ここにないもの - 新哲学対話 (中公文庫 の 12-4)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122059436

作品紹介・あらすじ

死ぬのってさ、なんでこわいんだろう?この空の色は何色だと思う?エプシロンとミューは、いろんなことを考えてはお喋りしています。世界の姿を探ろうとする会話の中から見えてくるのは、言葉の意味を探りながら、言葉で世界の意味を作ってゆくという、哲学の原風景です。川上弘美「『ここにないもの』に寄せて」を冠し、植田真の絵と贈る決定版。

感想・レビュー・書評

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  • エプシロンとミューという二人の登場人物が、人生の意味について、過去の自分について、自分の死について、未来についてなど、哲学の根本的な問題をめぐる対話をおこなっている本です。

    著者はすでに、『哲学の謎』(1996年、講談社現代新書)という本で、二人の登場人物のわかりやすい対話を通して哲学の世界に読者を案内する試みをおこなっています。ただし、『哲学の謎』は著者ならではのとぼけた味のあるユーモアを含んだ登場人物たちの会話が印象的であるのに対して、本書は童話のような雰囲気をたたえています。その意味では、やはり著者の前著である『はじめて考えるときのように―「わかる」ための哲学的道案内』(2004年、PHP文庫)に近いような印象もあります。植田真のイラストも、そうした本書のかもし出す雰囲気によく合っています。

    けっして難解な概念を用いることなく、哲学の本質的な問題についてじっくりと歩みを進めていくエプシロンたちの思索に付き添うことで、この世界の新鮮な風景をあじわえる場所へと連れ出されるような気分になりました。

    ただ、最後のところで二人の対話からエプシロン一人の思索へと移ってしまったのが、個人的には残念でした。あるいは著者にはなんらかの意図があったのかもしれませんが、かつて哲学書房の中野幹隆が著者に語ったということばを借りるならば、「こらえ性がなくなってしまった感じ」があります。

  • 往来堂書店「D坂文庫2015冬」から。
    知りたがりで天然なミューと、いつも何かを思考しているエプシロン。この二人の軽快、かつ珍妙なやり取りで、人生、死、現在・過去・未来、ことば、について語る。これは紛れもない哲学本。
    でも、本書が少しユニークなのは、エプシロンが完全ではないということ。あどけなく、それでいて鋭いミューの問いかけを受けながら、エプシロンの結論は揺れる。そして、少しずつ正解(と思われるもの)に近づいて行く。エプシロンと一緒に思考するのも楽しいかもしれないけれど、多分この本のより楽しい読み方は、思考するエプシロンを見ながら自分でハッとして気づきを得るということではないかと思う。
    ワタシがハッとしたのは、ことばについて触れた部分。
    「ことばが<ものさし>みたいになってるわけだ。ことばをあてがうことで、そこから何かがはみ出てるってことが感じられてくる」
    「何かをことばで言い表すと、そこには何か言い表しきれないもどかしさみたいなものがつきまとうことがある」
    「そのもどかしさっていうのは、そこまでことばで言い表したからこそ、姿を現したものなわけだ。空の色を<青>ってことばで言い表そうとするから、それじゃあ、言い切れないもんが見えてくる。で、そいつはずっとそのまま言い表せないのかっていうと、たぶんそうじゃない」
    ひとはことばで考えている。ということは、ことばをより知ることによって、考えがより深まり、より広がり、より伝えられるのではないか。当たり前と言えば当たり前なのだけれど、これがワタシのいちばんの気づきだ。

  • 「何も考えないやつには、考えてもみなかったことなんか、現われるわけないだろ」(p.44)

    「自分のことは自分がいちばんよく分かっている。自分のことは自分にしか分からない。そんな気分が、自分を〈いま〉に閉じ込めてしまう」(p.86)

    「一瞬ごとに、新たなものたちが、これまでの過去に接続され、生成し、出現する。慣れた道なのだけど、これははじめてなのだ。何度も来た泉だけれど、これははじめてなのだ。いままで存在しなかったものが、こうして新しく生まれる。無限にある可能性のひとつが、その瞬間ごとに、新たな産声をあげる。」(p.220)

  • 人生の意味、存在、時間、死などの哲学的命題を対話を中心にしたストーリーで読み解いていく。対象範囲を幅広く設定しているが決して簡単な内容ではない。言葉の意味を探りながら言葉で世界の意味を作り上げる過程で思考が開かれていく良書。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 『10年前の僕は僕?』83p最後から結局自分というのは他者が形づくってるというような話が出たが、これは最近見たエヴァンゲリオンのTVアニメ版の最終回でも同じ内容のことが語られていた。自分のことが嫌いで自分にはなんと価値もないと感じてるシンジが、エヴァに乗ることで価値がつくと考えるも「じゃあ、エヴァに乗らない自分は何者なのか?」となり、自分以外を閉ざした世界でだんだん自分の形がわからなくなり、最終的に他者と関わることで人との違いを認識し自分の形がわかるという結論に達する。
    そうして形がわかった自分を好きにならないと相手を好きになることもできず、自分の嫌なところを認識すると相手に優しくできるということを知覚して、尚且つ自分が嫌いな自分は他者からも嫌われていると勝手に思い込むのをやめるべきだと諭される。その後に「自分のことを好きになれる気がする。自分はここにいてもいいんだ」となり、他者と心を補完し合う『人類補完計画』が完成する。
     何が言いたいのかというと、エヴァンゲリオンという名作を見た直後に特にそういう本を探していたわけではなく、帰路の暇つぶしにと閉店間際の蔦屋書店で買った本書が同じことを述べているということに運命的な何かを感じたというだけである。つくつぐ本とは出会いということが実感させられた。

    本筋のことを語ると、思い出すという行為をしている自分を思い出すことで過去の思い出されている自分は果たして自分なのか?ということから”外側”が大事だという話になり、その外側があるかというのが夢から記憶、そして自分に当てはめていき、最終的には自分の外側つまり他者との関わり合いが不可欠であるということが結論となる。これの持っていき方も凄い。難しい言葉を使わずに、本書の冒頭から引用すると”っぽい”言葉を使わずにあくまで日常で使う言葉で考え抜いていくスタイルが素直に凄いしそれでいてある程度は理解できていく感じがとてもいい。冒頭にあったように気持ちの良いというのはこのことだろう。

  • 哲学

  • 書店で見つけて購入。
    ムーミンの様なエプシロンとミューの二人による対話によって哲学的対話の答えを探そうとするお話。
    エプシロンとミューが子供だから難しい言葉は出て来ず、分かりやすい。
    ところどころ現れる可愛らしいイラストも良し。
    特にお気に入りは川上弘美さんの解説。
    これだけでも読む価値あり。

  • かわいいキャラクター2人が日常に潜むほんのり哲学的な事柄についてゆったり話し合う本。最後の方は少し良かったですが、たまにダレ気味かもしれません。中身は提示といった感じで薄めで、面白いかはわりと読者側の思索力でどう広げるかにかかっているように思います。哲学入門、哲学ってどんなもの?という人には、ちょっといいかもしれませんが、ガッツリ読書したい方には物足りないかも。

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著者プロフィール

1954年(昭和29年)東京都に生まれる。85年東京大学大学院博士課程修了。東京大学大学院教授を経て、現在、立正大学文学部教授。専攻は哲学。著書に、『論理学』(東京大学出版会)、『心と他者』(勁草書房/中公文庫)、『哲学の謎』『無限論の教室』(講談社現代新書)、『新版論理トレーニング』『論理トレーニング101題』『他者の声 実在の声』(産業図書)、『哲学・航海日誌』(春秋社/中公文庫、全二巻)、『はじめて考えるときのように』(PHP文庫)、『ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む』(哲学書房/ちくま学芸文庫)、『同一性・変化・時間』(哲学書房)、『ここにないもの――新哲学対話』(大和書房/中公文庫)、『入門!論理学』(中公新書)、『子どもの難問――哲学者の先生、教えてください!』(中央公論新社、編著)、『大森荘蔵――哲学の見本』(講談社学術文庫)、『語りえぬものを語る』『哲学な日々』『心という難問――空間・身体・意味』(講談社)などがある。訳書にウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』(岩波文庫)、A・アンブローズ『ウィトゲンシュタインの講義』(講談社学術文庫)など。

「2018年 『増補版 大人のための国語ゼミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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