十六夜荘ノート (中公文庫 ふ 48-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122064522

感想・レビュー・書評

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  • 歴史のつながりと人のつながり。見えなかったものが、見えるとき、そのぬくもりを感じることがある。知らないことは、悪くないが、知ることで前に進める。過去の人とのつながりは確かにある。

  • 古内一絵さん7冊目。これまでお菓子や食べ物が関わる現代のお話を読んできたが、本書は戦前から現代と時代を超えた壮大な小説だった。十六夜荘という大伯母の遺したお屋敷を通じ、現代を生きる主人公の雄哉の価値観や命をつないできた人たちに対する思いの変遷に心を打たれた。名もない人の人生や思いが時代をつないでいることを実感し、そのことを常に心に留めて生きていきたいと思わさせられる作品だった。

  • 十六夜荘というお屋敷を巡って
    現代と昭和初期の第二次世界大戦あたりの時代が
    交互に進められています。

    本当の豊かさとは何なのか、人生とは生き方とは
    などエリート人生まっしぐらの雄哉と
    大伯母にあたる玉青の物語を通じていろいろ
    考えさせられました。
    戦後大混乱の中、家族を背負っていきぬいた
    玉青さんや家族、仲間達
    平等でもなく理不尽すぎる世の中に
    押さえ込まれながらも温かさや、人としての尊厳を曲げず一歩一歩歩く姿に惹かれ
    今現在
    そこに住む奇妙だけれど、真っ直ぐに生きている住民達にいつしか心動かされ、雄哉も自分の心や
    居場所を見つけていく
    そんなお話です。

    毎日毎日追われるように生きる人生だけど
    一度しかない人生
    たまには
    空に向かって大きな深呼吸をしよう。
    それだけでも幸せな気分になります。



  • 今の自分の価値観は絶対ではないのだな、と改めて思った。
    いつの時代も周りの評価や価値観に左右されず、自分の芯をしっかり持って、好きなように生きなきゃね。
    戦争や大災害なんかで、世の中いっぺんでひっくり返ってしまうのだから。
    月が満ち欠けするように、見えてなくても確かにある大切なもの。
    暗いからこそ、周りの輝く星がよく見えるってこともあるのだな。

  • 今、現在進行形でウクライナの戦争のニュースを見る時、この小説の80年前の第二次世界大戦中の日本での戦時の描写がすごく身近に感じていたたまれなくなりました。百年近く経っても戦争は似たような状況で、苦しむのは市井の民で、人間って愚かしいと、なんにも変わらない結果に胸が痛くなりました。

  • もの凄くよかった。
    感覚フル動員で楽しめた小説。


    ある建物に関わるひとりの女性をキーに過去編と現在編が収束していき、タイトルの通り一冊の「ノート」でもって結実する大河小説。


    全編とても映画的というか、場面の空気・音・色彩が鮮明にイメージできる文章。
    特にp55、月明かり差し込む離れで兄妹ふたりが会話するシーンはとても静謐で美しい。
    一転してp209〜215、空襲で爆弾が降り注ぎ命の危機迫る最中に玉青とせいちゃんがダンスを踊るシーンは屈指の名場面だと思う。ハードで理不尽な状況に対して「自由」を掲げ膝を屈しない姿は本当に力強く感じられた。
    沢山の文献を参照されている通り、戦後闇市の
    描写も実に雰囲気がある。バイオレンスで煤けた街の様子がありありと目に浮かぶ。

    現代パート・雄哉(と拡)の変化が性急に感じられたのは確か。あんなにリアリストでバリバリの仕事人だったのに、きっかけひとつで急に鳥や虫や草木の美しさ・豊かさに目覚めるのはちょっと笑ってしまった。
    拡が本編最後の発言を担当するなんて。しかも当初と印象が全く違う。

    p332、淡々とした形で画学生達のその後が明かされるのも却って胸にしみる。ここは一番涙が込み上げてきた。


    古内一絵先生は初読みだったが、ぜひとも他の作品も読んでみたくなった。


    1刷
    2021.9.9

  • 十六夜荘の歴史と大伯母・玉青の一生に、強く引き込まれた一冊でした。
    玉青が激動の戦前から戦中、戦後を、華族という身分の時代の変化に怯むことなく力強く生きた様、十六夜荘に込める半端ない想いに、私の中にあるものを全部持っていかれたように引き込まれ、途中から一気に読み終えました。
    "満月の後、少し欠けた十六夜。人も月と同じで満ちてくときもあれば、欠けてくときだってある。だからこそ、周りの星の輝きに気づくことができる。"
    タイトルに込められたメッセージが素敵で素晴らしかったです。
    また、玉青と十六夜荘の歴史を知るうちに、そのことと、もう1つ大事な事に気づいた雄哉の変化する様も大変興味深いものがありました。記憶は自分だけのものではなく、自分が忘れていることが、周囲に影響を及ぼしていることもある。
    私も一緒に、これらのことに気づかされました。
    さすが、「マカン・マラン」シリーズを書かれた古内一絵さんだなぁ。
    なんだか十六夜荘にシャールさんがいるような気分になりました。

  • 『百年の子』を読んでからこれを読んだら、過去と現在を交互に描いて、主人公が(読者が)知らなかったことを読み解いていく方式が同じだった。
    雄哉が生きる現代と、玉青の生きる昭和、戦争の時代がフラッシュバックしながら、物語が進む。
    雄哉が疑問に思っていることや、困っていることが、玉青の時代にスイッチされると理解できるようになっているので、混乱することはない。

    もちろん、物語の素晴らしさがその手法によって損なわれることはない。古内さんならではの、魅力あふれる個性的な人たちが次々と現れて、ドラマを作っていく。
    以下、ネタバレあり。注意。


    玉青と雄哉が出会うこともなければ、雄哉が玉青の人生を知ることもないまま、物語のラストで意外な人物が現れる。
    安心した。この人物が大叔母のことを知る限り雄哉に語ってくれるだろうから。
    安易に恋愛で幕引きしたりしないところ、雄哉の人生を決めつけない終わり方にも好感が持てた。

  • すごく好きだった…どの時代も生き抜くって大変だし1人ではできない、そのことに気づけたら素敵だな。誰かが自分のために生きているように、誰かのために生きたい。人生、山あり谷あり、満ちたり欠けたりする月と同じだったんだ…!

  • バリバリと音がしそうな程に働く大崎雄哉は、大伯母「玉青」の遺産として、十六夜荘の相続人となる。十六夜荘には訳の分からない住人がいて、雄哉の記憶にない大伯母は、親戚から「変わり者」と評されている。

    戦中の玉青の話と、現代の雄哉の話が交互に進む。
    パワハラで仕事を失った雄哉は、相続のための手続きを進めるが、疎ましく思っていた十六夜荘の住人と関わるうち、亡き大伯母の想いを知る。

    戦時中の軍人たちの振る舞い、戦後の食糧不足や混乱、ショックな表現も多かったけど、最後の小野寺教授の告白では涙が出たなぁ。
    雄哉は仕事無くなって大変かもしれないけど、遺産だけではない大きなものを得たのでしょうね。

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著者プロフィール

1966年、東京都生まれ。映画会社勤務を経て、中国語翻訳者に。『銀色のマーメイド』で第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年にデビュー。17年、『フラダン』が第63回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出、第6回JBBY賞(文学作品部門)受賞。他の著書に「マカン・マラン」シリーズ、「キネマトグラフィカ」シリーズ、『風の向こうへ駆け抜けろ』『蒼のファンファーレ』『鐘を鳴らす子供たち』『お誕生会クロニクル』『最高のアフタヌーンティーの作り方』『星影さやかに』などがある。

「2021年 『山亭ミアキス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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