自由と秩序 - 競争社会の二つの顔 (中公文庫 い 121-1)

著者 :
  • 中央公論新社
4.00
  • (2)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 63
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122061705

作品紹介・あらすじ

民主制と市場システムという二つの装置をいかに使いこなすのか。求められるのは、その欠陥を認識しながら、粘り強く修繕し続ける知恵である。自由・平等・秩序を維持するために、社会は、人は、どうあるべきか。経済思想・労働経済学の第一人者が問う。読売・吉野作造賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 章ごとに難易度が異なる気がする。最初の部分は少し難しいが、あとになるにつれて一般的になる。ドイツについては、著者の体験が多くエッセイの様である。それは高等教育と経済学の章でも同様である。
     学生が読むとしたら自分が読みやすいと思ったところから読む方がいいと思われる。
     どこかで推薦された本である。

  • 印象に残った記述

    古典の役割を論じた箇所。
    ”「古典を暗記せよ」といわれた時代もある。現代では無意味暗記や棒暗記は「反知性的」と考えられている。暗誦は創造力の敵とみなされるからだ。しかし、無意味暗記が知性の働きを準備するという側面があることを見落としてはならない。暗記して頭にたたき込まれた「形」があって初めて、「行間を読む」という知性の活動が可能になるからだ。その点で、「古典」を失った社会にとって、知性は衰弱の危険にさらされているともいえる。「形」を拡大したり、変形したりするためには、まず「形」そのものがなければならないからである。
     古典があまり読まれなくなった。このことが知性の働きの前提としての「形」の喪失であるとすれば、現代社会が知性の枯渇に苦しむことはゆえなきことではない。厳密な知識や、何事も論証しなければ気がすまないといった精神に、今の社会は満ち溢れている。息苦しいほど理性的で論理的なのである。しかし、理性的で論理的であることは、人間のなかに隠された野性(野蛮)をコントロールするために重要不可欠ではあっても、それ自体は新しい問題を見つけ解決する力とはなりえない。むしろ理性的・論理的すぎるということは、時として野蛮を生み出す危険をはらんでいることでさえあるのだ。
     ルーチンだけをたたき込まれると人間は保守的になる。そしてルーチンから逸脱するものに対しては何かにつけ反撥を繰り返す。したがってルーチンだけしか学びとらない頭脳は、変化に対して鈍感になるだけではなく、変化にどう対処すべきかを考える力を持ち合わせえない。”

  • 【版元】
    初版発行日:2015/9/25
    判型:文庫判
    ページ数:296
    定価本体:800円(税別)
    ISBN:978-4-12-206170-5

     手放しの競争礼讃は20世紀の教訓を忘れていないか。競争原理の激化に警鐘を鳴らし、公共利益の必要性を説く。読売・吉野作造賞受賞作。
    http://www.chuko.co.jp/bunko/2015/09/206170.html

    【目次】
    目次 [003-009]

    プロローグ 013

    I 民主制をめぐって
    第1章 リベラル・デモクラシーをめぐる5つの論点 020
      直接民主制と代表民主制 021
      多数決原理と経済厚生 023
      「丸太ころがし」と投票のパラドックス 026
      官僚と民主制 030
      自由とモラル 032
      参考文献 035

    第2章 リーダーシップの衰退 037
      日本人はリーダーを望んでいるのか 037
      国際政治の場―― G7とIMF 042
      国際金融機関の中の日本の声 047
      参考文献 052
      補記 053

    第3章 日本国憲法と経済政策 055
      専門性の問題 055
        外形標準課税の場合/功利主義的計算を/金融政策の場合
      政策決定のスピード 066
      参考文献 071

    補論(1) 自己統治とガヴァナビリティー 072
      参考文献 078

    II 市場経済の力と限界
    第4章 競争社会の二つの顔 080
      経済競争を封じ込めようとした計画経済 082
      二つの競争と人間の自由 089
      一元的システムの不十分さ 095
      参考文献 102
      補記 103

    第5章 視野の短期化と公共の利益 104
      森林に象徴されること 104
      人材の育成と評価 106
      短期資本という乱暴者 111
      研究開発の体制 114
      人材の供給体制の見直しを 116
        専門性の尊重/専門家の数/長期的利益と公共の利益
    参考文献 123
    補記 123

    第6章 市場経済を中間組織で補完する 124
      民主制の弱点 124
      市場機構の弱点 126
      中間組織のcommonという概念 129
      参考文献 135
      補記 135
    補論(2) 官僚批判の行き過ぎは危険だ 136
        官僚は叩かれるもの/機械的削減より再分配を/公的部門の規模/「政」だけで公共の利益は護れるのか


    III 戦後日本の合理主義 
    第7章 高等教育と経済学 146
      競争という「装置」 146
      平等社会の野心 149
      もうひとつの「教科書問題」 153
      学問下地に専門性の向上を 157
      非定型の判断力 160
      参考文献 163

    第8章 古典の喪失と知性の衰弱 164
      知性の積極性 164
      変化への対応力 168
      思考には「形」がいる 172
      参考文献 177

    第9章 ドイツの場合――その多様性と連続性 178
      マールブルグでの経験 178
      統一後の問題 183
      過去とのつながり 186
      参考文献 192
      補記 192

    補論(3) 「少子化」という選択 194
        合理性の逆説/家庭内労働の経済学
      参考文献 203
      補記 204


    IV 国際社会の中の日本
    第10章 グローバリズム――日本にとって何が問題か 206
      事実と幻想 206
      世界競争は「言葉の戦い」へ 211
      技術競争と論争力の較差 215
      参考文献 221
      補記 222

    第11章 言論の役割 223
      知識の高度化と拡散 223
      知識人と世論 226
      過去の言論を評価する 230
      言論の自由とは 234
      参考文献 236
      補記 237

    第12章 アメリカ・ヨーロッパ・アジア 238
      アメリカの漂流 238
      ヨーロッパの連合 243
      カール大帝からサン・シモンの夢想へ 247
      アジアの経済統合と国際協力 250
      参考文献 257

    補論(4) 貿易と所得分配 258
        UNCTADの南北対立/WTOとNGOの対立/貿易と所得分配/中間層こそ社会の要
      参考文献 267

    エピローグ 268
        「好感度」という危険な尺度/統治される能力/ただシステムを変えればよいわけではない/自己統治なくして改革はなしえない

    謝辞(二〇〇一年五月 著者識す) [279-280]
    文庫版あとがき(二〇一五年夏至 著者識す) [281-282]
    解説 二〇世紀を振り返る英知の書(宇野重規) [283-290]
      公共性・中間団体・専門家
      市場と民主主義を何とか使いこなす

  • 手放しの競争礼讃は20世紀の教訓を忘れていないか。競争原理の激化に警鐘を鳴らし、公共利益の必要性を説く。読売・吉野作造賞受賞作。〈解説〉宇野重規

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

猪木 武徳(いのき・たけのり):1945年生まれ。経済学者。京都大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学大学院修了。大阪大学経済学部長を経て、2002年より国際日本文化研究センター教授。2008年、同所長。2007年から2008年まで、日本経済学会会長。2012年4月から2016年3月まで青山学院大学特任教授。主な著書に、『経済思想』(岩波書店、サントリー学芸賞・日経・経済図書文化賞)、『自由と秩序』(中公叢書、読売・吉野作造賞)、『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、桑原武夫学芸賞)、『戦後世界経済史』(中公新書)などがある。

「2023年 『地霊を訪ねる もうひとつの日本近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

猪木武徳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャレド・ダイア...
トマ・ピケティ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×