信頼の構造: こころと社会の進化ゲーム

著者 :
  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130111089

作品紹介・あらすじ

「安心」を求める集団主義は信頼を破壊する。世の中で最も信頼できるはずの金融機関は、なぜあれほどまでに国民の信頼を裏切り、逆に総会屋を「信頼」したのか。進化ゲーム論からのみごとな推論と実験データから大胆に提言する現代人の必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 「集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する」というメッセージをめぐって書かれた学術書。

    集団主義社会とは内集団ひいきに裏打ちされていて、「余所者には心を許さない」という社会。相手が信頼に値する人物かをあまり考える必要もないままに、安心していられる状態。

    上京してきた友達が「東京の人はみんなナイフを隠し持ってると思ってた」と言っていたのは安心社会出身ならではの発想で、
    逆に私がやたらと「人にすぐ気を許しすぎ!騙されるよ!」と怒られるのは、信頼社会で育ったからなのかなと思った。

    単に「信頼」について勉強しようと思ったんだけど、自分が「日本人らしくない」と言われる理由について図らずも解像度が上がる読書となり楽しかったです。

    しかし、この閉鎖的な安心社会で、ダイバーシティに心を開くのは結構ハードルが高いのではないかとも思ってしまいました…。

  • 日本の社会は不確定性の低い社会であり相互の信頼が高い社会と思われていた。
    しかし、よく考えると信頼が必要となる状況というのは、不確定性が高まる状況である。
    また不確定性が低い状況では信頼がそもそも必要でないのではないか、という疑問から
    心理実験を行われ、我々が思っている常識とは少し実際は異なっていることが分かった。

    ポイントは以下のような内容である。
    ・信頼と安心は同じように扱われているものの異なるものであり、
     混同されたまま使用されているため混乱が起こっている
    ・信頼と信頼性も混同されるが、それぞれ相手を信用するのかがと
     相手から信頼されているのかが影響することはそれぞれ異なる。
    ・信頼が醸成されるかどうかのファクターは社会の不確定性の高さ、
     一般的信頼の大きさ、機会コストの大きさである。
    ・信頼は不確定性が大きいときにのみ必要となり、低い状況では育たない。
    ・不確定性が高くなると、コミットメントにより不確定性を低めるような動きをする。
    ・人は認知的倹約をおこなうものなので、毎回裏切るのかどうかの判断を行うのが難しいので、
     コミットメント関係を結びたくなる。
    ・パートナーの切替を行うのは、機会コストが大きい時であり、だまされる時のダメージの大きさである。
    ・日本人と米国人では、何も情報がなかったときにどれくらい相手を信頼するか
     という一般的信頼は、不確定性が高い米国人の方が高い
    ・一般的信頼性の高さは、お人好しのマインドなのではなく、都度相手の状況を見て、
     対応を調整できるリテラシーの高い人であることが実験からわかっている。

    日本人は、人を見ては泥棒と疑えという考えもあるが、
    全部疑うことがリテラシーの高さには繋がらない。
    結局のところは認知の倹約がおこなわれているだけであり
    毎回適切に評価して対応を調節しているわけではないことがわかる。

    本文の中では、信頼できるかどうか敏感に反応して対応できるスキルがあるかどうか
    は一般的信頼性の高さにも相関していることが触れられている。

    社会への信頼の高さは、経済成長に繋がるという研究もあるらしい。
    昨今の根拠のない不安先行の雰囲気は、不確定性の高い社会で、
    いかに目利きをできるようにするかのスキルセットの醸成が
    日本社会に必要なのではないかと思わせる内容である。

    色んな分野に応用可能な良書である。

  • 「信頼」と「安心」の違いが面白い。

    どちらも、相手が自分を搾取しないという期待の中で生まれる評価だが、

    ・「信頼(trust)」は「相手の人格や相手に対してもつ感情への評価に基づく」
    ➡︎ 社会や経済の潤滑油となって、民主的政治や経済発展に繋がる。
    Ex)アメリカ型の開かれた社会


    ・「安心(assurance)」は、他人に搾取されてひどい目に合う状況の中で、特定の相手とだけつきあうことで、少なくともその相手からは搾取される可能性を低めることで生まれる。
    ➡︎やくざ型コミットメント関係
    Ex)マフィアや日本型経営。

    やくざ型コミット関係で結ばれた社会は、無条件に相手を信頼しようとしない一方で、信頼に基づく関係を持つ人は、相手が信頼に値するかを敏感に見極められる、という指摘が興味深かった。

  • 従来の信頼の定義を見直し、信頼性の中で安心と信頼を分離した上で、進化ゲームを用いて「集団主義社会は安心を生み出す一方信頼を破壊する」ことを論じ、同時に、社会心理学者の関心から薄れている「心が社会的環境に与える影響」について分析する。筆者によれば、信頼には2つの機能がある。従来の信頼研究では、信頼の関係強化機能が盛んに論じられてきたが、本書の独自性は信頼の関係拡張機能を明らかにした点である。信頼は、閉ざされた関係(ヤクザ型コミットメント関係)から離脱し、自発的に新たな関係を形成させるものでもあると主張する。
    信頼の関係拡張機能は、社会的不確実性(相手が自己を搾取する意図を有している可能性)と機会コスト(相互依存関係を形成している相手以外の他者を関わることで得られる利益と相互依存関係を形成している相手とのみ関わることで得られる利益との差)が共に大きい環境でのみ意義を持つが、そのような状況では他者の信頼性を見抜く能力がなければ相手に搾取される危険がある。相互作用相手の信頼性を正確に見抜く能力である社会的知性があれば、搾取される危険を回避する可能性が高いため、関係を拡張することで得られる利益が大きくなりうる。グローバル社会化し、日本型終身雇用が破綻して、社会・経済が開かれたものになっている現代においては、「身内びいき」をすることで得られる利益よりも新たな他者を信頼して新しい関係形成をすることで得られる利益が大きくなりつつあり、日本でも機会コストの大きさを無視できなくなってきている。閉鎖的社会から機会有効利用を追求する開かれた社会への移行がうまくいくためには、社会的知性に裏打ちされた一般的信頼(人間であるということだけで抱く信頼)の育成が可能かどうかに依存している、という筆者の主張には説得力がある。

    筆者の研究結果を、3つのパラドクスとして冒頭で提示した上で、パラドクスの謎を解決するという形で様々な実験結果を配置している構成を取るため、読み物としても面白く、多様な実験自体興味深い。特にヤクザ型コミットメント関係にいる人は、部外者を信頼しにくくなるという研究結果がとても示唆的。新たな関係構築はより多くの利益を得られる可能性はある一方、搾取される可能性もある。ヤクザ型コミットメント関係の内部にいれば、より悪くなるということはないため、閉鎖された関係にとどまりたいという心理になるのも理解できる。

  • がんばって読み終わった。
    集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する。
    信頼には関係強化だけでなく関係拡張の側面もある。
    不信の無駄。役所仕事は非効率。規則が多いから。国民が役人を信頼しないから。不信が非効率の強制を伴う規則を生む。
    信頼が必要とされるのは社会的不確実性の大きな状況。パラドックス①常識的には信頼が生まれにくい社会的不確実性が大きな状況で信頼が必要とされ、生まれやすい状況で必要とされない
    ②集団主義的な安定した社会である日本がアメリカよりも他者一般への信頼の水準が低い
    ③他者一般を信頼する傾向が強い人は騙されやすいお人好しではなく、信頼度を測る情報に敏感で予測の正確度が高い。
    これまで、コミットメント関係のネットワークを拡大することで社会的不確実性を抑えながら機会コストもなるべく払わないようにしてきた(系列や終身雇用)、しかし、コミットメント関係の拡大だけでは近年の急速に拡大する機会コストに対処できなくなってきた。オープン市場的な関係の持ち方へ変わっていくだろう。そのことでコミットメント関係が提供してくれていた社会的不確実性の低減作用とそれに基づく安心が、日本社会の様々な側面から消える。
    アメリカの開かれた社会を支えてきた一般的信頼の崩壊が緊急の問題として認識されるようになってきた。
    これからは人格の時代?
    開かれた社会の基盤としての一般的信頼は社会的知性に裏付けされている。その育成には、関係に依存しない普遍的な原理に従った効率的で公正な社会、経済、政治制度の確立が必要。正直者が得をする社会。

  • 2020.59
    ・信頼と信頼性の違い
    ・社会的知性をいかに、社会として育むか?
    ・20年前から日本は低信頼社会を突き進んでいる。その問題が浮き彫りなのが現代?

  •  「世界標準の経営理論」で参考図書として取り上げられていた。

    「安心が提供されやすいのは信頼が必要とされない安定した関係においてであり、信頼が必要とされる社会的不確実性の高い状況では安心が提供されにくい。」

    「安定した社会的不確実性の低い状態では安心が提供されるが、信頼は生まれにくい。これに対して社会的不確実性の高い状態では、安心が提供されていないため信頼が必要とされる」

     …筆者の主張は、人間はどんな場合でも意識的に自己利益を追求するというのものではない。そうではなくて、人間の社会には意識的に自己利益を追求しない人間―信頼に対する人格の持ち主や、他者一般を信頼する人間―の方が、意識的な自己利益の追求者よりもうまくやっていける環境が存在している、という点こそ筆者の主張なのである。

     …本書は1つの中心的なメッセージをめぐって書かれている。集団主義は安心を生み出すが信頼を破壊する、というメッセージである。これを本書の「表の」メッセージだとすれば、本書には実はもう1つの「裏の」メッセージがある。それは、社会的環境との関係を抜きにして人間の心の性質を考えることはできない、というメッセージである。

     信頼性、すなわち信頼に値する行動をとろうとする内的な傾向性は、コミットメント関係にない相手から新しい関係の相手として選ばれる際に求められるもっとも重要な特性だと言えるだろう。このことは逆に言えば、新しい関係の相手として選んでもらうためには、信頼に値するようにふるまう特性を身につけることが役に立つということを意味している。

     …信頼に値する人間性を身につけていない人にとっては、他者一般を信頼する傾向は、自己利益にとって不利な心理特性だということになる。これに対して、誰からも望ましい相手だと思われる信頼性の高い人間にとっては、他者一般に対する一般的信頼を身につけて、コミットメント関係から離脱し、新しい関係を追求することから大きな利益が得られる可能性が存在している。

  • Newsモーニングサテライトで紹介
    進化ゲーム論からのみごとな推論と実験データから大胆に提言する現代人の必読書。

  • ”「信頼の解き放ち問題」が気になり、購入

    <キーフレーズ>

    <きっかけ>
    ・2017/7 YeLL 吉沢さんがセミナーで話をされていたのが気になって。”

  • 社会
    心理

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著者プロフィール

COEリーダー・北海道大学大学院文学研究科教授

「2007年 『集団生活の論理と実践』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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