怒り(下) (中公文庫 よ 43-3)

著者 :
  • 中央公論新社
3.91
  • (401)
  • (688)
  • (374)
  • (63)
  • (15)
本棚登録 : 5154
感想 : 510
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062146

作品紹介・あらすじ

山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • →→→上巻からの続き

    素性の知れないあの人は殺人逃亡犯なのではないか?と周りの者たちが疑い、恐れ始める──

    信じていたのに裏切られた
    信じようとしたけど、できなかった
    信じてくれなかった
    人を「信じる」ことについて、こんなパターンが出てくる。

    人は、地域で、職場で、家庭で、どのようにして他人からの信用を得ていくのだろう。また逆に人の何を見て信用するのだろう?
    人柄?態度?社会的地位?職業?経済力?学歴?家庭環境?…違うと思う。色々と考えてしまう。
    やはり自分の直感なのかな。
    「信じられるか、信じられないか。主観的なものだ。その主観は信じる自信があるかないか。要するに自分に自信があるかないか」(下巻P42)に結びつきそうだ。

    理不尽な終わり方に「怒り」がわいてきた。
    作者への怒りではない。
    昨今の真相が究明されない未解決事件、捜査打ち切り、不起訴処分等に重ね合わせてしまうのだ。

    作者曰く、本書は“怒れない人の話”なんだそうだ。怒れない人たちに光を当て、小説として書くべきテーマだと。
    吉田修一さんにもっと書いていただきたい。

  • 信じること 疑うこと 怒り について問われる。
    愛した人を信じきれなかった優馬、愛子。
    自分の娘を信じることが出来ない父親、信じていたのに…裏切られた辰哉の怒り、泉のどうすることもできない世の不条理への怒り、そして山神の衝動的な怒り。他、米軍基地を建設された沖縄県民の怒りなど様々な怒りが描かれています。

    山神の怒りの衝動の根本を彼視点で読みたかった。

    私も人を信じ切ることは苦手だ。優馬や愛子の立場なら自ら逃げてしまうと思う。信じることの難しさや危うさについてとても考えさせられた。

    個人的にこれは映画も名作。見直したい。

  • どこまで信じれるか、そして許せるか、後悔を乗り越えられるか、テーマが一貫してました。

  • 【感想】
    人を心から信じる事の難しさ。そして、自分が人に信じてもらう事の難しさ。
    それがこの作品のメインテーマでしょう。
    物語自体のミステリアスな描写や、真犯人である田中の猟奇性も目に留まったが、やっぱり「信じることの難しさ」が読んでいて痛切に心に残った。
    そういう意味で、人と人とのつながりを表すヒューマンドラマだったんだなと読み終わって感じた。

    特に、上巻に続き、優馬と直人の友情には心にグっときたね。
    結局、二人は死別してしまったが、直人は最期まで優馬の事を信じていて、優馬は直人に対する誤解を解くことができ、そのあたりは読んでいてちょっと涙がこぼれました。
    (読者である自分さえ、心のどこかで直人を信じてやれなかったので・・・・)

    そして、もう一組の田代・愛子親子のエピソードも、結局は途中で田代の事を信用できなくなってしまったのだが、最終的に元の鞘に収まって良かった。
    この2組が特に、相手の事を信じながらも疑ってしまう葛藤を繰り返していたので、月並みな言い方だがハッピーエンドで終えて安心しました。
    逆に、田中の最期は呆気なさすぎたが・・・笑

    最後に、事件を追っていた刑事も、この3組と同じように「この人を信じきれない」という悩みをプライベートで抱えていて、こちらは他と違ってバッドエンドで終わってしまったのが可哀相だった。
    普通に言えばよかったのに。。。笑

    ていうか、この吉田修一は「パレード」の原作者でもあるんですね。
    映像化されている作品が多くて、素晴らしい作品が多いなぁ。
    機会があれば、この作者の別の作品も読みたいなと思いました。


    【あらすじ】
    山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察は発表した。
    洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。
    日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。
    三人のなかに、山神はいるのか?犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは!


    【引用】
    1.中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
    だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
    直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
    優馬はその直後に直人と出会った。

    2.上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
    司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。
    上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
    あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。


    【メモ】
    怒り 下巻


    p231
    直人がそんな男ではないと分かっていたくせに、最後の最後で信じてやれなかった。上野署から電話があった時、俺はあいつを裏切った。大西直人という男など知らないと言った。
    「知りません。」
    あの時、俺は逃げた。あいつを裏切って逃げたのだ。


    p252
    「このカフェであった時、直人、初めて優馬さんと暮らしていることを私に教えてくれたんです。優馬さんと一緒にいると、なんだか自分にも自信が湧くんだって」

    直人は両親2人に愛されて育ったが、4歳を迎えた頃、両親が交通事故で亡くなった。
    直人は母親の兄夫婦に引き取られたがうまくその家に馴染めず、数ヶ月ほどで施設に預けられた。
    この施設で知り合ったのが彼女だった。以前直人が妹だと言った彼女だ。血は繋がっていないが、今でも兄妹だと思っていると彼女は言った。

    中学卒業後、直人は施設を出て静岡県の自動車工場で働きながら定時制の高校に通い、卒業後に都内の小さな旅行会社に転職、国家資格も取ろうとしていた。
    だが丁度その頃、心臓に疾患が見つかり、薬を飲みながらうまく付き合っていくしかない病気を持つことになる。
    直人は体調が悪くなっていき、勤め先は働き方を工夫してくれたが、結局退職を決める。
    優馬はその直後に直人と出会った。

    上野署から電話があったその前日、上野公園の茂みに倒れていた直人が発見された。
    司法解剖の結果、死因は心臓疾患による呼吸停止であった。


    p260
    美佳は背中を丸めてしゃがみ込み、段ボールの中の猫を撫でながら、「頑張ったねえ、頑張ったねえ」と繰り返す。
    その背中を北見は見つめた。

    ふと、誰なんだ?と思う。
    今、目の前で泣いている女は誰なんだと。

    この背中を信じたい。泣いているこの女を信じたい。彼女が誰であろうと、自分の気持ちは変わらない。目の前にいるこの女を俺は信じている。

    「なぁ」
    その背中に北見は声をかけた。
    「もう、耐えられないんだ。なぁ、俺と結婚してくれないか?調べたんだ君のこと。勿論、悪いと思っている。でも、その上で、君のこと全部知った上で、俺は結婚したいと思っている。一生大切にしたいと思ってる」
    もちろん嘘だった。彼女の過去を調べてなどいない。
    ただ、彼女がどこの誰で、どんな事情があろうとも、自分は彼女を愛し続ける自信があると伝えたかった。

  • ミステリー小説と思って読んでいくと、もやもやした終わり方だなーと思うけれど、信頼関係の話、と思って読んでいくと、納得して読み終えることができるのかな。

  • 上下、一気に読めた。
    詳細を話してくれない人をどうやって信じるのか…自ら話す人だって、もしかしたら嘘かもしれない、それを信じられるか?
    問い質して後悔するか、聞かずに後悔するか…
    あぁ〜後悔、後悔って…私ってほんとマイナス思考なんだなぁ。



  • 3つの場所での話と殺人事件がどう絡むのかが気になり
    下巻はものすごい速度で読めます。

    ううむ、
    胸の中にどろっとしたようなものが残る作品。
    だからといって読んだ後悔はないけれど。

    相手を信じる大切さ
    もそうなんだけど
    じゃあ信じれば報われるかというとそうでもない。
    信じた人と信じることが出来なかった人、
    どちらかを正解としていないところが良いなと思った。

    ちなみに
    信じることが出来ずに失敗した人は
    反省して今後は相手を信用するかというと
    そうではない気がする。私自身がそういうところがあるからかもしれないけど。

    映画化の配役の観点でいくと
    渡辺謙と宮崎あおいが小説から読む私の印象とは違ったかな。
    もう少しダサい港町の親子なイメージなので
    この2人じゃシュッとしすぎている。

    他は、特に妻夫木聡や森山未來、広瀬すずあたりは適役かなと。

  • 最後に描かれた一人の刑事とありふれたコインパーキング、そして手紙。読み終えて作者の熱量に圧倒された感じがした。田代、直人のいく末、泉の行動、辰也の気持ちに感情がビシビシと揺さぶられた。山神とはなんだったのか?山神の怒りはなんだったのか?北見の心境が重なる。一方で山神が与えた人知れずの影響は生々しくふりかかり、人々を深く傷つけていく。その中で田代が戻ってきた場面は唯一救われた感じがした。最後まで誰が犯人かわからない展開や、人を信じることへの揺らぎについて考えさせられる本でした。大好き度❤️❤️❤️❤️

  • 人を信じることの難しさ、信じて裏切られた怒り等、考えさせられる作品でした。
    最後は少し希望が見えたかな。

  • 喪失感と遣る瀬無さを感じた結末。

    やはり、惨殺事件の犯人・山神一也を中心としたミステリー、サスペンスというよりは、間接的に山神一也に翻弄される人びとを描いたヒューマンドラマだった。

    逃亡を続ける山神一也の正体に驚愕することもなく、『怒』の正体も知ることもなく、読み手に精一杯生きることに対する不信感を抱かせるような結末だった。

  • 上巻は犯人は誰だと思いながら読んだけど下巻は人を信じるって事の難しさがテーマだった。親が子供の幸せな未来を信じられないって子供にとってはものすごくつらいと思う。親は子供の幸せを信じて見守ってあげるっていうことが、信じる事だと思う。

  • 気分が滅入る
    テーマは人を信じる事の難しさ
    ミステリーというよりヒューマンドラマです。
    ミステリーという点ではスッキリしません(笑)

    下巻では、
    山神の特徴が公開捜査される中、それぞれが、徐々に疑いを持ち始めていきます。

    洋平は愛子と同居を始めた田代が偽名と知って、その過去を確認しようとします。
    優馬は直人が女といるところを目撃。その後、直人が行方不明に。さらに警察から連絡が..
    泉と辰哉は田中が住む無人島であるものを発見。

    下巻はとても盛り上がります。

    それぞれの日常のなかで、疑惑が深まり、それぞれが葛藤していきます。
    そんな中、一人ずつ、その疑惑が明らかになっていきます。
    結果、相手を信じられなかったことによる後悔。つらさ。
    さらに、信じていたが故に起きた悲劇的な結末...
    これは衝撃でした..

    人を信じるということがこれほど辛いことになるのか、と読者の気持ちをえぐってきます。

    そんなわけで、山神の事件を通して日常の生活から描かれる人と人のつながりを描くヒューマンドラマ
    しかし、ミステリーという点では、
    なぜ、現場に「怒」の血文字を残したのか?
    なぜ、若い夫婦が惨殺されたのか?
    といった謎はそのままです。なので、ミステリーなんだろうけどポイントはそこではない(笑)

    ということで、読後感は滅入った気分になりますが、お勧めです。

  • 映画を見てからの原作。

    映画だけでは消化不良、そしてその映画を見た人との感じ方にも大きな差があった為原作を読んでみた。

    こちらの方が遥かに深く心臓に突き刺さってくる感じがあった。
    自分はやっぱり映画より文字の方が好きなのかもしれない。

    映画では3つの物語の同時進行形式だったが、原作では+刑事の物語が含まれて、より「信じること」について深く掘り下げられている気がする。

    映画よりたくさん涙を流しながら読み終えた。
    それぞれの物語、それぞれの登場人物の気持ちを深く感じることができる。。。

    辰哉の行動の意味も・・・。

  • 久しぶりに上下巻の本を読んだ。
    色んな信じるがあって、こう言う終わり方じゃない方が良かったけど、じゃあどう言う終わり方なら良いのか…なんて、考えてしまったりして。
    切ない話しだった。

  • 三つの物語りに繋がりが無いので、最後の展開はあまり盛り上がらなかったように思いました。
    ただ描写が上手いので、クズな人達への怒りは感じ、読み進めるのが嫌になってしまった。
    なんとか読了。

  • 人を信じて裏切られ悲しい結末を迎える、人を疑って後悔して失った後に気付く愛の深さ、人を信じられず裏切るが再び信頼を取り戻そうと生きていく。
    三者三様の人間の醜さと美しさが描かれて胸に迫る。
    結局、沖縄が悲しみを背負わされることになるのは本当にやるせない。

  • 三者三様いろんな終わり方。ちょっと切なかったり。

  • 読了後、何とも言えないやるせなさに襲われ、滅入ってしまった。3者3様のささやかな幸せがずっと続いていったらよかったのに、と願わずにはいられなかった。もし自分が愛子や洋平、優馬だったら、素性の知れない田代や直人を信じられたのか。もし泉や辰哉だったら、信じていた田中の本性を知った時に冷静でいられたのかー。人を信じるという行為の難しさを痛烈に感じた。
    信じてもらえなかった愛子、洋平の下から姿を消した田代は最終的には2人の下に戻った。困難もあるだろうが、きっと平穏を取り戻すだろう。直人を信じることができぬまま失ってしまう優馬も、傷が癒えればきっとまた前を向いて歩けるはず。田代、直人サイドは結局、本来何の関係もない殺人事件に翻弄されただけだったのだ。だが、田中を信じてしまったがために、まだ幼い泉と辰哉が最も悲劇的な、取り返しのつかない結末を迎えてしまったことに強く心を痛めた。辰哉の罪が減刑され、罪を償った後は泉と幸せに生きていってほしいと願わずにはいられない。
    ただ、謎も多く残る。山神が犯した殺人事件の本当の動機は結局のところ何だったのか。山神は何に怒り、「怒」の文字を残したのか。山神のサイコパスな一面はどのように形成されていったのか。殺人事件よりもそれに翻弄される人々に焦点を置いた作品とは言え、消化不良感が残った。北見の下から立ち去った美佳の本性も気になる。
    上巻を読んでいる最中は直人が犯人だと自分なりに予想していたが、下巻ではいい意味で裏切られた。読者をはらはらさせる展開も見事だった。
    同性愛、基地問題というテーマが絡んでいたためか、余計に強く感情移入してしまった。発展場や現代のゲイコミュニティの描写は、おそらくしっかりと取材がなされた上での描写だろうと推察される。反面、基地反対運動に関するシーンはもっとリアリティが欲しかった。
    映画のキャストを知った上で読んだので、特に優馬と直人のシーンは妻夫木聡と綾野剛をイメージしながら読み進め、ぴったりのキャスティングだと感心した。映画公開を楽しみに待ちたい。

  • 怒涛に繋がっていく、
    というよりも、
    それぞれの人間が自らの信頼を疑い、
    愛する人物を疑い、
    独りよがりに不安を掻き立てていく様と、
    それらが事件へと集約され、
    何かが起こりそうな恐怖と興奮で、
    一気に読まされ、
    その慄きが頂点に達した時、
    絶望的な結末へと駆け抜けるその疾走感。

    北見の話しを挿入したのは正解。
    そして、希望の回復と、
    これから更に待ち受けるであろう闇との、
    そのまたコントラストが眩い。

    吉田修一節完結、というラストに、
    いやぁ、あっぱれ。

  • 何だこれは。
    言葉が出ない。遣る瀬無いなぁ。

    殺人事件はオマケみたいなもので、これはミステリーではなく恋愛小説だと私は認識しました。

    ゲイカップル、切なすぎるだろ。。

    タイトルのインパクトが大きすぎて、何だかミスマッチな気がしました。
    沢山の謎とモヤモヤが残ったけれど、コレはコレで良いのかも。
    何とも言えない余韻が残っているので浮上するのに少し時間が掛かりそうだなー。

全510件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

吉田修一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ピエール ルメー...
朝井 リョウ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×