舌鼓ところどころ/私の食物誌 (中公文庫 よ 5-10)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122064096

感想・レビュー・書評

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  • 東南アジア勤務の折、日本語書店でこの本を購入。異国の暮らしを送りつつ、あれこれ拾い読み、あれも食べたい、これも飲みたい、と妄想が広がる、楽しい本でありました。著者`吉田健一`のお酒を飲む楽しさ、嬉しさ等が、じんわりと伝わってくる、楽しい本であります。

  • 戦後の非常に苦しい日本の再成長への道、その中で、食そのものを楽しみ、人々に興味と日本が古来から持つ食の素晴らしさを集めた珠玉の食に関するエッセイ集。丁寧に取材し、食し、語られる文章がネットも、Social Mediaもない時代に、唯一の情報源だった人たちもいただろう。それを考えると、写真のない、文章のみで構成された、インスタと言えるだろう。これを想像し、その時代の人たちの生き様を感じる非常に貴重で、非常に意義深い。苦しかっただろう世代、乗り越えていく高揚感、新しいものを取り込む粋な人生を思い描き、必死に戦っていた強いアイデンティティ。
     特に、ワインを葡萄酒とし、赤も白もロゼも、とにかくブルゴーニュとかそういう産地でしかない表記に、希少価値と非常にお高いワインに触れることで、食通としての地位を維持しようとする努力もまた涙ぐましい。ビールでなんとかやっていきたいという部分がなん度も出てくる。
     お寿司については、もはや数百軒はあるであろう東京のお寿司屋さんだが、闇市と配給時代からくらべたら、なんと素敵な状態にあるのだろうか。お金を払えば食べられる。贅沢ですらある。
    噛み締めるように、各地方の特産や郷土料理が出てくるので、お腹が空いてしまう。うなぎ、すっぽん、などなど実際に食べている姿もとても想像がつく。今でこそ、新幹線でも、東京にいればほぼ全て手に入るであろうことも、当時は本当に貴重でこの食レポをもって、想像して楽しんでいた人たちが多かったことだろう。改めて、食べることという本質的な部分に触れるとともに、豊かになった現在もまた、数十年前にはそうではなかったという事実にハッとさせられる作品である。
     わさび、すだち、塩昆布などの食材自体にも目を向けて、そのおいしさを力説してくれるのだが、ハム、ベーコンなるものがある、ということもあって、なんとも言えないうまさを感じたのだろう。今でこそ当たり前の食材たちもまた、海外から入ってきて、日本で成長し、発展し、ここまできたということでもある。日本の食卓に、お米があまり上がらなくなってきたというふうに聞いた、という部分もまた、パンが一気に入ってきた証拠でもある。今でこそ、小麦の弊害を言われ始めているのだけれども、その当時は小麦の中毒性に一気にやられたひとが多くいたことを物語る。アメリカでは、すでにグルテンフリーと言われて久しい、こうした中毒性の高い、胃に負担をかける食事を控える文化圏が一定のレベルで存在していることになる。日本の食事も発展していっているが、世界の食もまた次の世代に入っていく。

  • 吉田さんの著作は全て好きなんだけどこれはどーですかねという作品でした。
    でも読み進むとやっぱり良いんです。

  • 吉田健一の食エッセイはクセになる。
    この文章は名文とは必ずしもいえなくて、むしろ文章作法的にはぐねぐねした悪文と評する人もいそうなものだが、それがつまらないかというとすごく面白くて、読んでいるととにかく酒を飲みながら美味しいものを食べたくなる。私は酒が好きだから、電車で読んでいても酒の味が思い出されて、こういうものは美味しいに決まっていると思う。しかし酒を飲まない人に至っては必ずしもそうでもないのであろうし、下戸の気持ちはわからない。
    ↑真似しようとした(笑 
    悪文じゃないね、表現が豊か。「海が口の中にある(牡蠣)」「太陽を食べているよう(イタリア料理)」に留まらず「清水に差している日光がそのまま凍った味(鰹)」とは詩人である。「美味しいものは可愛くて飼ってみたくなる」も可笑しい。やんごとなき一家で全国から贈答品が届くようだが、いわゆる美食家として値の張るものを食べているわけでもない。「フランス料理はワインが高いので借金してから食べろ」などユーモアが効いている。
    美味に向かうのは機嫌よく、たくさん食べて飲め。まったくその通りですね。

  • 全国各所の素材や料理のうまさを、それを食べた時の様子と併せて綴っている本。味を伝えるためにまどろっこしい表現をすることを忌避し、〈うまいものをたらふく食べて「食べた」と実感することが食べることの醍醐味だ〉というポリシーを最初から最後まで貫いていて潔い。

  • 嘗ての総理大臣の息子、グルマン吉田健一の名を広く知らしめた食べ歩きエッセイ「舌鼓ところどころ」と全国各地の旨いものを綴り全100編を数える「私の食物誌」の二大食味随筆を一冊にまとめた作品。

  • グルマン吉田健一の名を広く知らしめた「舌鼓ところどころ」、全国各地の旨いものを紹介する「私の食物誌」。著者の二大食味随筆を一冊にした待望の決定版。

  • 没後40年記念エッセイの第2弾。3冊で終わりじゃなくて、アレとかコレとか色々と文庫で出して欲しいものがあるが、それはさて置き、吉田健一の食エッセイを読んでいると本当〜〜〜に腹が減るw 本書に登場した店が今でも残っているのもなかなか凄いものがあるよなぁ……。

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著者プロフィール

1950年生まれ
出生地 和歌山県東牟婁郡串本町大島
大阪芸術大学卒業
投稿詩誌等:大学同人誌「尖峰」「詩芸術」「PANDORA」
      わかやま詩人会議「青い風」

「2022年 『砂宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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