組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122063914

感想・レビュー・書評

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  • 2009年出版の「組織は合理的に失敗する」を改題して2017年の出版されたのが本書。日本軍の「失敗」を単にその不合理性に求めるのではなく、最新の経済理論に基づいて組織が「合理的に失敗する」仕組みについて考察している。改題された本書では、はじめと最後に「不条理」と何かなどの定義だとか、最新の組織の失敗事例に関する考察だとかを加えられていて、正直、この加筆された部分のみを読んでも良いかと思った。
    人間は完全に合理的な生き物ではなく、得られる情報も限られていてその合理性は限定的である。自分や周囲にとって合理的な行動が、組織全体の合理性とはならない。仮に全体を最適化することが理解できても、そのための取引コストが得られる利益を超えれば、とりあえず不合理なままであることが合理的になってしまう。物性理論で言えば、自由エネルギー最小の状態に向かおうとしても周囲の障壁によるローカルミニマにとどまってしまうということか。
    変化の激しい時代、組織を大きく変えようとするときは必ずこのコストも考慮して進める必要があるし、平時から組織内の取引コストが小さい状態を作り出しておく必要があるのだろう。そもそも組織だとかコミュニティーを作るのは、信頼関係を気づいて取引コストを小さくするためなわけで、組織内の横の繋がりを断ち、競争を煽るようなシステムを構築するのは愚の骨頂なのかもしれない。

  • 作者の主張したいことは理解も共感もできるのだが、「限定合理性」という考えが先にあって、後から事例を当てはめた感が強く、理論と事例の関連付けがどうもしっくりこない。

    何かいまいちだな...と思って文庫版のあとがきを読んだら、こっちの方が面白かった。

    間違っているとは思いつつも、取引コストの高さに辟易して保身と打算で過ごしている小物の身としては、「内なる良心にしたがって自由を行使せよ」という叱咤の声は、眩しすぎて少々疎ましい。
    腐りかけた性根には澱んだ水が合うようだ。

  • 別の著者の本を読みながら考えていた、全体合理性と個別合理性の不一致について、全く同じ思考かつ体系だった学問として解説された内容だったために、それだけでも私にとっては価値のある一冊となった。

    合理性の範囲の差により不条理が起こり、突き詰めるとそれは、倫理性と効率性、長期的帰結と短期的帰結がそれぞれ一致しない時に生まれる。これらを研究した新制度派経済学は、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論から構成される。

    人間は限定合理的であるが故、相手の情報不備につけ込んで利己的利益を最大化しようとする。この仮説は、機械主義的行動を招く。相互に駆け引きをするため、取引コストが発生する。利己的利益を最大化するために、集団組織の形態が取られる。組織内の取引コストを抑えるためにガバナンス制度が設けられていく。

    依頼人であるプリンシパルと代理人であるエージェント。プリンシパルの不備を利用して、利益追求を図るエージェントにより、非倫理的なモラルハザードが起こる。悪しきエージェントが生き残るアドバースセレクション、逆淘汰現象が生じる。エージェントコスト。中古車におけるレモン市場、保険加入者による情報非対称性で起こる。

    どんな事象、いつの時代でも起こり得る合成の誤謬であって、それを避ける為にすべきは、無知を知り、その上で制度設計する事だろう。

  • 組織を不条理に導くのは、人間が限定合理的だから。完全合理的に行動すると、組織内で批判的議論がされず、非効率や不正が排除されない。そして組織は不条理に陥り、淘汰される。
    人間は限定合理的だと認識し、絶えず批判的な議論を展開すれば、組織は進化していく。

  • 今村均の生き方、考え方をより詳しく知りたい。
    人間は限定合理的であることを前提にマネジメント。
    他律と自律の合わせ技で完全安全性を実現する。
    批判的議論の場を設ける。

  • (278ページ引用)各メンバーが自ら完全合理的であると思い込み、批判的合理的な構造を形成できない傲慢で硬直的な組織は、絶えず不正と非効率を増加させ、それらを排除する新しい戦略を形成することができず、現状を維持することが合理的となる。こうして、時間とともに非効率と不正は増加し、最終的に組織は平衡な、つまり死に向かって進んでいくことになる。このような批判的議論の場をもたない「閉ざされた組織」は、不条理の中で淘汰されていく組織なのである。

  • あとがきが興味深い。
    問題はいかにして実践するか。

  • 完全ではない限定合理的である人間が、不条理な結果をもたらす悲劇を、太平洋戦争の失敗例や改善例で分析した名作といえる作品。

    戦記物に馴染みのない人でも、作戦や組織、人物を説明し、学説で、分析し解説しているのが、素晴らしい。
    そして、批判を許容し自己学習する組織作りの大切さを説く。

    空気を読んで、批判・反論したいのが本音なのに、我慢せざるを得ない時って、まだまだあると思う。
    同時に、命を賭けて戦った先祖や先輩たちに、皆さんの時代と違って、反論を許容し進化する文化になってるよ!日本は!と堂々と顔向ける状況にない事に、やるせなくなってしまう。

    それにしても、ある程度知っていたが、失敗例のインパール作戦には、表現出来ないほど、呆れる。作戦の結果としての敗北・戦災ではなく、人災と言っても過言でない。
    会社の例で言うと、実力や勝利経験のない、身のほどをわきまえないバカ部長の暴走と言った所かなと勝手に解釈してしまった。

  • 組織を構成する個々人は優秀なのに最低な意思決定、組織運用をしてしまう事例は多く存在する。旧日本軍の失敗の轍を現在も多くの日系企業が踏んでいる気がしてなりません。

  • 組織の本質は、人間の限定合理性にある。
    なるほどと思いました。
    著書は、「取引コスト理論」「エージェンシー理論」「所有権理論」をベースに、人が限定合理性の枠組みの中で、合理的に意思決定し行動するが故に、不条理に陥ってしまうと論じております。
    著書を一読してみて、切り口は違えど、「行動経済学」とクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」と類似しているなと感じました。
    最後に、その処方策として、批判的精神を持ち、漸進的に組織を変えていくとの主張がありましたが、自分はこの書のあとがきに明記されている「個々の自律による主体的な行動」の主張の方が、しっかり腹に落ちました。
    良書でした。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2016年 『組織の経済学入門〔改訂版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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