞれに書き記し朗読しあった物語の記録。それぞれの話は独立した短編としても十分成立しているのに、あえて付加されたこの設定が、全体に奥行きというかドラマ性を加えていて、なぜこういう形式を作者が選んだのか、ということがすなわち、なぜ作家が小説を書くのか?という問いへの答えにもなっていた気がします。

    単に登場人物たちが語る(喋る)のではなく、「朗読」という、一度言葉として書いたものを改めて読むという形にしたのも、巧いなあと思いました。朗読された物語はどれも、「自分のなかにしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」であり、「それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟に乗せる」のが朗読という作業なのでしょう。

    個人的に好きだった話は「やまびこビスケット」と「冬眠中のヤマネ」。どちらも、語り手のもとにお守りのように残された小さなもの(ビスケットや、ヤマネのぬいぐるみ)についてのエピソードだったのですが、これはたまたま目に見える形でそういう「もの」があっただけで、他の物語も全部そういった、お守りのようなもの、お守りのような思い出、それがあるから今生きている自分が支えられている記憶、について語られていたのだと思います。誰の中にも語り得る物語がある、という事実が作家に物語を書かせているのであり、「B談話室」の語り手であった小説家が伝えたかったことがひいては小川洋子自身の姿勢なんだろうな。

    ※収録タイトル
    「杖」「やまびこビスケット」「B談話室」「冬眠中のヤマネ」「コンソメスープ名人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」「ハキリアリ」

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