夢も定かに (中公文庫 さ 74-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122062986

作品紹介・あらすじ

聖武天皇の御世、後宮で働くべく阿波国から上京してきた若子。同室になった姉御肌の笠女、魔性の春世ともども暮らす宮中は、色と権謀の騒動続きで…仕事に意地をかけ、乙女心に揺れ、人知れぬ野望を育む先に何が待つ?平城京を陰で支えた女官たちをいきいき描く宮廷青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 奈良時代の女官たちの働きぶり。
    キャラ設定がわかりやすい歴史小説です。

    1300年前の平城京、聖武天皇の御世。
    宮廷を支える後宮には、多くの女性たちが働いていた。
    表紙のイラストのようなキャラ設定で、読みやすい。
    おっとりした若子が上京し、しっかり者の笠女、色っぽく可愛い春世と同室に。
    3人とも10代後半で、地方の出身。
    若子は出仕するはずだった妹の代わりに急遽仕事に就いたため、覚悟も準備も出来ていなかったが…

    後宮には12の司(部署)があり、13歳から30歳までの女性が登用される。
    地方の豪族出身だと采女(うねめ)になり、畿内の貴族出身の氏女(うじめ)とは身分の差があった。
    総合職と一般職みたいな感じ?
    氏女からのいじめみたいなこともあったり(笑)

    若子は膳司という職場に配属され、食事の世話をする、といっても料理ではなく主に貴人に食事を運ぶのが仕事。
    仕事があまり向いていないと感じ、将来も思い浮かばない。
    春世に相談したところ、結婚相手を見つけてもいいと勧められるが…?

    笠女は、書司に勤めていて優秀、忙しい時期に男性のする仕事を頼まれて立派にこなすが…
    縫司に勤める春世はもてまくり、浮名を流す目立つ存在で、貴族の愛人となって子供も生んだが、子供は本妻に育てられている。
    春世の本心は…?

    藤原家の有力者である四兄弟と長屋王の権力争いが続いている時代。
    どの妃が先に男子を生むかどうかが、勢力図を大きく変える。
    3人の娘たちは妃に仕えているわけではないので、直接は関わらないが、やはり影響は出てくるようです。
    後に疫病がはやった時代を「火定」で骨太に力強く描き切った作者。
    これはまだ、そういう事態になる前、ある意味では平和な時期の物語ということもあり、雰囲気は全く違います。振れ幅大きいですね。
    時代考証が詳しい分、最初はわかりにくい部分も、しっかりした背景の裏付けで、読みごたえにつながっています。

    藤原四兄弟はのちに疫病で死んでしまうのだが…
    娘たちは藤原家とも関わりながらも、働き続け、生き延びる。
    それぞれに生き方を探してあがく娘たち。
    実はちゃんとモデルがいるというのが面白く、笠女のモデルなどは高位にまで出世し、長生きしたこともわかっていたり。
    全く違うようで、現代にも通じるような、女性のつらさ、いやむしろ、たくましさ。
    あっぱれです☆

  • 1300年前の奈良時代に後宮があって当たり前、なのに今更ながらの認識で恥ずかしい。政治の頂点が聖武天皇にあり、その生活を円滑に進めるための官僚集団みたいな部署が後宮には12司あった。そこで働くワーキングガール3人の女官の物語だ。女官は地方豪族出身の采女(うねめ)と中央貴族の子女である氏女(うじめ)で構成されていて役職も付いた。主人公となる3人は采女で地方出身者。畿内を中心にして形成された古代国家は各地域を征服していく中で、地方の豪族たちからその子女を差し出させている。女性は采女、男性は兵衛として天皇に仕えた。武芸に巧みな兵衛に対し、采女の推薦条件は13歳以上30歳未満で形容端正の容貌が重視された。若子たち3人の采女には実在のモデルがいると解説にあり、身近に感じられる。
    3人の内、若子は帝の食事を司る膳司、笠女は書司、春世は縫司。後宮では、首天皇(聖武天皇)を中心に、長屋王を中心とした皇族派と4兄弟を中心とした藤原氏の権力争いが絶えない。この2派に属するそれぞれ帝の妃のどちらが先に皇太子を産むかで権力構造が変化する。
    後宮を舞台にした物語だが、帝の寵を競う貴妃たちの小説ではない。その後宮の中で官吏として生きる采女たちのお話である。華やかな後宮のただ中で、夢も定かに見られぬ身だからこそなお、自分たちは各々の生き方を全うするため、あがき続けずにおられぬ。いつか夢を掴むその時まで。

  • 舞台は平城京、後宮で働く女官達を描いた宮廷青春小説。
    古代といっても、女の持つ悩みに時代は関係ないのだなと改めて考えさせられる。過酷な仕事で逃げたくなっても、実家にも居場所はない。行き場のない思いを抱えながらも、腹を括るしかないわけで…腹を括ってからの女子達の成長っぷりが眩しい。時代を超えた女子の普遍的な悩みが今っぽい会話でライトに楽しめるから、古代に馴染みのない方にも取っつきやすいかと思う。メイン登場人物の女子トリオは采女(地方豪族の娘で下級女官)。対して、氏女は畿内豪族の娘。相容れぬ関係の采女と氏女を、解説ではノン・キャリアとキャリア…とわかりやすく例えており、そう捉えると更に古代が身近に感じられる。
    藤原四兄弟と皇族の対立など、史実もしっかり取り入れてきているので、勿論古代史ファンにも楽しめる。この時代のお菓子等、フード描写にも興味津々。
    当時の女性は、現代とは比べ物にならないくらい枷の多い、ままならない生き方を強いられていただろう。それでも、己の才覚で世を渡っていくこともできなくはないのだ。そんな可能性を示され、現代の世に生きる私達も勇気をもらうことができた。

  • 奈良時代、三人の采女たちの青春群像劇であり、難しく弱い立場で生きねばならない彼女たちの、意思と強さの物語。

    宮人である彼女たちの、現代の会社勤めに通じるような人間関係や様々な縛り、男女の差、その中でもがきながら友情を育む様がよく、終盤での大きな権力にしたたかに舌を出して守るべきものを守る姿に感動した。というか、素直におもしろいし泣ける!

    そして古代史専攻の作者のこと、時代考証もしっかりしていて勉強になる。特に彼女たちのモデルがいて、その記録に触れ、作品がまた広がる感じがよい。
    (その後の大事件や疫病を思うと……な部分もあるけどそれも含めて)

  • 読みやすいライトノベル風。
    若い人に平安時代のドロドロの入り口に
    なればいいね。楽しいよ。
    藤原4兄弟の粛清の嵐スタンバイ時代。
    あのオチは優し過ぎないか?

  • いつの時代も女はすべてと闘っている。
    友のために、家族のために、愛する人のために、なにより自分のために。

    ラストまで読んでタイトルの意味がすっと落ちてくるところもまた良い◎

    1300年前の彼女達もがんばっていた。
    残念なのは1300年経っても同じ理由で泣かなければならない女がいることかしら。

    嘆いてばかりはいられないから、せめて1300年後の後輩達のために、私達はまだ闘わなくては。

  • 少女たちのお仕事青春小説かと思っていたが、内容はもうちょっと大人だった。
    地方豪族の娘は郷里においては名家のご令嬢でも、中央に出てくれば田舎娘。
    畿内豪族の娘との格差もあり、女性が職を持つといってもひとりで生きていくことは難しい。

    若子は妹の代わりに急遽出仕が決まり、何の覚悟もろくな準備もないまま出てきたために仕事にも慣れずどこかふわふわしている。
    それが現実を知ることにより自分の生きる道を見つける。

    能力も高く男性に交じって仕事をしたいと思う笠女も、いざ男性官僚の能力を超えられると知られれば女だからとはじかれる。

    恋愛に奔放な春世はそうしなければ生きていけなかった。
    誘いを断っても受けても何か言われ、女からはやっかまれる。
    子供だけが支えだが、ともに暮らせなくても仕事を続けるのは彼女なりの矜持だ。
    最後に本当の愛を見つけられたようだがそれも長く続かず、一番世間に翻弄されたように見えた。

    夢も未来も定まらなった少女たちが、己の道を見つけて成長していく物語に、当時の宮廷の様子や権力争いなどの政治的な話も加わってとても面白かった。
    解説には主人公たちのモデルらしい人物の話もあり、そちらも読みごたえがあって良かった。

  • 奈良時代の後宮で働く下級女官3人の後宮暮らし生き様が、短い物語の中にも生き生きと描かれていたと思います。自分の身の施し方にきりきり舞いだった新人の頃の若子が、二年のうちに友人の身や男女の仲について思いを致せられるようになった成長ぶりに感心です。現代の会社で働くОL社会のようにも見えてきました。

  • 因幡八上采女は、鳥取の万葉記念館でも、UFOみたいな形のしたお墓が展示されている。(記憶はあやふやである)
    この三人の才女に注目して、それを見事に書ききった作者の力量に脱帽だし、この三人でもっと長いストーリーを読みたかった。
    タイムスリップしたような……とは安易な言葉だけれども、それ以外に見つからないくらい、実に楽しんで読めた。

  • 平城京の後宮に務める采女達の物語。
    主人公達が10代だからラノベな雰囲気が満載だけど、人生50年時代の10代は今時の10代と違うし、地方から単身上京の寄る辺無さは現代に通じるか。
    実在の人物をベースに造形されてて、周辺人物達(聖武天皇とその妻子、藤原4兄弟や長屋王ら)とその情勢は史実にかなり忠実。奈良時代の後宮を舞台にした話ってのが、まず貴重よね。
    地方豪族の娘は「采女」、機内氏族の娘は「氏女」。キャリアとノンキャリ並みの待遇格差があったとは知らなかった。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

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