母の遺産 - 新聞小説(下) (中公文庫 み 46-2)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122060890

作品紹介・あらすじ

母を見送った美津紀は、ひとり、冬の箱根へ向かう。かつて、祖母、そして母が訪れた芦ノ湖畔のホテルで夫と女が交わしたメールを読んでいると、「あたしは愛されなかった」という真実が目の前に立ち上がった。過去を正視し、今後一人で暮らしていけるかを計算する美津紀。はたして人生の第二幕へ歩み出せるのか。大佛次郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 母と娘って、ありますよね。。

    独特の何かが。

    きっと "父と息子"にも
    あるのだろうけど。

    私自身は 父親との方が
    性格も似ているし
    話も合って 仲が良いのですが

    不思議なことに

    『母の死』を 想像した時の方が
    途轍もない 喪失感に襲われます。

    母と娘って もちろん
    一括りには出来ませんが

    お互いに 値踏みしている感じが
    ありますよね。
    それでいて 目に見えないところで
    囚われているというか。。

    帯の惹句にもなった

    『ママ、いったい
    いつになったら死んでくれるの?』は

    いろんな想いが入り混ざった一言。

    女性が 様々な経験を通して
    少しずつ成長して強くなって

    たとえ 
    全方位ハッピーエンドでは
    なかったとしても

    ほの明るい希望の光が感じられる結末

    という展開は とても好みでした。

  • 読売新聞にて2010年1月16日から2011年4月2日まで毎週土曜日に連載(全63回)。当日の新聞を保存してあったので、読み通した。
    自分が母の介護に追われているので、このタイミングで読んでみた。主人公の心理描写が素晴らしく、満足できる着地で読後感は期待以上であった。

  • 母を見送った後に1人箱根のホテルで過ごす美津紀の揺れる心情、連れ添った夫の裏切りを知りどうするのか、、興味深かった。夫の言い分が最後まで分からずだったけど美津紀の第二の人生はきっとまだまだ長いはずだから正しい選択だったと思う。最後の奈津紀の優しさもホッとした。遺産を巡って姉妹が思いあえたのは羨ましい。

  • 長編小説。他の本も読んでみようと思う。

  • ここまで自分の気持ちを出せたら、気持ちいいだろうと思う。
    母親に対しての感じ方、とても共感てきる。
    最後は、いい姉妹に恵まれたな、と思う。
    いいラストでした。

  • 中年のおっさんが主人公の小説ってけっこうあると思ってて、
    ハードボイルド小説といえばかなりの確率でおっさんだし、
    まぁおっさんの定義にもよるけど、40代、50代でも特に
    おかしくない感じで。
    じゃあおばさんは、っていうと、まぁおばさんの定義は
    おっさんの定義に対して極めて難しい問題をはらんでいるので
    ぶっちゃけ分からんのだけども、確かにおばさん主人公の
    小説ってあんまないのかな。
    じゃあって感じで今回なんだけども、
    小説の中にも出てきているように、まさにおばさんの
    シンデレラストーリー、ただしややしみったれたバージョン。
    でもしみったれた分だけ現実感があって、
    でもそこそこあり得ないだろって感じがある、そのバランス。
    これだけ苦労したんだから、これくらい贅沢しても良いよね?
    という、小町に投稿したらよく釣れますかてな案件。
    と文句を言いつつも、でもこういうストーリーに
    憧れるのも分かる、分かるぞ、おっさんなりに。

  • 「金色夜叉」の「お宮と貫一」が恥ずかしながらわからなかった。

    病院で手をくださない最期というのはいかに大変なことか。

  • 2012年に単行本で出た際に、読んでいるんです。
    2017年現在からみると、たったの5年前。
    最近、電子書籍で再度購入。

    「母の遺産」水村美苗さん。中公文庫、上下巻。

    #

    50代の女性がいて、結婚していて子供はいない。
    父はもう亡く、老いた母がいる。
    この母が、色々面倒ばかりかけ、たいへんにしんどい。

    コレという判りやすい被害がある訳ではないけれど、とにかく気持ちに負担をかけてくる。手間暇をかけさせる。

    ただでさえ自分も体調が悪いのに。重ねて、介護の手間が厚塗りされる。地獄のような疲弊感。誰とも分け合えない苦労。誰も褒めてくれない重労働。

    そして、夫が不貞をしていたことが分かる。若い女と。匂い。証拠。確証。
    それも、浮気と言うより、本気。離婚を切り出されそう。

    そんな、日常の着物を一枚めくると、すれ違う誰もが抱えていそうなスリルとサスペンスと、げんなり感。

    母との、愛憎。


    そして、ようやくの、母の死。ほっとする。

    やっと、死んでくれた。

    そして後半は。
    夫とどう向き合うか、今後の人生をどうするか、という流れになっていくのですが...。

    #

    5年前に読んだ時も、今回も同じく面白かったんです。

    水村美苗さんは、とにかく文章に持っている品格と言うものが。触れなば斬れん妖刀村正...と言う感じ、水際立った背筋の伸び方。
    さしずめ、大正時代からの老舗の喫茶店で、物静かでシュッとしたワイシャツ姿のマスターが入れてくれるアイスコーヒーのような。それを、うだるような灼熱の午後のひととき、適度な冷房の中で味わい、上等な氷がカランと音を立てるようなココチ良さ。
    「日本語が滅びるとき」「續明暗」なども、僕は本当に大好きです。

    なんですが...
    30代で読んだ時は、「面白いなあ」だったことが。
    40代の今回の再読では「痛い...怖い...苦しい」。
    正直、特に老いた母が死ぬまでは。

    (唐突に1986年の日本映画「人間の約束」を思い出しました。あれも凄い映画でしたね。三国連太郎と佐藤浩市の共演。)

    #

    そんなわけで、下巻に入って、母が死んでくれたあとは、正直大変に読み易くなりました(笑)。
    夫と向き合う、人生の再出発を考える主人公、というのは、つまり、なんというか、どこかしら、

    「ひとごと」

    として楽しめている自分を感じましたね...恥ずかしいことですが。

    比べて前半は...。

    親の老い... 介護...
    人の、人生の、終わり方...

    みたいなことを、コレデモカと、首根っこを押さえつけられて、目をひん剥かされて直視させられるような。

    自分の親がどうこう、ということもですが、「自分のときは」みたいなことを、よぎっては身の毛もよだつ...。

    「ひとごとや、あらへんなあ」

    だったんでしょう。5年前に比べて(笑)。


    #

    村上春樹さんが、「ある年齢になってから、昔読んだ本の再読が増えてくる」ということをどこかに書いていたような。

    そんなことに、心中、同意してしまう。
    再読もまた、愉しからずや。

    でも、水村さんの新作、出ないなあ...まだまだ何か書いてほしいなあ...小説ぢゃなくてもいいから...。

  • 下巻です。
    上巻では母の介護が焦点だったのに、下巻では主人公の夫の若い女との浮気話に軸を移した感じで主題が読めず、はじめは少々戸惑いました。
    だってね、箱根のホテルに逗留してから雰囲気ががらっと変わるんですもん。急に夫問題(苦笑)。

    ・・・ではありましたが、通読したらとてもよかったです。
    ここまで雰囲気を変えるなら思い切って一部・二部、と分けてくれた方がはじめから受け入れやすいかな、とも思ったけど・・・これでいいのかな?

    内容的には、主人公の、母や夫、もっと言えば過去からの「自立」の物語です。
    自立、といっても若者ではなくて50代中年女性というところがミソ。
    その歳になっても親のせいにするなど結果的に依存してたり、経済的に夫に依存してたり・・・などは意外と普通にありそうだから、そんな人が決心し、前進し、最後に自分を苦しめてきた人々を赦すという心境の変化には感動しました。
    中高年の女の幸せは最終的には経済力だ、とあけすけに語られているところも含め、現実感がありましたしね。

    また、主人公の、母親への感情もうまく表現されていると思いました。
    主人公が母親に振り回され、心身ともに消耗していく苦労は理解できましたけど、この母親、そんなにひどい人だとは思えなかったんですよねー
    病床の父を見捨てたくだりは最低な人間だったけれど、それ以外は自己実現と上昇志向を強く持っていただけの異端児じゃないかなと。
    彼女の娘だったからこその苦労も人一倍だったけれど、そんな母親だからこそ、留学させてもらったり、華やかな文化に触れさせてもらったり、恩恵もあったでしょう。
    娘もそれを理解したうえで母の死を望んでしまう様はね・・・なんともリアルでした。

    他にも、今の老人終末医療のありかたや、三文小説かと思っていた「金色夜叉」の魅力と当時の世相など(「ボヴァリー夫人」に至っては読んだこともないという・・・)
    色々勉強になりました。ホント面白かった!

  •  わがままな母から解放され、つましく生きるには十分な遺産を得て、浮気している夫を捨てる。50代での再出発。これだけ聞けば「最高やんか!!」と思う。
     しかし、この決断に至るまでが長い。後半は失速してしまった。箱根の芦ノ湖畔の仄暗いホテルで、過去を正視し、老後資金の計算をし、葛藤する。最後は明るい終わりで本当によかった。

     世の中には、暴力とか、犯罪とか、絶対してはいけないことをするような「本物の毒親」もいるだろうけど、ほとんどの場合良い面と悪い面を持つ親ばかりなんだろう。私も自分の親って毒親なんじゃないの?と思って色々調べていた時、自分の親は毒親ではない、だけど、この苦しみは自分にしかわからない、という結論にたどり着いた。
     主人公の美津紀も、母を恨みつつもその恵まれた半生に感謝している。母を母たらしめた生まれ育った環境、複雑な家庭環境、父親、全てを深く掘り下げることで、母に死んで欲しいと思った自分を許したかったのかも。

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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